第56話 盲点だった、気付ける事だった
諸事情のため編集しました。
星暦2019年、冬の86日、木の日、昼
砂漠の気温はどの季節にも関係なくとにかく極端だ。夏はとにかく暑くて夜になっても30度下回らないなんてざらにある。冬に至ってはその真逆でとにかく寒くて快晴のお昼でも気温が普通にマイナスである。普通だったらそんな所に生活なんかしたくはないんだけど、キキラ砂漠に唯一ある街、キキラの街は別だ。
キキラの街はかなり年季が経っているけど立派な外壁に囲まれている。街なのだから当然だと思うけど、面白いのはその外壁に埋め込まれた魔石の効力である。外壁には火の魔石と氷の魔石がそれぞれ交互に埋め込まれており、壁の外の気温に対応して内側の街の気温を調節してくれている。つまりどんなに砂漠暑くなろうと寒くなろうと街は常に一定の気温を保っているというわけだ。だから私たち子供もこうして毎日外で遊べられるというわけだ。いや、遊んでいるというより今行っているのは特訓と言った方が正しい。
「ほらほら、みんなもっとペース上げて!先に行っちゃうよ!」
「カナタちゃん待って、待ってよぉ・・・!?」
「翼さえ・・・使えれば・・・。」
「こんなの軽い軽い!ほら、コルルちゃんも速く!」
「ひぃ、ひぃ、ひぃ・・・。」
パーティー結成から二季節経った今、現在私たちは街の中を走りこんでいる。結成したあの後、今後の方針についてどうするのか話し合った。満場一致でみんな“強くなりたい”という意見が出た。だけど私も含めて全員知識が浅くて具体的にどういう風に強くなれればいいのか分からなかった。自分たちの親は仕事で忙しくて教えてもらえる時間もそれほどなく、さっそく問題に直面した。全員が何をすればいいのか考える中、キーちゃんが何か案を思いついたのか私に質問をする。
「ねえカナタちゃん、今日やったみたいな技以外に他にも何かできる?」
「アクロバットのこと?うん、あるにはあるよ。練習すれば他にもたくさんの技を習得できると思うけど・・・。」
「その技、私たちにも教えて!今日のカナタちゃんの教え方すっごい上手かったし、カナタちゃんの技なら私たち強くなれるかも!何もしないより全然いいと思う!」
キーちゃんの提案に他のみんなも強く賛成した。確かにアクロバットは全身運動でもあるから私たちの年代から始めると、将来高い身体能力が得られるかもしれない。キーちゃんの言うとおりやって損はない。
というわけで私がこのパーティーの仮リーダーとしてメンバーにある程度のアクロバットを教えながら訓練を行っている。ここしばらくは走り込みで基礎体力の底上げと脚力強化を試みている。みんなそれぞれ何か呟いているけど毎日頑張ってついて来ている。私としても教え買いがある。
「ほら頑張って!ラストもう一周!」
「「「「は~い。」」」」
◇
走り込みが終わりいつもの遊び場で休憩をした後、次に私はそれぞれにアクロバットを指導し始める。教えてから二季節が経った今、メンバーそれぞれの身体能力がある程度分かってきた。
まずは鬼人族のキーちゃん。元々運動することに対して得意意識があったため訓練に対しても誰よりも楽しんで行ってきいる。運動神経もそこそこあり、体力もメンバーの中で一番ある。私の教える技も練習量をこなして日に日に精度を上げている。
次に鳥人族のクアルくん。背中から生えた翼のせいなのかバランス感覚がこの中で一番劣っている。簡単な側転にさえ苦労するほど。でも走る時のフォームなどを見る限り、身体能力は低くない。今はまだメンバーと同じ技をしてもらっているけど、後々彼に合った練習を見つける必要がある。
