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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第1章 アスタ・サーネス
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第44話 狂戦士アスタ・サーネス

諸事情により編集しました。

 『狂人化』を発動したアスタくんは、痛覚、知能、そして理性が無くなったかのような奇行を次々と見せる。今の彼は私の知っているアスタ・サーネスとは姿形が似ているだけの全くの別人。そんな彼が次にとった行動は、ゴブリンたちのもとへ無謀にも素手で真っ直ぐに進み始めた。


「アスタくんッ!」


 今の彼はもう言葉では止まってくれない。力づくでも止めようと思い立ち上がろうした瞬間、全身に激痛が走った。先の命中した矢を無理して抜いたせいだ。痛みにより躊躇って動けない私を置いて、彼は前に行ってしまった。

 アスタくんが直進する中、ゴブリンたちは近接部隊をもう一度後退させて、弓部隊を彼の前に移動して次の矢を準備し始める。私の『ファイア・ショット』と『ジャイロ・オブ・ファイア』、そして彼の敵から受けた矢での反撃で、大群で門から入って来た弓のゴブリンたちも3分の1位は撃沈させた。それでもまだ結構な数が残っている。もしあの数で弓矢を一斉に放たれたら、例え中級冒険者でも完璧に防ぐのは困難。ましてはただの村人のアスタくんにこの状況から生き残れと言うのは無理に等しい。だけど私は一瞬忘れていた。今の彼はただの村人ではなく『狂人化』によって何もかもが狂ってしまったアスタくんということを。


 ゴブリンたちの行動を見たアスタくんは、直線的な軌道から少し斜めにずらして走る軌道を変えた。その変えた進路先には、先の乱戦で私が倒したゴブリンたちの死体があった。弓の部隊は矢の装填が終わっているが、素早く横向きに移動するアスタくんに中々照準が合わせられなかった。アスタくんはゴブリンの死体に近付くと、その走る速度を落とさないまま手際よくゴブリンが装備していた武器を奪うように手に取った。両手にそれぞれ1個ずつ斧を装備。そして彼は装備した瞬間、大きく上へ飛びあがりその2個の斧をゴブリンたちに向けて投げた。

 力強く投げられた2個の斧は円盤に見える程の高速回転をして、2体の弓のゴブリンの脳天に深くめり込みながら刺さった。ゴブリンたちは自分が何をされたのか全く理解できないまま2体の仲間が絶命して、倒れる瞬間まで呆然としていた。しかし理解できなかったのはゴブリンたちにだけではない、私も同じ心境だ。彼は何故あんなに素早い行動をできるのか、何故空中であの体勢のまま攻撃をできるのか、何故ただの村人があんな力を持っているのか、次々と疑問は出てくる。今の彼の状態はもう狂人化のスキルの影響という一言では納得できない。そう考え続けると、彼はすでに次の行動に移っていた。


 地面に着地したアスタくんは仲間の死に動揺して自分に注意が逸れているこの瞬間を好機と思い一気にゴブリンたちとの距離を詰める。道中、先と同様にゴブリンの死体があり、それから今度は2本の剣を奪い装備する。両手の刃を敵に向けて全速力で進むアスタくん、その足音でゴブリンたちは彼の存在を思い出す。しかし気付くのが遅かった。ゴブリンたちがアスタくんを視界に入れた時にはすでに、彼の射程距離県内だ。複数人集まっているゴブリンたちにアスタくんが飛び込むと、彼は装備した2本の剣を2体の弓のゴブリンに突き刺す。これで残りの弓のゴブリンは6体、彼はそれを確認すると片方の剣を指したまま捨ててもう片方の剣に両手で握って、それに刺されたゴブリンの肉を切り裂きながら引き抜く。

 アスタくんが飛び込んだ際にゴブリンたちは左右に2対4で2組に分かれた。装備、人数差、陣形からしてゴブリンが有利なはずなのに、そのゴブリンたちの表情は私から見てわかるほど怯えている。そんなゴブリンたちの心境を無視するかのように彼は獲物を定めたかのように4体で固まっている弓のゴブリンたちを睨む。そのゴブリンたちは彼に睨まれた瞬間、先まであった余裕の笑みが完全に無くなり死を覚悟したかのように固まる。


