第28話 あの戦いの裏
諸事情により編集しました。
今夜の満月は一段と輝き、窓から入る光が俺の部屋を明るくしてくれた。その部屋でベッドの上であぐらをかきながら突如現れた黒髪の少女クロと会話をしている。神様の対面した時はコミュ障のせいで上手く聞きたいことをまとめることができなかったが、この世界に生まれてから多少だが人と話せるようになり今回も緊張せずに俺から話しを持ちかけられた。しかし、その話し相手が前世の俺に似ているのか話がかみ合わずなかなか進まない。
「えっと・・・ごめん、言い直すね。君は“どこからこの村”に来たの?」
俺が質問の意図を短縮しすぎたせいかクロには伝わらず、もう一度丁寧に質問をする。これなら流石に分かるだろう。今更だけど、この質問の意味はない気がしてきた。
「・・・あっち。」
クロは部屋の壁に向かって指をさす。恐らく来た方向をさしているのだろう。クロは北東から来たという。
もしかして今度は“北東門から来た”って言っているか?・・・なんでだろう、人と話すのってこんなに疲れるもんだっけ・・・。・・・別の質問をしよう。
「さっき窓から入ったって言っていたよね。・・・どうやって入って来たの?ここ・・・一応2階だけど。」
部屋に唯一ある窓に指をさして聞いた。うちは普通の一軒家で2階の窓は地面からそれなりに高さがある。とても女の子が自力で入ることはできない。さほど重要ではない気がするが一応聞いた。
「・・・こうやったの。」
クロはそう言いながら手のひらを裏返して、魔法を発動した。
【闇魔法:シャドウ・ベール】
するとクロの手の平から1つの黒い薄い紐が現れた。初めて見た魔法に驚いた、同時に少し警戒をした。動けるように少し身構えた。
「・・・大丈夫、見てて。」
そう言いながら黒い紐の先端をそのまま部屋の窓に向かって伸ばし始めて、そして窓の隙間から一旦外へ出すとまた部屋に入れ、そのままカギを外して窓をゆっくり開いた。それを見てどこから入って来たのかは理解できたが、2階のこの部屋にどうやって入ったのかはまだ納得していない。それについても質問した。もちろんまた変に解釈されないように丁寧に。
「・・・これ、見た目より強い。・・・わたしの身体なんか簡単に持ち上げられる。」
クロは手の平から新たに2つの紐を出して、合計3本で自身は持ち上げさせた。どうやって入ったのか実践してくれているようだ。その薄い紐の意外な強度に驚いた。
すごい、補助魔法の一種か・・・!?かなり使い勝手がよさそうだな。・・・色から見て闇魔法?ってことは適正魔法は闇・・・いやでもそうだったら髪の色は紫のはず。魔法が特化して黒に・・・いや変色することなんてどの本にも載っていなかったけど・・・。
「・・・ねえ、次はわたしからでいい?」
いつの間にかゆっくりとベッドの上に降りたクロは、ずっと黙り込んでいる俺に声をかける。一方的に質問されているのだから、そりゃあ焦らしたくもなる。
「あっ、ごめん!・・・もう1個聞いてもいい?」
俺がそう言うとクロは分かりやすいほどのため息をつく。少し人族らしい素振り見せたクロを見て少し警戒が解けて、心なしかほっとした。
「じゃあ次は・・・さっきの夢なんだけど。あれクロが俺に見せたの?」
聞き間違いでは無ければ、さっきクロは自分で“あれは魔法で見せてあげたあなたの過去”と言っていた気がする。それがクロの第一声でもあって今でも気になり続けていた。
「・・・うん。」
クロは首を縦に振って返答した。俺にとっては重大な質問に対して、クロは平然として受け答えた。
やっぱり・・・!魔法で見せたって言ってたけどどんな魔法で・・・いやそれはあと!なんで、目的は、・・・いや違う!他に聞くべきことがある!
「じゃああの夢は・・・本当に起きていたことなの・・・?」
恐る恐る聞くと、クロはもう一度首を縦に振った。またも平然と返答をするクロを見て、俺はもう一度現実と向きなおした。本当は自分でも気づいていたが、認めたくなかった。周りから良い人と思われるように振舞ってきた自分が、魔物の前であんな狂人の様な行動をとったことを。
やっぱり・・・そうだったんだ。じゃああれは本当に・・・俺だったんだ。
現実逃避したくなるこの感情に困惑した。短い時間での気持ちの凹凸な切り変わりに疲れてきた。起きたばかりだが今ならもう一度寝られる気がする。
・・・でももしそうなら、何でおれの首は無事・・・うっ!?
