第27話 黒髪の少女クロ
諸事情により編集しました。
この日、森から出て来たゴブリンは10体。完全に狂人と化した当時は血を流しながらも9体も倒した。初めて握るはずの剣、槍、こん棒を使い倒したのだ。第三者視点で見ている俺は、信じられないその光景に複雑な感情になりながら当時の戦いを見守る。
最後の1体のゴブリンは、その場にあった俺のスコップを手に取り、それを松葉杖の代わりにして起き上がった。そしてスコップを右手で装備して、当時の方へとゆっくり歩み始めた。そのゴブリンはいまだに変わらないその殺意のこもった眼で俺をにらみ続ける。殺気に満ちた眼でにらまれるのも当然だろう。事故だったとはいえ何も悪くないそのゴブリンに、俺から攻撃を仕掛けたのだから。
一方、迫ってくるゴブリンに対して当時は先ほどと同じようにその場に動かずに棒立ちしていた。その思惑は、また確実に当てられる魔法の射程距離まで来るのを待っているのか、それとも今回は本当に疲労と痛みで動けないのか。だけど第三者視点の俺は、この戦いは当時が勝つと分かっている。現にこの日から4日後には、俺はベッドの上で生きていたのだから。そして当時が次に攻撃手段も何となくだが予想がつく。間違いなく『アクア・ピストル』。当時の疲労から察するに、その攻撃方が妥当だろう。
残り20メートル、15、10と迫ってきたゴブリンは、痛みに慣れてスコップを両手持ちにして一気に距離を縮めようと走り出した。それに対して当時は、両手で『アクア・ピストル』の構えに入り、銃口を向かってくるゴブリンへとゆっくりと狙いを定める。ゴブリンはそれを見ても動じず、ただ真っ直ぐ当時の方へ向かってきた。
人生最初の戦闘がついに終わる。見たくなかったこの光景も・・・ようやく終わる。
まだ決着がついていないのに、第三者視点の俺は1人で勝手に心を落ち着かせた。
【水魔法:アクア・ピストル】
水の弾は指先からゴブリン目掛けて発射された。その瞬間、俺は理解した。ゴブリンを、いやこのゴブリンを完全になめていたと。ゴブリンは水の弾が発射される少し前に、素早く横へ飛び込んで射線から逃げたのだ。恐らく今までの当時の魔法を見続けて、『アクア・ピストル』の発射されるタイミングを理解したのだろう。ゴブリンはそのまま前転をしてから体勢を戻して、再び当時の方へ走り出した。当時との距離5メートルをきる。
ヤバいヤバいヤバいヤバいッ!!まさかゴブリンがあんな動きをするなんて・・・!?次に俺はどんな対処を・・・えっ?
そう思いながら当時の方へ視線を変えると、その様子に目を疑った。当時は魔法を発動した直後、気絶するように膝から崩れて、うつ伏せで倒れた。演技でもなく本当に気絶していた。
う、うそだろ・・・。えっ・・・じゃあ、この後どうなるの・・・?
そんな俺の思いも関係なく十分に近づいたゴブリンは、攻撃された怒りなのか、殺された仲間の恨みなのか、倒れている当時の頭を強く踏んづける。そして動けないように片足を乗せたまま、息の根を止めようと当時の首元を狙ってと大きくスコップを天高く振り上げた。
えっ、ちょっ、まっ・・・。俺、このまま死ぬの・・・?や・・・やめろぉぉぉぉぉ!!
そんな俺の声は届かず、ゴブリンはスコップを振り下ろした。
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星暦2029年、夏の49日、風の日、真夜中
「ぅうわああああぁぁぁぁ!!」
ゴブリンが当時の当時に攻撃する瞬間、目が覚めた。声を上げながら勢いよく起きて、荒々しく呼吸をし始める。周りを見渡すと、視界に映るのは先ほどの草原ではなく俺の部屋だ。外の明るさ的にまだ夜のようだ。次に起きた俺はすぐに自分の首元を触りって無事かどうか確認した。
ある・・・よかったぁ・・・。
以前と変わらない自分の首元を触ると、俺は安堵のため息をする。どうやら今までのは夢、いや悪夢だったようだ。安心した俺は徐々に自身を落ち着かせて、もう一度自分の身体を隅々まで確認した。身体はどこも異常はなく、就寝する前と全く変わらなかった。あるとすれば大量の寝汗をかいていたことぐらいだ。
「・・・何なんだよ、あれは・・・。」
気を紛らわそうと俺は独り言を言った。何か言わないと、気が動転しそうだった。
「・・・あなたの言うあれっていうのは、私の魔法で見せてあげたあなたの過去よ。・・・正確には私の視点から見たあなたの過去の姿だけどね。」
そんな俺の独り言に対して、横から女の子の声が返答した。俺以外誰もいないはずの部屋で、女の子の声が聞こえたのだ。慌てて俺はすぐに声の方へ振り向くと、閉めていたはずのカーテンが全開になっており、外から月の光が部屋に入り、その光の中に1人の黒髪の少女が立っていた。少女はその長い黒髪をなびかせながら光から出てきて、俺の方へ近づいてくる。
黒髪って・・・なんで!?この世界の人の髪の色は全部で9色だけだったはず⁉
俺は知らない少女が部屋にいることより、その髪の色に驚いていた。
モンスターを覗いて、この世界の生物は銀色、紫色、赤色、青色、茶色、緑色、水色、黄色、黄緑色のいずれかの1色の髪色を持つ。そしてそれぞれの髪色を持つのは理論にもとづいた理由がある。俺の場合、水魔法が最初の適正魔法だから青色の様に、光魔法なら銀色、闇魔法なら紫色といったように、髪の色は体内にある魔力に大きく関わっている。つまり、9色の髪色はその者の初期魔法の10個のうちどれが一番強い適正魔法か指し示す役割でもあった。ちなみになぜ無魔法を示す髪色がないのかは、無魔法はほとんどの者が持つ初期魔法だからないという一説がある。
この世界は前世の世界と違い髪を染めるという習慣はなく、みんなその髪色で一生を過ごす。つまり、俺の目の前にいるこの少女は決して存在するはずもない黒髪を持っているから、俺は驚き警戒しているのだ。
どうやって入ってきたんだ!部屋の扉も窓も鍵がかかっている・・・魔法か?それともスキルか?どっちにしろこの子・・・何かヤバい・・・!
