第十八話 夏休みの宿題は計画的に行おう
夏休みが終わり、だいたい一ヶ月ぶりの登校となった生徒達の中には、夏という訳でちょっぴり冒険したイメチェンをした者もちらほらと見られる。
思い切って髪を切った者、ちょっと腕を上げたナチュラルなメイクで新たな自分を演出する者、眼鏡を使用するようになった者、逆に外してコンタクトにした者などなど例を挙げればかなりの数になる大小様々な「新学期明けデビュー」とでも呼べるような変化が生徒達の間に見られた。
そうった学校生活でのあるあるネタの一つである新学期明けデビュー例の中でも、かなりの変化球な一例というのがやはり夏休み明けからミニスカを穿いて来た我らがミニスカ侍のこしのりと丑光の二人であった。
通学路から教室に入り、先生のお話が始まっても皆の目線は二人に集まるのは当然のことであった。
しかし、ここポイズンマムシシティの住人はまず物分りが良く、次に順応が速い。これがこの街の市民性として長けている点である。二人が夏休みに起こった斯々然々(かくかくしかじか)の事情を話せば周りの人々は自然に「なるほど」と納得するわけである。ポイズンマムシシティの住人同士で見られるような円滑なコミュケーションが他国、他市町村でも確立されていれば、人と人とがもっと分かり合い争いの少ない地域作りが可能になるであろう。ポイズンマムシシティは私の知る中で最も平和で安らげる地である。
少し話を戻そう。こしのり達が財布を拾った日以降、こしのり達が巨神兵に再びアタックすることはなく今日を迎えていた。それは何故かと言うと、夏休みのあの日以降はこしのりと丑光が後へ後へと回して手を付けていなかった夏休みの宿題を片付けなければならなかったからだ。しかも、あの後10日かけても二人は宿題の完成を間に合わすことが出来なかった。
新学期初日、始業式が終わってから二人は担任に呼ばれてお説教を受けた。
そして、新学期一発目の放課後である。
「お~い、すみえもん。助けてよ~」
情けない声を上げて教室のスミレの席にやってきたのはこしのりである。
「は?何?」
「宿題が終わらないよ~助けてよ」
「……」
スミレはため息を漏らして後は無言である。
「え……マジですみえも~ん」
「そのノリ止めないと話聞かない」
「お願いします。助けて下さいスミレちゃん」
こしのりはスミレの態度を見てそれまでのおふざけを直ぐに止め、当意即妙な返しをした。
「まじでたくさん解けない問題があります。数学全般と英語少々です。どうかお助けを」
スミレは成績優勝な少女である。男女問わず彼女を頼って来る者は多い。
「ていうかさ、夏休みが終わってからそれ言いにくるわけ」
「いや、頑張ったけど迫り来る時間から逃げ切れず休みが明けてしまって……そういう訳で間に合わなったからごめんなさいと言えばことが済むと思ったんだけど、さっき先生にうやむやにはしないからちゃんと全部やれって言われたんだ。それで困った時のスミレというわけで今ここにいます」
スミレはこしのりの言い分に呆れてまたため息をつく。
「全く、ドリルドリル、ドリルだらけじゃないか。穴でも掘るのかって話だよ。僕はドカチンじゃないんだぜ」
トイレに寄ったため、こしのりに遅れてぶつぶつ愚痴を言いながら教室に入ってきたのは丑光である。パンツとズボンにプラスしてスカートがあるので、とにかくトイレが面倒臭いというのが今の彼らの悩みである。
「あっ、スミレ大明神!どうか我をお助け下され~ドリルが片付かない~」
丑光もスミレを見つけるとすぐにうざいノリで近づいて来た。
「アンタもそれ止めないと話聞かない」
バカ二人にスミレはお手上げである。
「スミレちゃん!お願いだよ。僕を助けると思って」
丑光は汗ばむ自分の両手でスミレの片手を掴んで迫る。
「アンタのお願いってアンタを助ける以外の効果なんてないでしょ。それが面倒だって言ってんの。あと、ドリルって言うの止めなさいよ。問題集かワークって言うでしょ」
「スミレちゃん、僕らは臍の緒取れたてほやほやの時分からの仲じゃないか。ね、頼むよ。」
「今の臍の緒の話って何か関係あったの?」
「僕は君のお母さんからその臍の緒を見せてもらったことがあるよ」
「ちょっと、止めてよそれ言うのエッチ」
「ふふ、臍の緒にエロスを見出す程の特殊な趣味は僕には無いさ」
「あ、それ俺も見せてもらったぜ。あれはエロいって言うより、なんだろうな~。うん、神秘だな」
こしのりも臍の緒談義に割って入って来た。
「相変わらず仲が良いね~。スミレ迎えに来たよ。で、臍の緒が何だって?」
そう言って三人のところにやって来たのは隣のクラスの女子水野さんである。スミレはソフトボール部に所属しているので同じく部員の水野さんが迎えに来たのだ。
「あ、みずのん。じゃあ行こう。こいつらと臍の緒の話は放っておこう」
「ごめんね。スミレは借りるね」
そうして水野さんと一緒にスミレは教室を後にしてしまった。
「こしのり……」
「なんだ、丑光」
「休みは終わったが、どうやら僕らの夏はまだ終わらないらしいな」
「ああ、エンドレスサマーだな」
教室には昼過ぎの焼け付くような暑い陽の光が射しこんでいた。




