第61話 いざ広場へ
諸事情のため編集しました。
午前7時から行われた神の恩恵。開始から2時間経った今ようやく終わろうとしていた。あの後しばらくして、長蛇の列の最後尾に並んでいた子が渡された白いお菓子を食べ終わって自分の席に戻ると、神父さんはもう一度意味があるそうで意味のない長話しを始めた。今度は聞き逃さぬように最初だけは真剣に聞いていたけど、話が段々宗教系統の方へ傾き、聞くだけで疲れてきたから前半の話しと同様に頭の中で別の事を考えて時間を潰した。ある程度自分の中で考え終わるともう一度神父さんの言葉に耳を向ける。
はぁ、まだ話している・・・そんなに話して一体何が楽しいんだか。他の子たちも明らかに疲れ始めているし。ケマくんに至っては普通に寝ている・・・まあ集中力がないってイメージだったから別に面白可笑しく思わないけど。コルルちゃんは・・・真面目に聞いているなぁ。
「・・・であります。さあ、ここに集いし若人たちよ、これで汝らも一人前である。さあ、今日から汝らだけの旅が始まります。汝らに神のご加護があらんことを。」
カーン、カーン
神父さんが最後にそう言いと教会の上にある鐘が大きく鳴り響く。どうやら今のが神の恩恵の終了の合図らしい。参加した他の親子たちは次々と席から立ち上がり教会から出て行き始める。私たちもその人混みと一緒に教会を出ると、お昼前の時間帯のおかげか晴天に輝く青空が私たちを迎えてくれた。後ろから次々と人が出てくるから通行止めをしないように直ちにその場から離れる。
「う~~ん、疲れた!あの神父さん話が長すぎ、耳にタコが出来ちゃったよ!」
「ほとんど寝ていたくせに何を言っているの?ケマくんが疲れているのは寝起きだからでしょ?」
「確かに神父様の話しは少し長かったけど、とってもいいお話だったよ。」
とってもいいお話ねぇ、毎年あそこに立っているんだからどうせ使いまわしだと思うけど。まあいいわ、それよりお楽しみはこれから。なんたって晴れてこれで・・・ステータスウィンドを開けられるようになったんだから!いや~待ちに待ち過ぎたよぉ~。これで遂に私もファンタジー世界の住民に仲間入りだね!さ~て、どうやって開くのだったかしら・・・。
「みんな、少し急ぎ足で向かいましょう!早くしないといい場所が取れなくなるわ!」
母はそう言いながら私の腕を掴み、急ぎ足で宿屋の方へ向かう。突然の事に私だけではなく父や他の人も困惑している。だけど私以外はすぐに母の言動を理解する。
「あっ、そっかこの後あれがあったんだ!母さん、俺達も急いで向かおう!」
「あーそうだった!」
ケマくんとコルルちゃんは何かを察したかのように母と同様に少し焦った感じで歩き出す。そして私の父と2人の両親たちもそれに続く。みんなだけ理解しているけど私は未だ何も分からない。
「ちょっとママ、一体どうしたの!?」
「いいからいいから、急ぐわよ!」
母は答えてくれずただ私の腕を掴んだまま急ぎ足をする。この後の予定は特に何も聞いていない、急な用事でもできたのだろうか。しばらく歩き続けると昨晩宿泊した宿屋が見えてきた。内心帰っていった以内をするのだろうかと思いきや、母は私の腕を掴んだまま宿屋前を素通りする。
「えっ、ちょっ、ママ!?宿屋通り過ぎちゃったよ!?」
「分かっています!私たちが向かっているのは広場なの!」
心なしか母の表情に焦りが見え始めた。母は一体何をしたいのか全く見当がつかなかった。そしてまたしばらく歩き続けると母が言っていた広場に到着した。
そこは円形状に空間を空けられて、中央には巨大なかがり火があり、容器内の炎は盛大に燃え上がっている。そして何故か広場の北から南をかけて、多くの鎧姿の騎士たちが一本道を作るように整列していた。道の幅はとても広く、かがり火の周りにはさらに広く空間が作られていた。まるで重要人物を通ると言わんばかりに騎士全員が外向きに立ち、厳重に警備している。
更にはその騎士たちの周りには多くの住民たちが集まっている。よく見ると女性の人が多い。住民たちは鎧と鎧の間の隙間を懸命に何かを覗こうとしている。
「うっわ、何あの人だかり?」
「よかった、間に合ったわ!」
到着すると母は嬉しそうな表情をする。どうやら目的地はここで合っているようだ。
「ママ、あの人たちは一体何を・・・?」
「いいから、私たちも並ぶわよ!」