少女は無表情のまま俺の方へ近づき、ベッドを上ろうとする。そんな少女から危険を感じた俺は、アクア・ピストルの構えになって銃口を向けた。もちろん魔法を発動する気はない、ただの脅しのつもりだ。
「・・・ゴブリンみたいにわたしも殺すの?・・・もしかして、あの戦いで調子に乗っている?・・・いや、あなたみたいな人がそんな気は起こさないか。」
構えを見た少女は、まるで何かを察しているかのような言い方で話す。謎の黒髪の少女で頭がパニックになっている俺にはすぐには理解できなかった。少女が話してから少し間を空けて、俺の口は開いた。
「君は・・・誰・・・。」
「・・・クロ、名前はクロ。ただのクロ・・・。」
クロは自分の名を名乗りながらベッドに上ってきて、俺に近づいてくる。それに対し俺は後ろに下がるが、壁にぶつかりこれ以上引くことができない。逃げられない俺に対してクロはゆっくりと右手を俺に近づかせる。何を目的として近づけているのかは分からないが、この手はヤバいと感じた俺は部屋から出ようと走り出そうとした。
【スキル:影掴み】
う、動けない・・・!?魔法か!?
僅かなしぐさで感づいたのか、クロは何らかの方法で俺を動けないようにした。どんなに力を入れても全く動くことができなかった。そんな動かなくなった俺にクロは右手で俺の頬に触り、自分の方へ顔を向けさせた。
「・・・落ち着いて、わたしはあなたと話しがしたいだけ。・・・だから、落ち着いて。」
クロはその見た目とは裏腹に冷静な大人の雰囲気で話しかける。パニック状態の俺だったが、その言葉を耳に入れると不思議と落ち着き始めた。
この子はいったい・・・本当に俺を襲わないのか?・・・いや、もし襲うのなら今こうして拘束している間に攻撃してくるか。本当に話すだけなら問題ないけど・・・。
「わか・・った。はな・・す。」
謎の力による拘束のせいか舌も最低限までしか動かせなかったが、俺は話すことを決めて伝えた。それを聞いたクロは俺を信用したのか、右手をどけるのと同時に拘束を解いてくれた。自由になった俺は約束を守るためにその場に座りなおして、クロと向かい合って話そうとした。と、その前に。
「ごめん・・・ちょっと離れて・・・。」
「・・・なんで?」
「いいから・・・お願い・・・。」
冷静になって改めてクロと対面すると、その容姿はナエナちゃん並みに可愛らしかった。そんな子が至近距離にいるのだから誰だって緊張するだろう。17歳の、ましてやそれ以上の精神年齢の男が言うのもおかしな話だが、俺はクロに距離を取るようにお願いをした。当然その意図が理解できないクロは不思議に思いながら承諾してくれて少し距離を取り、ようやく話せるようになった。
「ありがとう・・・。え~と・・もう一つ悪いのだけど、君の話を聞く前に先に俺の方から質問してもいいかな?その・・・どうしても気になることがあって・・・。」
クロの話を聞く前に、俺は彼女について先に聞こうとした。彼女は俺と話したいと言っているが、俺は彼女を信用しきれない。静かに2階の俺の部屋に侵入といい、さっきの強力な魔法といい、彼女を疑うには十分な理由あった。だから、少しでも彼女を信用しようと俺は彼女より先に問いかけようとする。もちろん言うこと全てを真に受けるつもりはない。彼女の言葉を聞いて、それが嘘かどうか判断してから信用したい。俺の2回目のお願いに、クロは首を縦に振って承諾してくれた。
「ありがとう・・・。えっと、まず・・・君は何者?」
「・・・クロ。」
クロはそれだけ言ってあとは何も言わなかった。これは俺が悪いのか、普通はその後に何処から来たとか言って欲しかったのだが、クロには質問の意図が伝わなかったようだ。俺は改めて言い直す。
「えっと、そうじゃなくて・・・君は“どこから来たの”?」
俺はクロの身元を確認した。ペレーハ村に生まれて17年、住民全員の名前までは憶えていないがだいだいの顔は知っているつもりだ。俺は黒髪でこんなかわいい子知らない。つまり少なくともクロはペレーハ村の住民ではないとすぐに分かった。
「・・・あそこから。」
クロはそう言いながら部屋の窓に指をさした。どうやらクロは、“どこからペレーハ村に来たの?”ではなく“どこから部屋に来たの?”と解釈したようだ。クロはコミュ症なのかなかなか話は進まず、俺は小さくため息をついてしまった。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




