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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第1章 アスタ・サーネス
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第36話 恩返し

諸事情により編集しました。

星暦2032年、冬の44日、水の日、昼


 たった今起床した。結局あのあと寝る機会が伺えず話が弾んで行ってしまった。ナエナちゃんの剣技、俺の狂人化のスキル、ナエナちゃんが住んでいた王都の様子、俺が今までどんな風に過ごしてきたのか等、お互い色々と語り合った。そんな中、俺がトイレに行く際に1階の時計を見てみると時針は4時を指していた。流石にまずいと思い部屋に戻ってナエナちゃんに自分のベッドに戻るように言おうとしたが、俺が離れている間に彼女は俺のベッドで寝ていた。


 マジか・・・何を考えているんだ、この人は?ここ俺の部屋、男の部屋だぞ・・・。冒険者ていう仕事でそういうのは慣れているのか?


 彼女の神経を疑った。流石にこのまま添い寝をするのはまずいと思う。彼女の頬を何度も引っ張って起こそうと試みるが、起きる気が全く見えなかった。むしろ何故か嬉しそうに笑みを浮かべていた。


 ほっぺ柔らかい~、すごい伸びる~・・・じゃなくて!?ヤバい、どうするんだよ・・・どこで寝ればいいの?・・・はぁ~、仕方がない。


 ため息をついて、彼女にそっと布団をかけて、静かに部屋を出た。俺はそのまま屋根裏に行き、彼女が使った布団で就寝した。流石に仲がいいとはいえ、お互いもう立派な大人、そういう関係でもないのに一晩一緒に過ごすのは世間体的にまずい。根性がないと笑われてもいい、ただこれ以上俺の中で罪悪感を募らせたくはない。ということで俺は、屋根裏で一晩過ごしたわけだ。



 起きた俺はそのまま階段を降りて、2階の自室の扉をゆっくりと開けて彼女の様子を確認した。もしまだ寝ているのなら起こすのは悪いと思ってあえてノックはしなかった。部屋を確認してベッドを見ると、彼女の姿はなかった。先に起きて1階に降りたのだろう。確認すると俺は部屋に入って、寝間着から着替えた。上下両方の着替えを終えると、部屋に出て俺も1階に向かった。

 木製で出来ている階段をキシキシと音を鳴らしながら降りると、音に反応してテーブルに座っていた母さんと目が合った。お互いしばらく見つめると。


「・・・おはようございます、母さん。」


「おはよう、アスタ。ご飯食べる?」


 母さんは嬉しそうに訪ねてくる。久しぶりに見た母さんの笑みだった。それに頷くと母さんは立ち上がって、料理を作り始めた。

 待っている間、俺は席で待っていようとテーブルに向かうと、隣の席でナエナちゃんが座っていた。何か手紙を書いている、彼女は真剣な表所で書き続けていたが俺に気付くと筆を止めた。俺が近付くと何か言いたそうにするが、途中でやめる。席に座っている間もとても落ち着いていなかった。


「・・・おはよう。」


「おはよう。・・・昨晩は俺のベッドで気持ち良さそうに眠っていたね。」


 ナエナちゃんは顔を赤くして伏せる。やはり俺のベッドで眠ったことに羞恥しているのだろう。

意外に淑女の面も持っていた。彼女が伏せている間に、母さんがお湯を用意してくれて俺の前に置いてくれた。


「そういえば母さん。昨日言い忘れていましたが部屋の扉、直してくれてありがとうございます。」


 昨晩、俺が自室に戻ると、ナエナちゃんによって破壊された扉が見事に修復されていた。俺たちが草原に出かけている間、母さんが直してくれていた。母さんは大工の娘らしく、若い頃に何度か親にお願いして一緒に大工の仕事をしていたそうだ。その成果もあってその大工技術はかなり高い。今でも家の庭をはじめ、お店の看板や物置台、家の家具の修理など、全てしてくれている。その日に壊した物をその日に直してくれるとは、本当に手際がいい。もう大工系の仕事で稼げるんじゃないかと何回も思ったことがある。


「どういたしまして。それより、何で今日アスタの部屋からナエナちゃんだけが出て来たの?アスタ・・・あなた昨晩どこにいたの?」


 どうやらナエナちゃんが俺の部屋から退出するところを運悪く母さんに見られていたようだ。その後お互い気まずくなったのか、母さんは何も聞いていないようだ。息子の部屋から女性が出て来たからそんな反応もなるだろう。俺は嘘偽りなく母さんに昨晩の事を話した。


