第41話 十数分前の出来事
諸事情により編集しました。
ペレーハ村内で乱戦が起きてしまっている中、私たちは少し話過ぎてしまった。周りを見渡すと戦っている住民の中に軽傷者が出始めているが、数の利を生かして他の住民たちで支え合っている。
それにしても・・・結構来てくれたんだ。村の人口の半分近くは来ているのかな?男の人だけじゃあなくて女の人もいる。
「ナエナちゃん・・・疲れているのなら、後ろに下がって休んでいたら?足、疲れているんでしょ?人数的にもあとは村のみんなが倒してくれるから・・・ナエナちゃんはもう戦わなくていいよ。」
アスタくんは少し震えた声で私に提案を出してくれた。自分の殺そうとしたゴブリンがすぐそこにいるのだから当然だろう。そして下半身が疲労して戦闘に生じていることに、アスタくんは気付いたようだ。確かに膝、太もも、足裏に痛いと言うほどではないけどかなりの疲労感はある。だけど私はアスタくんの提案に首を横に振った。
「ありがとう・・・でも、私なら大丈夫!まだ全然戦えるよ!こうして村のみんなが頑張っているのに、私だけ休むわけにはいかないじゃん!」
「・・・そう言うと思ったよ。あんまり無理はしないでね。それと・・・頑張って・・・!」
少なくともアスタくんには言われたくはない。何故か私以上の発汗量と息を切らしている。戦っている私から応援したくなる。
あっ、そういえばアスタくんこの間まで引きこもりだった。まさかここまで走ってだけでそんなに疲労しているの?そういえば昨日も駆けつけてくれた時も相当息切れしていたっけ?・・・あんまりアスタくんを無理させない方がいいか。
「じゃあ、俺は父さんたちとあの引火した柵の炎を消しに行くから・・・本当に気を付けてね!」
「そっちもだよ!何かあったら大声で叫んでね!」
アスタくんは燃え移った両隣の柵を鎮火しにまた走り出した。彼の適正魔法は水、柵が燃えて民家に火の粉が降りかかりそうな今、まさに一番の適任者。方向で言うと北西に向かい、ここと比べてゴブリンがいない比較的な安全場所。魔物が侵入したこんな状況で絶対に安全とは言い難い、それでもアスタくん前を向いて走り続けていた。
・・・あれ?アスタくんの家って確か村の東側だったよね?なんで直接北西に向かわずにわざわざここまで来たの?・・・私の安否を確認しに来てくれた?天敵であるゴブリンが沢山いるって分かっていたのに、本当に私のためにわざわざ自分で来てくれたんだ・・・。ふふっ、やっぱりすごいなぁ。本当はゴブリンの近づくどころか、顔すら見たくないはずなのに・・・本当にすごいなぁ、アスタくんは・・・。
私はアスタくんのことをよく知っているつもりだった。アスタくんのおじさんおばさんの次に、アスタくんのことを知っているつもりだった。でも、彼は私が思っている以上にすごくて、優しかった。
彼が去っていく後姿を送り見すると、私の背後から4体のゴブリンたちが迫ってきた。ゴブリンたちは隙が出来たと思い、その視線から殺気を放して私を切りかかろうとする。当然私にはバレバレだった。
『剣技:ファイア・フォー・ブレード』
ゴブリンたちが剣の間合いに入った瞬間、すぐさま後方へ振り返り剣技を発動する。アスタくんの応援のおかげかやる気が戻り、疲労を感じさせないその剣筋と火力で向かって来たゴブリンたちの首を跳ね飛ばす。討伐した際に私の心を満足にさせたのは爽快感や達成感ではなかった。アスタくんの応援、アスタくんの優しさが、私に戦う意思を強めてくれた。
◇
<アスタ視点>
十数分前、ナエナちゃんが家から出た後に俺は両親にお願いをした。
「・・・父さん、母さん、お願いがあります。・・・ナエナちゃんと一緒に戦わせてください!」
自分が何を言っているのか分かっている。馬鹿げたことを言っているのは分かっている。それでも俺は、ナエナちゃんを1人でゴブリンの集団と戦わせたくなかった。 頭下げてお願いする中、両親はお互いの顔を確認するように見合った。俺の提案自体にそれほど驚いていなかった。
「・・・おう、そのつもりだアスタ!ここは俺たちの村だ、自分たちで守らなきゃな!」
