第31話 帰ってきたナエナ
諸事情により編集しました。
「本当に大丈夫?ケガしていない?1人で立てる?」
ナエナちゃんは倒れている俺に手を差し伸べて起こそうとする。しかし俺はそれを無視して自力でゆっくりと立ち上がった。他人と接触するのもそうだが、全くの別人とはいえ初恋の人に似ているナエナちゃんに触れることは自分の中で拒んだ。
ヤバい、予想通り・・・。やっぱりあの女性と同じ顔になったんだな。雰囲気は少し大人っぽいけど、顔だけじゃなく背丈も一緒・・・。
20歳になって表れたナエナちゃんは、思った通り前世の初恋の女性と全く同じ容姿になっていた。身長は俺より少し低く、体型は女性らしく細め、その手足は本当に扉を蹴飛ばしたのかと疑いたくなるほどにスラっとしている。立ち上がった俺とナエナちゃんはお互いの顔を見つめ合った。数年前までは恥ずかしいという感情だったが今は違う。部屋に入られたことにただただ不愉快に感じて出て行ってもらいたかった。本当はこれ以上人と話したくないけど、ここで言わないと退出してもらえないだろう、ナエナちゃんだから。
「・・・出て行って。」
「いや!せっかく会えたんだからもう少し話そうよ!」
ナエナちゃんはいい笑顔で拒否する。
そうだった・・・この子、いやこの人こんな性格だった。少し落ち着いた雰囲気に見えたけど気のせいだった、子供の頃と全然変わっていない。むしろ性質が悪くなっていないか?ナエナちゃんには悪いけど俺はいま人と話したくない・・・すぐに出て行ってもらおう。
「いいから、出て行って。」
「い・や・だッ!何で出て行かなきゃいけないの?」
「今は人と話したくないんだ・・・1人にさせて。」
「じゃあ何時になったら話してくれるの?私は今アスタくんと話したい!」
「いい加減にして・・・いくら俺でも本気で怒るよ。」
「それはそれでレアだから見てみたいかも?・・・ふふ。」
ナエナちゃんはこの状況を楽しんだ。間違いなく昔より性質が悪くなっている。彼女の態度に呆れて怒る気も起きない。そんな口論していると廊下で足音が聞こえてきた。
「どうしたの!?さっきすごい音がしたけど!」
足音の主は母さんだった。突然の扉の破壊音に驚いて1階から来たのだろう。恐る恐る部屋に入ってきて状況を確認しようとする。
「あっ・・・ごめんなさい、おばさん。アスタくんがなかなか部屋に入れてくれないからつい・・・。あとで弁償します。」
ナエナちゃんは母さんに頭を下げる。謝るという常識は知っていたようだ。だけど話の流れ的にまるで俺のせいみたいな言い方をする。
「それはいいのだけど・・・どうやったのこれ?」
そう言いながら母さんは取れた扉を持つ。長方形の扉は綺麗に半分に折れて、真ん中にはナエナちゃんの蹴った際に付いた足形があった。母さんが気になるのも無理はない。
「はい、思いっきり蹴飛ばしました!引きこもっているって言うから、てっきりカギとかかけているのかと思って!」
「へ、へぇー・・・そうなんだ・・・。」
ナエナちゃんはまたいい笑顔で返答する。それを聞いた母さんは思わず苦笑い。淑女とは思えない行動そりゃそんな表情にもなる。うちの家の扉には基本玄関以外はカギなんてついていない。俺の部屋もそうだ。今は何もしていないが、以前は扉の前に本などを置いてドアストッパー代わりにして向こうから開けられないようにしていた。だけど多分ナエナちゃんのあの蹴りなら例え何かを置いていたとしても関係なかったと思う。
「・・・アスタ、おはよう。ごめんね、勝手に入っちゃって。」
ナエナちゃんと会話が終わると母さんは俺に話しかけた。ナエナちゃんとは普通に話せれたが、母さんに対してはそうはいかない。ここ数年無視してきたんだ、今更どんなことを話せばいいんだ。返答する言葉が分からず、とりあえず無言のまま頷いた。
「・・・ッ!?ね、ねぇ、よかったらナエナちゃんと一緒に朝食食べない?もうすぐできるし!」
心なしか母さんは嬉しそうに話し出した。
俺が頷いたのがそんなに嬉しかったのか?・・・いや、気のせいだろう。ただ単にナエナちゃんが来ていることでテンションが上がっているだけだな。
「いいですね!朝ご飯何ですか?」
「王都比べて大した料理はできないけど期待はしていて!とびっきりおいしい料理を作るから!」
「わ~い!」
俺の部屋に女性2人が楽しそうに話し始める。
