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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第1章 アスタ・サーネス
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第16話 残るアスタ、旅立つナエナ

諸事情により編集しました。

星暦2024年、冬の83日、火の日、早朝


 太陽が天高く昇り続ける中、マーシェナ家は馬車に荷物を乗せて村を出ようとしていた。ナエナちゃんの先生、俺の両親、村の大人たちなどが荷物運びを手伝い着々と作業が進んでいる。そんな中、俺はナエナちゃんに会う勇気が持てず1人自宅の庭で花たちを見ていた。


 これで・・・最後に・・・。


 1つの鉢に沢山の花が咲いている赤色の花を見ながら考えていた。俺はこの世界に転生した時、第2の人生は後悔したくないって決めた。だから俺はあの女性ひとに似てきたナエナちゃんに恐怖を感じてついて行かないって言った。


 だけど・・・どうして・・・。


 自分が取った行動を振り返り、何故か心を締め付けている。ナエナちゃんの髪の色と同じ色を持つ花を見ながら、この感情を悩まされる。


 これで・・・最後に・・・。もう・・・会えないかもしれない・・・。


 俺の脳裏がナエナちゃんと過ごしてきた日々を映像のように流れ始めた。映っていたナエナちゃんの顔はずっと笑っていた。2日前はお互い食い違ったがそれまで喧嘩は一切しなかった。遊びは体力的にきつかったが正直に言って楽しかった。俺は最初にあの女性ひとに似ていたナエナちゃんに一人勝手に嫌悪していたが、彼女はそんな俺をいつも笑顔で接してくれていた。俺が距離をおいてもナエナちゃんは近づいてくれた。彼女と一緒に送る日々は本当に楽しかった、心から楽しんでいた。そんな彼女との最後かもしれないと考えると、あれが最後の会話だったのだと考えると、俺の眼に一滴の涙が流れる。


 ・・・あれ、涙・・・?


 すぐに片手の袖で涙を拭きとりが、この気持ちは消えなかった。


 ・・・会いたい。会ってもう一度・・・話したい。


 ここに来てこれが本当の後悔だと気づいた。最後に話さなければこの先後悔すると気づいた。庭にある1つの花瓶を持ってナエナちゃんのもとへ向かった。



 北東門に止まっている馬車に、マーシェナ一家の荷物がもうすぐ積み終わろうとしていた。村の住民の協力のおかげで思ったより早く進んでいるようだ。そんな大人たちが作業を進めている中、ナエナちゃんは馬車の横にもたれて1人休憩している。彼女は視線を青空に向けて何かを考えているように見える。

その表情はあの時と同じで暗かった。今の彼女の心境はだれにも理解できなかった。そんな彼女の横から走り寄りながら俺は声をかける。


「・・・ナエナちゃ~ん!」


 突然の声に反応しナエナちゃんは振り向く。その表情は分かりやすいくらい驚いていた。俺がそばに来ると彼女は声をかける。


「・・・おはよう。」


 ナエナちゃんは恐る恐る挨拶をする。2日前のことを気にしているのだろう。今日まで俺たちは合わずに話の決着を付けなかったから仕方がない。俺も挨拶を返すと、お互いなんて言えばいいのか分からず一瞬にして場は静かになる。そんな氷付いた場で勇気を振り絞り俺から声を出した。


「・・・これ・・・。」


「・・・?これ・・・なに?・・・お花?」


 手に持っている花瓶を差し出した。ナエナちゃんは一度疑問に思ったが、それを受け取ってくれた。


「引っ越し祝いのプレゼント・・・。ナエナちゃんと同じ色で綺麗だったから今日のまで育でていたんだ・・・。」


「ッ・・・!」


 花のことを説明すると、彼女は両手で持った花を再確認する。

 マーシェナ一家の引っ越しを季節が冬に入ってから知った俺は、自分の小遣いで様々な花の種を買い集めて育て始めていた。しかし花の知識がまだ浅い俺は急な気温変化や土地環境などによりほとんどの種が死滅させてしまい、残ったのがこの1種だけになってしまった。だけど幸運にもその咲いた花はナエナちゃんと同じ赤色の葉を持っている。プレゼントにぴったりだと考えた俺は今日までしおれないように大切に育でてきた。しかし2日前の件もあり、俺は受け取ってくれるのが不安になり彼女に確認した。


「もし嫌だったら・・・受け取らなくても・・・。」


 確認する中、彼女の顔を恐る恐る見ると、彼女は静かに泣いていた。大粒の涙が1つ2つと次々に彼女の眼から流れる。顔は徐々に赤くなり、涙は止まらない。


「えっ?えっ?えっ?」


 ヤバいヤバいヤバい!?なんで!?どうして!?


