第60話 神の恩恵
諸事情のため編集しました。
星暦2023年、春の10日、無の日、早朝
イースト大陸の特徴ともいわれるキキラ砂漠、その中心部にあるキキラの街から王都バースに向かうため馬車に乗って出発した。3つの街々を経由して4日の時が経ち、昨日の夕方にしてようやく目的地である王都バースに到着した。私も含めた馬車の乗客全員は長旅ですでに謎の疲労感と睡魔に襲われていた。ろくに王都の街並みを見ることが出来ずにそのまま宿屋に直行して、明日は早起きしなければならないということですぐに就寝した。だから今日、私は神の恩恵だけではなく、王都とはどういったものなのか楽しみで仕方がない。
現在私は滞在目的で泊まった宿屋のとある一室で、父と母と共に神の恩恵のために正装している。何でも人生で最も大切な日のようで、子供はみんな身なりをきれいにして向かうようだ。
「ほ~ら、カナタ。これでもうばっちりね!とっても似合っているわよ!」
この日のために母が買っておいた服を私に着せると、母は満足気な表情を浮かべてテンションを上げる。てっきりスカートを着さされるのかと思っていたけど、普通の男の子がはく様なズボンを用意してくれた。この様に堅苦しい格好するのは久しぶりだ。まだ私が前世でフリーターだった頃を思い出す。
「おっ、いいじゃんその服!カナタ、すごくカッコいいぞ。」
「あはは・・・ありがとうございます・・・。」
カッコいいって・・・一応私は女の子なんだけど・・・。いやでも確かにこの格好ならそう思われるのか。・・・まあ、悪くはないわね!
部屋に置かれてある姿見鏡で自分自身を見て私も満足気な表情を浮かべる。自分で言うのもあれだけど美少年っぽくてカッコよく見える。私たち一家全員は各々の正装を終わると宿泊した部屋から出て、宿屋の1階のフロントに向かった。そこにはすでに一緒に向かおうと約束したケマくんとコルルちゃん、そして2人の両親たちが待っていてくれた。
「あっ、カナタちゃんが来たよ!おはよう。」
「おはよう、カナタちゃん。その服カッコイイね。」
私たちを見つけるとケマくんとコルルちゃんは相変わらず元気な挨拶をしてくれた。当然2人も正装していた。獣人族と妖精族に合わしたその正装は2人によく似合っている。
「2人ともおはよう。ケマくん、女の子に対してカッコイイっていうコメントはないんじゃないの?可愛いって言って欲しかったよ。」
「・・・だってカナタちゃん、すっげぇカッコイイだもん。」
「否定はしない。」
「ていうか可愛いって言うのは、ああいう格好じゃないの?」
そう言いながらケマくんはコルルちゃんに指をさす。コルルちゃんの正装は私と違って女の子らしくスカートをはいて、ショートの髪を少しブローしてふわっとした感じに仕上がっていた。ケマくんの言う通りまさに可愛いを具現化したような姿だった。
あまりのコルルちゃんの可愛らしさに思わず私はほのぼのとした感情に浸る。私に見つめられてコルルちゃんは照れ隠しをしようとする。よけい可愛さが際立った。人形みたいで抱きしめたい。
こうして時間通り集合した私たちは、一緒に宿屋を出て神の恩恵を受けに王都バースの境界へと向かい始めた。
◇
宿屋から教会まで意外に距離がある。もうすでに20分近くは歩いているけど一向に教会らしい建築物は見当たらない。だけど向かう道中に王都バースの街並みを拝見しているせいか、長い距離に対して全く不満を感じない。むしろ初めての王都に次々に目移りをしてしまい、私は心を躍らせていた。
正直に言って王都バースをなめていたわ・・・異世界って理由で街並みは大したことはないって思っていたけど、想像以上にすごい!建物から道路まで全部レンガを使っているけど、様々な色のレンガで芸術的配慮もしている。建物も地球では見たことがない建築物ばかり・・・本当になめていたわ・・・。
「ふふ、カナタ、少しは落ち着きなさい。田舎者って思われるわよ?」
「ごめんなさい。初めての王都だから色々と驚いちゃって・・・。」
叱られちゃった・・・確かに挙動不審みたいになっていたかな。反省しよう・・・あとケマくんコルルちゃん、後ろで笑っているの分かっているからね?2人とも帰ったら覚えておきなさいよ?