本日3度目の“いいから”を言いながら母はまた私の腕を引っ張り、先客同様に騎士たちの前に立つ。突然現れた私たちに何人かの騎士が兜越しで見つめる。
ギロッ
「えっ、あっ、どうも・・・。」
とりあえず挨拶をしたけど、仕事に対して勤勉なのか騎士たちは全く返答してくれず視線を前へ戻す。騎士とはこういった不愛想な者なのだろう。私たちが騎士たちの前に並んで少し経つと、後から私たちと同様に急ぎ足で向かってくる人たちが大勢集まって、私たちの周辺もあっという間に人混みと化した。もう一度周辺を見渡してみるとやはり女性の人が多い、いったい何故こんなに集まっているのか私は理解できないままでいる。とりあえず両隣にいるケマくんとコルルちゃんにどういう状況なのか聞いてみる。
「ねえ2人とも、何でこんなに人が集まっているのか分かる?」
「えっ、カナタちゃんマジでそれ言っているの!?」
「本当に知らないの?!」
2人は明らかに驚いた表情で私の顔を見る。正直に言って全く知らない。とりあえず首を縦に振る。
「・・・じゃあカナタちゃんは何で王都バースに来たの?」
「それは神の恩恵を受けるためでしょ?それ以外に理由はない・・・でしょ?」
2人はお互いに向かい合わせて2、3回眼を見開く。2人の間で何のアイコンタクトしているのか理解できなかった。
「・・・えっとねえカナタちゃん、確かに王都バースに来た人は神の恩恵を受ける事も目的なんだよ。でもそれ以外にも目的があるの。」
「人によっては神の恩恵よりも、こっちの方がメインって考えているかもな。」
えっ、神の恩恵よりも大切な目的って何!?私何も知らないんだけど。・・・ヤバい、全く想像がつかない。
「・・・じゃあその一番の目的って何なの?」
「今、私たちの前にある道があるでしょ?今日のお昼、長旅から帰ってくる勇者様があそこを通るんだって。だからみんなここで勇者様の顔を見たいから集まって来てるんだよ。」
コルルちゃんはそう説明しながら騎士たちの間に見える一本道に指をさす。私はそれを聞いた途端、コルルちゃんとその一本道を交互に2度見する。
「えっ、そうなの!?」
勇者、それはファンタヘルムの5大陸からそれぞれ1人ずつ選ばれた人類の光ともいえる人たち。その役割は時代によって異なり、飢饉に苦しむ人々の救済したり、経済的に苦しむ一国家を発展させたり、更には出現した魔王の退治などの普通の人では成しえない偉業をこなすと言い伝えられている。
両親からおとぎ話程度で聞いていたけど、まさかこうしてお目にかかれる日が来るとは思いもしなかった。
「そうだったんだ・・・。」
「本当に知らなかったみたいだね・・・。じゃあカナタちゃんはわざわざ遠いこの王都で神の恩恵を受けるだけのつもりだったってわけ?」
「うん、そのつもりだった・・・あっ、そういえばここに来たいって言い出したのはママだったような・・・。」
「あ~、なら納得できるなぁ。勇者様は女の人に人気があるから、この日のために神の恩恵とは無縁の人も、他の街々から来ているわけらしいよ。」
あ~なるほど、だから女の人が多いんだ。今では子連れも多くなってきたけど、それでも大人の女性だけのグループもあるな。勇者ってこの世界で言うカリスマ的な存在なのかな?地球で言うアイドル的な存在なのかな?どっちにしても1人の人物を一目見ようと、よくこんなにも人が集まったわね。
いったいにどんな人だろう、クール系かな?それともワイルド系かな?ちょっと楽しみになってきた。
「やっぱりか・・・。お前がやけに王都へ来たがっていたのはそう言うことだったのか。」
私の後ろで何やら父と母が話している。どうやら私たちの会話を聞いていた父は母に愚痴を言っているようだ。その表情も少し引きつっている顔だ。
「何が“ご両親に挨拶がしたい”だ!?ただ単に勇者様が見たかっただけじゃないか!お前これは捉え方によっては浮気だぞ?俺泣くぞ?この歳で泣いちゃうぞ?」
「べ、別にいいじゃない、見るだけなんだから!?勇者様よ、勇者様!長い人生で顔を見られるのはそう何回もあるわけじゃないんだから。私が最後に見たのはもう10年以上も前なのよ。」
へ~、勇者ってそうめったに人前に出て来ないんだ。まあ話を聞く限り色々と忙しそうだもんね。じゃあ私が今日見られるのはラッキーってことかな?尚のことしっかりとそのお顔を見とかないとな~・・・ていうか何時になったらその勇者様は出てくるの?
