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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第1章 アスタ・サーネス
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第15話 食い違う思い

諸事情により編集しました。

星暦2024年、冬の81日、光の日


 神の恩恵からあっという間に時間が過ぎ去って行った。ここ『ペレーハ村』は相変わらずの発展の遅さのせいか、時の流れが実感できない。だけど2年近く経ったのは間違いない。

 冬の風物詩は何と聞かれたら当然雪なのだが、『ペレーハ村』は他より少し気温が高いせいか雪なんて降っていない。しかしそれでも十分寒い。吐いた息は白くならないが確かな寒さは感じた。日が高くてもそれは変わらなかった。

 洗礼の日で帰ってきた俺は家業を手伝うようになった。庭の花たちの土の手入れ、店前の掃除、店番、都市に委託する花の選別、売上や出費の計算など、この2年間詰め込みで覚えた。懸命に頑張った甲斐あって今ではすっかり仕事の板に着き始めた。

 安定したこの生活に好きになった俺は家業を継ぐことを決めて、それを父さんに伝えると“本当にいいのか?自分のやりたいことはないのか?”と、まるで俺に継がせるのを拒んでいるような素振りを見せた。しかし他に夢がない俺にはその問いに対して1つの返答しかなかった。俺が首を縦に振ると、父さんは俺の考えに尊重してくれて、それを承諾してくれた。こうして俺は『花屋サーネス』の次期店長の名をもらった。だけど父さんもまだまだ現役で若い、店長になれるのは当分 先になるだろう。

 昼食を済めせて母さんが編んでくれた手袋とマフラーを着て、今日も庭の花たちの様子を見ていた。傷んでいないか、害虫はいないかと、色とりどりに咲く花たちを手探りしながら見て回った。屋根裏の本をすべて読み終わった俺にとってこれが俺の新しい日課である。休日でもそれは変わらない。


・・・今日も問題なし、と。まだまだ寒さは続くけど頑張って。


 木と土の魔石を使っているせいか、それとも環境がいいのか、前世の世界では見られないくらいここの花たちは綺麗に育ってくれている。片膝立ちになり、花を触りながら心の中で応援した。自分の日々の努力が報われ、俺は自宅の庭で1人 頬が緩んで笑っていた。


「アスタくん!」


 低い姿勢で花たちを見ている中、後ろから聞き覚えのある女の子の声が俺を呼んだ。振り返ると、庭に入って来れないように建てられてあるフェイスの向こう側に、声の主であるナエナちゃんがいた。


「おはよう!」


「おはよう、ナエナちゃん。」


 ナエナちゃんは笑顔で俺に挨拶をした。ゆっくりと立ち上がり挨拶を返えす。俺は膝に着いた土を掃ってナエナちゃんの方に近づき、フェイス越しで会話を始めた。


「どうしたのこんな時間に?引っ越しの準備はもう終わったの?」


「ううん、まだ。意外と荷物が多くて、なかなか終われないんだよぉ。」


 ナエナちゃんの家は2日前から引っ越しの準備を始めている。引っ越し先は『王都バリエンス』という、神の洗礼で行った『王都ウルンスト』よりさらに『ペレーハ村』から離れた場所である。引っ越す理由はナエナちゃんの学校に通うため。

 『王都バリエンス』には冒険者になって生き抜くための知識や実力を身に着けるための教育所、つまり学校がある。冒険者を目指すナエナちゃんは、12歳になって学校に入れるようになったので家族と一緒に行くことになった。だから今も着々と引っ越しを進めている。


「・・・ん?じゃあナエナちゃん、何でここにいるの?」


「・・・サボっちゃった!」


 いい笑顔で返答した。俺は呆れた表情でナエナちゃんの顔を見て返した。


「流石に駄目でしょ。出発は明後日だっけ?今すぐに帰ったら。何だったら手伝いに行こうか?」


「ウソウソウソ!ママがあとは大丈夫だから遊んできてもいいって!」


 なにをそんなに焦っているのか、ナエナちゃんは必死に訂正してきた。両手でフェイスをつかみながら首を横に振るその姿が意外に面白く、不意に笑ってしまった。そんな俺を見てナエナちゃんも笑った。


「ねぇねぇ、アスタくん。この後・・・暇?」


 笑い終わるとナエナちゃんはいきなり話題を変えてきた。どうしたのだろうと思いつつ、花屋は休みだから特に予定はないことを伝えた。


「じゃあさ、ちょっと草原に・・・行かない?」


 それを聞くとナエナちゃんは提案を出した。ナエナちゃんらしくない、もぞもぞとした素振りに俺は少し戸惑った。その表情は何故か少し暗い。提案よりお願いされている気持ちだ。最後の思い出に話がしたいのだろうか。


「いいよ。道具の後片付けが終わったら一緒に行こう。」


「ほんとう!?ありがとう!じゃあアスタ家の前で待っているね!」


 承諾してくれたのがそんなに嬉しかったのか、暗かった顔が一気に明るくなり、自分の言葉だけ言って俺の家の玄関前に走り向かった。その様子を“あはは”と顔をひきつって笑った。いつもと同じようで、何かが違うナエナちゃんに、俺は不確かな疑問を感じた。


 ・・・気のせいか?