クロの返答のせいか俺の脳裏から、急な頭痛と共に今度は自分自身の視点からゴブリンと戦う様子を思い出してしまった。フラッシュバックしたその記憶は一気にあの時の恐怖も思い出させて、頭を押さえて震え始める。呼吸も少しずつ荒くなり、クロの事を忘れてただ恐怖だけを感じていた。まるでついさっきの出来事の様に思い出したその記憶は、俺の精神を錯乱させようとした。
「・・・こっち、見て。」
そんな中クロはまた俺の様子で感づいたのか、もう一度近づいて右手を俺の頬にそっと当てた。下に向いた視線をクロの言葉に誘導させて、クロ自身と見つめ合わせた。
「・・・落ち着いて。・・・今あなたが考えていることはわたしには分からない。・・・だけど、これだけは言える。・・・あなた勝った。・・・あのゴブリンたちに勝って生き残っている。・・・今こうしてあなたは、生きている。」
クロは俺と視線を合わせ続けながら語る。すると何故かさっきまであった恐怖が徐々に嘘の様に薄れ始めた。記憶は今でも頭の中にはっきりと残っているのに、恐怖だけが薄れていった。まるで何かしらの魔法かスキルを使われたかのようだ。理由はどうであれ、クロのおかげで落ち着き始めた。
「・・・ありがとう。何かしたの・・・?」
「・・・なにも。」
クロは右手を離して、もう一度俺と距離を取ってくれた。どうやらさっきの俺のお願いに従ってくれているようだ。意外に真面目な子だ。夜間に住宅侵入した子を真面目と言うのは少し違うだが、とにかく良い子だ。
「・・・けど、もしあれが現実だったら・・・何で俺は無事なんだ?クロが見せてくれた夢じゃあゴブリンは俺の首に攻撃したはず・・・。」
夢では倒れている俺にゴブリンは首元を狙って攻撃したはず。もし食らっているのならば間違いなく俺は死亡していた。だけど今こうして俺は生きている。どうしても納得ができなかった。
「・・・それは・・・。」
クロはそれについて長々と説明してくれた。
まず初めに、クロはあの日の戦いを最初から見ていたそうだ。正確には森から流血して出て来た俺が、後から出て来た10体のゴブリンと対面した時から。当時のクロは何らかの方法で姿を透明化にして、近くであの日の戦闘を最初は観戦していたそうだ。どうやら夢で見せてくれたあの視点は当時のクロの視点のものだった。だから無理に視線をそらそうとしてもできなかった。
そして実はあの日の戦闘には秘密があった。夢でも気づかなかったがどうやらあの日クロは俺の戦闘をサポートしてくれていたようだ。最初は何もする気はなかったらしいが、見ていて俺を危なく感じて助けてくれていたようだ。草原で最初にゴブリンに『アクア・ピストル』を当てたときからだそうだ。『アクア・ピストル』の弾が狙い通りに当たったのは全てクロのおかげだったらしい。あれも何らかの魔法で弾の威力を残したまま真っ直ぐ飛ばすのを手伝い、着弾させてくれた。クロ曰く、俺程度の射撃術のレベルじゃあ数メートル先のゴブリンにダメージ与えるどころか、届かずに曲射して地面に落ちていたそうだ。
・・・確かにな、少し考えたら分かるか。射撃術たったのレベル3であんな距離のゴブリンに当てることなんてできないよな・・・。じゃあおれ・・・クロのおかげで倒せれたんだ。
真実を知って少し気が滅入った。自分1人でゴブリンを倒したことに達成感を感じていたわけではない。ただ、本当に無茶なことをしたんだなと今になって深く感じた。魔法の世界だからと言って何でもかんでも都合が良いわけではないと、改めて実感した。だけどクロが手伝ったのは草原の上だけで、森の中で1体のゴブリンに『アクア・ピストル』を当てられたのは俺の力だけのようだ。これに関しては素直に喜ぶべきかどうかは分からず、複雑な気持ちになった。
そして影から戦闘を手伝っていくうちに俺自身に何かしらの変化が起きたことはクロも気づいていたようだ。あれはクロとは関係ないらしい。クロ曰く、どうやら草原で初めてゴブリンを殺した時に『スキル:狂人化』が開花して発動したそうだ。その後、『アクア・ピストル』はそのまま魔法で支援をし続けていたが、武器を装備して戦う俺の姿はクロ自身も驚いていたそうだ。本来『狂人化』とはその名の通り発動者の精神を強制的に狂わせて、望みのままに暴れたいという感情で動き回るもの。しかし当時の俺は暴れたいというより倒したいという目的を持って動いていた。どうやら発動する瞬間、俺はゴブリンを倒したいという気持ちになり、それで発動後に俺の命令に従って行動したのだろう。
