第43話 望まぬ援軍
諸事情により編集しました。
<ナエナ視点>
アスタくんが離れて行って数分が経った。現在の状況は、最悪だ。彼が離れてからと言うと、村の住民たちによる加勢のおかげでゴブリンとの戦いもかなり優勢になっていった。いくら質の高い武器を装備しているゴブリンでも、その圧倒的な数の前では無力に近かい。私たちは数の利を生かして残りのゴブリンを西門周辺まで追い込んで、殲滅しようとした。しかし、とあるきっかけが戦況をひっくり返した。
「ギィィィィアアアアア!!」
うッ・・・何!?
燃えて今も崩れ落ちそうな西門の向こう側で、まるで大型の化け物が叫んだような声が聞こえた。その場にいる全員が咄嗟に耳を塞ぎ、攻撃の手を止める。学校でモンスターについて学び、冒険者になって多くのモンスターと対峙してきたつもりだけど、こんな地揺れする程の鳴き声は初めてだ。
こっちに良い流れであった乱戦はピタッと静まり、その場にいる住民とゴブリンがその声を聞いて動きを止まる。この先にもっと恐ろしいモンスターがいると察すると、住民たちは明らかに動揺を見せ始める。姿は見えないものの、その咆哮で脅威差は十分に伝わってしまった。
しかしその一方で、ゴブリンたちはまるで待望の指示が来たかのように全員が不気味な笑みを浮かび始める。嫌な予感がする。
ゴブリン、一体何を考えているの・・・。いやそれよりも、みんな落ち着かせなきゃ・・・!戦いはまだ終わっていない!
「みなさん気を付けてください!この先に何が・・・。」
何とか住民たちを落ち着かそうと語ろうとした瞬間、私の様子を見てゴブリンたちが一斉に西門へと走り出した。ゴブリンは次々と門をくぐって村の外へ行き、そして燃える西門の炎の中に消えていった。
一体どういうこと?!さっきまで殺気を放っていたのに、何で全員があんなにすんなりと逃げていったの!?・・・いや、本当に逃げたの?もしかしてさっきの鳴き声は何かしらの命令・・・まさか、後退している?それこそ何で・・・どっちにしても何か嫌な予感がする・・・。
「あッ・・・おい、ゴブリンたちが逃げていくぞ!」
「さっきのは何か分からねぇけど、あいつらだけは絶対に逃がすな!」
「追うぞぉー!」
ゴブリンの行動にようやく住民たちが気付くと、その後を追うように走って行った。全員の眼はもう自棄になっている。考えるのを止めて、目の前で殺されている住民たちの仇を取ろうとする必死さがにじみ出ている。
「みなさん待って下さい!一旦冷静になって!今ゴブリンの後を追うのは危険です!」
必死に言葉で止めようとしたけど、ほとんどがその言葉を耳に入れてくれなかった。それでも私は必死に止めた。例え言葉が無視されても、服や腕を掴んで怒りにその身を任せた住民たちを止めようとする。
「お願いですから止まって・・・。」
そうして説得を続ける中、何やら風切り音が聞こえてきた。その音は最初大きかったが、心なしか何故か徐々に小さくなり、そしてまた帰ってきたかのように大きくなる。
音が聞こえた瞬間、私はすぐに上を向くとその正体にいち早く気付けた。風切り音を発していたのは西門の向こう側で放させた無数の火矢だ。その尋常じゃない数は私たちの頭上を通って、ペレーハ村の中枢辺りに向かっていく。その火矢の軌道に察した私はとある人物が脳裏に映った。
このままじゃ・・・アスタくんが危ない!何とか伝えないと・・・でも、他の人たちを置いていけない・・・!・・・間に合わないッ!
