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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第1章 アスタ・サーネス
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第29話 憂鬱な朝

諸事情により編集しました。

旧タイトル「最悪の朝」

 クロの質問に対して俺は自分が転生者の称号持ちであることを告白した。話してよかったのかは正直分からない。俺が今まで隠していたのは、異世界の知識を取り込もうとする輩からの面倒ごとを避けるためだった。例え両親にでも、これだけは話せず隠し続けた。だけどクロには命を助けてもらった恩がある。

ここで嘘を言っては恩を仇で返すだけ。それに本当に何となくだがクロは大丈夫な気がする。多少の面倒ごとなら覚悟は出来ている。


「・・・・・・やっぱり。」


 ・・・あれ?


 クロは俺の返答に対して冷静な反応を見せる。至って普通な反応だった。驚いてくれるのかと思った。

というか驚いてほしかった。俺の一番の秘密を聞いて大きな反応をしてほしかった。クロのその反応に逆に俺が驚いた。


「えっと・・・それだけ?」


「・・・ううん、まだ聞きたいことがある。」


 ですよねぇ。


 流石にこれだけで終わるわけではなかった。クロはすぐに次の質問にうつろうとする。


「っあ・・・ちょっといいかな?」


 その前に俺の方から聞きたいことがあった。俺の反応を見てクロは口を止める。


「・・・なに?」


「えっと、その・・・ごめん、やっぱりいいかな・・・。」


「・・・そう?」


 クロが何故俺が転生者という称号を知っていたのか聞きたかった。転生者は俺の独断でかなり珍しい称号だと思っていたのだが、意外にそうではないかもしれない。それも踏まえて聞きたかったのだが、さすがにまた聞くのもあれだからクロの聞きたいことを全部聞いてからにしよう。そしてさっきの質問もあって次はどんなことを聞かれるのか気になり、また別の意味で緊張し始める。


「・・・あなたは、この世界に生まれて幸せ?」


「・・・えっ?幸せって・・・今のこの生活の事に対して?」


「・・・うん。」


 意外に平凡な質問だった。さっきの質問と打って変わってあまりにも平凡過ぎる質問にどんな意図が込められているのか全く理解できなかった。これはこれで少し返答に困った。


 モンスターがいる世界に生まれて幸せかって聞かれたらそうですって言いきれないし・・・。現に魔物のせいで先日まで重傷を負っていたからなぁ。・・・まあ振り返ると悪いことだけが先に思いつくけど、この世界に生まれて良いこともたくさんあった。前世では気にしていなかった花の美しさ、人と話す楽しさ、お金に追われるような事がない生活、小鉄で憧れていた魔法。そして何より、こんな両親に愛される家庭に生まれたんだ。不幸せなわけがない。


「・・・うん、幸せだよ。とっても。」


 結論に至った俺は小さく笑って返答した。初めて見せた笑顔にクロは少し驚いた様子を見せる。どうやら予期せぬことには驚くようだ。そしてずっと無表情だったその顔は、何故か少しほっとした表情に変わった様に見えた。クロにとってどういう意図がある質問だったかは分からないが、どうやらこれが彼女の求めていた返答だったのだろう。


「・・・じゃあ、わたし帰る。」


 クロはそう言いながらベッドから立ち上がって窓の方へ歩き出した。いきなりの事に少し戸惑った。


「え、ちょっ、もう帰るの!?」


「・・・うん、言ったでしょ。・・・話しがしたいだけって。」


 確かにそう言っていた。どうやらクロは自分の要件が終わったからこれ以上干渉する必要がないからと帰るそうだ。コミュ障もそうだが、一体どういう教育を受けたらこんなドライな子になるんだ。まあ同じコミュ症の俺が言えた事ではないが。


「ま、待って!今はもう夜中だよ!それに・・・帰るってどこに?この村の子じゃないんでしょ?」


「・・・うん、あっち。」


 クロはまた北東に指をさした。ここからじゃあ部屋の壁しか見えないが、クロの言っている意思がなんとなくだが分かってきた。クロの指先は恐らく北東門の先のことだろう。


「・・・まさか、村の・・・外?」


「・・・うん。」


「何考えているの、こんな夜中に!?もしモンスターに襲われたらどうするんだよ!・・・今晩は家に泊まって行ったら?両親には俺から話しておくから。」


 俺は必死にクロを止めた。今何時かは分からないが外は完全に真夜中。村の中で外出ならまだしも、村の外なんて絶対にダメだ。北東門からの外は普段は魔獣が出てこないが、夜になると夜行性なのかうじゃうじゃと出てくる。17歳の男が15歳くらいの少女を泊まりに誘うのはかなり事件性を感じるが、そんなことを言っている場合ではない。とにかく俺はクロを必死に止めた。


