第57話 夢への意思
諸事情により編集しました。
旧タイトル“私たちの夢は本気”
星暦2019年、冬の100日、無の日、昼前
訓練の一環に勉強を導入してから早くも1週間と数日が経った。メンバー一同は不慣れない筆使いに困惑して、なかなか順調に勉強が進まない。それでも全員が真面目に取り組んでいることだけでも関心に思う。今日も今日とて美文字と算数を練習している。
「・・・あっ!カナタちゃん、またクアルくんがカンニングしてくる!」
「ち、違う!?カンニングじゃないよ、確認グだよ!」
「そんな言い訳が通用すると思っているの?新しい問題出すから、クアルくんはそれ解いて。」
「うぅ・・・早く運動したい・・・。」
後は勉強に対してもモチベーションがもう少し高くなってくれれば文句はない。因みに訓練の手順としては、朝から昼まで勉強にして、それから昼食をはさんで後にアクロバットの指導をすることにしている。元学校に通っていた私の独断だけど、その方が効率にいいと感じたからそうした。
◇
地面に座り込んでメンバーが勉強している中、唐突に誰かのお腹が鳴る。どうやらケマくんのようだ。
「・・・腹減った。」
「そうね、じゃあ今日の勉強はここまでにして一旦家に帰ろうか。1時間半後にまたここに集合ね。」
私がそう言うとメンバー一同は筆代わりの枝を手放して、各自で背伸びをし始める。全員やり切った感溢れる表情を浮かべる。これももう見慣れた光景だ。
「あぁぁぁ、やっと終わった・・・!ようやく身体を動かせるぅ・・・!」
「クアルくん、今度から自分で解いてよね。毎回私の答え見て・・・それじゃあ勉強の意味ないでしょ?」
「ケマくん、またご飯をドガ食いしてこないでよ?またこの前みたいに吐かれたら困るんだから!」
「おう、善処する!・・・この言葉、今の使い方で合っている?」
メンバー一同は遊び場から解散して各々の自宅に真っ直ぐに帰って行った。私もいつもなら真っ直ぐ自分の家の変えるのだが、今日は少しより道をして帰ろうと思う。
◇
星暦2019年、冬の100日、無の日、昼
解散してから40分後、私はいつもより遅く自分の家に帰宅する。自宅のドアを開けると、毎日母が私のために昼食を用意して待っていてくれている。因みに自宅ではメンバーの前とは違って今も年相応な子供の態度で振舞っている。
「ただいま~!ママ~ご飯食べた~い!」
「あらおかえりカナタ。ご飯の前に手を洗ってきなさい。」
「は~い!」
「おかえりカナタ。今日はいつも少し遅かったな。」
食卓の間に入ると、なんと平日にもかかわらず父がテーブルの席に座っていた。思わず驚きの表情を見せる。
「えっと・・・ただいまパパ。今日仕事はどうしたの?」
「あれ、言っていなかったっけ?昨日で仕事納めだから今年はもう休みだよ。」
あっ、そうか。今日は地球で言う大晦日か・・・毎日訓練続きで全然気付かなかった。そういえばみんなは何もそんなこと言っていなかったけど、もしかしてみんなも忘れたいたのかな?
「へ~そうだったんだ~!」
「カナタ、早く手を洗いなさ~い。」
母の指示に従い、私はすぐに手洗い場に向かった。蛇口をひねってあふれ出る水で軽く手を洗った後、再び食卓に戻って母が用意してくれた昼食をいただいた。母は育ち盛りの私の事を考えて毎日飽きないようにメニューを考えながらも精がつく物を作ってくれる。私はそんな母の料理を黙々と食べ続ける。
「・・・カナタ、少しいいか?」
「ん?なに、パパ?」
頬杖立てていた父が唐突に問いかけてきた。その表情は何やらいつもより真剣みを感じさせられた。
「俺の仕事の仲間に娘がいる奴がいてなあ、そいつから聞いたんだけど、お前・・・最近よその子に勉強を教えているらしいな。俺が教えていないはずの計算や文字の書き方なんかを・・・お前、それどこで覚えたんだ?」
おっと・・・またしても想定外なハプニング。まあそりゃあ当然思う疑問だよねぇ。・・・ああ、いい口実が思いつかない!事前に考えておけばよかった!?