アスタくんが向かった北西付近まで例え俊敏化を使ったとしても、あの火矢より先に彼のもとに到着することはできない。大事な幼馴染の身に危険が迫っている、そう察した私は今すぐにでも向かいたかったけど、私のために来てくれた住民たちを置いていけない。何もできない自分に心境は絶望へと向かっていった。しかし本当の絶望はここからだった。
ヒュッー
北西付近に向いていた私の顔の横に1本の火矢が通っていった。意識が完全に北西付近に向いていたせいで、地面に水平に飛んできた火矢が完全に通り過ぎるまで全く気付くことが出来なかった。頭が火矢だと認識すると、私はすぐに放たれた方角へ振り返える。
視界に映ったのは開いた西門の向こう側から放たれた多くの火矢だった。上空程の数はないけどとても多く、握っている剣で何とか弾こうと試みたけど、当然完全回避は不可能だ。右肩と左太股に命中、激痛が全身に走り背中から倒れた。
「ぐッ・・・・・あああああ!」
今でも悶え暴れたかったけど何とか耐えながら状況を把握しようと上体を起こした。すると視界には火矢の次に恐ろしい光景が移った。 そこには私を通り過ぎて我先へと西門へ向かって行った住民たちが、火矢によって串刺しにされた無残な姿だった。乱戦に参加してくれたほとんどの住民が殺されてしまった。吐き気をするその光景に絶句、だけどそけだけではない。
西門の向こう側から多くのゴブリンたちが村の敷地へと入って来た。その服装は先まで戦っていた者とは異なり、装備も全員弓を持っていた。このゴブリンたちが先の火矢を放ったのだろう。そしてその後ろからまた別の服装のゴブリンたちが入ってくる。
あのゴブリンたちはさっきの・・・そうか!あの後退は火矢に巻き込まれないためだったんだ!やっぱりあの大きな鳴き声は何らかの伝達の役割を・・・。やっぱりおかしい・・・。ゴブリンがこんな状況を予想していたかのように計画を立てるなんて・・・絶対におかしい!・・・もしかしてアスタくんの言うとおり、ゴブリンに戦い方を教えている個体がいるってこと!?だとしたら一体だれが・・・まさかあの鳴き声の主が・・・!?
「もうダメだ・・・逃げよう!」
「この村はおしまいだぁ!」
先の火矢に命中しなかった後方の住民たちが新手のゴブリンの集団を見て逃亡する。しかしそれを逃がさないように弓を装備したゴブリンたちは、先端に油を浸した矢を近くで燃えている火で点火して、不気味な笑みを浮かべながら背中を見せる住民たちに狙を付ける。
こいつら、まだ殺したりないの!?これ以上好き勝手にはさせない!!
【火魔法:ジャイロ・オブ・ファイア】
倒れている状態のまま片手を上にあげて魔法を発動する。手の平の上にファイア・ショットの何倍の大きさの火の球体を創り、構えるゴブリンたちに投げつける。全身に響き渡る痛みで正確に狙いを付けられないが、着弾した瞬間攻撃範囲が広がるこの魔法なら問題はない。ゴブリンたちは踊るように混乱し始める。
私のことを死体と思っていたのかゴブリンたちは予想もしていない火の玉による奇襲を受けて、敵前逃亡する住民たちへの攻撃に失敗した。それだけではなく、弓を装備しているゴブリンたちは運悪く火炎性の低い服を着ている。そのせいで半分近くが全身に火が回り、大ダメージを受ける。弓を止めようと牽制のつもりで発動したけど、これは嬉しい誤算だ。
攻撃を受けたゴブリンたちがその火を消そうと地面に転がっている中、残りのゴブリンたちの眼光が私を睨んだ。死体だと思っていた私を生存者だと認識すると、弓のゴブリンたちは少し後退して、剣や斧のゴブリンたちが前進する。獲物を強く握りしめて、不気味に笑いながら近づいてくるその様子はまさに狂気。
「・・・もう、ここまで来たら・・・こっちも自棄になってやるわ。・・・うぅッ!!」
覚悟を、いや、無謀な戦いに挑もうと決意した私は体に刺さった2本の矢を力づくで引き抜いた。命中した時と同等の激痛が走りだすが、痛みを受けることを分かっていたおかげか我慢できた。
アスタくん・・・ごめんね。私、約束破るね。今から無茶しちゃうね。こいつらには捨て身の攻撃じゃないと全滅できない。それに門の向こうに親玉も控えている・・・無茶でもしないと絶対に勝てない!・・・きっとこの戦い終わったらボロボロだろうなぁ・・・またアスタくんに心配させるだろうなぁ・・・ねぇ、アスタくん・・・。ゴブリンたちを全滅出来たら、また一緒に笑って・・・。
「・・・なんかがぁぁぁぁぁ!!」
後方のかなた、男の叫び声が聞こえた。振り返るとその方向は北西付近、彼がいる場所だ。断面的なその言葉、すりつぶれた様にして出たその言葉、絶望のどん底まで落ちて行った様なその言葉から、私の脳裏に1人の人物が浮かび上がった。
今のって、アスタ・・・くん?
