act.3 気まぐれと暇つぶし1
「信じないとは…言ってねぇ」
少しかすれた低めの声が耳に響いた。
別に耳元で囁かれたわけではないのに…背筋にゾクリと来る声だった。
何なんだろう…この少年は…。
『…吉原隊士?どうかされましたか?』
耳元の通信機器から聞こえる声にはっとする。
「…あ、何でもないです。やっぱり大丈夫です」
あたしは通信を切ってすぐ横にいる少年を横目で見る。
こめかみには銃が当てられたまま。
「銃刀法が…どうとかいってませんでしたっけー?」
あたしはにこりと微笑んで彼に問いかける。
彼のその眼は真っ直ぐで、芯の強そうな黒い瞳をしている。
「俺は、いいんだよ。どうせ真っ当には生きてねぇ」
そんな言い分があるものか、と思いながらあたしは笑う。
「ところで、どうしてこの倉庫にいるんですー?」
ずっと気になっていた疑問をあたしは再び彼に投げかける。
ここだって大和国の境界と同じで、倉庫自体が天然の結界になっているはずなのに。
「いや、ちょっと追われてて…」
「じゃなくてー、なんで入れているんです?」
「…?普通にシャッターが開いたけど…」
「あれー?」
首を傾げてあたしは少年をじろじろと見る。
もう彼はあたしのこめかみから銃を降ろしていて、ほとんど警戒をしていないようだ。
見たところ普通の人間にしか見えない。
亜人ではなさそうだし…、大和国の解放者が演技をしているようにも見えない。
たまたま結界内に入れただけだろうか。
「君…追われてるって言ってましたね?」
「…ああ」
「ここであたしに殺されたくもなければ、記憶も消されたくないんですよねー?」
「まあ、そうだな」
試してみようか。
どうせ暇ですからね。
「じゃあ、行きますか?あちらに」
「…は?」
たっぷり5秒は沈黙してから少年は間抜けな声をあげた。
さて、どう来るか。
「そんなことが、できるのか?」
「まあ、普通の人間なら入ることのできないこの倉庫に入れた君ですから…何とかなるんじゃないですかねー」
「何とかって…」
「君次第だと思いますよー?運が良ければそのまま綺麗にあちらに渡れますし、運が悪かったら…身体がちぎれたりするかもしれませんけどねー」
相変わらず彼は拍子抜けした表情で固まっている。
やっぱり、普通なら断りますよね。
あたしがやはり冗談だと伝えようと口を開きかけた時、
「乗った」
彼は言う。
「こっちにいたって、毎日変わんねぇしな。連れてってくれよ」
「じゃあ…こっちに。あ、その亜人の死体もこっちに寄せて貰っていいですかー?」
彼は躊躇せずに2体の屍を倉庫の中央に寄せる。
あたしは境界を渡るための歪みの穴を空間に開けるために、己の身体に刻み込まれた術式の陣を露わにする。
―――――それは、心臓の真上にある。
ようするに隊服のその部分をはだけさせなければならなくて、さすがに初対面の人にまじまじとは見られたくはない。
彼は一瞬眼を見開いたが、あまり動揺はしていないようだった。
色んな意味で、肝が据わっている…そう思った。
空間に穴があいた所で、あたしは少年の手を取った。
向こう側で、生きて逢えたらいいね。
でもきっと、無理。