【闇魔法:シャドウ・ベール】


「・・・ん。」


 クロは自慢気にさっき出してくれた黒い紐状の魔法をまた見せる。片手から出て来た5本の黒い紐は元気よくなびいている。その態度は“これで文句はないでしょ”と言わんばかりであった。


 あぁ~、転生者の称号とかですっかり忘れていたけど、この子“透明化”とか“魔法を支援する魔法”とか使えて俺より強いんだった・・・。そういえばクミル叔父さんもこの辺の魔獣は他の地域と比べて弱い方って言っていたな。なら大丈夫・・・か?・・・って、いやいやいやいや!何考えているんだ俺は!どう考えてもダメだろ、倫理的に!いや・・・この世界じゃ当たり前・・・なのか?・・・そういえばこの子、どうやってペレーハ村まで来たんだ?まさか歩きか?この子だからありえないとは言い切れないけど・・・。止めるべき・・・だよ・・・なぁ?


 今もベッドの上であぐらをかいている俺は1人でどれが正しいなのか模索し始めた。対象にできる実例や話がないからなかなか結論を出せなかった。そんな俺を放っておいてクロは魔法を解除して勝手に部屋の窓を開けた。俺は窓の開く音で気付き、クロはそこから飛び出そうとしていた。


「クロ、ま・・待って!」


 そう言いながら俺もベッドから立ち上がろうとするが、筋肉が衰弱しているため一度起き上がれたが力が入らず座り込んでしまった。頑張って立ち上がろうとするが、身体が思うように動かない。


「・・・じゃぁ・・・あっ、忘れてた。」


 クロはそう言うと飛び出すのをやめて俺の方に近づいてきた。


 俺の言葉を聞き入れてくれたのか?・・・いや、雰囲気からそうには見えない。


 座っている俺の前に来たクロはまた右手を俺の顔に近づける。信用しているおかげか俺は全く警戒せずにその手の動きを見続けた。クロの右手は人差し指を出してっトンと俺の額に優しく突く。クロは何も言わずに少しの間指を当て続けると、もう用が終わったかのように指を離して俺からまた離れる。


「・・・じゃあね。」


 クロは窓の方へ振り返って別れを告げる。何がしたかったのか分からずに呆然としていた俺だがすぐに我に返った。クロは確かに強いが、それでも俺は止めようとする。


「ってクロ、だから今は夜だか・・・あれ?」


 急に・・・眠気が・・・。


 睡魔が唐突に襲いまぶたが重く感じ始めた。まるで休息を求めるように俺の身体はそのままベッドに倒れた。僅かに開いている視界にはクロが窓から飛び出そうとしている姿が映る。


 ・・・さっきのあれ・・・魔法・・・か。


 額に指を当てた時に俺はクロに何かされたと察した。しかし気付いた時はもう遅かった。俺は考えるのをやめて、クロの最後の一言が耳に入ってから深く眠った。


「・・・じゃあね。・・・また、いつか。」



星暦2029年、夏の49日、風の日、朝


 朝日に当たりながら俺はゆっくりとベッドから起き上がった。起き上がってすぐに部屋を見渡したが、やはりクロはいなかった。昨晩俺の前に訪れた少女は俺の言葉を聞き入れず出て行ったのだろう。出て行く際に使った窓はちゃんとカギがかかっている。あの紐状の魔法で戸締りをしてくれたのだろう。


 結局何だったんだろう、あの子は・・・。まあ俺なんかを助けてくれたんだしきっと悪い子ではないかもな。転生者とか黒い髪とかいろいろと聞きたかったけど・・・これ以上はわがままだよな。クロ・・・もう村にはいないよな。無事だといいけど。・・・はぁ~、でもやっぱり聞きたかったなぁ、転生者とかいろいろと。


 起き上がってベッドに座る形になって、カーテンが全開した窓を見てクロの無事を祈った。強いのは十分わかっているし心配する必要はないけど、それでも俺は無事を祈った。そして後悔した。あの時遠慮せずに何で知っているのかと聞けばよかったと、後悔した。クロのことコミュ障と思っていたが俺も十分コミュ障だった。


ガチャッ


「あらアスタ、起きていたのね。・・・もう体は大丈夫?」


 少し考え事をしていると母さんが部屋に入って来た。いつもならッコンッコンとノックしてから入ってくるのだが今日は静かに入った。俺が寝ていると思い様子見で来たんだろう。