今まで聞いたことがないその奇声に何故か彼の姿が浮かび上がる。しかし今の声は間違いなくアスタくんのもの。先までこの戦地に立ち寄っていた時も冷静にいられた彼なのに、今どういう心境なのか理解できないほどの奇声を発した。アスタくんの身に何が起きたのか気になり、ゴブリンそっちのけに北西付近を見つめ続けた。
一体・・・どうしたの?アスタくんの所で一体何が・・・。
意識が完全に敵から逸れていたせいで、私の背後からのゴブリンは攻撃を仕掛けてくる。ギリギリ反応できて両手で剣を盾にして攻撃を受け止めることができたけど、立ち位置はゴブリンに上を取られたせいで私は対応しにくい状態になってしまった。
アスタくんの方も気になるけど・・・先にこっちを何とかしないと!
【剣技:ファイア・スリー・ブレード】
攻撃を受け止めた状態のまま武技を発動した。1回目の火力でゴブリンの剣に衝撃を与えて跳ね飛ばし、2回目の火力で何とか体を起こして一気に距離を詰めてその首元に一閃を切り込む。3回目はそのまま流れるように剣を地面にぶつけて、その反動による衝撃で自信を浮かび飛ばして後ろに下がった。
なるべく魔力を節約して戦っていたけど、今の武技で魔力が限界に近付いてきたことに気付く。昼頃に調子に乗って魔力を酷使するんじゃなかった。そのせいで強い魔法や武技を連発するどころか発動さえできない。いや、例え使えたとしても、この最悪な状況を切り向ける自信は正直に言ってない。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・、私はいったい・・・どうしたらいいの・・・。」
誰かにすがるように声をこぼす。誰かに頼るように小さくつぶやく。だけど私を助けてくれる人は誰もいない。だって、ここには大勢の敵と私しかいないから。
そんな惨めな私の姿を確認すると無傷だった弓のゴブリンたちは背中の矢入れから1本ずつ矢を取り出して、全員が私に狙いをつける。矢が刺さった個所から流血を抑えるように手を置きながら座り込んでいる私は、荒くなった息を落ち着かせている。こうしている場合じゃないのは分かっている。だけそ、もう回避する方法が思いつかず、更には思案を巡らす気力すらなくなりかけている。ゴブリンたちが弓矢を力いっぱい引いた瞬間、私は死を覚悟した。
そんな時、視界の端から1人の影が見えた。方向、ゴブリンより大きい身長から村の住民だとすぐ理解した。
いったい誰・・・わざわざ死に来るようなものだよ、しかもたった1人で!?止めなきゃ・・・せめて1人多くの命でも助けないと!