これがいわゆるガールズトーク?・・・そんなことどうでもいいか。ナエナちゃんと一緒の朝食・・・ずっと話しかけられそうで嫌だな。でも断ってもナエナちゃんなら腕を引っ張っても連れて行きそう・・・。
「ほらアスタくん、早く行こう!」
ナエナちゃんはそう言いながら俺の右手首を掴む。
はい、予想通り。本当に何なんだよ、この人は・・・俺の嫌がることばっかして。さっきからわざとだよな?学校で一体何を習ったんだよ全く。あれか、新しい環境で出来た悪い友達の影響でグレた感じか?高校デビュー的なあれか?・・・いいや、ナエナちゃんに限ってはそんなことはありえないな。さっきだって乱暴ではあったけど、ちゃんと俺に言ってから扉を蹴飛ばした。俺の身のことを考えないと絶対に出ない言葉だ。それに今だって、自分勝手に俺を引っ張っているわけではなく、本当に嫌がる俺のためにすぐに振り解けられるぐらいの力で握っている。引っ張られているが全然痛くない。あの頃の真面目さと優しさは今でも残っている。
もうどうでもよくなってきた俺は、そのままナエナちゃんに身を任せた。抵抗しても時間の無駄だろう。俺たちはそのまま1階に向かい、先にテーブルに座っていた父さんも含めて4人で朝食を食べた。
◇
うちの朝食は決して豪華とは言えないが少なくはない。至って普通ぐらいの量。男の俺が完食するのに数分は掛かるのだが、ナエナちゃんは5分と掛からないうちにペロッと完食した。
「ああ、おいしい!ごちそうさまでした。」
「はい、お粗末様。そんなにおいしそうに食べてくれてうれしいわ。後でおばさんが持って行っとくから、お皿そこに置いといて。」
「いいえ、自分で持っていきます。あそこでいいんですよね?」
ナエナちゃんは綺麗に完食した皿を洗い場に持って行った。
おかしい・・・女性の食事ってこんなにガツガツした感じだっけ?ちゃんと野菜噛んで食べているのか、あれ?はたから見て飲み込んでいるようにしか見えないけど。それに普通朝からそんなに食べれないよな?・・・いや、それは俺だけか。
マイペースで食べている俺はそう心の中で思っても口に出さなかった。時々横に座っているナエナちゃんが食事中、視線を合わそうとするが俺は振り向かなかった。食事の時こそ静かにしてほしい。出来ればもう関わってほしくない。そう思いながら黙々と食べ続けた。
◇
数分後、ナエナちゃんに続き、父さん、母さんも完食して、そして最後に俺も食べ終わった。流石にマイペース過ぎた。というより完食するのは久しぶりだ。テーブルには俺しか座っておらず、父さんは仕事に、母さんは皿を洗っていた。いつも通りの光景だ。
俺も部屋に戻・・・そういえば、ナエナちゃんはどこだ?
視線を下げて食事をしていたせいでナエナちゃんがどこに行ったのか分からなかった。どうやら俺は何かに集中すると周りが見えなくなるらしい。何故ナエナちゃんがペレーハ村に帰ってきたのかは知らないが、消えたのなら好都合。俺はそのまま階段を上ろうとした。
「アスタ、ナエナちゃんなら今、庭で花たちを見ているわよ。」
考えていることを察したのか、皿を洗いながら母さんが教えてくれた。それを聞いて気になり庭に続く扉のガラス越しで庭を見た。ナエナちゃんはしゃがんで一輪の花を見ていた。それは俺が育てた花たちの中で一番気に入っている花だった。母さんから聞いて俺のだと知っていたのか、彼女はそれだけを無表情に見続けていた。
そんなに見つめて・・・どうしたんだ?
そんな彼女の姿を見続けたせいで、視線を感じたナエナちゃんは俺の方へ振り向く。俺に気付いたナエナちゃんは無表情から笑顔に変えて、“来てきて”と手で俺を呼びこむ。
・・・どうせ無視しても後で部屋に着てまた引っ張ってくるよな?もう部屋にズガズガと入られるのは嫌だし・・・。
ナエナちゃんの行動を何となく察した俺は、ナエナちゃんの誘いに乗って扉を開けて庭に入った。
ガチャッ
「アスタくんちの花とってもきれいだね。それにこんなにたくさんの花、王都でもなかなか見ないよ?1つ買っちゃおうかな?特にこの花・・・本当にきれい。いつまでも見ていられるよ。・・・アスタくんも育てているんだよね?アスタくんの花はどれ?」
「・・・それだよ。」
ナエナちゃんの見続けていた花に指をさす。
「えぇ、そうだったんだ!・・・でも納得。確かにアスタくんならこんなにきれいな花を育てられそうだね。」
大げさに驚くなぁ・・・。母さんに聞いていると思っていたけど、知らなかったのか?・・・まあいい、それより何で俺ならなんだ?
