act.3 気まぐれと暇つぶし2
境界の歪みを身体が渡る時、ひどく気分が悪くなる。
ぐにゃぐにゃした感じというか、何というか。
圧縮と膨張を一瞬のうちに何十回も繰り返すような感覚に襲われる。
―――――なんか、いつもより、きつい。
向こうの世界で出逢った少年が、壊れないように、ばらけないように、そう祈りながら彼の手を掴む力を強めた。
どうせ無事な姿で渡れるとは思ってないのに…矛盾してるよ。
だって、彼は"普通の人間"だ。
あたしも大概…狂ってるのかもしれないですね。
そんなことを考えたりして、吐き気に耐えていると境界の穴の出口が見えた。
「うわぁ…。無事なんですねー」
地面に降り立ち、彼の手を離した。
具合が悪そうにぐったりとしている少年を見下ろしてあたしは呟いた。
精神は大丈夫だろうか?見たところ何ともなさそうだけど…。
あたしは少年をその場に残し、少し歩いて結界の外に出た。
「吉原隊士!お疲れ様です」
「あのー、もう大丈夫なので。周囲の警備も通常通りに戻ってくださーい」
「了解いたしました!」
結界周辺を警備してる黒い隊服の隊士に声をかけたら、敬礼をして彼は去って行った。
きっと周囲に知らせに行くんだろう。
黒い隊服だったけど…グレイのラインが入ってたから、第4隊か第5隊かな。
うちと同じ警護庁所属の、通称は"警吏"。
「…なぁ」
突然後ろから声を掛けられてびくっとした。
振り返るとすぐ後ろに少年が立っていて、片手で頭を押さえながらあたしの方を見る。
気配、感じなかった。そういえば今の気配といい、亜人を撃った時の隙のなさとか…気になることはいくつかある。
あたしはその疑問をあまり顔に出さないようにして、へらりと笑う。
「もう大丈夫ですかー?身体に何か問題はありませんかー?」
「ん?いや、特に普通だけど…」
彼は両腕を広げてあたしに見せる。
まさか、境界を渡れるなんて…。
あたしは上着のポケットの中の懐中時計で時間を確かめる。
午前1時。
夜空に浮かぶ忌々しいほど青白く輝く満月を見上げ、少年を再び一瞥する。
そして、また笑う。
「ようこそ、大和国へ。無事にこっちに来れたみたいですねー」
「ここは…?」
「大和国東京高街新宿北東部…君のいた場所の裏側ですよー」
「新宿…?ここが?」
「同じなのは名前くらいだと思いますよ。こっちの世界ではあまり人は出歩きませんし…、特にここはあまり好き好んでくるような場所ではないのでー」
少年はへぇ、と言って辺りを見回す。
暗いせいか視界が少し霞んでる気がするけど…きっと気のせいだろう。
それに、ずっとここに引きとめているわけにも…いかない。
月が隠れる前に…元に戻らないと。
少年に再び声をかけようとした時、
「憂!!!!!」
よく知る怒鳴り声があたしの名を呼んだ。
聞こえた先の塀の上には…見知った同僚の影が見えた。




