第38話 アスタ・サーネスとしての夢
諸事情により編集しました。
3年前、最初にゴブリンを見たという門番は、ゴブリン1体を見つけたと言っていた。だけど俺が森で発見した時は複数体でいた。もしその話が本当ならゴブリンたちは何故その1体はわざわざ村に近づいたのか。
これは俺の妄想だが、恐らくその1体は偵察として村の近くまで来たのではないだろうか。そして運悪く門番に見つかってしまいすぐに森に戻り、仲間たちに情報を共有した、といったところだ。
これは本当にただの妄想や仮説なのだが、もし合っているのなら色々と辻褄が合う。3年前、俺があの森で最初に1体のゴブリンを倒した時、奴らの反応は本に載っているゴブリンとは思えない知能的な動きを見せた。魔法を使える俺と戦うのは不利と考えて一時撤退をして仲間を連れてやって来たり、何も知らせていない仲間たちを囮に横から俺に奇襲してきたりなど。明らかに知恵があっての行動だった。
「・・・いいや?少なくともゴブリンが作戦を立てるなんて聞いたことないよ?」
的は外れた、だけど仮説はまだもう1個ある。床に置いてある本を手あたり次第見て、とある本を探し始めた。
「・・・あった!」
タイトルは『モンスター生態系の秘密』。小学生の図鑑みたいな名前だが、これのおかげで3年前ゴブリンは魔獣ではなく魔物だということに気付けた。その本を手に取った俺はナエナちゃんの隣に座ってページを開いた。
ペラペラペラペラ~
「・・・ここだ!ナエナちゃん、これ見て!」
「これって・・・ゴブリンの習性?」
ナエナちゃんにゴブリンに関するページを見せた。10ページにもわたる中で、俺は気になる性質を記した部分を指した。
その文とは、“ゴブリンは個体差によるが、ほとんどが手先の器用さに長けている。人の生活を模倣して自分たちで道具などを生成して、狩りなどを行っている光景も発見されている。また学習能力も下級魔物の中では高く、1度見た物や行為を、精度はさほど高くないが再現することもある。”という内容。
「それは私も知っているよ。確かにゴブリンの頭はすごく働くけど、作戦を立てたりはしないと思うよ?あの森から草原に出て来たのも、それほど考えがあって行動していたわけじゃ・・・、・・・ッ!!」
ナエナちゃんは話すのをやめて急に黙り込んだ。
そして口元に手を当てて深く考え始める。
「ナエナちゃん、昨日した俺の話覚えている?俺がゴブリンと戦ったあの話?」
俺はもう一度ナエナちゃんに3年前の話をした。あの日のゴブリンには知能的な行動を見せる場面があったがその反面、本当に同一人物とは思えないほどのありえない行動もしていた。それは俺が奇襲を受けて草原で倒れた隙にゴブリンが体の上を取った時、残りのゴブリンたちが勝利を確信してその周りを踊りだした時だ。
普通に考えたら攻撃している仲間の手助けをしたり、とどめを横取りするなどの事を素早く終わらすのだが、あきらかにあのゴブリンたちはそんなことを考えずに俺が死ぬ瞬間をじっくりと楽しみに待っていた。知恵のある者からしたら明らかに非効率的な行動。あの時は切羽詰まって全く気にしていなかったが、今ならすぐに気付けた。いや、もっと早く気付くべきだったと思う。
「もしも、ゴブリンの集団の活発化の原因が、その集団の中に・・・先導者がいたとしたら?」
ナエナちゃんにすぐさま本から俺の方へと振り向く。想像もしなかった仮説に、その表情は見たことがないほど驚いていた。
そう、あの時の戦力的撤退は自分たちで状況判断して動いたのではなく、事前に“誰か”から教わったことかもしれない、と俺は考えている。だってそうだろう、でなければ村の偵察や仲間を呼びに退避するような明らかな戦力的計算をした効率的な行動を自分たちの頭で考えたのならば、敵の前で踊ろうという阿呆な行動はしなかったはずだ。
それにあの日ゴブリンたちが装備していた武器、今思うとあれもおかしいと分かる。ゴブリンは自分で武器を作って装備することがあるから持っていることに何も思わないが、問題はその質だ。剣、斧、槍ともに、あの鋭い切れ味は少なくとも独学なうえに自然の中で作るのは不可能と思う。だからといって人から強奪した物としては見栄えが悪すぎる、手作り感が満載だった。3年前、村長の命令で燃やして廃棄にしてしまったらしいが、今思うともう少し見たかった。