 片手剣を持ち直したアスタくんは4体のゴブリンたちとの距離を一気に縮めて、今度は斬撃での攻撃を仕掛ける。流れるように1体1体のゴブリンの横に並び、そして去り際に確実にその首元に刃を通す。軽いフットワークで反撃の余地を与えず、瞬く間に4体のゴブリンたちは頭と胴体を切り離されて絶命した。

 アスタくんが4体のゴブリンを倒すが、その背中を的に残り2体のゴブリンが弓矢を引っ張る。完全に背後を取られたと思うこの状況だが、彼の獲物は最初からその2体も含まれていた。彼が4体目のゴブリンを切り終わると即座に後方へ振り返る。そして先の斧と同じように装備していた剣をその2体の弓のゴブリンに投げつける。これはどう見ても悪手と思えた。剣は斧と違って全長が長くそして重いせいで速度は遅く、しかも先に見ている攻撃だけあってゴブリンたちはギリギリで回避される。これで彼の武器は無くなった。もう攻撃手段はないと察した2体のゴブリンはもう一度笑みを浮かべて、避けた際に解いてしまった構えを再び入り直す。しかし彼にはまだ攻撃手段があった。


【水魔法:アクア・ピストル】


 弓のゴブリンたちがその弓矢を引こうとした瞬間、前から2つの水の弾が飛んできた。2つの弾はそれぞれ2体のゴブリンの額に着弾して、そのままの肉と骨を貫いた。唐突に表れて来たその謎の物体はアスタくんの攻撃魔法だった。彼は剣を投げた後、すぐに魔法の発動体勢に入り、2回連続で発動したのだ。どうやら彼の先の行動はゴブリンへの攻撃ではなく、相手の反撃を遅らせるための僅かな時間稼ぎだった。

 アスタくんは弓のゴブリンを全員倒すと体勢を戻して、もう一度深呼吸する。静かに立つアスタくん、そしてその彼を囲っているゴブリンの死体の光景を見ながら私は驚愕している。6体のゴブリンを瞬く間に倒す瞬間よりも、彼の次々に繰り出す攻撃方法に驚かされている。


 どうなっているの・・・あれが『狂人化』の力なの?昨晩アスタくんにステータスウィンドを見せてもらったけど、『狂人化』の説明には“痛覚、知能、状況判断が鈍くなる”と書いてあったかど・・・あれで鈍くなっているの?状況判断して狙いを定ませないように横移動、臨機応変に対応して武器での投てき、知能を働かせてより効率の良い方から迎撃・・・とても鈍っているようには思えない・・・。

 それにさっきの剣裁き、剣術レベル1ができるような動きではなかった!説明に“一時的身体向上される”って書いてあってけど・・・熟練度のレベルも一時的に向上するものなの?力任せで剣筋に軌道のブレがあったけど、あの剣裁きは間違いなく数値的にレベル10以上はある・・・。何で・・・何でそんな力を、アスタくんが持っているの・・・。


 そう考えているうちにアスタくんは後方へ下がっていた近接部隊との接近戦が始まっていた。矢、斧、剣を使って反撃していた彼は、今度は素手で戦っている。ゴブリンたちはそれぞれ装備している鋭い刃でアスタくんに囲い込み襲い掛かるけど、彼の体術によって誰一人その身を傷つけることが出来ていない。彼は向かって来るゴブリンに対して、殴る、蹴る、受け流す等、その技量高い体術で次々と倒していく。

 だけど軽く倒しているだけで戦闘不能にまでには至らない。倒されたゴブリンたちはまた立ち上がり、アスタくんにその刃と牙を向ける。20体のゴブリンが彼に攻撃をして、徐々に体力を削っていく。戦況は彼が不利な一方、全く変わる兆候が見えない。どんなに強くなっても彼は村人、正直絶望的だ。

 しかしそんな戦っている彼の眼は、ただ暗かった。まるで大事なものが無くなったかのように絶望し、大事なものを守れなかったかのように後悔し、頼る相手がいなくなり死にたいと訴えているような孤独感を感じさせるような眼だった。暗く恐ろしく、こんな状況の中その顔色一つ変えない彼はまさに狂戦士。


 怖い・・・アスタくんが、だんだんアスタくんじゃなくなっていくみたい・・・。止めないと、アスタくんを止めないと!何か確証があるわけじゃない、けどこのままじゃあアスタくんが、優しいアスタくんが変わってしまう!身体は痛い、辛い、苦しい・・・でも、私も・・・戦わなくちゃ・・・!アスタくんを・・・アスタくんをゴブリンから、あの絶望しきった感情から助けないとッ!!