 深く考えようとはしなかった。待たせるわけにはいかないと考えた俺は家に入り、すぐに支度を済ませて両親にナエナちゃんと外出することを伝える。今日の分の仕事も終わらしたので特に問題はなく外出の許可をもらえた。支度を終えて自宅の扉を開けて外に出ると、目の前にナエナちゃんが待っていた。


ガチャッ


「ごめん。着替えていて少し遅くなった。」


「ううん、全然いいよ!じゃあ行こう!」


 待たせたと思った俺はナエナちゃんに謝罪するが、ナエナちゃんはまったく気にしていなかった。そしてナエナちゃんの声の後に俺たちは草原に出る村の西門へ走って向かった。



 12歳になって身長がやや伸び、昔と比べ西門まで駆け足で向かってもそこまで苦ではなくなった。今日の門番に軽く挨拶した後 西門を出て、俺たちは草原に着いた。ここもずっと変わっていない。寒さのせいで今日も人はいないが、俺たちが遊んだ草原に変わりはない。

 俺たちは草原の中で一番高い場所に向かった。そう昔 ナエナちゃんがよく転がって下り始めたあそこである。仕事をしていたせいかそこそこ体力があった俺は、走るナエナちゃんの後をついて行くことができた。そして目的地に着いた。


「う~~ん、着いたぁ!ここに来るの久しぶりだね!」


「そうだね。」


 軽く背伸びしてナエナちゃんが言うと、俺はその景色を見ながら返答した。確かに久しぶりであった。俺が家業に手伝い始めてからナエナちゃんは気を遣って昔みたいに気軽に俺を誘えなくなった。草原じたい来るのは2年ぶりだ。草原の奥からくる風が草と俺たちの髪を揺らし、その寒さを感じる中 俺たちはその場に座り、視線を草原に向けながら会話を始めた。


「そういえばさぁ。」


「なに?」


「ナエナちゃんは6年間ずっと王都に住むんだよね?」


「うん、そうだよ・・・。」


「てことはやっぱり卒業したら王都で冒険者の仕事を受けるの?」


「・・・うん、そうしようかなって。」


「先のことまで考えているなんて、やっぱりナエナちゃんはすごいね。」


「・・・ありがとう。」


「じゃあ今日でこの草原も、ペレーハ村ともお別れか。少し寂しくなるね。」


「・・・うん。」


 質問に対してナエナちゃんは歯切れの悪い返答をする。話題の食いつきの悪さに困った俺は最後に少し意地悪なことを言うと、少し間を空いてからナエナちゃんは返答した。そのナエナちゃんの顔は何かを考えているように見えた。


 やっぱり寂しいだろうな・・・そりゃそうか。生まれてからずっと住んできた村なんだから。でもここから王都までかなりの距離がある、簡単に来ようとは思えない。少し俺の偏見になるけど、都会の王都で1年以上も暮らしたら、またこの村に戻ってこようとは思わなくなるだろうな。


 晴天で一段と明るく見える草原に心が揺らいだのか、俺はナエナちゃんの心中に察しようとした。だけどナエナちゃんの考えていることは、当然 俺には理解できなかった。するとここでナエナちゃんの口が動き始めた。


「ねぇ・・・アスタくん・・・。」


「なに?」


 呼びかけに俺はナエナちゃんの方に向いた。応答したが、珍しくナエナちゃんはうまく言い出せなかった。1回目線を下げるも勇気を振り絞ったのか、俺との視線を合わせて話した。


「私とね・・・一緒に学校に行かない?」


「・・・ッ!?」


 ナエナちゃんから思いもよらない誘いが来た。予想していなかった提案に驚きを隠せなかった。俺はいったん自分を落ち着かせて返答した。


「・・・なんで?」


「私・・・アスタくんと一緒に冒険者になりたいの!2人で冒険したいの!一緒に色んな所に行って、一緒に色んな食べ物食べて、一緒にモンスターと戦いたい!アスタくんは頭もいいし、計算もできるし、私の火とアスタくんの水は相性いいし、一緒にいても楽しいし、なにより・・・優しいから!だから・・・お願い?」


 ナエナちゃんは真剣な表情で説得をする。最初はらしくない冗談かと思ったけど、大きく見開く彼女の瞳でその言葉は本心だとすぐに気付いた。それと同時に俺の心は微かに揺らぎ始めた。彼女の中で俺はどういった人物像なのか少し気になるセリフを吐いたけど、そんなこと気にしない程に彼女からの誘いが嬉しかった。