「何で俺なら納得できるの?・・・花を育てるなんて誰でもできることだよ?」
「・・・ポインセチアって覚えている?ほら、私んちが村を出る日にアスタくんがくれた花、・・・あれも本当にきれいだったなぁ。あの時すごく嬉しかったから今でも覚えているんだよ。だからこれもアスタくんが育てたんなら、納得ができるんだ。アスタくんっぽいって言うか、アスタくんらしいって言うか。」
ナエナちゃんはその花を指先でつつきながら話す。彼女の話を聞いて俺は少し驚いた。もう8年も前の出来事を覚えていたことに。
覚えていてくれたんだ。確かにあげたな、そんな花・・・。花言葉の“幸運を祈る”という意味だからあげたんだっけ?俺なんてすっかり忘れていたのに・・・ナエナちゃんは花の名前まで憶えていてくれたんだ。
彼女が花を見ながら“俺らしい花”と評価されて言われたことに、何故か少し嬉しかった。
「・・・ねぇアスタくん、少し質問していい?」
さっきまで笑ってみていたナエナちゃんは、急に真顔になって質問してきた。彼女の表情の変化に、俺は少し疑念を抱いた。
今度はどうしたんだ?まさかこの花ちょうだいっていう気か?ナエナちゃんでもそれは無理だぞ・・・!それは俺の観賞用として育てた花だから。・・・まあ、とりあえず聞いてみるか。
「・・・なに?」
「何でさっきご飯の時、おじさんやおばさんには返事してあげなかったの?私の時は話してくれたのに・・・何で?」
ナエナちゃんの質問は全くの別のことだった。そのことを聞かれて俺は少し固まった。癇に障られたせいか、少し苛立ちも起きた。
「ねぇ、何でなの?」
「・・・わけないじゃん。」
「・・・?ごめん、よく聞こえなかった。なんて?」
「・・・今さら・・・話せれるわけないじゃん!ずっと・・・無視してきたんだよ!それが今になって・・・なんて言葉で話せばいいの!?ナエナちゃんのおかげで話せれるようになったって言うの?馬鹿にしているにも程があるでしょ!俺だって話したいよ・・・謝りたいよ・・・でも、最初に・・・なんて言えばいいのか・・・分からないよ・・・!」
まだ皿洗いをしている母さんに聞こえないように、大きな声で言いたいこの気持ちを抑えて話した。今まで自分に感じてきた怒りをナエナちゃんにぶつけるように話した。
・・・最低だ。俺は最低だ。せっかくナエナちゃんが話を聞いてくれたのに、こんな八つ当たりみたいに言い方をして・・・。
自分がした行動に後悔を感じて、今から自室に閉じこもりたかった。流石のナエナちゃんもあんな言い方されてその口を閉じていた。
「・・・アスタくんって、思っていた以上に頭が固かったんだね。」
「・・・は?」
思わぬ一言に俺は呆気を取られた。ナエナちゃんはそのまま立ち上がって、話し続けた。俺がさっきまで真剣だったのに対して、彼女は楽しそうに話す。
「そういえばアスタくんってさぁ、昔から細かい事をぶつぶつと考えていたよね?あーだのこーだの言って。別にいいじゃん、人と話す時ぐらいさぁ、そんな深く考え込まなくても!自分の今したい気持ちで動いたらいいじゃん!考える前に行動、だよ!」
本当に学校で何を習っていたか、ナエナちゃんは感情論で俺に説いてきた。まさに体躯会系理論。俺の気持ちを完全に理解できていない彼女に、呆れて何も言えなかった。だけど一方で何故か彼女の言葉に納得している自分がいた。少し正論よりのせいか気持ちが揺らいだ。
確かにな・・・変に飾り付けした言葉よりも、直球に気持ちを込めた言葉の方が・・・両親に伝わるかも・・・。でも・・・。
「そんなの・・・簡単にできるわけない。知っているでしょ?俺は・・・臆病だって・・・。勇気が出ない・・・。」
自分のことはよく知っている。失敗することを考えてしまい何もしない臆病だということも、よく知っている。もし俺にそう決断させる勇気があったら、こんなにも長く苦悩はしていない。
「何言っているの?私はアスタくんのこと、臆病じゃあないと思っているよ?」
ナエナちゃんは俺の眼を真っ直ぐに見て、それを言った。俺から見える彼女の瞳は全く揺るいでいなかった。ナエナちゃんは遠慮して言っているのではなく、本当に自分が思っていることを言っていた。そんな彼女の言葉に対して、俺は何も反論できなかった。
「あ~、またごちゃごちゃと考えていたでしょ?もしかして、信じていないの?」
「えっ、いや、そういうわけじゃ・・・。」
「ふ~ん。・・・ねぇアスタくん、今日暇なんでしょ?」
暇という言い方もあれだが、確かにやることはない。強いて言うなら花たちの世話があるが今すぐというわけでもない。とりあえず首を縦に振る。
「そう、ならよかった!ねぇ、よかったら一緒に草原に行かない?」
ナエナちゃんは昔俺とよく一緒に遊んだ草原に行きたいと言い出した。その瞬間、俺はあの時の記憶を思い出してしまった。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