次に獣人族のケマくん。メンバーの中で身体能力が高く、私の教える技を誰よりも早くに習得できる。最近では私個人で練習する技も見て覚えようとしている。欠点を上げるとすれば体力の限界に気付かないところ。訓練中、度々倒れることもあり、そのせいで訓練が滞ることがある。自分自身でそれを把握できれば練習分配も上手くいって、練習も効率良くなると思う。
最後に妖精族のコルルちゃん。体力も身体能力もメンバーの中で最下位だけど、めげずに毎日食らいつく様に連いて来てくれる。それに彼女は短距離走だけど、キーちゃんとケマくんに負けず劣らず速く走れるという能力も最近知った。このまま頑張ってくれればきっといい逸材になると思う。
それにしても、みんな本当に頑張って来たなぁ~。もうお姉ちゃんみんなの成長が嬉しすぎてなんか感動しちゃうなぁ~。・・・って私、みんなと同い年だった。
メンバーの著しい成長に思わずにやけてしまう。今日もメンバーは訓練を平常にこなす、そろそろハードな技へ教える頃合いだろう。いや、どんなに身体能力が高くてもまだ子供。焦らずじっくりと育成していこう。
「余裕余裕~・・・あっ。」
バタンッ
「あっ・・・カナタちゃん、またケマくんが倒れた。」
「よし、みんな休憩にしよう。キーちゃん、私がケマくんの上持つから足持ってもらえる?」
「任された!」
今日もまた全力で動き回るケマくんが訓練中に倒れた。最近はケマくんの体力消耗で休憩のタイミングを計っている。私はキーちゃんに協力してもらってケマくんを日陰まで運ぶ。
「またケマが倒れたのか?いい加減に加減ってもんを覚えればいいのに。」
「まあそれがケマくんの良い所だけどね。・・・悪い所でもあるかな。」
「私それ知っている!一長一短って言うでしょ!」
「キーちゃんよく知っているね、そんな難しい言葉。」
息切れで動けないケマくんの横で、休憩しながら談笑を始める。訓練にはこんな風に楽しい息抜きも必要だとつくづく感じさせられる。もし前世、無駄なオーバーワークさえしてなければ、あの結果は変わっていたかもしれない。変えられない過去なのに、そう思うことも度々ある。
「ねえカナタちゃん、ちょっと聞いてもいい?」
らしくもなく少し考え事をしていると、隣のキーちゃんが問いかけてきた。私は考えるのを止めていつも通りに友人たちに接する。
「んっ、何?」
「カナタちゃんってさあ、字の読み書きとかもできるの?」
この世界、ファンタヘルムは私に対して本当に都合がよく、言語と文字の全てが日本語で使われている。だから前世の義務教育である程度の字の読み書きができる私はこの世界でも当然、苦なく文字を書くことが出来る。
「まあね。ある程度ならできるわよ。」
「そうなんだ、よかった!」
キーちゃんは私の返答に対して何故か安心したような表情を見せる。その顔は何の意味なのか気になった私は、今度は私からキーちゃんに問いた。
「よかったって・・・何が?」
「ううん、ただ単に私ができないからカナタちゃんも出来なかったらどうしよと思ったけど、カナタちゃんは出来るなら問題ないね!」
「・・・えっ?キーちゃん、キーちゃんは何ができないって?」
「だから字の読み書きが。」
「・・・全く?」
「うん、全く!」
キーちゃんのとんでもない返答に私は固まる。最初はキーちゃんの軽い冗談かと思ったけど、長い付き合いの中、彼女は今までその様な冗談は言わなかった。そして私は何故彼女が字の読み書きができないのかすぐに理解できた。
あああああッ!!そうよこの子、学校に行ったことないから字とか学ぶ機会がないんだ!?
