第40話 単独戦闘から乱戦へ
諸事情により編集しました。
一番近いゴブリンのグループまで約15メートル、数は7体。装備している武器は剣が3体、斧が2体、槍が2体。私からは目視できるがゴブリンたちはまだ気づいていない。周りの火の粉や高く上がる黒い煙が視界を遮っているのだろう。これは冒険者としてこれは好機と喜ぶべきだろうけど、私の心境はその逆、とても不愉快と感じている。
何故なら、ゴブリンたちは村の住民たちの遺体を何度もこれ以上必要のない攻撃を繰り返しているから。その外道の一線を越えた暴行が私の剣を、私の感情を烈火のごとく熱く燃え上がらせた。
あのゴブリンたち、楽しんで住民たちを殺している!まさかそんなくだらない事のためにこの村を・・・。許さない・・・絶対に許さない!!
残り5メートルになると攻撃の準備をする。流石にここまで近づくとゴブリンたちにも私の存在が確認されたが、後から気付いたゴブリンにはもうどう対処することもできない。剣の射程圏内にその1体のゴブリンの首を入れた瞬間、静かに抜刀する。
【剣技:ファイア・セブン・ブレード】
鞘から抜いたその剣は赤い火が纏い、先頭にいたゴブリンの首を焼くようにして切り離す。切った瞬間に出た火力は私の感情を再現しきれていないが、攻撃はまだ終わらない。煙から現れた私の奇襲にすかさず反撃をする残りのゴブリンたちだが、向こうから近付く前に私の方から近づいた。
今も熱と火を帯び続けている剣を片手に踊るように回りながらゴブリン1体1体の隣に並び、確実に切って行った。最初のゴブリンと違って素早くしたせいで、攻撃は浅く首を跳ね飛ばすことはできなかった。だけどそれだけでも十分、6体のゴブリンの首は半分近くは切られて完全に絶命して、そのまま地面に倒れていった。出だしは上々だが、その後方に控えている30体はいるであろうゴブリンたちの集団を見て、私は戦い続けることを揺らいでしまった。
いきなり7連撃・・・ちょっと辛い・・・。しかもまだ足の疲労が取れていない、調子に乗って俊敏化を長時間使い続けるんじゃなかった。魔力自体は何とかなるけど・・・身体が持つかどうか・・・。しかもこの数・・・囲まれたらおしまいじゃない。
7体のゴブリンがやられたことに気付いた十数名のゴブリンたちは遺体をいたぶるのをやめて、武器を装備したまま私の方へ近づいてくる。全力疾走した後に剣技のせいで私の呼吸は少し荒くなっている。その様子に気付いたゴブリンたちは、顔に余裕の笑みを浮かべる。
普通の人ならあの表情を見た瞬間、恐怖を抱くだろう。訓練受けている者でも背筋が凍るだろう。あの数、そしてこの状況、どんな冒険者や騎士でも退避したくなる。だけど私は逃げない、絶対に引かない。だって私は、強くてカッコいい冒険者だから。
大丈夫・・・まだ何とかなる!数が多いなら魔法で距離を取って攻撃すればいい!もし外しても、西門方向はほとんど燃えているから多分問題ない・・・。体力がもつか・・・いや、なんともたせる!
一度大きく深呼吸をする。揺るいだ気持ちを固めて、恐怖を覚悟に変えて、次の攻撃のイメージをして、私はこの村と共に生き抜くと決意する。剣を持っていない左手を上げて迫ってくるゴブリンたちの方へ向けて、中距離の火魔法を連発して発動した。
私は勝つ・・・私がこの村を、守る!
