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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第1章 アスタ・サーネス
36/96

第35話 40歳になっても照れる

諸事情により編集しました。

<アスタ視点>

星暦2032年、冬の43日、火の日、夜


 夕食とお風呂をすませた俺たちはそれぞれの部屋に戻った。ナエナちゃんは屋根裏に、俺は自室へ。当然その際に今日からのあの約束を守った。


「・・・おやすみなさい。父さん、母さん。」


 両親は微笑みながら返してくれた。こんな簡単なことで喜んでくれるのなら、こっちも毎日喜んでやろう。今まで迷惑かけた分ずっと。そして自室に入る。


「はぁ~・・・久しぶりに走った。すごい疲れた・・・。」


 ベッドの仰向けで倒れこみ、そう独り言を小さく呟く。3年間、全くと言うほど運動していないのに、いきなり走り出したのだから当然の疲労だ。幸い筋肉痛になるほどではないが、それでもかなりの疲労感はある。


 そういえば、この部屋・・・こんなに汚かったっけ?本もちゃんと整理しているつもりだったけど、そこらへんに積み立てているだけで足元の邪魔になっているし・・・。うわぁ~・・・壁際あんなに埃が溜まって、よくこんな部屋に住んでいたなぁ・・・俺。もう埃を意識し始めたせいで何だか部屋の空気が悪く感じ始めた・・・窓開けようかな?


 久々の外出のおかげか普段気にも留めなかった事が次々と見え始めた。ベッドから起き上がって部屋の窓を全開にして、真冬の外の空気を部屋に取り入れる。窓から眺める多少なり変わった村の風景も今になって気付いた。こうして何かを見れるようになったのも、きっとナエナちゃんのおかげだろう。いや、間違いなくナエナちゃんのおかげだ。

 俺が拒否しても無理矢理草原に連れて行き、そこで見たあの光景のおかげで、俺は勇気を持って顔を上げられた。もちろん鬱になった原因である、あの時の記憶は今でも思い出す。餌を見るようなあの眼、何の躊躇もなく殺そうとしたゴブリンのあの顔を嫌でも思い出す。だけど不思議と今はもう怖くない、何故なのか自分でも理解できない。今分かっていることと言えば、あの草原を見たおかげだ。あの草原の景色が過去で起きた今までのことを全てがどうでもよく思わせてくれた。


 もう1回見たいな・・・明日行こうかな?・・・いや、明日からは俺も仕事しないとな。せっかく人と話せれるようになったんだ、これ以上引きこもっているわけにもいかない。まずは・・・事務処理から慣れていかないとな。筆なんて持つの何時振りだろう・・・ちゃんと書けるかな?


 そう思うながら自分の指を見つけると、思わずに攻撃魔法を発動したことについて思い出した。正直に言ってあれはかなり危なかった。あと少し弾の軌道が良きにズレていたら、ナエナちゃんの後頭部の撃ち抜くところだった。しかし数年ぶりの発動とはいえ今思うと、きれいに思った通りに軌道に沿って弾は飛んでくれた。もし彼女にあの魔法について聞かれたら、運よく命中したなんて言うべきだろうか。


コンッコンッ


「アスタくん、まだ起きている?」


 俺より先にお風呂を済ませて先に屋根裏に戻ったナエナちゃんがやって来た。一体なんだろうか。


「なに?」


「話しがしたいの~。・・・開けてぇ~!」


 窓際から返答すると、ナエナちゃんはまた俺の部屋に入りたいようだ。正直まだ1人でこの景色を見ていたいけど、今朝みたいな返答をするとまた扉を蹴飛ばされそうだ。ここは言うとおりにして彼女を招き入れよう。ため息をつきながら扉に向かって開けてあげた。


ガチャッ


「・・・何しているの?」


「えっ、いや・・・また入れてくれないのかな~って思って・・・。」


 扉を開けた先に、何故かまた扉を蹴飛ばそうとする体勢でナエナちゃんがいた。何故そこまでして入りたいのだろうか。呆れた顔を浮かべながらも彼女を部屋に入れた。


「今朝も見て思ったけど・・・やっぱり本が多いねぇ~!どうやって集めたの?どこかの街に行ったの?」


「ううん。これ全部母さんの私物、昔からあったやつ。屋根裏に置いてあるのを借りてきている・・・。」


「ああ、あったあった!確かに本たくさんあった!あれ全部おばさんの?あんなに本を集めるなんてすごいな。」


 ナエナちゃんは少し複雑な表情を見せる。それもそうだろう、今日だけで今まで思っていた母さんのイメージが崩れたのだから。すごく怒られたり、実は愛読家だったりと、これだけでも十分イメージが変わる。