前に両親から聞いた話では、貴族の子供は幼少期から勉学をさせられるらしいけど、私の様な平民の子供は特にする必要がないらしい。正確には私たち子供が10歳になり、王都にある教会で“神の恩恵”を受けることで、初めて大人たちの労働の参加や貴族の様に学校に通い勉学に参加できる。つまり10歳になるまでの間は自由、大人の労働を観察しようが独学で勉強しようが何もせずに怠けようが自由ということ。だけどそれが逆に7歳になっても字の読み書きができないという惨劇が起きたのだ。
しまった、盲点だった!じゃあこの子、大人になったらどう生活していくの!?冒険者どころじゃないじゃん!はっ、もしかして・・・。
「ね、ねえみんな、この中でキーちゃんみたいに字の読み書きができない人、手を上げてもらってもいいかな・・・。」
そう言った途端、私以外の全員が手を上げる。横になっているケマくんに至っては誰よりも高く手を伸ばして上げる。私の予感は的中した。
全員出来ないのかい!!まあ、でしょうね・・・でしょうねとしか言いようがない・・・。
「ああでも、俺、数なら全部言えるよ。」
「おおスゲーじゃん!」
「クアルくん、勉強できたんだ。」
クアルくんの自信あり気な一言に友人たちは褒める。だけど私は彼の中の数の範囲が不安でしかたがなかった。
「・・・何桁まで言えるの?」
「・・・ケタって何?」
「あぁ・・・。」
クアルくんの返答に私は思わず嘆くような声を出しながら頭を抱える。純粋な疑問を持った瞳で見つめるみんなを見ながら、私は今世初めて思案を巡らせた。
あぁ・・・どうしよう。まさか字が書けないなんて、想定外すぎるでしょ。私がバカだった・・・普通に考えていれば分かることじゃん。
「えっと・・・キーちゃん、全く字が読めないの?」
「失礼なッ!?全部じゃないもん!?ただ読むのも書くのも苦手って言っているだけだもん!」
「それじゃあ、少しは分かるってことなんだ・・・他のみんなもそれくらいまでならできるの?」
「「「「うん。」」」」
「・・・それじゃあ、試しに自分の名前書いてみてよ。あっ、数も書けるなら1から10まで書いてもらえる。」
そう言いながら私は近くに落ちている枝を拾って、いい感じの長さに折って筆代わりとしてメンバーたちに持たせた。一同は筆を手に取ると私を見ながら嘲笑する。
「カナタちゃん、もしかしてバカにしている?自分の名前くらい書けるよ?」
「数は・・・まあ、多分書けると思うけど・・・。」
「まあカナタちゃんが一応リーダーなんだから、言うこと聞こうよ!」
「・・・名前忘れた・・・。」
私の指示で各々は足元の地面に名前と書けるだけの数を書いてもらった。少し経つと全員の手は止まり、私はその回答を覗くように拝見する。私はメンバーの回答よりも字の汚さだけを見て先に絶望する。
うわぁ・・・想像以上に字が汚い・・・。なんて書いてあるのか分かって見ればギリ読めるけど。キーちゃんは汚いけど、まあ合格かな。ケマくんは・・・乱れすぎて“クマ”に見えるんだけど。クアルくんとコルルちゃんだけが数が書けているね、どれどれ・・・。おお、コルルちゃんはすごいちゃんと全部かけて・・・んん?!ああ、5がSになっている、惜しい!クアルくんは・・・おお、言うだけあって全部かけて・・・ちょっと待って!?4が何故かΣになっている!?逆にどこでそれ覚えたの、すごいんだけど!ってかその前に名前が滅茶苦茶・・・さては書けなかったな?
「えへん、どうカナタちゃん?パパやママに教えてもらったんだ!」
自信満々で見つめるメンバーに私は言葉を失う。私の中でこのメンバー将来有能になると思っていたけど、まさか私より阿呆とは思わなかった。
うぅ、どうしたものか・・・切り捨てる?いやでも、この世界の住民がみんな何かしらの教育を受けていないんなら、この先出会う冒険者もそこまで学力には期待できない!・・・もういい、ここまで来たんだ!ここで諦めてたまるもんか、まだ方法がある!確かに私もバカだけど子供に教えられる程度の学問なら教えられるはず・・・!!
「・・・明日から・・・やるわよ・・・。」
「ん?何か言った?」
「明日から全員!!全身運動だけじゃなくて!!勉強も同時進行でやるわよ!!」
「「「「ええええぇぇぇぇ!!」」」」
この日から新たに1つの訓練が導入された。それは、勉学。50音、美文字、算数、漢字等の私が教えられる基礎を徹底的に叩き込む。メンバー一同は今まで行ってきた全身有働よりも、脳の運動に日々苦しみを感じ始める。やっていく事はどれも私にとっては簡単な事だけど、メンバーにとっては何よりの苦痛だった。
誤字があれば、ぜひご指摘してください。