【火魔法:ファイア・ショット】
手の平からこぶしほどの大きさの火の球体が真っ直ぐ飛んで行った。1球ずつ飛び向かう火の玉は数体のゴブリンに命中して、その個所に重症のやけどを負わす。
ゴブリンたちは予想外の攻撃に奇声を上げながら身構える。武器を前に出して盾代わりにするが、私の火魔法はその程度で防げるほど弱くはない。火の玉は盾にした武器ごとゴブリンに命中して、すでに10体近くはやけどを負って倒れ始めている。だけど村を夜襲してきたゴブリンたちだけあって、その攻撃の勢いは止めなかった。
攻撃を受けるとゴブリンたちは先まであった不気味な笑みを止めて、今後は怒りを覚えたような表情に変えた。まるで逆ギレだね、忌々しい。今もなお魔法を発動し続けている私に、ゴブリンたちは走りだして来た。
ここで私もゴブリンたちの様子を察して魔法を乱射させるのをやめた。数撃ちゃあ当たる戦法で魔法を連発していたけど、相手の数が減ったこの現状にこのやり方は魔力の無駄使いでしかない。次は1球1球ゴブリン1体ずつに意識を向けて、もう一度魔法を発動する。
【火魔法:ファイア・ショット】
確実に当てるため1球1球の間が少し長くなったけど、そのおかげで向かって来るゴブリンの数を減らせている。走ってくる3,4体に命中させて、私は次に剣を前に出して構えた。魔法に当たらず私の元まで来たゴブリンたちと接近戦を始める。数は17体、全員剣、斧、槍のいずれかを装備している。
武器の間合いに入った先頭の数体のゴブリンたちが、私に目掛けてその武器を振り下ろす。森で生息するゴブリンには勿体ないほどのその鋭利な刃物が私に襲い掛かろうとする。だけど訓練を受けてきた私からしたら、その攻撃は下流の川に流れる1枚の木の葉のように遅く、はっきりとその軌道が見えていた。
剣で振り下ろされるゴブリン武器を真正面で打ち跳ね返して、体勢を崩した相手のお腹にローキックで反撃して横に吹き飛ばす。次に後方にいる数体には間合いを開けようと即座に1歩下がって、先と同じように武器には武器で跳ね返して、体勢を崩している隙に何体かは蹴りで吹き飛ばして、そして何体かは剣で切り倒した。手にかかる返り血はとても気持ち悪いが、そんな感情もすぐに治めてその後も吹き飛ばしたゴブリンたちも切りにかかった。
冷静に考えてみるとゴブリンに剣技を使う必要はない。今の私の剣術の熟練度は29、体術が27、例え集団では脅威であるゴブリンでも、個々での戦闘なら負けるはずがない。これが学校で訓練を欠かさずに続けてきた私の力。激しい怒りはまだ消えていないが、私の頭は冷静に働くことが出来た。
襲い掛かってきたゴブリンを10体ほど切り倒すと、急に他のゴブリンたちが私への攻撃をやめた。武器はまだ私に向けている、戦闘態勢は解いていない。最初は実力差を知ってむやみに攻撃するのを止めたのかと思ったが、そのゴブリンたちの後方を見てみるとそうじゃあないと分かった。
後から更に後方から増援が来て、徐々に私の周りを囲もうとしていた。そう、ゴブリンたちの狙いは私の体力の消耗、持久戦を持ちかけようとしていた。現に私は激しい攻撃の連続で少し息が上がっていた。どうやら私はゴブリンたちの策にはまっていたようだ。
そんな・・・ゴブリンがそんな計画的な事をするなんて・・・!?ウエスト大陸中の騒ぎと言い、今回の夜襲と言い・・・一体どうなっているの!?ここまでくるとアスタくんの言った通り、ゴブリンの集団の中に戦術の心得を教えている個体がいるかもしれない。“格上の相手には数で囲い込み一気にたたく”・・・まさかそれをゴブリンが使って来るとは。にしてもこの状況・・・正直まずい。
ゴブリンたちに囲い込まれたら間違いなく私の敗北、つまりこの村が終わる。俊敏化や筋力強化を使ってヒット&アウェイで戦ったとしても、この数でそれをしたら当然魔力がもたいない、それに足をこれ以上酷使させたらどうなるのか私にも分からない。潔く退避するのもあるが、これほどの数が密集している好機をみすみす逃すわけにはいかない。
ならやることは1つ、攻撃を受ける覚悟で向かって来る敵に反撃するしかない。あの鋭利な武器では攻撃を受ければ、最悪一発で戦闘不能になるかもしれない。だけど私は冒険者、こんな劣勢の中でも故郷のために戦い続ける。それによく考えてみたら、こんな状況は過去に何度か出くわしている、今さらになってもう何も恐れる必要はない。
一方ゴブリンたちはいまだに武器を向けるだけで、一向に攻撃する気配がしない。恐らく完全に囲い込むまで仕掛けて来ないだろう。なら簡単な話、私から攻撃すればいい。筋力強化で一気にゴブリンたちの懐に突っ込んで、勢いでこの包囲網を抜けようと考えた。
失敗は許されない、もしゴブリンの反撃を受けたら即死亡。私は覚悟を決めて、敵の数は少ない個所を見つけて、スキルを発動して突撃しようとした。その瞬間、ドタバタと大勢の足音が聞こえてくる。足音は徐々に近くなり、気になって振り向いた。
「野郎どもー!ゴブリンなんぞにこの村を奪わせるなぁー!!」
「覚悟しとけぇ、この緑色どもぉ!!」
「全員畑の肥料にしてくれるわぁー!!」
その足音の主たちは、ペレーハ村の住民たちだった。みんな戦おうと手に何かしらの道具を持ってゴブリンたちへ走って向かって来る。黒い煙と私の存在で接近に気付かなかったゴブリンたちは、住民たちを見ると分かりやすい程の動揺を見せる。当然それは私も同様だった。
「な、何をしているんですか!?相手はモンスターですよ!?無茶な真似はやめて早く避難してください!」