「そうね、みんなでこの村を守りましょう!」
両親の意外な発言に逆に俺の方が驚いた。2人も最初からナエナちゃんを1人で戦わすつもりはなかった様だ。早速俺たちは寝間着から着替えて、ナエナちゃんを追うように家を出た。しかし向かう場所は北東門付近、すでに村の異変に気付いた住民の何人かは集まっていた。村長の指示の元、開門して避難しようとしていた。
「みんな、ちょっと待ってくれ!」
父さんが開門して村から出ようとする住民たちを止める。村では人望のある父さんのおかげか、最初は困惑するが父さんだと分かるとすぐに素直に話を聞くようになった。徐々に住民たちが北東門に集まってくる中、父さんはまだ現状を理解できていない人たちのために説明をした。相手はゴブリンで西門は燃やされている、火の粉が両隣の柵に燃え移り村全体が燃え続けている、ゴブリンの数が多数でまだまだ増えている等、父さんは隠し通さずにすべて話した。
住民たちは驚き、恐怖、不安の表情を見せ始める。話を聞き終えた住民たちは逃げようとする者、涙目になる者、慌てだす者と様々な反応をする。無理もない。今まで平和だったこの村で突拍子もなく魔物に襲われたのだから、パニックになるのは当然だ。そんな中、父さんはもう一度住民たちに話しかけた。
「確かに逃げるべきかもしれない・・・だけど今、昔この村に住んでいたマーシェナ一家の一人娘ナエナちゃんがそのゴブリンたちと戦ってくれている!この村のために、俺たちのために、ナエナちゃんは戦ってくれている!そんな中、同じ郷里の者である俺たちが、あの子だけ戦わせて逃げていいのか!ペレーハ村を捨てていいのか!」
父さんの言葉で空気が変わった。その場にいる全員が先まであった動揺や困惑がなくなり、それぞれの心の中で何かを決意し始めている。意外に父さんのカリスマ性が高かった。
だけど当然、何名かは戦いに戸惑いを見せる者もいる。それもそうだ、戦うとしてもまともな武器はこの村にはない。
「武器ならあるじゃあねぇか、普段俺たちが使っている農道具!いっちょ前に剣や槍を装備するより、そっちの方が使い慣れていて戦えるはずだ!クワ、斧、スコップ、シャベルでも何でもいい、使えるものは使って戦うぞ!」
強引ではあるけど父さんの言い分に納得できる。本当は自分でも仕事道具を魔物の血なんかで汚したくはないはずなのに、声を大にして言い切った。父さんの言葉に住民たちの士気は最大まで高まった。戦う意思を固めたその眼はまさに戦士、住民たちは心火を燃やした。
ナエナちゃんに村の外に逃げるように言われたが、正直こんな真夜中に外へ逃げてもゴブリン以上の恐ろしいモンスターに出くわしそうと住民のみんなで考えたので、結果残ることにした。逃げるとしても、足こそが弱っている老人たちに隣の町まで歩かすのは現実的に無理だ。それに村を捨てたとして、俺たちはすぐに次の住める場所を確保できるだろうか。いや、できない。だからみんなみんなそういう意味でも村に残って戦うことにした。
西門に集まっていた住民の半分、戦える大人は武器になる物を近くの民家や自分の家にとりに戻った。そして残りの半分、つまり戦えない子供や老人たちは村長の指示のもと、北東門の近くにある村長の家に避難することになった。村長の家は他の家よりも一回り大きく避難所として最適だった。
「アスタ!お前はゴブリンの所に向かうな!」
俺も自分の家にスコップを取りに行こうと走り出そうとするときに、父さんが何故か止めた。
「な、何でですか!?村のみんなは戦うって言うのに、俺だけ戦わせてくれないんですか!?」
「落ち着け、お前は父さんや他の人と一緒に炎を消しに行く。ゴブリン倒しても村が燃えちゃあ意味がないからな。お前の魔法で消化を手伝ってくれ。」
父さんは至って冷静で物事を考えていた。確かに、その通りだ。水魔法を使える俺は戦力の足りている西門に向かうより、消火活動する方が最も効率的だ。しかし俺の人だ、どうしても感情的に納得ができない。
「・・・アスタ、お前の気持ちは分かる。だが堪えてくれ。」
