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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第1章 アスタ・サーネス
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第23話 アスタの初戦

諸事情により編集しました。

 ペレーハ村の草原は一度風が吹くと、その風の音はしばらく止まず草原中に響き渡る。村の夏の風物詩である。そんな草原の上で戦う覚悟を決めた俺は、『アクア・ピストル』の構えのまま迫って来るゴブリンたちを睨み始める。これは死に対する恐怖でも、ゴブリンたちへの怒りでもない。決死の覚悟によるものだ。

 そんな俺の睨みのおかげか、それとも『アクア・ピストル』の構えのおかげなのか、何体かゴブリンはずっと笑い続けた笑みを止めて足を止めた。数は4体。恐らくさっき森で俺の魔法を見て逃げて帰ったゴブリンたちだろう。その4体はもう一度足を止めた者同士でアイコンタクトをしながら、その場から動こうとしない。『アクア・ピストル』に警戒して距離を保つつもりだろう。しかし他には教えていないのか、残り6体のゴブリンはまだ俺の方へ来ている。

 その中でも真正面に向かってくる1体はひどく俺を睨みながら、他より速く歩み寄って来ている。それはさっきのスコップで一撃を与えて、額から血を流しているゴブリンだ。相当痛かったのか本当にひどく睨み続けている。間違いなくあの眼は俺に対する怒りのもの。本来ならあんな目つきをした魔物が近寄ってきたら逃げるところだが、後方にある村のためにもこれ以上下がることができない。というより足が痛くて動きたくない。


 こんな死ぬかもしれない状況にも関わらず俺の脳内は意外にも正常に働いてくれた。しまいには危機感も少し薄れ始めた気がする。だけど、これでいい。叔父さんに魔法を教えてもらった時、言葉が足りなくて最初は分かっていなかったけど、魔法発動にはその魔法を具体的にイメージするための“集中力”も必要。さっきの発狂状態のままじゃ絶対に発動はできなかった。できたとしてもせいぜいザ・ウォーターのようなしょぼい威力だろう。だからゴブリンたちと戦うためにもこうして少しでも冷静でいなければいけない。丁度左足のふくらはぎのこの激痛が冷静でいさせてくれるいい薬になってくれている。

 そうこう考えているうちに6体のゴブリンたちがアクア・ピストルの射程に入ってきた。だけどまだ撃たない。今の集中力じゃ、普段通りの射程距離に届くとは思えない。だから待つ、ゴブリンたちがギリギリまで近づいて絶対に命中する距離まで。最も俺に近づいた奴にから狙いを付けようと思ったが、的はすぐに決まった。それ当然、他より早歩きをしていて俺を睨み続けているゴブリンだ。

 真正面に向かってくるそのゴブリンと俺は互いに睨み合う。一歩一歩獲物を持って近づくゴブリンに対し、俺は早くなってきている心臓の鼓動を必死に抑えて静かに呼吸をする。俺は銃口の先をゴブリンの顔の真ん中つまり鼻に狙いをつけた。本当は血を流した額を狙った方が確実に倒せるのだが、変に狙いをつけるとさっきのようにズレてしまうかもしれない。相手は剣を持っている、失敗したら間違いなく殺される。そしてゴブリンが十分すぎるほどの射程距離に入った瞬間、俺は演唱しようとした。


 ・・・今だッ!


 しかしタイミングが悪く、俺の演唱する瞬間の殺意に気付いたのかそのゴブリンは右手に持った剣を大きく振りかぶって俺に飛び込んできた。その際に俺の体はゴブリンの突如とした行動に反応してしまい演唱した瞬間、重心を左足に寄せてしまい足から激痛が走って俺の指先の銃口は狙いの的からズレてしまった。


【水魔法:アクア・ピストル】


 さっきと同じくゴブリンに対し恐怖を感じたのか、水の弾はやや細長い形状になって発射された。弾は的である鼻からズレてしまったが、運よくゴブリンの右肩に命中してくれた。弾はゴブリンの右肩を貫き、そのあまりの激痛に右手に持っている剣を手放し、空中でバランスを崩して胸から落ちた。それと同時に俺も尻から地面に着いた。かなり痛いのかゴブリンは這いずり回ることさえできず、ただその場で体をうずくまり左手で右肩を抑え続ける。俺の方は少しは痛みに慣れたおかげで歯を食いしばって我慢できた。このゴブリンは絶命していないが、その様子を見てしばらくは動けないないだろうと考え、俺は他のゴブリンたちをすぐに確認した。