 しかしすぐに応じることはできない。何故なら問題が多々あるから。動揺を隠して冷静に返答をする。


「・・・お金は?学校に入学するには確かかなり大金が必要なはずだったよね?そんなのすぐには用意できないよ?」


「貸してあげる!私の家、結構余裕があるってパパが言っていたもん。アスタくんは嫌かもしれないけど、アスタくんが冒険者になった時に返してくれればいい!」


「・・・数年前に出会ったロップさん、覚えているよね?俺、あの人に魔力量が少ないって言われたんだよ?それだと魔法だって使えない、魔法が使えないなんて冒険者にはなれないんじゃないの?」


「そんなことない!アスタくんだって頑張れば色んな魔法が使えるようになるよ!それにもし魔法がつかえなくても、学校で武器や色んなことを勉強すれば冒険者になれるよ!」


「・・・俺、臆病だよ?怖くて逃げだすよ?」


「それは私も一緒!本当はモンスターと戦うのはちょっぴし怖いけど、一緒に克服していこうよ!私たち・・・ううん、アスタくんならできるよ!」


 問題点を次々と出していくが、ナエナちゃんはテンポよく打開策を続いて出した。この即答、恐らく前もって考えていたのだろう。彼女は彼女なりに館が続けて来たのだろう。


 正直に言って・・・うれしい。俺なんかのためにそんなに必死になってくれるなんて。


 前世を含めて精神年齢32歳、俺は誰かに求められるこの感情を始めて実感している。ナエナちゃんの悪意の無いこの誘いに、俺は純粋に嬉しかった。だけど俺は揺らいだ心を落ち着かせ返答した。


「ありがとう・・・でも、ごめん。俺、やっぱり冒険者にはなりたくないかな。」


「・・・ッ!?・・・どうして?」


 ナエナちゃん驚いた顔を見せた後、理由を問いかけるが俺は何も返答しなかった。そしてまたナエナちゃんの顔は暗い表情へと変わる。


 前世で俺が好意を寄せたあの女性ひとと同じ容姿を持つナエナちゃん、間違いなく大きくなったら俺がよく知っている女性ひとと同じ顔になるだろう・・・でも、ナエナちゃんはあの女性ひとではない、1人の人物。ナエナちゃんとは10年以上の付き合いで俺はもうそのことは理解している。ナエナちゃんが女性ひとのように俺を嫌うことはないかもしれない。だけど万が一、将来ナエナちゃんがあの女性ひとの様になったら・・・。

 今でも女性ひとが言っていた言葉は鮮明に覚えている。転生した今でもだ。もしナエナちゃんに同じことを言われ思われたら・・・俺はもう2度と・・・だれも信用できなくなる・・・!


 これが俺の断る一番の理由だ。誰にも理解はできない自分勝手なわがままな理由がナエナちゃんの誘いを断る。俺たちは各々の気持ちを整理し考え、風がやんだこの時間はただただ沈黙であった。草原で2人して暗い表情になり、目線を合わせなかった。


「・・・じゃあ、アスタくんは何になりたいの。」


 沈黙の間に耐え切れなかったのか、ナエナちゃんは俺に質問した。それに返答しようと俺はナエナちゃんの目線を合わせて言った。虚偽はしない。真意で答えてくれたナエナちゃんに対し嘘は言えなかった。


「・・・今はない。」


「それじゃあ私と一緒に・・・。」


「でもいやだッ!」


「・・・ッ!?・・・分かったよ、もぉ・・・。」


 俺が珍しく自分の意見を強く言い放っつと、ナエナちゃんは呆然となりその口を閉じた。彼女からの誘いをちゃんとした理由を言えずに一方的に断り続けた挙句、優しく接しくくれたのに怒鳴り声を上げてしまう。神の恩恵の時とは比べるまでもなく、確実に嫌われてしまった。


 ・・・ごめんね。本当に、ごめんね・・・。


 口で言う勇気がない俺は心の中で深く謝罪した。当然ナエナちゃんには聞こえるはずもなく、その思いは静かに無へと帰る。

 会話を終了させた俺たちは黙り込み、時間だけがただ過ぎていった。風に当たったせいで体は冷えてしまい、俺たちはしばらくして村に戻った。しかし帰る道中、俺たちは一言も話さなかった。そしていつもと同じ場所で別れて各々の家に帰った。いつもはナエナちゃんが“バイバイ”と言ってくれるが、今日はそれがなかった。俺は自分の意思を伝えたことに間違ってはいないと思い続けるけど、心のどこかで何故か後悔していた。



 こうして話の決着がつかないまま2日の時があっという間に過ぎ、早朝、マーシェナ一家が引っ越しの時が来た。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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