「ナエナちゃん・・・いくら幼馴染でも男の部屋で寝るのわねぇ~・・・。」


 母さんがからかうようにそう言うと、ナエナちゃんは顔を伏せたままだが見てわかるくらい更に火照りした。耳まで真っ赤だ。そんな彼女をかばうことなく俺はお湯を飲む。


 意外とすんなりと俺の言うことを信じてくれたな・・・まあその方が助かるけど。それにしても大人になって恥じらいを覚えたのか、本当にいい反応をするようになったな。昨晩、俺がからかった時の反応といい、男にあんまり慣れていないのか?でも俺とは昔と同じ感じで話せているよな・・・何でだ?・・・深く考えることでもないか。


 お湯で身体が少し温まった俺は静かに料理が来るのを待った。彼女もようやく落ち着いたのか顔を上げて、両手をうちわ代わりにして自分の顔を扇いだ。これほど恥ずかしそうな様子を見る限り、彼女自身の中に自分のなりの淑女としてのプライドがあるのだろう。これ以上のちょっかいはやめておこう。

 ナエナちゃんが顔を上げたことにより、手紙の内容が見えるようになった。俺は思わずチラッとその手紙を見てしまった。当然すぐに目を逸らした。だけどその際に変に動いてしまったせいで彼女にのぞき見してしまったことを気付かれた。


「・・・もしかして、これが気になるの?・・・ダメ~、見せてやんな~い!」


 ナエナちゃんはそう言いながら手紙を裏側にひっくり返した。少し空いた間が気になるがあまり気に留めなかった。


「・・・ねぇねぇアスタくん、昨日の続き聞かせてくれない?」


 明らかに話題を変えてきた、下手にも程がある。彼女自身その手紙にはあまり触れられたくないのだろう。正直内容は気になるが、彼女自身分かるほど触れられたくないようだから追及はしない。


「いいけど・・・どこまで話したっけ?」


「ほら、クミル叔父さんに魔法を教えてもらったところだよ!」


 眠気があったにもかかわらず彼女は昨日の話した内容を覚えていた。因みに俺は全く思い出せなかった。母さんの方を見てみる料理ができるまであと少しかかりそうだったから、その間ナエナちゃんと昨晩の談笑の続きをすることにした。



 昼食を食べ終わって俺とナエナちゃんは庭に出て、一緒に花たちの世話をしていた。2人でやる分作業は早く進んだ。


「アスタくん、こっちの水やり終わったよ~。次は何をすればいいの?」


「ありがとう、もう大丈夫だよ、あとは俺がやっとくから休んでいていいよ。」


 ナエナちゃんは本当に真面目に仕事をしてくれた。俺が花の点検と摘芯をしている間、彼女には水やりと施肥をしてもらった。彼女は仕事を終えると持っていたじょうろを片付けて、自分が水やりをした花たちはしゃがんで見続ける。


「・・・そういえばナエナちゃん、いつまでこの村にいるの?」


 ふと気に待ったことを彼女に質問した。すると何故か彼女は不安そうな表情でこっちに振り向いた。


「えっ、どうしたの急に・・・。」


「いや、ただ単にいつまでいられるのかなぁって思って。俺の偏見だけど冒険者は忙しいってイメージだから。」


「・・・アスタくんは私がもう少しここにいて欲しい?」


 真顔でとんでもない事を聞いてきた。その顔から察するに何も考えずに聞いてきたのだろう。俺は返答に迷った。当然もう少し残ってほしいのだが、真っ直ぐに“うん”って言うのは恥ずかしすぎる。


「・・・俺がこうして人と話せられるようになったのはナエナちゃんのおかげだからね。出来れば何か恩返しができるまで残ってほしいかな。」


 嘘は言っていない。今思いついたが事だが彼女に対して恩を返したい気持ちはある。現状彼女に対して何ができるのかは分からないがとりあえず言ってみた。


「そう、だったんだ・・・。・・・ふふっ、大丈夫!私は他の人と比べて金銭的に少し余裕があるからね!迷惑じゃなかったらまだ残る予定だよ。」


 不安な表情は無くなりいい笑顔で返答する。どうやら彼女はまだこの村にいてくれるそうだ、正直嬉しい。


 だけど、どうしたものか・・・。恩返し出来るまでって言ったけど俺に何ができるんだ?そもそもよく考えたらナエナちゃんの好みなんて知らないぞ?・・・ヤバい、今日中に考えないと。


 作業の手を止めて深く考えた。しかし考えれば考える程、何をすればいいのか分からなくなってきた。相手は王都に住んでいる冒険者、並大抵のプレゼントなどでは満足してくれないかもしれない。


