第10話 神の恩恵
諸事情により編集しました。
旧タイトル“神の洗礼”
宿屋を出た俺と母さんは道なりに沿って教会へ向かっていた。流石は王都なだけであって道幅が広く、中央に綺麗な緑色の葉っぱを咲かせた街路樹が生えている。そして建物もすごい。外見は俺の村は木製に対し、王都はほとんどがレンガやセメントで建てられている。王都に着いた時から俺はその建築物を見て驚いた。
意外とこの世界の建築技術は発達しているんだなぁ。逆に俺の村はどんだけ田舎なんだよ・・・。
ペレーハ村から王都まで馬車で約3日。夜は経由して通る街町で泊まってようやく着いた。最端の村だけあってその道のりは遠く長かった。自分の村の発展の遅さに少し落ち込んだ。
◇
しばらく歩くと俺たち以外に教会へ向かう親子がちらほらと見え始めてきた。当然全員正装している。楽しみなのか無邪気に笑っている子もおれば、緊張してカチコチになっている子もいる。俺の同類だ。パッと見は人族しかいなかった。
ん・・・あれ?あの人たち・・・人族じゃない!?初めて見たけど本で知っている、確か・・・鬼人族だ!
額に角が生えたその親子は少し先の曲がり角を曲がって視界から外れた。俺たちもその曲がり角を曲がると、そこには他種族の親子たちが多くいた。種族も髪色も様々だった。
ヤバい、さすが王都!昨日王都に着いたのが夜だったから気付かなかったけど、こんなにたくさんの種族が住んでいたんだ!あっ、ウサギ耳の女の子、獣人族!あっちの男の子・・・変わった耳の形をしているけど・・・妖精族か!
俺は歩きながら他種族の親子を見ていた。失礼だと分かっているがどうしても見てしまう。田舎者のように他の人の顔を見ながら歩いていると、隣にいる母さんがその場に止まってある建物に指をさした。
「アスタ、着いたわよ。」
「・・・え?」
その指した建物は、俺が想像していた教会をはるかに超える巨大な建造物だった。これが今日神の恩恵を受ける教会だそうだ。その大きさは教会よりのまるで神殿。朝日のせいか、その教会は一段と神々しく感じる。
デ、デカい・・・!?えっ、ここなの!?
その予想を超える大きさに呆然としていた。そんな俺を置いて次々と他の子供たちがその教会の中へと入って行った。
「・・・アスタどうしたの?緊張しているの?」
はい・・・今・・・緊張し始めました。
立ち止まった俺が気になり母さんは声をかけてくれた。自分が思っていた以上の規模の大きさに気付いた俺は教会が見える所で足が固まった。緊張して口も動かず、ただ立ち止まっていた。
「アスタくん~!おはよぉ~!」
教会を見上げている中、聞き覚えのある声が耳に入った。目線を教会の扉付近に運ぶと、そこには少し身長が伸びたナエナちゃんがいた。その隣にナエナちゃんのお母さんもいた。
「あら、ナエナちゃんじゃない!アスタ、ナエナちゃんの所に行きましょう。」
そういうと母さんがナエナちゃんたちの方へ歩き出した。母さんを追いかけようと意識すると、足が動いきだした。緊張して固まっていた足が動き自分自身でも驚いた。
さっきまで動けなかったのに何で・・・。ナエナちゃんのおかげで緊張がほぐれた・・・?