「それにしても・・・もうちょっと掃除したらいいと思うよ、これ?すごい散らかっているじゃん。」


「・・・一応言っとくけど、これ全部ナエナちゃんのせいだからね?」


「えっ、そうなの?」


 ナエナちゃんが指摘した床に散らばっている本は、今朝彼女が扉を蹴飛ばした際に積み立てていた本の塔が崩れたからだ。いくら引きこもっている俺でも本は大切にしているつもりだ。もっと言うとこれ全部母さんの私物、粗末には扱えない。


「あ~そうなんだ・・・ごめんなさい。私が片付けるね。」


「ああー、ああー、いーってそんなことしなくても!」


「いやでも、私のせいなんでしょ?本の片付けぐらいは・・・。」


「いやいや、本当にいいって!ナエナちゃんは一応、客だからそんなことさせられないって!俺がやっとくからベッドに座っていて!」


 こんなことを言っているが本当のことを言うと、あんまり物を人に触らせたくないから。別に独占欲が強いわけではない、ただ何故か人にものを去らせたくはない。これも長い間引きこもっていたせいか、それとも人と距離を取り付付けたせいなのか。どちらにせよ速いこと治さないとな。掃除している間、ナエナちゃんは言うとおりベッドに座って足をパタパタと動かして待ってくれていた。


「ふふっ、女性をベッドで待たせるなんて、アスタくんももう大人だねぇ~。このまま私何かされるのかしら?キャー!」


「・・・まさか学校ってそんなことも教えてくれるの?ナエナちゃんもすっかり別の意味での大人になったんだなぁ・・・正直、幻滅したなぁ・・・。」


「ち、違う違うッ!今のはえっと、その、あれだから!アスタくんさっきご飯食べている時、足が痺れた私のこと笑い続けていたじゃん!だからそのお返しにからかおうと思って・・・!」


 ナエナちゃんは顔を真っ赤にして必死に弁解をする。そりゃあ笑ってしまうだろう。モンスターと日々死闘を繰り広げていく冒険者が、たった数分の正座で足を痺らせたのだから。

 それと世情に疎い引きこもりに対して先の言葉で照れると思っていたのだろうか。ラブコメ主人公みたいな反応を期待していたのだろうか。残念ながら精神年齢40歳の俺には、いつまでも女性に対して初心な反応ができるはずがない。4,5年前はともかく、今になっていちいちそんな反応をするのは精神的にかなり疲れる。


 それにしても・・・不思議だな。ナエナちゃんと一緒にいるとなぜか楽しく感じる。昔はあんなにそばに居たくなかったのに、なぜか今はそんな感情も一切ない。本当に何でだろう?・・・本当に不思議な人だな、この人は。


「で、何しに俺の部屋に入って来たの?まさか本当にからかいに来ただけじゃないよね?」


 本を大方片付けて彼女に質問した。思いのほか本の数が多くて時間が掛かってしまった。


「それだけじゃないよ~。話が聞きに来たの。ほら、さっきの続き・・・あっ、でも嫌だったら無理して話さなくてもいいよ!別の話でも話は全然いいから・・・。」


 最後何故か弱々しく話す。彼女の話と様子を見て、何のことを言っているのか察することが出来た。


「もしかして・・・俺が倒したゴブリンの話し?」


 彼女は恐る恐る頷く、正解のようだ。アンデッド出現もあって彼女は俺に気を遣って強く聞けないのだろう。それもそうだろう、目の前であんなに号泣したのだから誰だってまだ心が不安定だろうと思ってしまう。彼女はそれで心配している。だけど今はもう、大丈夫。


「・・・いいよそれぐらい、話すだけだから。」


 確かに俺は悔いている、申し訳がないと思っている。あのアンデッドたちに対して、死んでもうどうしようもないアンデッドたちに対してずっと、そう思っている。だけどそう思うだけで何ができるのかと聞かれたら、分からない。何をすればいいのか分からない、答えが思いつかない。恐らくまた何もしなかったら、ずっと答えは見つからないだろう。