父の問いかけに私は箸を止める。嫌な汗をかきながら必死に思考を巡らせる。その間、気まずい沈黙の間が長く続いてしまう。
「・・・まあいい。お前は父さんと母さんの子だ。昔からよく周りを見たりしていて、人より観察力はあると思っていた。恐らく人のやり方を見て独学したんだろ?」
おっと、これは都合のいい流れになってきた。変に言い訳を考えるより、こっちに便乗した方がいいわね。
父の言葉に私はすぐ首を縦に振った。因みに父の言う“よく周りを見ていた”とは、この世界に心躍らせながら街並みを見渡していた事を言っているのだろう。そういう意味では確かに観察していたことになる。
「やっぱりな、さすがは俺の子だ!・・・じゃあ、何で勉強をよその子に教えているんだ?仕事仲間から聞いた話じゃあ嫌々教えられているらしいぞ。何で無理して教えているんだ?」
うわぁ、質問攻めとかうざぁ・・・。疲れるなぁ、そう何回も聞かなくてもいいのに。まあそれほど真剣に聞いてくれているんだ、私も真剣に答えないと。
「私たち将来、冒険者になりたい!そのためにも力だけじゃなくて多少の勉学が必要だと思ってメンバー全員に教えているの!確かに最初こそは勉強を強制していやがっていたかもしれない・・・けど、今はみんな少しずつ理解してくれているの!」
確かに最初はメンバーに対して頼りないと思っていた。だけど今は違う。みんなに何かを教えるのが段々楽しくなってきた。一緒に居るだけでも楽しくて仕方がないと思えた。あの子たちの成長を見て、私も一緒に成長したいと思えてしまった。いつの間にかあのパーティーメンバーと一緒に冒険したいと心から願うようになっていた。
「カナタ・・・お前、急に眼の色変えて・・・今まで化けていたのか・・・!?」
「あっ・・・。」
真剣に熱く私は父に語りかけたせいで、今までかわい子ぶっていたイメージが崩れてしまった。だけど私たちの真剣な思いを伝えるためだから仕方がない。父は私の急変に少し驚きを見せるがすぐに冷静になる。
「・・・冒険者、か。いつの間にか夢を見るような年になったんだなぁ。夢に向かって努力するのは立派な事なんだが、冒険者はお前たち子供が思っている程、楽しくてカッコイイ職ではない。お前なら理解しているんじゃないのか?」
「・・・実際の冒険者さんたちのその仕事ぶりを見て事がないから分からない。正直に言って不安はあるよ・・・でも、そんな知らない不安だけでみんなが一緒になって考えた夢を壊したくはない!今できる精一杯の努力で、そんな不安打ち消したい!」
私の返答に父は黙った。その顔は驚いているわけでもなく、怒っているわけでもなく、ただただ何か思うような表情だった。そして詰まった何かを吹き飛ばすかのように深いため息をつく。
「お前は・・・いや、お前たちは本気なんだな?」
「うん、本気だよ・・・!そのために今、みんなで頑張っているの・・・!」
「そうか・・・。そういえばカナタ、お前時間大丈夫なのか?母さんの話しじゃあ、いつもならもう出かける時間だろ?」
真剣な表情を一変して父は唐突に話題を変える。言われて家にある時計を見てみるとメンバーと約束した時間まで分針があと残り25分を切っていた。自宅から遊び場まで徒歩で20分前後掛かるから今から走って向かわないと間に合わない。
ヤバい、もうこんな時間!?まだ全然食べ終わっていないのに!しょうがない一気に食べて向かわないと!
