第17話 転生初の問題
諸事情により編集しました。
星暦2029年、夏の43日、火の日、早朝
マーシェナ一家がペレーハ村を出て数年の年月が経った。開拓が遅いペレーハ村に四季が何度も巡るが、その景色は一向に変わらない。だけどそれもまたこの村の1つのいい所なんだろう。マーシェナ一家が住んでいた家に新たな家族が住み始め、村はまた前と同じ日々が流れる。小さかった村の子供たちはすくすく育ち、今では大半が村を出て仕事をし、残りは村で家業を継いでいる。ちなみに俺は後者。花たちの世話が年々楽しくなり魔法よりも好きになった。引きこもりの俺にとって花屋は天職だった。今年で17歳になった俺は今日も庭にて花たちの世話をしている。何度見ても飽きないその色彩にいつも俺の心を和ませる。
・・・今日もきれい。
ガチャッ
「アスタ~。そろそろお店を開けるわよ~。」
「分かりました。今 行きます。」
庭の出入りに使う扉から母さんが呼びかけ、それに応じて俺は家に戻り花屋の開店の準備を始める。準備はいつも同じで、まず庭に置いてある花瓶を数十個持ち運びお店の商品棚に置き、その花瓶の前に値札を置いて、最後にお店の戸を開けて店内の床を箒で掃いたら終わり。ここまでの流れが終わって初めてうちは開店する。開店すると俺はいつも通りお客が来るまでまた箒で店前を掃除し、商品の並べている花たちに水をやり、雑巾で台などを拭く。これ全部が俺1人の仕事である。母さんは俺の昼食の時に代わりに店番をしてくれるが、基本店にはあまりか顔を出さない。朝は俺の代わりに庭の花たちの手入れをし、昼過ぎから食材の買い出しに行く。これがこの店のやり方である。来店するお客の人数は日によって違う。40人以上来店してきたらいい方、少なくて10人ぐらい。この村で花屋はうちだけのせいか、うちの花は人気があり観賞用として住民のほとんどが買い寄って来てくれる。5年前近くに住んでいたナエナちゃんのお母さんもよくうちの花を買ってくれた。稼ぎが安定した家業ではないが家族2人で暮らすには十分だった。
おっと、大切なことを言うのを忘れていた。なんとこの俺アスタ・サーネスは、去年にて『花屋サーネス』の店長になりました!
去年、俺の仕事ぶりに評価して父さんが俺に花屋サーネスの店長の座を譲ってくれたのだ。これは素直に嬉しかった。誰かに評価してもらえるのはだれでも嬉しいもんだ。そして俺にここの店長を任せた父さんは、近くの街で新たな店を建てて出稼ぎをして頑張っている。いわゆる単身赴任である。高年者になった時のために今のうちにお金を稼ぎたいという動機らしい。その売り上げはうちの倍以上。ここの土を数十キロ分を街に持って行ったおかげか、花の養殖にうまくいっているそうだ。去年唐突な家族会議で出稼ぎに出ると聞いた時は驚いたが、ちゃんとした正論に俺は反対しなかった。むしろ父さんを心底応援した。当然母さんも反対はしなかったが、一方で別の心配していた。
「・・・浮気をしたらどうなるか・・・分かっているよね?」
何故に浮気の疑い!?
その迫力ある表情と言い方に、男2人は氷魔法を食らったかのように背筋が凍り固まる。父さんはすぐさま首を縦に振り、俺は心の中で何度も“ヤバいヤバい!”と連呼した。あの時立派な体格をしている父さんが小さく見えた。
優しい母さんでもあんな顔するんだな・・・。
怒らせないようにしよう。母さんのあの迫力のせいか1週間に1回に家に届く、その花屋の売り上げの資料の封筒の中に父さんから母さん宛の手紙が毎回入っている。内容は見たことないがおそらく浮気してないという証言のつもりだろう。母さんはその手紙を読むと嬉しそうに微笑みながら大切そうに一通一通両親の部屋に保管している。一度だけ手紙の内容を見たことがある。それは母さんへの愛のポエムだった。母さんはそれを読む度に浮気を疑ったことへの罪悪感を抱きながら、嬉しそうに手紙を読む。結局は仲の良い夫婦ということ。
◇
開店して1時間ぐらい経つと、近所に住む3人の奥様方が来店してくれた。俺は店員として接客をする。
「いらっしゃいませ。」
「おはようアスタくん。いつものお花ちょうだい。」
「分かりました。」
この人たちはうちの常連でいつも観賞用の花を買ってくれる。何でも足腰の悪いお爺ちゃんお婆ちゃんがいるらしく、その人たちのために花を用意しているらしい。年寄りを大切にする良い人たちである。
「あ、そうそうアスタくん!実はあたしの家の近くに住むチョーダさんのとこの奥さんが・・・。」
「・・・えっ、本当ですか!?」
そして何より話がとても面白い。奥さん特有なのかその口実は何度耳に入っても飽きずに立って聞いていられる。内容は世間的にあまりよろしくはないが、ついつい楽しく聞いてしまう。そのおかげか俺のコミュ障も徐々に治り、今はまだ初対面とはキリキリと話せないがまだマシな方になった。まさか奥様方によって治せるとは思ってもいなかった。俺は店内で奥様方と愉快な話で盛り上がった。
「あ、そうそう!この前うちの主人がおかしなことを言っていたのよ!」
3人のうち1人の奥さんがとある話題を持ち出した。
「おかしなことですか?」
「そうなのよ!昨日主人が草原に出る門の門番している時に、遠く離れていてよく見えなかったらしいけど、草原にゴブリンの姿が見たって言っていたのよ!」
「草原にゴブリン・・・!?」