『狂人化』・・・もしあれが本当に俺の命令で動いたんなら、意外と使い道があるかもな。また魔物や魔獣に出くわした時とか。・・・いや、あんな危ないもの使わない方がいいに決まっているか。もし両親にあんな姿を見られたら、きっと軽蔑するだろう・・・。これ以上2人に嫌われたくない・・・。
ちなみにクロは水魔法の威力も含めて、初めてで不安定な『狂人化』なのにあの戦いぶりは凄いと評価してくれる。正直そんなところ称賛されてもあまり嬉しくない。
最後に途中で見られなくなった夢の続きは、結果から言うとクロが助けてくれたそうだ。気絶していた俺では対処できないとクロが判断して、最後のゴブリンの攻撃が当たる瞬間にさっき俺にした相手を動けなくするスキルを使って寸止めしてくれたそうだ。かなりギリギリだったらしい。そして最後に撃った『アクア・ピストル』の弾を真っ直ぐに飛ばす魔法の応用でUターンさせて、動けなくしたゴブリンの後頭部目掛けて弾を着弾させた。ゴブリンも油断していたらしくそのまま後ろからの攻撃を受けて、絶命した。これで最後の1体も倒されて、数時間後に俺と10体のゴブリンの死体が共に倒れていたところを発見されたというわけだ。ちなみにその間クロは、俺が倒れている間に他の魔物に襲われないように見張っていてくれたようだ。村に助けを求めるという方法もあったはずだか、クロは何故かそれはしたくなかったそうだ。本当に言いたくなさそうだからあまり追及はしなかった。
「・・・ってか最初から『アクア・ピストル』で倒すなら何で最初に当てなかったの?」
「・・・当てるつもりだった。・・・ゴブリンがあんな動きをするなんて、わたしも予想していなかった。」
やはりゴブリンあの動きはすごいもののようだ。ずっと顔を見合わせていたクロが無表情のままそらす。恐らく悔しかったのだろう。
クロの話を聞いてあの戦いについて色々と納得した。確かに改めて振り返ってみると全て都合が良かった。まるで自分が物語の主人公になっているかのように、かなり都合が良かった。ゴブリンの調査も正直に言って自分の魔法ならなんとかできると思い込んでいた。だけどふと現実に目を向けると、所詮俺はただの一般市民。こうして生きているものは、また両親と話せられたのは、クロのおかげなんだ。
「・・・クロ、本当に、ありがとう。」
あぐらをかきながら深く頭を下げた。信憑性のあるクロの話を完全に信じて、いろいろな意味を込めて礼を言った。
「・・・わたしはあなたと話したかっただけ。・・・あそこで死なれても困る。・・・ただ、それだけ。」
ハッキリと自分の都合を言うクロに思わず苦笑いをしてしまった。だけど濁さず隠さずに言ったその一言で、クロは大丈夫だと理解した。特にこれといった理由や根拠はないし、いまだに怪しい所は多いけど、信用できると子だ。胸の中がすっとして今後はクロの話を聞くとこにした。
「それでもありがとう、クロ。それじゃあ今後はクロからでいいよ。」
「・・・つぎ、わたしからでいい?」
「うん。俺、上手く受け答えできないかもしれないけど、頑張ってできる限り答えるよ。で、何が話したいの?」
何が聞かれてもちゃんと返答しよう。どんな話が来るだろう。全く予想できない。何だったら少し緊張している。でも、たったそれだけで恩を返せるのなら、喜んで対応しよう。そう強く決意した俺だったのだが、次のクロに言葉にまた彼女に対して不信になってしまった。
「・・・あなた、転生者?」
「ッ・・・!?」
それを聞いた瞬間、まるで時間で止まったかの様に一気に静かになった。前置きの無く急に出たその単語に驚いた。聞き間違いがなくはっきり聞こえたその単語に、俺は心底驚いた。
うそ、なんで・・・!?何でそれを・・・!?
誰にも言っていない俺の秘密がバレて口に出す言葉が見つからず硬直してしまった。真実を言うか嘘を言うか、俺の頭にそれがよぎってしまった。だけどクロには関係なかった。
「・・・ねえ、次はわたしでしょ?・・・あなた、転生者?」
クロは返答を急かした。その無表情の顔は心なしか真剣みがあるように見える。
・・・何迷っているんだ俺は。一度信頼したんだ・・・またすぐに疑ってどうする。この子は俺を助けてくれたんだ。この子は大丈夫・・・大丈夫なんだ・・・。信じるんだ・・・ステータスオープン。
「・・・うん、そうだよ。」
転生者の称号が載ったステータスウィンドをクロに見えるように表示して答えた。もうクロを疑うのをやめた俺は今日ここで、この世界に生まれた時から隠し続けてきた秘密をついに人に話した。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