「あっ、見えてきたわ。皆さん、あれが教会ですよ。」
「「「「「おおおおお~!」」」」」
父がある大きな建物を指にさすと、全員が同じ反応で声を出した。周りの建物は少し暗めのレンガが使われているのに対して、その建物は白いレンガがほとんど使われているせいか、王都の中でかなり目立っている。ここが今日、神の恩恵を受ける教会らしい。私たち子供は教会の想像以上の大きさ、そして日の出に反射して輝く神々しさに驚かされる。
「デッケェー!ってかスッゲェー!」
「思ってよりきれい・・・!」
「・・・これ、どっちかというと神殿じゃない?これが各王都にあるって・・・信仰心がすごいな。」
ケマくんとコルルちゃんとは少し違う反応をするけど、私も驚いているのには変わりない。私たちはそのまま歩み続けて教会へ近付き、他の親子たちと同様に大きな門を通り教会に入った。
教会中は既に多くの同い年の子供たちとその同伴者で用意された席の半分近くが埋まっていた。私たちもみんなで座れるように急いで席を確保する。とりあえずはみんな近くに座れた。どうやら神の恩恵までまだ時間があるようだ。私はケマくんとコルルちゃんとで談笑して時間を潰した。
◇
少し時間が経つと教会内の全席が埋まり、建物内は子供たちの話し声でまさに大騒動。苛立ちは感じなかったけど思っていた神の恩恵とは違って少し愕然とした。そんな中、教会内の一番奥にある祭壇の前に1人の喪服姿の者が現れた。
なんか徳の高そうな人が出て来たわね、神父さんかしら?はぁ、ようやく始まるみたい。この椅子のクッション、綿が少ないのか全然反発してくれないからお尻が痛くなってきちゃった。
神父さんの登場に気付き始めた教会内の人たちはその口を次々に閉じて、建物内は瞬く間に沈黙と化した。神父さんは自分に視線が集まっていることを確認すると、教会内の人たち全員に聞えるように声を張って語り始める。
「王都バースに集いし若人たちよ、おめでとうございます。こうして無事にこの場に来られたことに、神に感謝をしましょう。こうしてここにいる他の者と巡り出会えたことに、神に感謝をしましょう。汝らは今日をもってそれぞれの種族の一人前になり、更にここから成長できます。しかし一人前になるということは・・・。」
うわぁ・・・でたよ、よくある意味があるそうで意味のない長ったらしい無駄話が。学校みたいでなんか懐かしいな。よく部活の事を考えて全然聞いていなかったっけな~、あの校長の話し毎年使いまわしだったし。・・・本当に大した内容じゃないんだし、別のこと考えてもいいよね?
そうね・・・そういえば今後の方針とか考えていなかったわ。やっぱりこうして私たち5人が神の恩恵を受けたわけだし、冒険者になりにキキラの街を出る予定や準備を考えておいた方がいいわね。街の大人たちの話しでは、冒険者登録試験は確か毎年夏の1日で行っているんだっけ?ってことは残りの訓練の時間は・・・大予想で50日前後かな。・・・あっという間ね。いや、ようやくこの時が来たって言うべきかな。
「・・・ます。神々はいつも汝らを見守っています。それだけは忘れないように。さあ、若人たちよ、恩恵の時間です。一人ずつ私の前に。」
神父さんが最後の一言を言い終わると、ずっと座っていた子供たちが急に立ち上がって祭壇の前に走って並び始めた。別のことを考えていた私は突然の事に困惑する。
えっ、えっ、えっ、なに!?みんな一体どうしたの!何か始まったの!?