奧さんの話に耳を疑った。確かにおかしな話だ。奥さんが言う草原に出れる門の西門は、魔獣が近寄れない魔除けの効果がある魔石を門に埋め込まれている。魔石はかなりの年季ものだがその効果は草原全体までおよぶ。俺は子供の頃その草原によく遊びに行ったが、ゴブリンどころか普通の動物さえ見たことはない。だから草原にゴブリンが出るなんてありえ・・・ん“魔獣”?俺は頭の中に何か引っかかり奥さんと話しを続ける。
「・・・そのことを村長には?」
「や~ね、言えるわけないでしょう!そんなのうちの旦那の見間違いに決まっているわよ!そんなことでいちいち村長に言えないわ!うちの主人も村長に言おうとしたから力ずくで止めてやったわ!」
そう言いながら奥さんは大きく笑う。それにつられて他の2人も“ですよね~”と続いて笑う。3人の奥様方が笑っている一方で俺は手を口元に置いて一人考えていた。こうして奥様方はゴブリンの話題を気にもせず次の話題に移り、店内で大いに盛り上がった後に商品を持って店を出た。
・・・まさかな。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」
「またね~。」
3人の奥様方は楽しそうに話しながら帰る。そしてまた新たな客がやって来た。
「いらっしゃいませ。」
「おはよう、アスタくん。・・・今日はこの花を貰おうかしら。」
「ありがとうございます。この花ですね?」
俺は何事もなかったかのように平常心で接客をする。しかしその脳内はさきのゴブリンの話題を考えていた。
ゴブリン、ゴブリンかぁ・・・。まあ俺はただの花屋の店長・・・本当だとしても何もできない。・・・ダメだ、今は店に集中しよう。
接客の笑顔と同時に俺はその話題を考えるのを一旦やめた。
◇
昼食の時間になり俺は店番を母さんと交代し1人台所でご飯を食べて、そしてまた店番をし、いつもと同じように接客をして商品を渡す。毎日やっていることに慣れたせいか時間はあっという間に過ぎ、掃除しようと店の外に出ると太陽は沈み始め空は赤くなっていた。
「ん~~~。今日も終わったか。」
そんな太陽を見ながら俺は大きく背伸びをする。一息ついて俺は閉店の準備を始める。店の戸を閉めて、花を庭に戻して、最後に今日の売り上げの資料を持って家に戻った。
家に戻ると風呂に入り、母さんが作ってくれた夕食を食べ、そしていつも父さんがしていたように売り上げの計算をする。もちろんこれも店長である俺の仕事である。前世の義務教育のおかげで足し算掛け算はこの世界でも役に立っている。この世界で初めてペンを持った時は自分でも何を書いているのか分からないぐらい字が汚くいびつだったが、今では毎日書いているおかげですらすらときれいな字で書けるようになった。計算が終わると俺は資料を持って母さんに“おやすみなさい”と言って階段を上り自室に戻った。
ガチャッ
自室に入ると持って上がった資料を机に置き、ベッドに腰を掛け遠くを見つめるように窓の外を見た。外はもう暗いが、他の家と月の光がその暗さの中で光を放していた。そんな景色を見ながら俺はとある事を考えていた。
あの草原にゴブリンが出現した。俺はいまだに今朝のことを引きつっていた。この村に生まれてから約17年、ゴブリンどころか魔獣が出現した話なんて聞いたことはない。どうしても気になりベッドから立ち上がって、屋根裏に戻し忘れて机の上に置いてあるモンスターに関する本を手に取り開いた。
ペラペラペラペラ~
・・・やっぱり!?ゴブリンは魔獣じゃなくて・・・魔物!
十数ページ開くとゴブリンに関するページが見つかりそれを読むと、俺の予想が的中した。
モンスターは大きく魔物と魔獣に分けられている。モンスターという種類では同類だけど、人型と獣型とで全くの別者。だから魔獣に有効な魔除け魔石も、魔物のゴブリンには効かない。魔物とはほぼ無縁なこの村だから、あの奥様方が知らなくても仕方がない。最近あまりの平和で忘れていたが草原の奥には魔物が住む深い森がある。普段は俺たち人族に恐れて出てこないはず。だけどもし、本当に草原にゴブリンが出たなら大問題だ。
この村にいる住民はみんな農民。明らかな非戦闘員である。しかも本によればゴブリンは単体で行動しない。最低でも5,6人の集団で狩りをする。つまり1体いるということは少なくとも近くに4体はいるということ。もし草原に遊びに行った村の住民が襲われでもしたら。俺は最悪な未来を想像してしまい、本を机の上に戻しまたベッドに座り込み頭を抱えて対策を考える。
誰かに相談する・・・信じてもらえるだろうか?いや、本当にその門番さんの勘違いだったかもしれないし・・・。だけど万が一本当だとしたら・・・。ってか何でゴブリンが急に森から出てきたんだ。いや、それは考えてもしょうがない。そもそも俺が考えて何かできるのか・・・。
俺は懸命に考えるがその考える意味さえも自分で否定してしまう。自分も農民だと再確認してさらに考えを続けた。
怖いことは嫌だ・・・でも村の誰かが傷つくのも嫌だ!だけど俺に・・・できることなんて・・・。
俺はふと拳銃の形にした自分の右手を見ながら自分にできることを1つ見つけた。しかしそれを実行しようとする勇気は俺にはなかった。口の中を力いっぱい噛み締め、左手で自分の右手首を力強く握り、そして苦悩する。確証が無いゴブリンの話題に、俺は振り回され続ける。他の家の光が徐々に無くなっていき、最後は月の光だけが村を照らした。眠れない夜に俺は1人考え続ける。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。
投稿が遅くなり誠に申し訳ございませんでした。




