第37話 急にシリアスに
諸事情により編集しました。
花たちの点検と摘芯を終わらすとナエナちゃんに花の育て方を教えた。とは言っても調べたら誰でも分かる程度のこと。その時の彼女は真面目に話し聞いてくれた。疲れないかと思うくらい根気強く聞いてくれた。そこまで集中することでもないと思う。
ある程度教えたら俺たちは家に入って各々のやりたいことをやり始めた。ナエナちゃんはさっき書いていた手紙を持って家を出て行った。恐らく郵便屋に行ったと思うが、この村にはそんなものない。手紙は毎朝早朝でこの村にやってくる輸送用の馬車に乗せられて配達されるのだが、どうやら彼女はその馬車に間に合わなかったのだろう。あの馬車はこの村に到着して1時間後に出発するのだから、昼起きの俺たちでは当然渡す時間はない。
そう考えると・・・一体何処に行ったんだ?まさか隣町まで行ったのか?確かあそこには郵便屋はあったはずだが、大人でも歩いて6時間は掛かるはず。今日中に帰って来ないつもりなのか?・・・あっ、『俊敏化』か!あのスキルなら今日中に言って帰って来られえるな。でも何でそこまでして手紙を早く送りたいんだ?・・・まあいいか、変な詮索はやめて俺も自分のことでもするか。
俺は家に残り家業の手伝いをした。本当は店番などをした方がいいかもしれないが、父さんに“まだ無理はするな、もう少し落ち着いてからお願いする”と言われて今日も店番を休ませてもらった。だけどそれじゃあ俺自身があんまり納得できない、だから何かできないかと聞くと、売り上げの総計算を任された。
計算かぁ・・・久しぶりだからうまくできるかな・・・。筆を持つのも久しぶりだし・・・あれ、どうやって持つんだっけ?・・・とりあえず書いてみるか。・・・、・・・、・・・うわぁ、思った以上に汚く書いてしまった。書いた俺でも読めないぞ?・・・でも、せっかくくれた仕事だ、最後まで責任もってやろう!
テーブルの上で黙々と作業を進めた。文字は本当に汚く、間違いなく子供よりも酷い。流石にまずいと思い白紙の髪を1枚貰い、何回も1から9を書き続けて手に書く感覚を思い出させる。手の裏側が少し黒くなった頃に何とか人に見せられる程度は書けるようになった。これで作業が早くできる。
計算の方は思いも意外にもできた。単純な足し算掛け算を暗算で解けて記入できた。もちろん計算ミスがないか何度も確認したが、1つもミスしていない。一応理系として高校を卒上していたから、単純な計算だが劣っていなかった。
◇
星暦2032年、冬の44日、水の日、夜
全ての作業が終わると外は完全に暗くなった。1人を除き全員が先にお風呂を済まして、1つのテーブルの席に座ってご飯の準備も済ませて食べ始めていた。
食事の最中に話すのはどうかと思うが、今日は静かな食卓だった。いつもなら何かしらの話題で両親から話しかけてくるのだが今日は全くというほどない。座っている人数3人に対してテーブルには4人分の皿が置いてある。理由は明白、俺も含めて全員ナエナちゃんの心配をしているから。そう、まだ彼女は帰ってきていない。
彼女は行き際に“夜までには帰ってくる”と言っていたのだが時計の時針はとっくに午後9時を通り過ぎていた。最初はまだかまだかと待ち続けていたが、時間が経つにつれて徐々に心配になってきている。もしかして道中に何かあったのだろうか、何か問題に巻き込まれているのじゃないのかと、全員が心の中で思った。
・・・いや、多分だけど・・・大丈夫だろう。きっと走り続けて疲れて、どこかで休んでいるのだろう。大丈夫、ナエナちゃんは強い・・・心配していても無駄かもな。
ドンッ
庭から何か鈍い音が聞こえた。沈黙からの唐突な音だったがゆえにこの場にいる全員が驚いた。当然気になった両親は恐る恐る庭につながる扉に近づいた。ちなみに俺はその場から1歩も動かなかった、何となくだが音の正体に気付いている。
ガチャッ
「「ナエナちゃん!?」」
「すいません・・・遅くなって・・・。」
やっぱりナエナちゃんだったか・・・。全く、彼女は扉から帰るという文化を忘れたのか?それとも学校で庭から家に入るって習ったのか?