 だから俺は、今度は自分から動く、まだ怖いけど人と関わっていく。人と関わることで、何となくだがその答えが見つかるかもしれない。それ俺が思いついた唯一のできること。分からないなら考え続ける、人と関わって自分の中の恐怖を治し、あのモンスターたちに何ができるのかを。

 俺の返答を聞いてナエナちゃんは分かりやすいほど喜んだ。何がそんなに楽しいのだろうか、人の死闘なんか聞いて。まあ本人が喜んでくれているから別にいいか。

 俺は彼女の隣に座って、3年前の出来事を全てではないが話した。ゴブリンは合計11体いた、武器を奪って戦った、酷い重傷を受けた、治癒師によって治してもらえたところまでを順を追って話した。あとついでに、もっと前にクミル叔父さんが来て、その際に魔法を教えてもらったことも話した。その際にステータスウィンドを見せて新しく追加された称号、熟練度、そしてスキルも見せた。はたからしたら信じられないような物語だが、彼女の眼は一切疑わなかった。それどころか話を信じて彼女は心配するような眼で見てくる時もあった。彼女はもう立派な冒険者、危険な場面も多々出くわしているから、多少の同情をしてくれているのだろう。

 ちなみにクロのことについては話さなかった。特には理由はないが、何故か話したくなかった。クロのおかげで3年前のあの戦いは助かったのに、まるで俺1人の力で解決したみたいな内容になってしまった。本当はクロのことについて話したいのに、何故だか俺の気持ちは話したくなかった。


 さっむ・・・!窓開けたままだった、もう閉めないと部屋が寒くなり過ぎて寝むれなくなるな。


 3年前の出来事を話し終わると、冬の寒さが感じ始めた。寒さに限界を感じて立ち上がり、窓を閉めた。


バタンッ


「そっか・・・そんなことがあったんだ。確かにね・・・怖いもんね、初めて魔物と戦うときは。」


 俺の話を終始黙って聞いていたナエナちゃんがようやく口を開いた。振り返ってみると、彼女の視線は少し下を向いていた。彼女自身冒険者、俺の話の中にいくつか同情できる部分があったのだろう。


「ナエナちゃんも初めて魔物と戦った時、怖かったの?」


「うん、とっても。学校の進級試験でモンスターを討伐することがあったの。」


「・・・すごい進級試験だね。それ死者とかでないの?」


「学校側の配慮で何人か先生や学校の先輩がついているからその辺は大丈夫。でね、私が2年生から3年生に上がる時の試験で初めて魔物を見たの。最初は余裕な気持ちで行ったけど、いざ直面して見ると・・・とても怖かった。初めての命の取り合いに本当に怖かった。」


 彼女の隣に戻って話を聞くと、一瞬だが彼女の手元が震えた。当時のことを思い出して身震いしていた。しかも2年生ということは当時は14歳、彼女は俺よりも早くあの恐怖を体験していたということになる。だけど彼女は恐怖に負けず、こうして冒険者になれた。なってこの村に帰ってきた。やっぱりすごい人だ、ナエナちゃんは、俺なんかよりもずっと。


「だから私は思うの、アスタくんはすごいって!」


「・・・えっ?」


「だってそうじゃん!まともな訓練も受けていないのにゴブリンを倒せたんだよ!しかも11体も!しかもその恐怖でスキルを覚えられるなんて、本当にすごい事だと思う!かっこいいと思う!」


 ナエナちゃんは話しながら顔をぐいぐいと近づけてくる。思わず顔が赤くなり返答に戸惑った。


「えっ、いやっ、ちょっ、いやいやいやいや!?話聞いていた!?あれは全部狂人化のスキルのおかげで、俺自身は何も対抗できていなかったんだよ。全然カッコよくないし、むしろカッコ悪いでしょ。」


「でもゴブリンと戦う覚悟を決めたのはアスタくん意思なんでしょ?それだけでも十分すごいよ!私なんか1体だけでも怖かったのにそれが11体・・・考えただけでも恐ろしいよ・・・!だからすごいと思う!ってか本当にすごいよ!?本気でかっこいいって思っているから!!」


 ナエナちゃんの口は止まらなかった、止める気がなかった。前世から俺は他人に褒められることに慣れていない。だからこんな風に真っ直ぐに言葉にされると、かなり恥ずかしい。納得したように話してナエナちゃんを落ち着けせた後ろに下がってもらった。