「お~い、アスタくん!速く速く~!」
ナエナちゃんは急がせた。とりあえず考えるのをやめて動けるようになった足でナエナちゃんの方へ歩き出した。
「・・・おはよう、ナエナちゃん。」
「おはよう!やっと来たね、洗礼の日!」
俺たちは軽く挨拶をした。ナエナちゃんは予想通りはしゃいでいる。
「サーネスさん、おはようございます。せっかくなので一緒に座りませんか?」
「あら、いいですね!2人もいいよね?」
ナエナちゃんのお母さんの提案を聞いた母さんは俺たちに確認のため聞いてきた。
「うん!」
「はい。」
断る理由はなく俺たちは承諾した。多分昔の俺ならナエナちゃんが近くにいるのをためらっていたが、少し慣れたせいか大きくなった今のナエナちゃんを見ても緊張しなくなってきた。
「アスタくん、隣同士で座ろう!」
流石にそれはまだ無理・・・。
ナエナちゃんはいい笑顔で提案してきた。自分の意思を相手に伝える勇気がなく半ば強引に隣同士に座ることになった。
◇
教会に入ると中央に赤いカーペットが敷いており、その横にいくつもの木製の長い椅子が置いてある。ナエナちゃんのお母さん、ナエナちゃん、俺、母さんの順に席に座り、神の恩恵の始まりを待っていた。他の子供たちも今か今かと待ちわびている。意外にも他種族同士で話している。俺やナエナちゃんのように友人同士なのだろう。しばらくすると教会内の一番奥にある祭壇の前に神父らしい人が現れた。
「そろそろかなぁ!」
小声で感情が漏れ出るナエナちゃん。その目は子供の様に輝いていた。まだ子供だけど。神父の存在に気付いた他の子供たちは口を止めて、教会内は一瞬で沈黙と化した。
「王都ウルンストに集いし若人たちよ、まずはおめでとうございます。こうして無事にこの場に来れたことに、神に感謝をしましょう。こうしてここにいる他の者と出会えたことに、神に感謝をしましょう。汝らは今日をもってそれぞれの種族の一人前になり、更にここから成長できます。しかし一人前になるということは・・・。」
神父はよくある演説を長々としゃべり続けた。俺は途中から話しを聞き流してボーっと前を見ていた。そんな俺に対し隣のナエナちゃんは熱心に神父の話を聞いていた。
意外とまじめだなぁ・・・。まあ楽しみにしていたんだからそれもそうか。それにしても長いな。前世の学校の朝礼並みに長い。しかもこの椅子くっしょんがないからお尻が痛くなる・・・。こんなに座ってきついって思ったのは高校の卒業式以来だな。
「・・・ます。神々はいつも汝らを見守っています。それだけは忘れないように。さあ、若人たちよ、恩恵の時間です。1人ずつ私の前に。」
ようやく話が終わり、神父は祭壇からを降りてきた。その一言が終わると、次々と子供たちが赤いカーペットに出て神父の前に並び始めた。そして神父は先頭の子供から順に洗礼を始めた。
みんなはしゃいでいるなぁ・・・ナエナちゃんみたい。いや、普通の子供ならこんなものか。
「ほら、2人も早く行きなさい。」
「うん!アスタくん、行こう!」
「え、ちょっ!?」
ナエナちゃんのお母さんが言うと、ナエナちゃんは俺の手首をつかみ列に並ぼうとした。だけどすでにそれは長蛇の列になっており、俺たちの順番はだいぶ後になった。
「アスタくん、どっちが先にする?」
「俺はどっちでもいいよ。」
「じゃあ・・・私が先でいい?」
「うん。」
予想していた返答を受け入れ、ナエナちゃん、俺と順に並んだ。俺は頭を列の横に出し、その長蛇を眺めて思った。
しかし意外と多いんだな・・・。確かウエスト大陸の5つの王都が同時にしているんだっけ?
ウエスト大陸の王都は全部で5つあり、それぞれの距離がかなり離れており各王都に近い住民がその王都に行き洗礼を行う。俺たちの場合は1番近かったのがここ王都ウルンストだった。近くじゃないといけないという決まりはないが、他の王都に向かうと余計に時間がかかるからよほどの理由がない限りは行かない。
◇
しばらくするとようやく順番はナエナちゃんの前の妖精族の子の番になった。
「はい、これを食べて。」
そういうと神父は手に持っている袋から白くて丸いお菓子のような物を取り出し、子供に渡した。本を読んでいた俺はあれが何か知っていた。あれは神菓子と呼ばれ、あれを口から体内に入れることによってあることができようになる。恐らくここにいるほとんどが、そのあることを知っているだろう。
パクッ
子供は神父の言うとおりに神菓子をその場でそれを口の中に入れた。
「はい。もういいよ。」
「はい!」
神父のその言葉を聞いた子供は自分の親の元へ去ると、次はナエナちゃんの番になった。
「はい、これを食べ・・・。」
パクッ