彼女はそのまま家に入り、俺の隣の席に座った。服に滲んでいる程の汗をかいて、肩で呼吸をしてかなりの疲労が見られる。そんな彼女の姿に気を遣って母さんはお湯を用意してあげた。彼女はそれを一気飲み。
席について落ち着いたナエナちゃんに、母さんは何でこんな時間になっても帰って来なかったのかを聞いた。彼女は今日の出来事を話してくれた。
ナエナちゃんはどうしても送りたい手紙があったらしく、隣町の郵便屋に行くことにした。向かうまでは何も問題はなく、街についてもすんなりと用事を終わらすことが出来たらしい。だが、帰る道中にゴブリンの集団に襲われている馬車を偶然見つけて救助した。依頼か何かで数名の冒険者もいたが、数に負けて劣勢だった。ゴブリンの人数は、なんとすでに倒された死体合わせて20体はいたらしい。ナエナちゃんの協力のもと、何とかゴブリンの集団を撃退することが出来たそうだ。
その後、ナエナちゃんの力を見込んで馬車の御者にさっきまでいた町まで護衛を頼まれたそうだ。彼女いわく、先の戦闘で冒険者の2名が負傷していたため、このまままた襲われたら間違えなく全滅と思い、その場の簡素な依頼を承諾したそうだ。
そしてそのまま馬車と一緒に町まで向かった。道中は何も起こらなかったそうだ、良い事なのだが、これじゃあ給料泥棒だと思い、彼女は報酬を受け取らなかったそうだ。だけど依頼主はなかなか引き下がらなかった、嫌気がさすほどしつこかったそうだ。半額の報酬だけもらうと説得させて、渋々受け取ったそうだ。
依頼主との口論を終わって時計を見てみると、時針は8時を指していた。このとき彼女はまた母さんに説教されると思い肝を冷やした。“この後食事でも”と依頼主に誘われたがここはきっぱりと断った。そして彼女はスキルを使って全力疾走でペレーハ村に帰ってきた、だそうだ。
なるほど、だからこんな時間になってしまったのか・・・。・・・ん、待てよ?ナエナちゃんさり気無く戦闘した後に全速力で買って来たって言った?もし本当なら・・・すごい体力!相変わらずすごいな!
「・・・一応聞くけど、どこかケガしていない?かすり傷とか切傷とか?」
「えっ、はい。私はどこもケガしていないけど・・・。」
「うん、なら良かった!冒険者だからそういうことは仕方がないと思うけど、せめてこのうちにいる間は無茶しないでね?さあご飯にしましょう。お腹すいたでしょ?あっ、それともお風呂にする?すぐに準備できるけど?」
「ご飯、お願いします!」
話しを聞き終えた母さんは夜遅くに帰ってきたナエナちゃんを咎めなかった。当然だな、母さんは理由もなく人を怒鳴るように人ではない。道徳的視点からその人が少しでも悪い事をした時だけ怒る。昨夜の俺たちがいい例だ。
それにしても普通はお風呂が先って言うと思うけど・・・女性なら。・・・まあ、ナエナちゃん自身が言うているのだし別にいいか。
その後、ナエナちゃんの前に空っぽだった更に料理が用意された。彼女は満面の笑みを浮かべながら、その料理をいただいた。パンをちぎって飲み込む、おかずを流し込む、またパンを飲み込む、そしてのどに詰まらせる、それを見て俺たちは笑う。彼女の存在が沈黙だった食卓を明るくしてくれた。
◇
ご飯を食べ終わって俺たちは、各々のやることを取り掛かった。母さんは掃除でナエナちゃんはその手伝いを、父さんは今日の売り上げの計算と取り寄せる種の選別で俺はその手伝いをした。最初は普通にやっていたのだが、途中でお互い2対2になっていることに気付くと、何故かどっちが早いか勝負という対抗心を勝手に燃やし始めた。
「ナエナちゃん、テーブル拭いといて!」
「任せてください!」
「よっしゃアスタ、ペースを上げるぞ!」
「はぁ~・・・父さん、そこ0つけ忘れていますよ?」
決着つく前に勝負がついてしまったと悟ってしまった。そして数分後、まだこっちの仕事が3分の1を残っている状態で、母さんとナエナちゃんが勝った。特に賞金とかは出ないのに何で俺も含めあんなに頑張ったのだろう。こんな何気ないひと時に全員が笑みを浮かべる。
◇
作業を終えた俺は自室に入り、ベッドに座って食休みをしている。膨らんだ腹を撫でながら満腹感に浸っていた。こんなに気分になるのは何時振りだろうかと満たされた腹に満足感も感じていた。
コンッコンッ
「アスタくん開けて~!」
ナエナちゃんがやって来た、感情に浸る時間の終わりのようだ。彼女は掃除を手伝うとすぐにお風呂に向かったはずだが、たった10分程度で上がってきた。女性にしては少し早すぎる気がする。拒否するとまた何してくるのか分からない、今日も素直に扉を開けた。
ガチャッ
扉を開けた先に、髪が少し濡れたナエナちゃんが立っていた。赤い髪が真っ直ぐに下に落ち、その雰囲気はさっきまでとは違って、すごい色気のある大人の女性っぽかった。彼女の容姿が初恋の人と似ていることもあって、一瞬心がときめいた。
「ねぇねぇ、今晩も話ししない?・・・アスタくん?」
「えっ、あっ、うん。いいよ、中に入って。」