「それって、ゴブリンたちに戦略や戦い方を教えている個体がいるってこと?」
ナエナちゃんは少し不安そうな顔で話した。ずっと考えていたから全く気付かなかった。本当に物事を考えると周りが見えなくなる、これも俺の1つの悪い癖なんだろう。
ヤバい、不安になるようなことを何も考えずベラベラと言ってしまった!何も知らない田舎者がいけしゃあしゃあと出しゃばり過ぎたか・・・。
「えっと・・・ただの俺の妄想だよ。いつもみたいに悪い方ばかり考えすぎただけだから。村の外も知らない田舎者が言い過ぎたね、ごめん。」
「いやいやいやいや、そんなことないよ!逆にすごいと思うよ、そこまで考えられるなんて!」
そう言ってナエナちゃんは俺を励ましてくれた後、また静かになった。やはり冒険者としてどうしてもそう考えてしまうのだろう。俺は無意識に彼女に答えのない不安を取り付けてしまったかもしれない。
「・・・うああああ!もう考えたせいで頭も疲れてきた!もうこの話はやめよやめよ!」
ナエナちゃんは爆発した。ギリギリまで膨らんだ風船が割れたように大声で叫んで、背中からベッドに倒れた。彼女の言うことには賛成だ。こんな不安になるような会話をしていても仕方がない。それに彼女が言うのは5日後には依頼で来てくれた冒険者たちがあの森を捜査してくれる。どうせ考えるのならその日に、ナエナちゃんが王都に帰った後でもできる。俺は本をバタンッと閉じてベッドから立ち上がって、机の上に置いた。
「ねぇねぇアスタくん、何か面白い話しして!」
かなり無茶な要求がきた。引きこもりの俺にはそれは流石に酷だろ。しかも前世からのコミュ障ときた、人との会話の中で面白いことを言える自信なんてない。・・・そういえば俺コミュ障だったんだよな。なんでナエナちゃんとは普通に話せれているんだ?・・・別に今考えなくてもいいか。
「ねぇねぇ~、何かないの~。」
「そう言われてもなぁ・・・ずっとこの村、ってかこの家で過ごしていたからなぁ。昨日みたいにナエナちゃんが俺に質問してよ。何か気になることとかない?」
「え~~!また考えなくちゃいけないじゃん!う~~~ん・・・。」
文句を言うわりにはちゃんと考えてくれている、本当に真面目な人だ。しかしその体勢は完全に俺のベッドで寝ている。今晩もこの部屋に寝る気だろうか。
「それじゃあ・・・アスタくんの夢を聞かせてよ!」
これはまた突発した質問がきたな。夢か・・・20歳にもなって言うのもあれだが、この世界でなりたいものとかは特にないな。でもせっかく聞いてくれたし・・・でもなぁ、なんて答えれば・・・。
俺は悩んだ、深く悩んだ。未だに夢を見つけていない自分がどう返答すればいいのか悩んだ。
「・・・もしかしてアスタくん、まだ自分の夢がないの?」
ナエナちゃんは視線を合わせようとするが俺は逸らした。何も言わなかった、無言の肯定。
「うっそー、まだ自分のなりたいもの見つかっていないの!?この質問10年前にもしたのに、何も考えていなかったの!」
「10年前?」
「そうだよ!ほら、神の恩恵の時にも聞いたじゃん!忘れたの?」
言われて思い出してみると確かにそんなこともあった気がする・・・うん、あった。今思い出した明確に思い出せた。確かどこかの定食屋で俺が返答しなかったあの時か?
「本当になりたいものや、やりたいこととかないの?」
やりたいこと・・・正直に言ってないな。強いと言えば、今まで迷惑をかけてきた両親にこれから親孝行していきたいというのがあるけど、多分ナエナちゃんが聞いているのは夢とは違うな。・・・まあ、今さらやりたいことが出来たとしても、それこそ更に両親に迷惑をかけるだけ。今の俺には夢がなくて丁度いいかもしれない。
「今のところないかな。こうしてこの村で平穏で暮らすことに満足しているよ。」
「ふ~ん、アスタくんはないんだ・・・ねぇねぇ、それじゃあ私がアスタくんの夢を創ってあげようか!」
無いから創ってあげようとはすごい発想だ。ナエナちゃんが創りそうな夢は間違いなく目標が高そう。でも逆にどんなことを言いだすのか気になる自分がいる。
「う~~ん、そうだなねぇ・・・アスタくんって何ができるの?」
まるで面接だな。自己評価は苦手な方だけど・・・確かに俺って何ができるんだろう?魔法もそれほど熟練度高くないしなぁ。唯一毎日頑張ったことと言えば、花たちを育てたことぐらいかな?