 予期しなかった状況に戸惑い焦った。ナエナちゃんの顔は徐々に赤くなりどう対応すればいいのか迷った。脳内はパニックになる。それと同時に1つの感情が出てくる。


 ・・・やっぱり来ない方が良かったのか・・・。


 自分自身に悲観した。理由は分からいないが俺が彼女を泣かせてしまったことにさらに後悔した。すぐにこの場から立ち去りたかった。


「・・っうぅ・・・ありがとう・・・。」


「・・・えっ?」


 彼女は俺にお礼を言った。すぐにその言葉の意味を理解することはできなかった。彼女は泣きながら話し続ける。


「わたし・・・アスタくんに嫌われたと思って・・・ずっと考えていたの!でも・・・アスタくんが・・・プレゼントをくれて・・・すごく・・・嬉しくて!」


 彼女は流している涙の理由を説明してくれた。泣いている子とは思えない程聞き取りやすく説明してくれた。その気持ちを伝えようとする必死さは十分に伝わってきた。彼女は花瓶を片手で持ち換えて、空いた手で涙を拭いた。しかしふき取ってもまた新しい涙が流れ、それをまたふき取ってもまた出てくる動作の繰り返し。嬉し泣きをする彼女を見て心を締め付けていた何かが徐々に弱まっていく。そしておのずと俺の口は開く。


「・・・嫌いになんて思ってないよ。ただこの前のせいで会いに行きづらくて・・・。この前をごめんね。せっかく誘ってくれたのにあんな言い方して・・・。本当にごめん。」


「ううん!私の方こそごめんね!アスタくんの気持ちも考えずに・・・本当に・・・ごめんね!」


 俺、ナエナちゃんの順に互いに誤り、そして互いに許しを得た。彼女の涙は徐々に収まり泣き止もうとしていた。


 俺はいつも遅かった。気付くのがいつも遅かった。気付いた時にはもう後悔していた。それが足かせになって俺の心を苦しめていたんだ。それが嫌だから俺は・・・後悔したくなかったんだ。彼女に会おうとしなかった行為自体がまた新たな後悔をつくることに気付いた俺は、彼女と対面して心底良かった。彼女が泣きながらでも話すその姿を見て、後悔がないようにと勇気を振り絞って右手を前に出す。


「ナエナちゃん・・・おれ村に残るけど応援するよ。学校、頑張ってね・・・!」


「ありがとう・・・わたし、頑張るね!!」


 俺は彼女に握手を求めた。特に理由はない。ただしたかった。不慣れない行動に少し恥ずかしさを感じたが、彼女が笑顔で手を握り返したおかげでそれはすぐになくなった。彼女が笑顔になり、俺も無意識に笑顔になる。心を締め付けていた何かは弱まっていき、そして彼女との握手と同時にそれは無くなった。


 ・・・よかった・・・ほんとうに来てよかった・・・。



 話しが終わった俺たちは一緒に馬車の後方へ戻ると、荷物は全部積み終わっていた。他の人たちに気付かれないように遠回りして彼女に会ったので、誰も俺の存在は知らなかった。当然俺の姿を見た彼女の両親と引っ越しの手伝いに来ていた俺の両親は驚いた。彼女の両親に軽く挨拶し、両親に俺は来た理由を説明した。もちろん彼女を泣かせたことを伏せて。

 ナエナちゃんは自分の母親にもらった花を自慢気に見せている。本当に嬉しかったのだろう。その光景を見た俺の両親は俺を茶化し始める。正直すごく恥ずかしかった。馬車は出発の準備を始めて彼女の両親が村の人たちにお別れの挨拶をする中、彼女は俺の方に駆け寄ってきた。


