第十七話 夏休み明け最初の登校日、それは筋骨流々な我が肉体が一年で最も元気を無くす一日である
8月20日、拾った財布を交番に届けた一行はその日はそこで解散することにした。
交番にはこしのりと丑光の二人のみが入った。室はなんといっても熊なので、下手をしたらピストルの餌食になりかねないということを考慮して一足先に山へと帰っていった。
二人の応対をしたおまわりさんは伊藤さんという四十過ぎのオッサンで、彼には二人と同じ歳くらいの息子がいた。伊藤はこしのりと丑光に対して、親切に財布を届けに来た良き若者だと思ったが、それと同時にどうして男なのにミニスカを穿いているのかと気になって仕方がなかった。伊藤は所謂アモラーとかダハマーとか言う時代ごとの若者ファッションの流行についてはその良さが全く理解出来なかった。そういう訳で、目の前にいるズボンの上からミニスカを穿いた若者を見ても、自分にはコレのどこがオシャレなのか全く分からないが、きっとコレが今の若者の流行なのだろうと自分で納得して疑問を飲み込んだ。
その晩、伊藤は自宅に帰ってから息子に「今は男子でもミニスカを穿くのが流行ってんだろ。しかもズボンの上から」と訪ねた。すると息子はただ一言「は?父さん疲れてんじゃないのか」と返したと言う。
伊藤もその息子もこの物語での登場はここのみで、このエピソードも何かの伏線という訳でもないので伊藤親子のことは覚える必要は無い。気持ちよく忘れてくれ。
8月の間、新たなミニスカ侍が見つかるでもないし、何か他に大事が起きるでもなくに平和に過ぎて行き、遂に9は月に入った。こしのりと丑光の現在学生をやっている二人にとって、その日の朝は鬱屈な気分で迎えなければならない二学期初日が到来した。
二人は元気なくトボトボと歩いて学校に向かっている。
「とうとう来たな、二学期」
朝の太陽が眩しすぎるために、目の前に手をかざしてこしのりが言う。
「ああ、きてしまったね。この日がいつか来るとはわかっていても、休みに入る前には今日という日が無限に遠く感じたものだ。それがどうだい、今振り返って見ると休みになった日から今日までが一瞬に思えるよ。僕は魔法にでも掛かったような気分だよ。ああそうか、夏休みってのは楽しい魔法はいつか解けるっていうことを幼い内に子供に教えておいて、そうしてモラトリアムからの脱却を終えた社会人として世に送りだすいう学校側で緻密に練られた人材育成プログラムなのかもしれない」
丑光は今日も訳の分からない分析を行っている。
「ああ、かもな。にしても一年間毎日寝起きをする中で八月の一ヶ月が一番速く感じるな。それに今年のは特にな。色々あったし」
不思議なミニスカとか巨神兵についてを振り返ってこしのりが言う。
「お~い、そこの二人遅刻するぞ~」
こしのりの背中を鞄で小突きながら元気に言う少女はスミレであった。
「アンタたち、しっかりしなよ。ミニスカ侍なんでしょ。今日もしっかり穿いてるじゃない」
彼らは学校の制服ズボンの上から例のミニスカを穿いている。ミニスカを穿かなければこの制服ズボンは塵となって消えてしまう。
「スミレちゃんは元気だね。僕はまだまだ休み足りないよ」
「ほんとソレな」
こしのりと丑光は気の抜けた会話をしている。
「仕方ないな。はいコレ、ひとつずつ。手、出して」
二人はスミレに言われて手を出す。スミレは二人の手のひらにすっきり爽快ミント味のタブレットを落とした。
「じゃあお先に」
スミレはそう言って二人の先を走って行った。
「わっ、コイツはスッキリするね。僕はミントが好きなんだよ。夏の間にスーパーに並ぶチョコミントのアイスを今年は随分と食ったぜ」
丑光はミント好きである。
「俺は、別に……だって歯磨き粉の味だろ」
スイーツのミント味が有りか無しかの論争でそれを言うのはもはやタブーとされる例の意見をこしのりがぼそっと言った。とか言いながらもスミレにもらったものはちゃんと食べている。
「それにしてもスミレちゃんは良いね。むさ苦しいこんな朝に清涼な風に吹かれたって感じがするじゃないか」
「は?何それ一体どうゆう意味よ。うわ、やっぱコレ苦っ」
「こしのりにはその辺はまだわかんないだろうね」
こうして束の間の休みを終え、二人の学校生活が再びスタートした。ミニスカ侍としての務めを果たす一方で学生たる彼らは学業を修めることにも徹しなければならない。今まさに彼らの二足の草鞋生活が始まったのである。