向かって来る住民たちに声を張ってそう言った。だけど彼らは止まる気は全くなかった。確かに私の声が聞こえているはずなのに、彼らはそれを無視するかのようにゴブリンの包囲網に入ろうとした。
駆けつけてきた住民の数は私を囲っているゴブリンの倍以上いる。数で圧倒的に不利だと理解したゴブリンたちは包囲網を解いて、一斉に個々で住民たちに勝負を仕掛けてきた。当然その中心にいた私も例外なく多数のゴブリンに攻撃される。
「み、みんな逃げてください!ゴブリンはみんなが思っている程弱くはないんですよ!早く逃げて!」
多数のゴブリンの猛攻を剣で受け流して何とか反撃して倒して、住民たちを心配して戦いを止めるように言った。だけど振り返って言った矢先、住民たちはその圧倒的な戦力差と普段農業で鍛えていた筋力で、ゴブリンたちに圧倒していた。武器を模倣して装備している農具用のスコップや木こり斧で戦う住民の姿はまさに圧巻、とてもすさまじかった。1体のゴブリンに対して2人がかり、多くて4人で迎撃している。
そんなゴブリン対ペレーハ村の住民の戦いを傍観している私の視界の端から、何やら1つの影が見えた。走って私に近づいてくるその者に気付いて視線を動かす。その正体は、アスタくんだった。
「ナエナちゃん大丈夫!?どこかケガしていない!?」
私のもとに近付いたアスタくんは心配そうに聞く。ゴブリンに恐怖心を抱いているはずの彼が、村がゴブリンに攻撃されてパニックになっているはずの彼が、何故かこの中で一番汗を流して息を切らしている彼が、自分よりも私の身を心配してくれた。
予想外の連続で頭がついていけていない。始まった乱戦の中、私は一瞬固まる。最初は聞きたいことがたくさんあるんだけど、どうしても最初にアスタくんに言いたいことがあった。
「どうして・・・どうしてアスタくんここにいるの!?相手はアスタくんを襲ったゴブリンだよ、しかもこんなにたくさん!私は逃げてって言ったよね!?なのに、どうして・・・どうしてここまで来たの!!」
私はアスタくんの行動を批判した。正直嬉しかった、勝てる見込みのないあの状況の後、心配してくれるアスタくんの言葉はとても嬉しかった。だけど、今ここはもう言い換えれば戦地、戦いの場、弱っている自分を見せてはいけない、だからアスタくんに甘えてはいけない。彼に対して自分が最低な事をしているのは分かっている。だけどこうでもしないと、優しい彼は絶対に引いてくれないから。
私の言葉を聞いたアスタくんは何も言い返さずに少し黙った。周りが武器を交えて戦って騒いでいる中、私たち2人の間は静かになった。無言の彼の視線にそっと逸らす。
嫌われた・・・間違いなく。もう・・・一緒に笑って話してくれない・・・。
そう心の中で覚悟した瞬間、アスタくんから唐突なデコピンを受けた。パチンっと鳴った額から痛み感じて、私は思わず驚きの顔を見せる。
「いった!えっ・・・えぇっ!?」
「ナエナちゃん・・・何言っているの?そりゃあ来るよ、こんなに敵がいるんだから?」
私は呆然とした、アスタくんこそ何を言っているのか理解できなかった。戦闘中初めて受けた痛みに、片手で額を抑えながら彼の話を聞こうとした。
「敵の数が多いのならこっちも人手を借りて戦うのが常識でしょ?ナエナちゃんが戦ってくれている間に、一緒に戦ってくれそうな人たちに声をかけて来てもらったんだ。思っていたよりも来てくれて助かった・・・。」
「そんなことを聞いているんじゃないの!何で・・・何で、ここまで来たの・・・。みんなが戦って・・・もし誰かが傷ついたら、私が頑張った意味がないじゃん!アスタくんは、私のこと・・・信用できないの・・・。」
先まで怒りで高まっていた感情は一気に冷めて、今の感情を込めて話す言葉はとても弱々しくなってしまった。彼の優しさが私の自信を消した。頑張って誰一人傷つけたくなかったのに、これじゃあ無駄骨、全くの無意味だった。せっかく学校を卒業して冒険者になれたのに、アスタくんに私の実力を信頼されていないことがなにより精神的ショックだった。
「ナエナちゃん・・・俺はナエナちゃんの力を信用しているよ?」
「じゃあ・・・何で来たの?」
「・・・逆に聞くけど、もし立場が真逆だったらナエナちゃんは俺の事、微塵も心配しなかった?剣や魔法が使える冒険者だからって理由で、友達を、親友を1人で戦わせようとした?」
アスタくんの言うとおり、もし逆の立場だったら私なら絶対に何か別の手段で彼を助けたい。戦うアスタくんを少しでもケガを負わないようにしたい。彼に生きてもらいたい。
アスタくんの言葉で理解できた。何故彼がここまでして一緒に戦おうとしてくれたのか、ようやく理解できた。単純な話、ただアスタくんは純粋に、私を手助けしてくれようとしていた。村を守りたいというついでかもしれない。だけど、ついででも、本当に私の身を心配して動いてくれたことに、嬉しかった。そんなアスタくんに対して最初は批判して、そして疑問をぶつけてしまった。だけどようやく、この言葉が私の口から出た
「ありがとう・・・アスタくん。本当に来てくれて・・・ありがとう・・・!」
「・・・どういたしまして。」
アスタくんは笑ってくれた。こんな戦火の中、笑顔なんか出にくい状況の中、私のために無理して笑ってくれた。だけどその微笑んだ笑みが、私にもう一度自信と戦う気力をくれた。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