 私は再び剣を強く握って立ち上がった。矢を受けた傷口からの痛みにも多少は慣れて、ふらつきそうになる足を地団駄して落ち着かせる。その際に生じた音でゴブリンたちがすっかり忘れていた私という存在を再認識する。そんな中、アスタくんだけは私を見てくれなかった。正直に言って寂しい。だけど私のために戦ってくれている彼に文句なんか言えない。


「アスタくん・・・ずっと1人で戦わせてごめんね。いま・・・助けに行くね。すぅぅ・・・はぁああああぁぁぁぁ!!」


 アスタくんのように深呼吸をして、気合を込めた声を上げながらゴブリンたちの群れに突撃する。今の彼が私に攻撃をしてこないとは限らない。もしかしたら攻撃を仕掛けてくるかもしれないけど、私は構わない。例えそうなっても私は彼を助ける。この気持ちに揺るぎはない。

 私の行動を見てゴブリンたち躊躇した。目の前にいるボロボロのアスタくんを先に倒すべきか、向かって来る私に応戦するべきか、どちらに優先するべきか迷う。そして考えて立ち止まるとアスタくんの格好の餌食にされる。彼の容赦ない拳がゴブリンたちをかき乱す。そのおかげで俊敏化を使うことなく難なく接近することが出来た。


 今の魔力量を考えて・・・魔法やスキルが使えるのはせいぜい2、3回くらい。それ以上使うと魔力欠乏で激しい吐き気と酔いに襲われてしまう。もうこれ以上アスタくんに負担はかけられない・・・ここからは剣で戦うしかない!


 ゴブリンを射程範囲に入れた瞬間、私は次々と敵を切り始めた。1体1体への攻撃は浅くしている。無理に力を使って深く切りつける必要はない。ゴブリンたちの体力はアスタくんとの戦いでもう十分減っている。後はじわじわとダメージを蓄積させて、確実に倒していく算段だ。

 集まっているゴブリンたちに攻撃をし続けて、その間をかき分けるように進んで行く。今の私は速くアスタくんに合流したい一心だった。そして攻撃を繰り返していくうちに、体術だけでゴブリンたちと激しい攻防を繰り広げているアスタくんに合流することが出来た。ここまで接近してようやく彼は私の存在に気付いて、振り向いてくれた。


「アスタくんッ・・・!」


 歓喜するように彼の名を呼んだ。彼はそんな私に対して、望んでいなかった対応をしてきた。


【水魔法:アクア・ピストル】


 アスタくんは私に指を向けて魔法を発動した。至近距離で発動されたその魔法は一瞬にして私の顔に接近する。しかし着弾はしなかった。弾はそのまま私の顔の横を通って、私の背後から攻撃をしようとするゴブリンに命中する。そのゴブリンは私が振り返る前に彼の魔法によって絶命させられる。


 危なかったッ!!全然気付かなかった!前方にいたアスタくんのことで頭いっぱいになっていて、後ろの警戒していなかった!・・・あれ?じゃあさっきの魔法って・・・私を助けるために・・・?


 自分から乱戦に入った私は悠長に物事を考えてしまった。その隙でまたゴブリンに仕掛けられてしまう。何とかギリギリのところで剣で受け流し反撃をするが、やはり先のアスタくんの行動が気になって仕方がない。

 なぜこの乱戦になってやっと魔法を発動したのか。なぜ拳に血が出る程赤くなるまで体術を使い続けるのか。本当に狂人化のスキルによって知能が劣っているのか、理解できないことが増えてきた。だけど私のやることには変わりない。この状況を打開して、アスタくんをゴブリンからも、その狂人化からも、助ける。



 私が参戦した乱戦は数十秒の時間が経った。普段はあっという間に過ぎていく時間だが、戦闘においての数十秒はとても長い。人数差で圧倒的に私たちが不利だが、消耗しているのはゴブリンたちだった。私の剣術とアスタくんの体術で徐々に体力を削られたゴブリンたちは少しずつ気絶するように倒れていき、立っている数は20体から11体になる。戦況は私の算段通りに事が順当に進んでいる。しかし体力が奪われているのは私たちも同様。先の攻撃で受けた傷口の痛みを耐えながら何とか立っていられる状態だ。完全にゴブリンたちに囲まれた私たちは、お互いの背中を向け合う状況になった。