俺の気持ちを悟ったように言う父さんの言葉を聞いて、こぶしを強く握りしめて首を縦に振る。それを見て父さんは安心したかのようにため息をつく。
「よし。もう他の人が燃えている柵の片方に行ってもらっているから、俺たちはもう片方へ行くぞ!」
そう言いながら俺の背中を軽く叩いて、北西の方へ向かおうとした。先行する父さんだが、俺は後を追おうとしない。一応首を縦に振ったけど、どうしてもナエナちゃんの様子が決まって仕方がない。
「・・・アスタ?」
「父さん・・・お願いします、俺も西門の方へ行かしてください!」
父さんは立ち止まって話を聞いてくれた。その表情は少し難しそうな顔だ。
「行ってどうする?またゴブリンと戦うのか?ダメだ、あっちは戦いなれていないが人は足りている。それに火は思った以上に燃え広がっている。消化が優先すべきだ。分かるだろ?」
「・・・ナエナちゃんが心配なんです・・・お願いします!」
潰しているかのような声で言ったこの言葉に父さんは少し黙った。今俺たちには考えるよう猶予はない。次の父さんの発言で俺の行動は決まる。
「・・・ナエナちゃんの無事かどうかだけ確認したいんだな?」
「・・・はい。」
「分かった、なら行ってこい。だけど約束だ。お前は絶対戦闘には参加するな!今まで家に閉じこもっていた奴が戦いに混ざっても邪魔にしかならないからな!ナエナちゃんの様子を見に行ったらすぐに俺の方に戻ってくるんだぞ!」
俺は約束をすぐさま誓った。というより父さんに言われなくても俺自身そうするつもりだった。
純粋にナエナちゃんの身を心配しているだけだ。別に戦いに加勢するつもりは毛頭ない。自分の体力の無さは幼い頃から自覚はしていたから、俺が言っても足手まといになることは分かっている。
一応俺には『狂人化』という自己強化のスキルを持っているが、これを使うのはあまり気に乗れない。文字通り発動すると理性の無い狂人へと変貌してしまうので、間違ってゴブリンだけじゃあなく住民、最悪ナエナちゃんにも攻撃してしまうかもしれない。だからこのスキルは使わない方向で考えている。
話を終わらすと俺たちはその場でそれぞれの目的地へ向かった。父さんは炎を消化しに北西に、そして俺は西門へと走り出した。いきなりの全力疾走に少ない体力がみるみる無くなっていき、炎のせいかもう汗をかき始めている。だけどナエナちゃんはこれ以上の疲労や苦痛を受けて戦っている。そう思うとこんな疲労何とも思わなかった。
西門に向かっていくにつれて、先に武器代わりに農道具を装備して向かった住民たちが見えてきた。流石は現役だけあってその体力と筋力の差で俺との距離が徐々に離れていく。ついでに威勢もすごい。農民ほど怒らして怖いものは無いと聞くが、まさにこのことだな。
先に西門付近に着いた住民たちはゴブリンを目視すると、装備した農道具を大きく上へ掲げて突撃した。その光景はまさに特攻隊の如くすさまじい勢いだ。俺の方ではちょうど民家から湧き出る煙でよく見えないが、ゴブリンたちも住民たちに応戦しようと向かって来るのが分かった。その数は思っていた以上に多く、数年前に俺が戦っていた時と同等の質の良い武器を装備している。そして2つの集団がぶつかって、ペレーハ村内で乱戦が始まった。
「み、みんな逃げてください!ゴブリンはみんなが思っている程弱くはないんですよ!早く逃げて!」
煙の向こうからナエナちゃんの声が聞こえた。その必死に大声で言う彼女の声に向かって煙をかき分けるように進むと、数体のゴブリンの遺体に囲まれたナエナちゃんの姿が確認できた。ここからパッと見はナエナちゃん自身に目立った傷はない。
よかった・・・本当に無事でよかった・・・。間に合って本当によかった。
そう思う中、よく見るとナエナちゃんの顔色は少し疲労で彩っていた。やはりいくら彼女が強くてもゴブリンの集団を相手には苦戦をしていたのだろう。俺はナエナちゃんの様子を見て心配になり、彼女の下へ駆け付けた。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