右手でスプーンを鷲掴みして、左手で料理の乗った皿を口元に運んで、私は流し込むように料理を頬張る。
「うぅ!?・・・ごちそうさま・・・パパ、皿の片付けお願いしてもいい?」
「お、おう、いいぞ。」
「ありがとう・・・行ってきます・・・。」
私は口元に片手を置いて静かに扉を閉める。やや急ぎ足で集合場所へと向かった。着席したまま私を見送った父は、いまだに何かを思うような表情を浮かべたままであった。そんな父の背後から台所から出て来た母が近付く。
「ふふ、何を考えているのかしら?もしかして、あの子の夢の邪魔の仕方でも考えているの?」
どうやら母は先の私たちの会話を聞いていたようだ。父は母を見つめると、少しにやけながら答える。
「・・・あの子は活発な子だからなぁ、いつかは冒険者になりたいって言いだすのではないかと思っていた。」
「それは私もよ。少し早いって思うけど、子供の成長はあっという間なのね。で、実際あの子と対面して話してどう思ったの?」
「まさかあれ程、真剣な眼で答えてくるとは思わなかったよ。しかもちゃんと先のことを考えた答えを言いだすとは思わなかった。あの子の夢は邪魔したくない・・・今、父親として何ができるのか考えていた所さ。」
父は母と会話をすると少し満足気な表情に変わり、席から立ち上がって私の食後の皿を後片付けし始める。
「無理に考えなくても大丈夫よ。私たちはいつも通りにあの子に接する事が、あの子にとって一番よ。」
「・・・いいや、それだけじゃ少し不安だ。真剣なあの子に陰ながら応援したいんだ。」
「相変わらずの生真面目さんね。ほらそのお皿ちょうだい。」
母は父が重ねた皿の山を受け取り、もう一度台所に戻ろうとする。だけど父は一つ気がかりなことがあり、母を止めて問う。
「そういえば・・・あいつ、いつから俺たちに対して猫被っていたんだ?あいつの眼の変化には驚かされたぞ。」
どうやら父は私の冒険者になるという夢よりも、熱く語る瞳の方に驚愕していたようだ。
「女ってのは男よりも早く成長するものよ。流石は私の娘・・・でしょ?」
母は少し誇らし気にそう答えると、髪を大きくなびかせて父の前から立ち去る。母の返答に父は軽く身震いをする。
「・・・女、怖ッ。」
◇
星暦2019年、冬の100日、無の日、夕
昼食を食べ終わり、いつもの遊び場に集合した私たちはいつものように訓練を始めた。内容は前回に引き続き私の知っているアクロバットの伝授。勉強とは打って変わってメンバー全員が楽しそうに教えを乞うそして全員が全身汗でびしょびしょなった頃、いつの間にか空はオレンジ色の夕方になっていた。今日は今年最後だから少し早めに切り上げようと思う。
「じゃあみんな、今日の訓練はここまでにしよう。」
「えー、もう終わり!」
「今日は少し早いねカナタちゃん、この後何かあるの?」
「何って・・・今日は今年最後だから早く終わろうと思っただけだよ?」
「「「「あっ、忘れてた・・・!!」」」」
私の予測通りやはりみんなも忘れていたようだ。まあ毎日訓練に意識して他の事に目が向いていなかったのだろう。私もそうだけど、このパーティー少し政情に疎い。この世界にも新聞は存在しているから、後々全員に読む癖をつけさそう。
「カナタちゃん、次の訓練いつにするの?」
「そうね・・・5日後ってのは?」
「それじゃあ休み過ぎだよ!?」
ケマくんが文句を言う。他のメンバーも少し不満そうな顔をしている。正月休みのつもりだけど、どうやらみんなは早く訓練したいらしい。
「じゃあ3日後にしよう。みんなにもそれぞれ家の事情とかありそうだし・・・どうかな?」
「「「「全然いいよ~。」」」」
どんだけ訓練したいんだと思いつつ、何とかみんなを説得できた。これにて今年最後の訓練が終了した。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