そう思いながら今ある気力で精一杯の声を出そうとした瞬間、徐々に近づいてくる者の正体がはっきりと見えるようになってきた。その者を見た瞬間、私自身が声を出すのを止めた。
あれって・・・アスタくん!?間違いない、アスタくんだ!良かった無事で・・・違う、何かが違う・・・。雰囲気がいつものアスタくんじゃ・・・ない・・・。
彼の向かって来るその表情はまさに狂った者の様だった。目元は泣いた後なのか少し赤くそして強い殺気がこもり、身体はどこも傷がないように見えるがその走る速度は先と同一人物とは思わせないほどに速い。低い体制のまま彼は真っ直ぐにゴブリンの方へ向かって来た。
もしかして・・・あれが『狂人化』!?アスタくんが持っている強化系スキル!?何で発動させちゃったの・・・いや、それよりも話に聞いていた通り理性が無くなっている!このままじゃゴブリンの餌食に・・・何とかして・・・アスタくんを止めないと!!
「アスタくん止まって!こっちに来ちゃダメ!お願いだから止まってぇぇ!!」
向かって来る彼は全く応答しない。声が届いているのすら怪しいと思わせる程、彼の走る速度は全く変わらなかった。ゴブリンたちは彼の殺気のこもった眼から脅威に感じたのだろう。アスタくんの存在に気付くと、弓の的を私から彼に変えた。
「させないっ!!」
【火魔法:ファイア・ショット】
アスタくんを狙うゴブリンたちの姿を見てすかさず魔法を発動した。だけど先に構えていたゴブリンたちの方が早く、私の魔法がゴブリンたちに当たる前に矢は彼の方へ飛んで行った。
しまったッ!?アスタくん避けて!!
そう思いながら振り向くと、彼の体に5本の矢が刺さってしまった。運よく急所には刺さらなかったけど重症に変わりはない。攻撃を受けた彼は立ったまま立ち止まった。そして顔を下に向けたままピタッと動かなくなった。
そ、そんな・・・。もしかして・・・死んじゃった?・・・いや・・・。そんなの・・・いやだよ・・・。アスタくんも・・・死んだなんて・・・。
「いやぁぁぁぁぁあああああ!!」
守れなかった彼の姿を見て叫んだ瞬間、彼はもう一度動き始めて。私は安堵と同時に歓喜した。アスタくんが生きていたことに、すごく嬉しかった。しかしその感情は一瞬で無くなった。
彼は自信に刺さった矢を1本1本丁寧に抜き始めた。激痛が走るはずなのに彼は黙々と表情一つ変えずに動き続ける。その様子を見て私もゴブリンも驚愕して硬直する。全て抜き終わると、彼は5本の矢を右手に集めて強く握ると、そのままゴブリンたちに投げ返した。
「えっ・・・。」
ゴブリンが放った時よりも速く、そして大きく風切り音を立てたその矢は、ゴブリンたち命中する。彼が投げた5本の矢に対して5体のゴブリンが倒れた。5体とも絶命こそしなかったけど、その各部刺さった矢はとても深く、叫びながら苦しむ姿はかなり痛々しく感じさせた。
嘘でしょ・・・なに今の力・・・?あんなの普通の人族じゃあ出せないはず。これが『狂人化』の力なの・・・。
もう一度アスタくんの方へ振り返ると、矢が刺さった個所から血が流れ始めて服に染み付き始めた。徐々に広がる赤い色の面積は私の心境を一転させた。
「もういい・・・もういいから、アスタくん!お願いだから、今すぐにここから離れて逃げて・・・アスタくん!!」
声を枯らすように言っても、彼は全く反応しなかった。彼の目線の先は常にゴブリンたちだ。全く私の事を見ていない。むしろ気付いていないように見えてきた。
「スゥゥーー・・・。」
不気味に一呼吸し始める。ゴブリンによる蹂躙が始まろうとしていた場所で、彼の呼吸音だけ響き渡る。そして肺に入れた空気を静かに出すと、彼は時が動き出したかのようにもう一度ゴブリンに向かって走り出した。
どうしちゃったの、アスタくん・・・一体向こうで何があったの・・・?何が君をそこまで変えたの・・・?お願いだからもうそんな顔はやめて、アスタくんには似合わないよ・・・?お願いだからもう戦わないで、アスタくんは戦いたくないんでしょ・・・?お願いだから・・・もう、止めて・・・。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