「でもアスタくんのことだから、恩返しもまた深く考えてすごい凝った物を用意するつもりでしょ?」


 俺の顔を見て悟ったのか、それとも俺を理解しているつまりなのか、ナエナちゃんは心を読んだかのように指摘した。まさに正解だ、すごい凝った物を渡すつもりだ。そうでもしないと恐らく彼女の心の底から満足にしてくれそうにないから。引きこもりの俺を出してくれた彼女に満足してもらえるように恩返しがしたい。


「・・・もしかして図星だった?・・・はぁ~、あのね、私は別に恩を創りに来たわけじゃないのよ?ただ単に冒険者になった報告ついでに遊びに来ただけだから。そんな無理に何か物をもらっても私が不快になるだけだよ?」


 正論過ぎる言葉に何も返せなかった。彼女の言う通りだ、俺は恩返しと言いながら自己満足がしたかったかもしれない。それじゃあ彼女自身に迷惑なだけだ。そんなことも考えなかったなんて、やっぱり俺は駄目だな。


「・・・まあ、どうしても何か恩を返したいっていうのなら・・・ここにある花たちのどれかちょ~だい!・・・なんて。」


 立ち上がって彼女はそう言った。想像がつきそうで思いもつかなかった物の要求に驚きを隠せなかった。


「・・・花でいいの?本当に?王都にもっときれいな花があると思うけど・・・。」


「ううん、この花たちがいいの・・・アスタくんの花たちが。綺麗で、不思議と落ち着けるんだ。これを毎日見られたらどんなに辛い依頼でも、また頑張れる気がする。だから、アスタくんの花たちがいい・・・。」


 無意識に否定するように質問してしまった。怒ってもいいような質問なのにナエナちゃん怒らなかった。むしろ笑ってくれた、笑って俺が育てた花たちは欲してくれた。常連の奥様方とはまた違った誰かから求められたこの感じ、無性に嬉しかった。彼女が本当に俺の花たちを求めてくれているのなら、喜んであげよう。花たちもきっと喜んでくれるだろう。


「分かった・・・何度も聞いてごめんね。じゃあどの花たちがいいの?」


「全部綺麗だからどれでもいいよ!あっ、でも、花瓶1個分でいいかな。たくさんもらっても、ちゃんと全部に世話ができるかどうかわからないから・・・。」


 そっか、ナエナちゃんは冒険者だからなぁ・・・毎日世話ができるかわからないのか。水やりは事前に水の魔石を入れておけば、魔石から水が出て問題はない。てことは見栄えが良く、色鮮やかで、尚且つ長持ちする花になると・・・あれしかないな。


 少し移動して1つの花瓶を手に取った。その花瓶に咲いている花は昨日ナエナちゃんが綺麗といってくれた花だ。その花瓶を持ったまま彼女の前に運んだ。


「じゃあ、これをあげるよ。」


「ええ、いいの!?こんな綺麗な花をもらっても!?」


 ナエナちゃんは遠慮するような反応を見せるが俺は構わなかった。この花は非売品、言い換えれば俺が趣味で育て続けた花だ。気に入っていたこともあって他のより気にかけて育てたおかげか、庭の花たちの中で一番綺麗になった。このまま俺だけに愛でられたまま腐ってなくなるより、他の人にも愛でられたらこの花のためにもなるだろう。


「名前はアネモネ。この花たちの中で一番気に入っていた花・・・受け取ってくれる?」


 花瓶を前に出すと、彼女は恐る恐る受け取ってくれた。本当に受け取っていいのかと何度も聞かれたが、俺の決定に変わりはない。


「・・・分かった、それじゃあこのお花貰うね。・・・ありがとう!・・・ねぇねぇ、それじゃあペレーハ村にいる間、このお花この庭に置かせてもらってもいいかな?出来れば育て方とかも教えてくれない?」


 確かにその通りだ、何でおれは一旦持ち上げたんだろう・・・。どうせまだナエナちゃんはこの村にいるんだから今手渡す必要なかったよな?・・・うわぁ~、ヤバい、すごく恥ずかしい!なに俺はロマンチストみたいなことしているの!?カッコつけすぎた・・・!


 赤くなった顔を隠しながら、彼女の要求に承諾した。彼女は花瓶を元の位置に場所に戻した。俺はまだ残っている作業に戻ってさっきの行動を忘れようとした。そしてふと彼女の方を見ると、花瓶を戻したあと、そのまましゃがんでアネモネを見続けていた。その瞳は8年前別れたあの日のように嬉しそうな眼をしていた。彼女の言葉通り適当に花を選んだつもりだったが、どうやらこの花を選んで正解だったようだ。それを見て心底良かったと思い、俺は自分の作業に取り掛かった。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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