あまりのナエナちゃんの変わりように思わず目を奪われてしまった。少し動揺をした姿を見せるが、彼女は気にせず入った。部屋に入ったナエナちゃんは俺のベッドに座って、そのまま背筋を伸ばした。
「う~~~ん!今日は疲れたー!」
「お疲れ様。隣町まで走って来たからね、そりゃ疲れるよ。」
「この村にも郵便屋があったらなぁ・・・まあ無事に渡せたから良いけど。」
「ゴブリンの集団に出くわしたのに無事って言えるの?」
「無傷だったから無事なの!」
俺たちの会話は弾み、共に笑い合い、楽しかった。だけどナエナちゃんは冒険者、いつまでもこの楽しい時間が毎日訪れるわけがない。だから今日もこの楽しい時間をゆっくりと楽しみたかった。
「・・・そういえば、何で今日そこまでして郵便屋に行きたかったの?何か急ぎの連絡がしたかったの?」
何気ない疑問を聞いた。ただ純粋に気になったから、一度聞いてみた。
「あー、えーと・・・アスタくんなら別にいいか。」
一瞬困った表情を見せたナエナちゃんだが、それほど重大ではないのか俺に話してくれた。
「・・・アスタくんは、3年前ゴブリンの集団を倒したんだよね?」
ここで何故か俺に質問してきた。それに関連しているのだろうか。とりあえず頷いた。
「実はここ近年、ウエスト大陸中でゴブリンの集団があちこちで出現しては小さな村や町を襲っているって話しが相次いでいるの。その規模は最初こそ村人でも対処できるくらいだったんだけど、日が経つにつれて出現するゴブリンの数が増えて、今じゃあ冒険者や騎士たちでも何とか食い止められる程の大人数になっているの。」
ついこの間まで俺は部屋に引きこもっていた、当然そんな情報は知らなかった。想定外に話しがシリアスな方に流れて、俺は固唾を呑んで聞き続ける。
「・・・大丈夫?」
「うん、大丈夫。続きを教えて。」
「・・・それでね、私たち冒険者は冒険者ギルド本部から第一優先として、そのゴブリンの活発の原因の捜査と処理が命じられているの。今では王都の騎士たちとも連携を取ってウエスト大陸中のどこかで戦っているの。多分アスタくんが倒したていうゴブリンたちもその騒動の一翼としてペレーハ村を襲おうとしていたと思う。アスタくんが倒してから3年間、この村にゴブリンが現れないのは良い事なんだけど・・・私にはどうしても1つ気になることがあるの。アスタくん・・・そのゴブリンたちって、どこから来たと思う?」
確かにナエナちゃんの言う通りだ。あの時ゴブリンたちと出会ったのは草原の奥の森だが、あの森の奥には地図上何もない、ただの崖で下は海になっているはずだから。
ならあのゴブリンたちはどこからやって来た?・・・大回りをしてあの森に入って来た?なんで、何のために?
思案を巡らした。黙々と部屋の中を歩きながら考え続けた。そんな中、さっきナエナちゃんが言っていたことを思い出した。
“小さな村や町襲っている”・・・まさか!?あのゴブリンたちは、初めからペレーハ村だけを襲うためにやって来た!?そんなことありえるのか!だとしたら色々よ頷けられるけど・・・。
「・・・アスタくん、本当に大丈夫?」
ナエナちゃんの方を振り向くと心配そうな表情で見ていた。ヤバい、彼女の前で不安になるような行動をしてしまった。
「ごめん、少し考え事をしていて。・・・俺にはゴブリンの動向なんて理解できないから、何処から来たとかは分からないかな。それで、手紙とその話がどういう関係なの?」
「うん、だから私、今日王都に手紙で依頼を出したの。“あの森の中を調査するように”って!多分明日か明後日くらいには王都の冒険者ギルドに届くと思うから・・・遅くても一瞬間以内には冒険者が来ると思う。」
すごい行動力、素直に驚いた。どうやらあの手紙の内容は同業者への依頼の手紙だったようだ。まさか1人でそこまでのことを考えていたとは。
「ん、ちょっと待って?依頼って言うことはお金がいるよね?それはどうするの?」
「私の自腹!自分の故郷なんだもん、そんぐらいの報酬安い物よ!」
ナエナちゃんがカッコよすぎる。まさに聖人の鏡。でも流石に申し訳ないと思うが、俺には手元にお金なんかない。うちにはお小遣い制なんてものはない。本当に彼女には申し訳ないとしか言いようがない。
「ありがとうナエナちゃん、この村のためにそこまでしてくれて。」
「ふふっ、どういたしまして!」
「なんかナエナちゃんには助けられてばっか。また別のお返しを用意しないと。」
「え~いいよそんなの。私がただそうしたいって思って動いただけなんだから。・・・でもそうだね~、どうしてもって言うなら・・・私が困った時に助けてね!」
「ナエナちゃんが困るようなことを俺が何とか出来るかな。ふふっ、善処してみる。」
ナエナちゃんはいい笑顔で話してくれた。シリアスな話の後とは思えないくらいのいい笑顔だ。話しはここで一段落ついだが、俺の中にはまだ気になることがあった。
「ねえナエナちゃん、もう1個質問してもいい?」
「うん、いいけど・・・なに?」
「ゴブリンって頭が良いの?例えば、そう・・・戦う作戦を考えたりとか。」
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