「はぁ・・はぁ・・はぁ・・!ねぇ、アスタくん・・・お願いだから・・・返事してよ・・・。」


 息が荒くなる中、私はまだアスタくんに声をかけ続ける。しかし彼は無言、返答どころか振り向こうともしてくれなかった。それでも諦めない。『狂人化』が解けるまで何度でも彼に声をかけ続ける。

 私たちを囲むゴブリンたちは攻撃を仕掛けるのを止めると、何やらお互いに見合って話し出した。まるでこの戦況ひっくり返す作戦を思いついたかのようにゴブリンたちの中で頷き合う。話し合いが終わると囲っていたゴブリンの1体がおもむろに西門に向かって走り出した。その全力疾走する姿は敵前逃亡というよりも、また別の目的によるもののように見える。そんな背中を向けるゴブリンにすかさずアスタくんは魔法の体勢になって、狙いを定める。


【水魔法:アクア・ピストル】


 標準を合わせてアスタくんは魔法を発動する。しかしそれをまるで予知していたかのように私たち囲っていた1体のゴブリンが壁になって攻撃を防いだ。


 なに今の動き!?ゴブリンが他のゴブリンをあんな方法で助けるなんて・・・!そこまでして何で今のゴブリンを逃がしたかったの!?


 アスタくんはもう1度魔法を発動しようとする。『狂人化』した彼はどうやら1体も逃がすつもりはないようだ。しかし魔法を発動しようとした瞬間、彼に異変が起きた。構えた手元が小刻みに震え始めて、息も心なしか荒くなっている。気になって彼の体を見てみると、両手は血で真っ赤になって腫れ上がり、前半分の服は先の攻撃でできた傷口からの流血で濃い赤色の面積が広がっており、足元には大量の血のしずくが落ちていた。


 そうか、今までは『狂人化』のおかげで痛みが感じにくくて気付いていなかった!だけどそのせいで蓄積されていた痛みにも気付けず戦っていた!アスタくんの身体はもうボロボロだったんだ!


 アスタくんの小刻みな震えは身体的機能の低下によるもの。身体からの警告だった。彼自身気付いていないようだが彼の身体はもう限界を越えていた。


「アスタくん、休んでいて!あとは私がやるから・・・ね?」


 逃亡したゴブリンはそのまま西門の外へと逃げられてしまったけど、今はもうどうでもいい。もしこれ以上、アスタくんが痛みに気付かずに戦い続けたら本当に命を落としてしまう。私は彼を止めようとする。しかし彼は魔法の体勢を解くと、拳を強く握りしめてまた接近戦の体勢に入る。


「ねぇ、もう止めてよ・・・本当に死んじゃうかもしれないんだよ?ねぇ、アスタくん・・・。」


 前方のゴブリンに剣を向けながら背後からアスタくんに忠告する。しかし彼は全く戦闘態勢を解く気はなかった。


「お願いだからもう止めてよ・・・私ならまだ大丈夫だから。アスタくんを守りながら戦えるから。もうこれ以上傷つけさせないようにするから。お願いだからもう動かないで。ねぇ・・・アスタくん!!」


 アスタくんの危機に察して涙目ながらも私は忠告を続ける。なりふり構わず大声で言って、彼の反応を待った。しかしその返答はアスタくんからではなく、予想もしないモノからだった。


「ギィィィィアアアアア!!」


 西門の向こう側からまた先と同様の咆哮が村中に響き渡る。しかし先のとは少し違った。今回は咆哮の後、何やら地揺れが感じられる。地揺れは徐々に近づくように大きく鳴っていき、不安を募らせる。

 囲っているゴブリンたちはこの地揺れに対して明らかに表情を変える。立ち残っている者全員が歓喜の舞をする。まるで自分たちの勝利が確定したかのようだ。


 忘れていた、この門の先にはまだあの声の主がいたんだ!?いったい何なの!?まさかこの地揺れもその主の仕業なの!?


 そう考えているうちに、地揺れは唐突にして止んだ。ゴブリンたちの様子に理解できないまま、後方を振り返ってみるとアスタくんは西門の上空を見つめていた。それにつられて私も燃えている西門の上空を見てみる。そこには先までなかったはずの何やら黒くて大きな山があった。その黒い山はもう1度地揺れを起こすと燃えている西門に近づいて、その正体が炎の光によって明白に理解した。

 認めたくないけど認めるしかない。あれは山じゃあない。頭から鋭利な3本角を生やした巨大なモンスターだ。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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