「あっ、そ、そうだ!ナエナちゃんがアンデッドを倒す時、装備していた剣が赤く光っていたよね!?あれってなに?魔法、それともスキル?」


 何とか話題を変えて話を逸らした。かなり無理矢理な部分はあったけど、気になっていたというのは嘘ではない。俺が走ってナエナちゃんのもとに向かっている時、何故か彼女の剣は赤色に光っていた。このタイミングで聞くことではないと思うけど、ずっと気にはなってはいた。


「あーあれ?ううん、あれは剣技っていって・・・あれ?でもあれってスキルだったような、・・・ねぇねぇ、どっちだっけ?」


「いや俺に聞かれても・・・。」


 何故か答えるはずのナエナちゃんが困惑した。話を逸らすことはできたが、正直剣技のことが知ることが出来ないのは辛い。どうにか彼女に頑張って思い出してもらい、何とか説明してもらうことが出来た。


 剣技とは簡単に言うと、武器の熟練度が一定値まで上がることによって覚えられるスキルの一種。正しい名称はエクストラスキルといって、その枠にひとくくりでまとめられているらしい。それには剣技をはじめ、槍技、斧技、弓技、槌技なども含まれているという。どれもそれぞれの武器で熟練度を上げることで取得ができる。彼女の場合は剣の熟練度を上げたことにより剣技を習得できたそうだ。

 アンデッドの集団との戦闘でナエナちゃんが発動したのは『剣技:ファイア・フォー・ブレード』といって、彼女が編み出したオリジナル剣技らしい。学校の授業で教えてもらった『剣技:シックス・ブレード』という普通の6連撃の応用らしく、発動する際に自分の火の魔力を剣に注ぐことにより、剣に文字通り火力と熱を持たせることが出来た。本人曰く偶然にできたという。その剣技を完成させて毎日練習してきたことによって、今では4連撃から7連撃まで段階を分けて発動することが出来るそうだ。


「オリジナル剣技・・・すごいね!・・・ん?でも『フォー・ブレード』ってことは4連撃だよね?でも戦闘じゃあ8連撃できていたよね?・・・どういうこと、あれも偶然?」


「ううん、私の最大は7連撃だよ。遠くからじゃあ気付かないと思うけど私は4連撃をした後、もう一度同じ剣技を発動したの。ほら、あの時私を追いかけてきたアンデッド9体だったでしょ?私は8体しか見えていなかったけど。どっちにしろ剣技1回じゃ全員倒すことが出来ないから、あえて余力が残る4連撃にして2回使ったわけ。だから8連撃に見えたのかな?」


 ぐうの音も出ない解説に深く納得できた。流石は学校を卒業しているだけのことはある、アンデッドと対峙をしても冷静に考えられるなんて。やっぱり俺なんかよりも剣を振る彼女の方が数段カッコいいと思えて来た。


「ねぇねぇ、他に聞きたいことはない?何でも聞いていいよ?」


 何故かナエナちゃんは元気になった。納得した俺の顔に見て自分がちゃんと説明できたことに嬉しかったのだろう。確かに俺も彼女ともう少し話したいが時間はもう遅い、時計はないが窓の外の光からしてもう他の住民たちが寝始めているだろう。俺たちもそろそろ寝ないといけない。


 ・・・でもこうして質問に答えようとしてくれているわけだし、むげにはできないよね?だからもう1つだけ・・・あともう1つだけ・・・。


「じゃあ・・・俺がアンデッドに触ろうとしたときに“腐食になっちゃうよ!”って言っていたよね?腐食って何?」


「え~そんなことも知らないの~?こんなに本があるのに~?ふふ、腐食って言うのはね・・・。」


 からかいながらも彼女は質問を答えてくれた。そして教えてもらった礼に今度は俺も質問を受けることにした。意外にも彼女から質問は多く、全て返答するのに時間が掛かった。お互いに丁寧に話し、分かりやすく話した。たったそれだけのはずなのに、何故か楽しかった。久しく忘れていた人との談笑に、俺は彼女と共に笑った。あともう1個、あともう1個とお互いが交互に話していくうちに時間を忘れて、いつの間にか外は真っ暗になっていた。それでも関係はない、真夜中になって唯一明かりを灯すとある一軒家の小さな窓の中で、俺たちはこの8年間の出来事を話し続けた。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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