「おはようございます。体は見ての通りもう大丈夫です。まだ立つことすらできませんが・・・。」


「そう、ならよかったわ。ちゃんと動けるまであんまり無理しないでね。今から朝食の準備できるけど・・・食べる?」


 母さんは首を傾けて尋ねる。ちょうど昨晩のこともあったせいか起きたばかりの俺の体は食べ物を求めていた。朝食という単語を聞いてさらに食欲がわく。


「はい、いただきます。・・・まだ思うように体が動けないので先に行ってもらっていいですか?僕はゆっくり行きますので。」


「本当に1人で大丈夫?1階まで肩貸してあげれるけど・・・?」


「本当に大丈夫です。それにちょうどいい運動になりますから、1人で行きます。」


「・・・分かったわ。じゃあ先に行って作っておくわね。本当に無理しちゃだめよ?ゆっくりでいいからね?」


「分かりました。」


 母さんはそれを最後に言って部屋から出た。


ガチャッ


 心配してくれる母さんに対して嬉しいがずっと甘えるわけにはいかない。昨日の考えじゃあ今日は俺も店番の手伝いをするつもりだったのだが、身体は思った以上にだるくて動けない。これでは手伝いどころか迷惑をかけるだけ。これ以上両親に負担をかけたくはない。


 本当に情けないなぁ・・・。子供の頃の体力と全然変わっていないな。少し腕を振るだけで疲れが感じる・・・前世より酷くなっているな。せめて明日は少しでも動けるように今日は徹底してストレッチしないとな。まずは・・・朝食を食べるか。


 ベッドの端を持ちながらゆっくりと立ち上がった。下半身の筋力は思ったより低下していなく、何かを持ちながらなら立つことができる。ベッドに掴み、そして部屋の壁に沿って扉へ向かった。その歩き方は内またで老人のようにぷるぷる震えて、安定性が皆無だった。子供に見られたら間違いなく笑い者にされているだろう。立ち上がって数十秒にかけてようやく扉の隣に着いた。


 思ったより疲れる・・・!しかもこの後階段とかあるんだよなぁ。・・・転びそうで怖いなぁ。まあ母さんもゆっくりでいいって言っていたし、一段一段気を付けていけば・・・うっ!?


 ドアノブを握る瞬間、昨晩と同様にまたあの日の戦いを唐突に思い出してしまった。しかし今回のは前回とは違いその生々しい奇声と迫力まで思い出した。フラッシュバックしたその映像に、俺の恐怖という感情が最高まで高まろうとした。


「ぅうあぁぁぁぁああああ!!」


 俺は荒れた声を出しながらドアノブを握るのをやめて扉に強く当たった。そのまま体勢を崩して下に落ちて、扉にもたれながら両手で力一杯にして頭を押さえた。


 消えろ、消えろ、消えろッ!!


 そう何度も念じても脳裏から出てくるその映像は消えることなく流れ続ける。あの時はクロがいたから何とかなったが、今はもうクロはいない。自分で何とかするしかなかったが、当然その手段が思いつかずただ苦しんでいた。


コンッコンッ


「アスタ!ねえアスタどうしたの!何か変な音が聞こえたけど、何かあったの?アスタ・・・アスタ!!」


 母さんが訪ねてきた。俺が扉に当たす際に出た大きな音と悲鳴で心配になり来てくれた。しかし何故か俺は扉を力強く抑え込み母さんが入れないようにした。誰かを部屋に入れることを拒んだ。


「おいどうした!」


「あなた、アスタが急に悲鳴を上げて・・・!中に入りたいけど何故かドアが開かないのよ!さっきは開いたのに!」


「なに!おいアスタ、聞こえるか!おいアスタ!」


コンッコンッ


 今度は後から来た父さんが中を確認しようとノックし始める。抑えていると同時に苦しんでいる俺にはまともな返答ができなかった。父さんも扉を開こうとするが何故か俺に力負けして全く開かず、両親は混乱になりどうすればいいか迷った。


「あなた、どうしよう・・・アスタが!お願い・・・何とかして!」


「・・・分かった!このドアを壊す!アスタ、ドアから離れていろ!」


 父さんは強硬手段で扉を壊すようだ。俺が抑えていることを知らずに、体当たりをするつもりだ。


「よし、アスタ・・・いま行く・・・。」


「来るなぁぁ!!」


 父さんの言葉に対して俺はようやく返答した。それはとても荒々しく今まで口調とは違った。両親は当然思ってもしなかった返答に動揺し始める。


「えっ・・・ア、アスタ?」


「だ、誰も・・・この部屋に来るなぁぁぁ!!」


 記憶と現実の区別がつかなくなり、俺は両親でも関係なくその荒々しい口調をやめなかった。


「アスタ、どうしたの!?そこで何があったの!?ねえアスタ、開けなさい!」


「うるさいうるさいうるさい・・・うるさいッ!!」


「ア、アスタ・・・!?」


 両親は絶句した。自分たちの息子の意外な一面を見せられて言葉を失う。そしてその記憶の恐怖に俺は泣き始めて、自分が今誰と話しているのか分からなくてなっていた。


 誰かが部屋に入られるのを拒んだ。誰かと対面するのを拒んだ。誰かと話すのを拒んだ。安心が欲しかった。俺は・・・独りになりたい。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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