「ねぇねぇアスタくん。そういえばこの花、何ていう名前なの?」


 彼女は今も大切そうに持っているプレゼントした花の名前を聞いた。まだ言っていなかったから当然の質問。


「えっと・・・ポインセチア・・・だったっけ?」


「ポインセチア・・・。ありがとう・・・覚えとく!」


 歯切れが悪い返答をするがナエナちゃんは気にせず花を見ながらお礼を言う。彼女との会話もこれで本当に終わってしまう。ならもう吹っ切れよう。どうしても気になったことを、最後に彼女に聞く。


「・・・ねえナエナちゃん、1つ聞いてもいい?」


「うん、なに?」


「昨日ナエナちゃんは、俺のこと“優しい”って言ってくれたよね?何で・・・そう思ってくれたの?」


 客観的な自分の評価を気にする俺にとって、昨日のナエナちゃんのこの発言はどうしても気になって仕方がなかった。彼女との関わり合いで特に特別な接し方をしてきたわけでもない。なのに何故彼女のが俺に対してそう判断したのか、どうしても理解できない。

 俺の問いに対してナエナちゃんは、屈託のない笑顔を見せながら答えた。


「えっ?だって、アスタくん、いつも私の遊びに付き合ってくれたじゃん!自分が遊びたいこととか話したいこととか言わずに、いつも私に合わせてくれたし!それにロップさんの事をモンスターと間違えた時、無理して大声で私を止めてくれたよね?だからあの後にね“アスタくんは優しんだなぁ~”って思って!」


 つまり自分の意思を主張せずナエナちゃんの用事に付き合い続けたことで、そういった評価に到ったという事らしい。何とも彼女らしい判断基準だ。ロップさんの件についてはただの俺の判断ミス。傍迷惑この上ない行為だった。

 ナエナちゃんの言葉に納得できてないけど、彼女の判断に、彼女の純粋な言葉に、俺は心が癒されて嬉しかった。


 ちゃんと・・・見てくれていたんだ・・・。


 俺たちが話しているうちに、いつの間にかナエナちゃんの両親が村の人たちに挨拶が終わっていた。それに気付いたナエナちゃんは両親の元へ戻り、一緒に村のみんなに深く一礼をする。それに対し村人たちの応援の声があちらこちら出てきた。本当に好かれた家族だと改めて分かった。

 頭を上げたマーシェナ一家は1人ずつ馬車に乗り込み、出発の準備が終わった。彼女の父親が先頭に座っている御者に合図を送ると、馬車はゆっくりと進み始める。門を越え道なりに沿って馬車は進んで行く。俺たちは離れていく馬車を北東門から手を振って見送った。それに対しマーシェナ一家も馬車の後方から手を振り返してきた。俺とナエナちゃんもお互い手を振り返し続けた。ナエナちゃんは彼女らしくずっと笑顔であった。

 馬車は徐々に速度を上げてただまっすぐ進み、数分後には俺たちの視界から見えなくなった。見送りを終えた村人は1人ずつ門から立ち去り、最後に俺と両親が残った。いつもと同じ北東門から続く道なり景色を俺は見続けた。


「アスタ、そろそろ帰すわよ。」


 母さんに言われた俺は両親とともに家に帰った。走って体が温まって気付かなかったが今になって早朝の寒さを感じ、両手をこすり合わせて俺は考える。


 それにしても・・・何であの花だけが運良く残ったのだろう・・・。偶然か?それとも神様の気遣い?・・・どっちも同じことか。

 それでも・・・あの花でよかった。本当に、よかった・・・。


 あの赤い花がなぜ生き残ったのか今になって疑問に思ったが、結果的にプレゼントした花があれで良かったと心底思っている。

 花屋の仕事を始めるにあたって俺は花言葉を覚えていた。お買い上げのお客様に渡すときに覚えておく必要があるらしい。当然彼女に渡した花の花言葉も知っている。赤いポインセチアの花言葉は“幸運を祈る”。学校もそうだが冒険者になった時の意味を込めて渡した。ナルシストみたいなやり方だけど、これが俺にできる最大の応援。冬を越せが花は枯れてなくなってしまい、彼女は次第に俺のことを忘れていくかもしれない。それでも俺は今日のことに後悔はない。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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