 魔法を見た他のゴブリンたちはさっき森で俺を追いかけた4体と同様に驚き、そしてお互いの顔を見合ってその場から動こうとしなかった。これは森でも一度あった好機と思った。さっきは気が動転して焦ってしまい『アクア・ピストル』を外してしまったが今回はまだ冷静でいられている。座り込んだまま静かに1回深呼吸をして、次はあの5体のうちの1体に狙いをつける。

 1つ学んだ事がある。今の俺にとって『アクア・ピストル』の威力を上げてくれるのは恐怖だという事を。その証拠に今まで殺傷能力が低かった『アクア・ピストル』がゴブリンの頭蓋骨を貫通するほどまで上がっている。だから森で追いかけられた恐怖と今さっき殺されそうになった恐怖をもう一度思い出した。今日の出来事を鮮明に覚えている俺にとっては容易かったが、それと同時にとても苦である。

あまりにも正確に思い出してしまった俺は手元が震え始めた。冷静さが保てなくなりそうだ。


 落ち着け・・・落ち着け俺・・・。


 俺はまた静かに深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。次の標的はもう1体剣を持っているゴブリンに狙いを定めて、もう一度イメージした。緊張のせいか俺は無意識に両肩に無意味に力を入れて、魔法を演唱する。


【水魔法:アクア・ピストル】


 イメージ通り、俺の魔法はさっきと同じ形状で発射された。しかし軌道はイメージ通りに行かず下方向に傾き、そのままゴブリンの膝に命中した。そのゴブリンは弾が当たった瞬間奇声を出して、膝を抱え倒れこんだ。貫通はしなかったが、あれではすぐには動けないだろう。またも仲間の思わぬ攻撃に直面した残りのゴブリンたちは、あきらかな動揺を見せる。


 よし、残り4体・・・!


 そう思いながら俺はもう1体に銃口の狙いを付けた。だが俺は、ここでふと自分の言葉を振り返った。


 えっ・・・4体・・・!?


 確かに俺の眼に映っているゴブリンの数は4体だった。しかしそんなことはありえない。森から出て来たのは10体、そして俺が2体倒したから残りは8体になるはず。しかし俺の眼に映っているゴブリンの数は、4体しかいなかった。不気味に感じまたパニックになりそうになったが、俺は一旦自信を落ち着かせて冷静になって考えた。丁度ゴブリンたちもまだ戸惑っているから、少しだが時間はある。

 まず消えた残りの4体は俺の魔法の構えを見て警戒して、後方で待機していたゴブリンたちということはすぐに整理できた。いなくなったゴブリンは、こん棒を持っていた3体と素手が1体だ。どうやら俺があまりにも1体ずつ集中して視野を狭めていたせいで、後方の動きが全く見えていなかったようだ。いつの間にか消えていた。ゴブリンでも死にたくないと思って森に帰ったのだろう。負傷していて尚且つ戦闘に慣れていない俺にとってはありがたい事だ。

 するとここでようやく鳴り続けた風の音が止み、草原は静かになった。同時に俺の耳に気になる音が入ってきた。それは前にいるゴブリンたちによるものではなく、俺の左右からカサカサと草が揺れる音だ。特に左の方が近い。気になった俺はふと、左の音の方へ顔を向けた。するとそこには、横から大回りして俺に向かってきた2体のゴブリンだった。


 いつの間に!?


 反対の音のする方にもすぐさま振り向くと、同様に2体のゴブリンが俺の方へ来ていた。俺はこいつらが消えていた後方のゴブリンたちだと瞬時に理解した。どうやら風の音に紛れて、左右から俺を仕留める作戦のようだ。


 ヤバい、早く魔法を・・・いや、上手くイメージが出来ない!