神父はまた袋から神菓子を出してナエナちゃんに渡すと、彼女は神父の言葉を遮るようにすぐさま神菓子を口の中に入れた。普通の子は少し見てから食べるが、彼女は本当に一瞬だった。あまりの速さに神父さんは少し驚いた表情になる。ナエナちゃんの行動を予想していた俺はその神父の表情を見て同情した。
そりゃあ、そんな顔になるよね・・・。神父さん固まっているじゃん。
「・・・え~と、はい。もういいよ。」
「はい!」
固まった神父の口がそう開くと、ナエナちゃんは笑顔で自分の席に走り出した。
「また後でね。」
ナエナちゃんは去り際にそう言ったのに対して俺は軽くうなずく。彼女が離れると一歩前に前進して、ついに俺の番がきた。
「はい、これを食べて。」
神父はまた同じように袋から神菓子を出して俺に手渡した。俺はそれを受け取ると、物珍しそうに観察する。本の書いていた通りの形だ。少し力を入れたら潰れそうだ。あまり長々といると後方の子たちに迷惑だから観察はここまでにして、神菓子を口に入れる。
パクッ
本は味に関することが書いてなかったから少し興味はあったが、実際口にすると味がない。神菓子は俺の舌に乗ると、口の中の水分を少し奪って一瞬で無くなった。
・・・本当に味がない。口の中の水分を持ってかれた・・・小麦粉みたい。何で本に書いてなかったのか何となく分かった。
「はい。もういいよ。」
「・・・はい。」
神父のその声を聞いて一礼してから母さんたちが座っている席に戻った。
「アスタ、おつかれ。あれ美味しかった?」
「・・・全然味がしません。むしろのどが渇きました。」
「ふふ、でしょうね。」
俺の返答に母さんは小さく笑う。そして俺の後ろに並んでいた他の子供たちの洗礼はまだ続き、それを終わるのを座って待っていた。
◇
しばらくしてようやく最後の子の洗礼が終わった。神父は祭壇に戻り終わりの言葉を話す。
「ここに集いし若人たちよ、これで汝らも一人前である。さあ、今日から汝らだけの旅が始まります。汝らに神のご加護があらんことを。」
カーン、カーン
神父の言葉が終わると同時に教会の鐘が大きく鳴った。前もって練習していたのかってぐらいのタイミングだった。どうやら終わったようだ。鐘の音を聞いて椅子に座っていた者は次々と立ち上がり、教会から出て行った。俺らもその流れに乗じて外へ出た。
「う~~ん、やっと終わったね!」
俺も今日はナエナちゃんに同感できる。意外と疲れたな・・・。
外に出るとナエナちゃんは背筋を伸ばす。続いて俺も同じように背筋を伸ばした。教会の前だと他の人の邪魔だと考えた俺たちは、一旦それぞれの宿屋に戻ってからどこか一緒に昼食をしようと話した。そして俺と母さん、ナエナちゃん親子は教会の前で別れた。
◇
宿屋に戻った俺たちは、部屋で着替えようとしていた。ようやく肩ぐるしい正装から解放される。俺はすぐにベッドの上に服を脱ぎ捨てて普段着に着替える。準備を終えて母さんの方へ振り向くと、母さんは自分のベッドの上に様々な色彩の服を並べ始めた。その服は全く見たことがないものばかりだ。
「・・・母さん、これは?」
「せっかく王都に来たんだからオシャレしなきゃ!」
母さんはそう言いながら妙に張り切って自分の服を選び始める。楽しそうな表情だ。どうやら昨晩俺を置いて王都で買い物した時に勝ってきた服のようだ。
そういえば王都って貴族とかも住んでいるんだっけ?小説だと傲慢な人が多いってイメージだけど、この世界だとどうなんだろう?もしそうならきっとこの服で外に出ると“田舎者”って言われて笑われるだろうなぁ。せっかくの王都なのにそれは嫌だな。・・・仕方がない、俺もこれを着るか。
普段着から着替えてまたさっきまで着ていた服に着替えなおした。
◇
「う~ん、どれにしようかしら・・・。」
着替え終わった俺は母さんの服選びを持っていた。女の身支度が長いとはこのこと。正直どれを着ても変わらない気がする。だけどそれを口に出すとなんて返答されるのか予想がつかないからここはじっと待っておこう。
「・・・アスタ、ちょっとお母さんお手洗いに行ってくるわね。」
母さんは申し訳ないと言いたそうな表情で部屋から出て行った。ナエナちゃんたちとの待ち合わせまで時間があるから大丈夫だろう。俺はベッドで横になりくつろいでいた。
暇だな・・・。この服、腕の可動範囲狭すぎる。ちょっと肘を上げるだけで少し苦しいし。はぁ~、こんなことなら俺も母さんと一緒に買い物すればよかったのかな。この宿のトイレって確か1階だけだっけ?ここ3階の部屋のからじゃあまだ時間掛かりそうだな。・・・ん、待てよ。今は母さんが見ていない・・・絶好のチャンス!
俺はあることを思い出し、ベッドの上に起き上がって左こぶしを上げ準備をした。それは人に見られてはまずいこと。決していやらしい事ではないが、絶対に見られたくないことだ。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