「花たちに水やり・・・くらいかな?」
「あ~確かに!アスタくん昔からお花の手入れとかしていたもんね!そうだ、アスタくん西門を出てすぐの草原に花を咲かせてよ!辺り一面に全種類の花をいっぱいに咲かせて見せてよ!」
ナエナちゃんはベッドから体を起こし何かを閃いた様な顔をして、想像もしなかったことを発した。俺の心境は驚くのを通り越して少し呆れている。
「・・・昨日行った草原に?」
ナエナちゃんはうんうんと頷く。
「全種類の花を同時に?」
ナエナちゃんはいい笑顔でまた頷く。
「辺り一面に?」
ナエナちゃんの純粋な目でまた頷いた。それはまるで頑張ったらいけると訴えている様だった。それを見て彼女の真剣さを感じて、思わずため息をこぼす。
ナエナちゃんは植物についての知識が乏しいのだろうか。当然全種類の花を咲かせるなんて、生態系状不可能だ。花にはそれぞれの適した育て方や環境が必要。しかもあの草原を埋める程の花になるとかなりの量になる。正直俺1人で一から育てるのは無理だ、労働的にも時間的にも。
「はぁ~・・・確かにあの草原を埋め尽くす程の花畑を作れたらすごいと思うよ。でもどう考えてもなぁ・・・。」
「ねぇねぇ、花畑って何?」
ナエナちゃんに聞くと“花畑”という言葉は初めて聞いたそうだ。全種類というわけではないが、たくさんの花が一定の区域に咲いていると説明すると、彼女は見たこと聞いたこともがないと言う。王都にあるとしたらせいぜい街路樹くらいらしい。
どうやらこの世界、少なくともウエスト大陸では花はそれほど観賞用として価値が高くないそうだ。だから王都などの大きな街では花で場所を埋めるくらいなら建築物を優先的に立てる傾向のようだ。王都ほど安全かつ静かに花を咲かせそうな場所なのに、正直勿体ない。
「じゃあこの村がウエスト大陸で初めて、その花畑ができるわけだね!」
説明が終わるとナエナちゃんは嬉しそうにそう言いだした。俺の夢のはずなのに何故か強引に決められた。
「正直に言って無理だよ。全種類の花を咲かせるなんて。」
「えぇ~なんで~?」
これほどの規模のでかくて難題な夢は遠慮したい。それにこのままだと約束みたいになってしまう。流石にこれは果たせる自信がない。
「花にはそれぞれの好んだ季節や環境があるの。下手に合わない所で育てても花は咲かない。それにあの草原の土はかなり固い。仮に村のみんなにあの草原での作業を認めてもらえたとしても、土を解したり栄養与えたり、明日から始めたとしても何十年かかるか分からない・・・。」
「なら私も手伝う、私も見てみたいし!花のことはよくわからないけど、いろんな魔法や魔石を使って育ててみようよ!そうすればきっと咲くし、何年経ってもずっと長待ちすると思うよ!・・・アスタくんは、それでも嫌?」
ナエナちゃんは揺るぎない瞳で俺にそう語った。それは先の眼以上に真剣で本気であった。何故彼女がここまで俺に関わってくるのか分からない。何故彼女がここまで俺なんかに真剣に考えてくれるのか理解できない。だけど不思議とそんな彼女と関わると、俺も頑張ってみたくなる。
確かに全種類の花を同時に咲かせるなんてほぼ不可能。だけど、俺の第2の人生を費やすには十分すぎる目標、いや夢には間違いない。ナエナちゃんの言うとおりここは魔法がある世界、科学では不可能でも魔法でなら試行錯誤で実現できるかもしれない。
また俺は1人で思案を巡らせた。ただ今回に限っては、この大規模な夢について考えるのが楽しく感じてきた。思わず顔に出る程に。
「・・・やっぱりにいいかもね。あの草原に花畑を作ってみるのは。」
返答を聞いたナエナちゃんは嬉しそうに微笑んだ。まるで自分の夢が決まったかのように喜んでくれた。
「そうと決まれば明日からいろいろと頑張らないとな。まずは花屋の手伝いをして家の経済を早く回復させないと。そして種や魔石をたくさん発注して・・・あはは、想像するだけでもう完成像が遠いって分かってしまうな。」
「私は・・・明日1人であの森を調査してみようかな?早く花畑を作ってみたいし!」
「それは危ないからやめた方がいいよ。また母さんに怒られるかもよ?そういえば手伝ってくれるって言っていたけど冒険者の仕事があるからほとんど参加は無理じゃない?」
「休みの合間に着てあげる!あの草原もみたいし気分転換で!あぁ~早く作ってみたーい!」
俺とナエナちゃんとの会話は弾んだ。果てしなく叶うか分からない夢を、2人で語り合った。そして語り合う中で、絶対に叶えて見せようと夢に俺は決意した。前世も含めて初めてできた夢に、俺は年相応もなく心を躍らせた。
1階の時計の時針は間もなく12時を指そうとしていた。静かな夜に聞こえるのは秒針の動く音だけ、まさに今この村は平和そのものだった。しかしそんな日常もいつまでも続くわけだはなかった。カッチカッチと秒針が進み、秒針、分針、時針が1つに重なった瞬間、この村の平和な日常そのものを襲うように異変は突如としてやって来た。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