 俺は近かった左のゴブリンたちに銃口を向けるが、急な出来事に冷静さを失った俺には当然すぐには魔法を発動できなかった。そう自分で察して時、もう俺には考える時間はなかった。もう一度左側を振り向くと、2体のうち1体のゴブリンがその手に持つ斧の間合いにまでつめていた。

 そのゴブリンは気合を込めた奇声を発しながら、上から斧を俺の脳天目掛けて振り下ろす。俺は咄嗟に麻袋を被せた左手で刃先を受け止めた。間一髪斧の刃先は俺には届かなかったが、これは悪手だった。例え少し丈夫な麻袋でもいびつで尖って鋭利なゴブリンの斧には勝てず、斧の刃先は麻袋を破り俺の左手の肉に食い込み血を出した。当然激痛は走ったが、それを気にするほど今の俺には余裕はない。

 斧を受け止める際ゴブリンの力に負け、俺は仰向けになりその上にゴブリンが乗った。ゴブリンは俺の腹の上に座りながら俺に当てようと片手から両手で上から斧に力を入れ、俺も両手で正面から対抗する。しかし非力な俺にとってはこの抵抗も時間の問題だ。立ち位置の問題もあり、この状態の維持すら難しくやがて俺の力は尽きる。しかも周りには左右から来た3体のゴブリンですでに囲まれており、自分たちの勝利を確信したのか上に乗っている仲間を手伝わずにその場で跳ねながら応援するように踊っている。例えこいつをどうにかしたとしても、後の3体をうまくさばくことなど俺には思いつかない。

 絶望的な状況に、俺は涙目になってしまった。しかしここでふと、俺の視線は顔の前にあるゴブリンから横に向けた。その視線先には、最初に倒したゴブリンの剣があった。それを見た俺は微かな希望が見えた。しかし俺の両手をふさがっている。片手でも一瞬でも片手を外すと間違いなく斧は当たる。どうにかしてゴブリンの力を抜けさす方法が必要だ。


 左手いてぇ・・・ヤバい、どうすれば・・・そうだ、あれを使えば!


 この状況で俺の脳内は打開策を導き出した。俺は斧を受け止めたままの右手を、人差し指と中指をゴブリンの顔に向けてねじり、ある魔法を発動した。それはいつも使っていており、『アクア・ピストル』よりイメージがし易い魔法だった。


【水魔法:リ・シャワー】


 ねじった2つの指の間からいま俺が出せる最高圧のシャワー状の水が、上に乗っているゴブリンの顔に目掛けて噴出した。水がゴブリンの眼に入ったおかげで、ゴブリンは斧から両手を離して自分の顔を覆った。


 今だッ!!


 ゴブリンが離した瞬間、俺はすかさず横にある剣を手に取り、ゴブリンのがら空きになった首に目掛けて力一杯横振りをする。剣は風を切る音を鳴らした後、今まで聞いたことない鈍い音を出す。剣は俺の狙い通り、顔を抑えているゴブリンの左手と一緒にその首へ深く刺さった。上に乗っているゴブリンは一瞬の奇声を上げると、剣が刺さったまま横へ倒れこんだ。俺は剣を使って軽くなった身体を起して上げた。

 周りを見てみると、さっきまで楽しそうに踊っていた3体のゴブリンたちが嘘の様に静かに固まっていた。その表情は今日見た一番の驚いた顔だった。こんな状況じゃなきゃ俺でも笑っていた位に驚いていた。次に倒したゴブリンを見ると、その身体は大きくビックンビックンと震えて僅かに生きていた。そんなゴブリンの姿を見たせいか、それとも死に直面したせいか、俺の心は自分で気付いていないが、何かが変わった。

 俺は刺さった剣の上に左足を乗せて、ゆっくりと体重を加えて剣を更に深く突き刺した。ゴブリンの身体の震えは小刻みになり、鈍い音が鳴ると同時に制止した。その瞬間の俺の心は、まさに無であった。もう何も感じていない。今の俺はただ考えていただけ。


 次は・・・アいつ、ダ。殺ッてモ・・・良イよネ・・・?


 そう考えながら、次の攻撃対象のゴブリンをにらんだ。殺気の気付いたゴブリンたちは俺に武器を向け戦闘態勢に入る。少し視線を横に向けると、残りの4体も戦闘態勢で向かって来ていた。7体のゴブリンの顔はとても険しく恐ろしい表情だったが、俺はもう恐怖を感じなかった。俺はゴブリンに刺さった剣を引き抜き、狙いを付けたゴブリンに飛び込もうと左足から強く踏み込んだ。左足からの激痛が走った瞬間、俺の中で何かが変わった。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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