◇
星暦2023年、春の10日、無の日、昼
私たちがこの広場について数時間が経った。あれから広場に多くの人々が集まり、今では騎士たちによって造られた一本道以外の空間は人々によって埋め尽くされた。どうやら母たちはこうなる事を予想して、神の恩恵が終わってすぐに急ぎ足で向かったのだろう。そう考えると母の判断は正しかった。今私たちがいるところから後方へ振り返ってみると、先の神の恩恵での長蛇の列とは比較にならないほど最後尾が遠い所にいる。あんな場所では勇者の顔は見られないだろう。それに引きかえ私たちがいる場所は騎士たち隙間から見える道だけではなく、反対側で整列している騎士たちまでくっきりと見える。問題なく勇者の顔を見ることが出来るだろう。しかし長時間立ったままの私たち子供は疲労して、足の裏まで痛みを感じ始める。
「はぁ~・・・立っているだけでも疲れてきた。ねえママ、勇者様はまだなの?」
「おかしいわね~、確かお昼過ぎにあそこから出てくるって聞いていたのだけど・・・。」
「えっ、勇者様が出てくるって話、もしかして噂なの!?」
「そんなことないわよ。王都に着いた時にちゃんと新聞で確認しなんだから間違いないわ。」
焦ったぁ・・・ここまで待たされてから“実は与太話でした”って言われたらどうしようって思った。まあ現にここまで人が集まっているんだし、さすがに嘘ではないでしょ。逆にここまで人を集めてから“うっそで~す”みたいな盛大なドッキリだったら逆に笑えるな。はぁ、もう少し頑張って待つか・・・ん?
王都バースへの出入り口、南門に続くメインストリートの端から何やら観衆たちのざわめく声が聞こえ始めた。最初は小さかったざわめきは波のように徐々に私たちの方まで伝わって来て、やがて広場にいる全員がまるで疲れを感じさせない声を出し始める。その原因は先の私のような不安を感じているからではない。遂に待ちに待った時が来たから。
「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉー!!」」」」」
「「「「「きゃあああああぁぁぁぁぁー!!」」」」」
「「「「「勇者様ぁぁぁぁぁー!!」」」」」
うわっ、なにこの盛り上がり!?
観衆たちは盛大に黄色い声援を出し始めた。老若男女関係なくその場にいる全員が一斉に声を上げるものだから私は思わず身体をびくつかせてしまった。私は目の前に見える一本道から南から北へゆっくりと進む乗馬した騎士たちが見え始めてきた。騎士たち全員が整列した者と同様の鎧と兜を装着しているけど、1人だけ明らかに違う色の鎧を着て素顔をさらしてながら乗馬している者がいた。観衆たちはその者を見つけるとさらに盛り上がりを見せる。
「おい、勇者様が来たぞ!」
「勇者様、こっち振り向いてー!」
「ああ、また勇者様を見られるなんて・・・感激!」
どうやらあの人がみんなが待ちに待った勇者らしい。私は騎士たちの隙間から一本道を覗き込み、その勇者の顔を凝視した。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