「カナタちゃん、私たちも速く並ぼう!」
頭を左右に動かして他の子供たちの突然の行動に少し焦っている私に、いつの間にか席から離れていたコルルちゃんに手をつながれて引っ張られる。私は何も理解できぬままコルルちゃんに身を任せた。行き先は神父さんの前に並び始めた他の子供たちによる長蛇の列。私たちはその最後方で私、コルルちゃん、ケマくんの順に並び始める。しかも最後方だったのは束の間、次々に私たちの後へやって来る子供たちによって、その長蛇の列はまだ続く。
「えっと・・・コルルちゃん、これはいったい何なの?」
「えっ、これから神の恩恵を受けるんだよ。知らないの?」
あっ、神父さんの話を聞くだけが神の恩恵じゃなかったんだ!?いや普通に考えてそりゃそうか。それだけでステータスウィンドを使えるようなら、この世界はどんだけ楽で都合が良い世界なんだって話よね。
「具体的には何をするの?」
「神父さんがくれる白いお菓子を食べる。ただそれだけ。」
白いお菓子!?なにそれ、犯罪臭がぷんぷんするんだけど!流石に比喩表現だと思うけど・・・ここからじゃ何をしているのか分からないなぁ・・・。
私たちがいるのは長蛇の列でいう中間の位置、長いのか短いのか何とも言えない場所。ここから覗き込むように列から頭を出しても最前方は一体何をしているのか全く見えず、逆に最後方は誰が並んでいるのか分からないという感じ。結局何も確認できずに分かったことは、先は長いという事だけ。最後にため息をついて黙々と自分の順番になるまで待った。
◇
並び始めて20分以上が経った。流石は年に一回の大イベントだけあってその子供の数は尋常ではなく、私の順番まで時間が掛かった。しかし私は待った、待ち続けた。両腕を組んでつま先で床をトントンとリズムを奏でながら待ち続けた。そしてようやく順番は私の前の子まで来た。前の子と神父さんのやりとりを見てみると、確かにコルルちゃんの言う通り神父さんが手に持った袋から薄い円形の白いお菓子の様なものを出して、前の子に手渡した。
なにあれ、あんな物前世でも見たことないんだけど!?あれ口に入れて大丈夫よね?・・・何故か知らないけど、私の中であれが何かヤバい物に見えてきた。
前の子がそれを口にした後、礼儀良く神父さんに一礼をして親の元へ走り出す。そして遂に私の順番が来た。前のスペースが開くと私は2歩前進して神父さんの前に立つ。
「はい、どうぞ。」
「どうも・・・。」
神父さんは他の子同様に袋から白いお菓子を取り出して、私に手渡しをする。今になって緊張したのか、それとも不安になったのか私は若干歪んだ笑みでそれを受け取る。
・・・大丈夫よね?ええい、ここまで来たんだ、女は度胸!ママよ!!
パクッ
私は白いお菓子を飲み込むように口の中に入れた。白いお菓子は舌に乗った途端、口の中の水分で一瞬にしてなくなった。味の感想を言うと、ほぼ何も感じない。強いと言うなら小麦粉の味が後からやって来た。とりあえず害はなさそうだ。私の杞憂だったみたい。
「・・・カナタちゃ~ん、そろそろどいてもらってもいいかな?」
「そーだそーだ、早く僕にも食わせろー!」
「あっ、ごめん!えっと、ありがとうございました。」
後ろコルルちゃんとケマくんによる苦情が来た。白いお菓子の味を堪能しすぎたようだ。とりあえず神父さんに一礼をしてからすぐに立ち去る。両親の元へ戻る道中、少し待たせた私が気になるのか他の子たちが凝視してくる。
うぅ・・・すごく恥ずかしい。まあ私が悪かったけど。これ絶対に街に帰ってケマくんに笑いのネタにされる奴じゃん。はぁ~、せっかくの記念日なのになんか最悪。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




