5.Sランク同士の激突
「こんにちは、ミストさん。」
「げっ、フローさんなんでここにいるんすか?」
嫌そうな表情でミストが言う。
「ははっ、そんな嫌そうな表情をしないでくださいよ。」
「ーーッ!」
先ほど止めた、ラティエルの放った斬撃が、また勢いを取り戻す。
「ーーまだ、消えてなかったんですか。」
空気が軋む。それでもその先を突破できない。
「……すまん、それ消せないんだ。」
「大丈夫ですよ、こちらで消しますから。」
「ーー『泡沫に眠れ。』」
その空間ごと、消え去ったかのように、ラティエルの斬撃が消えた。
「ーー。」
ラティエルは、何をしたのかが分からなかった。
「ーー君たちも、いい加減やめた方がいいですよ、こういうの。」
カマセーヌが、座り込んでいた地面。カマセーヌが使っていた剣が、その地面ごと消えた。
「ーー俺の剣…。」
「ーーはい、これでおしまいですよ。ほら、皆さんも早く依頼に戻ってください!」
全員が解散となり、帰っていった。
「ーーフローさん泡沫の力使ったんすか?」
心配そうな表情でミストが聞く。
「そんな心配しないでいいですよ。ちょっと使っただけです。」
「紋章の力は身を削るんっすから、危ないっすよ。」
「そうですね。心配してくれてありがとうございます。」
「別に…。フローさんが消えるとウチも退屈っすからね。数少ない、うちと同じSランク冒険者なんっすから。」
「ふふ、ありがとうございます。そうだ、僕最近あんまり動いてなくてですね。これから依頼なので、準備運動がてら模擬戦を手伝ってくれませんか?」
「ーーま、いいっすよ。ーーちょうどいいっす。ラティエルさん、見とくっすよ。世界有数のSランク冒険者同士の戦いを。」
「ーーあ、一つ質問。紋章って何?」
「ーーえ?」
ここに来て、ラティエルの無知がまた光る。
「ーーえ、君、紋章を知らないのかい?」
「ああ。そんなの聞いたこともないな。」
自信満々、という表情でラティエルが無知を披露する。
「あはははっ、本当に君は面白いね!」
面白くて仕方がないというふうに腹を抱えて笑う、フローリア。
「笑ってる暇があるんすか、早くやるっすよ。」
「ラティエルさん、説明は後でしてあげるっす。」
「了解、ありがとな。」
「どういたしましてっすよ〜。」
「それじゃあやろうか。」
「面白くなってきたので審判は私がしますね。」
と、受付嬢のリヴィウスが言う。
「それでは始めます!」
「始め!」
これは、世界最高峰の一つである。
片や、風魔法を極め、神から『天風』の称号を下賜された最強格の冒険者。
片や、呪われた紋章に発現し、神から『蒼魔』の称号を下賜された最強格の冒険者。
2人の最強格が、今、激突する。
「それじゃあ、こっちからいくっすよ!吹き荒れろ。『天翔ル翔風』。』
空を駆け巡る、風の嵐が、フローリアを襲う。
空間が歪むほどの強烈な風が舞う。
「それじゃあ、仕返しだ。」
「ーー飲み込め、流せ。『蒼之激流』。
濃い青色、否、蒼色の激しい水流がミストを襲う。
空中で、水の激流と、風の嵐がぶつかり合い、消える。
「ちっ、相殺されたっすか。」
「相殺したね。」
「ーーギア、上げてくっすよ!」
「いいですねッ!」
「吹き荒れろ。『天嵐』ッ!」
ーー全てを飲み込む嵐が、フローリアを襲う。
だが、フローリアは不敵に微笑む。
「正真正銘、泡沫の紋章の本領発揮だよ。」
フローリアの体から、一つ一つが膨大な魔力で覆われた泡が現れ、風を消し去っていく。
ーー『泡沫の紋章』は、全てを無に帰す危険な代物。フローリアはそれを使いこなせる数少ない人間なのである。
「風が消えてくっす…。」
「形勢逆転だね。」
「ーーなら、ちょっとずるいかもしれないっすけど、使うっすよ!」
「うちの切り札をッ!」
「ーーなら。僕も、『蒼魔』たる所以を見せようじゃないか。」
蒼と翠の2つの輝きが、両者を覆い、戦いは終盤へ突入していくのであった。
「ーー『天風』の真価を見せてあげるっすよ!」
「ーー天を、纏え。『天纏』!」
その瞬間、ミストの体を金色のオーラが包み込む。
『天纏』。それは、神から『天』の称号を与えられた者に許される、必殺の魔法。神によって創られた上位存在である、天使の力をその身に宿らせるというもの。
「ーーさあ、仕切り直しっすよ。『吹け』。」
天使は、存在そのもの魔法であるため、言葉の一つ一つが魔法となる。
風が吹き荒れ、フローリアを巻き込む。
「これは怖いですね。ーー『蒼魔』。」
称号、それは神が人々に下賜する物。それらは人々に益を与える。
時に、才に優れた物はその称号の名を冠する魔法を放つことができる。
ーーそれは、神が作った魔法で、それら全てに共通することは、絶対的な威力を誇ること。
「ーー高密度の水流による、波状攻撃。それが『蒼魔』の真骨頂だよ。」
フローリアがそう言った瞬間、蒼色の水流が風を打ち消し、次々とミストに襲いかかる。
「まだまだっすよ!『刻め』」
ーー風の斬撃が放たれる。
水が切り裂かれ、風が弾かれる。
お互いの魔法がぶつかり合い、霧散する。相殺の連続である。
「ーー多用は出来ないっす!もう終わらせるっすよ!」
「風の天使よ、其の力を我に示せ!」
「ーー『風之神使イ《ラーファルエル》』ッ!」
ミストの切り札が放たれる。風の天使の力を完全に解放し、自身の体に収める。
それは、今までの内包魔力とは比べ物にならない。空気が軋み、唸りを上げる。
「こちらもだ!」
「ーー『蒼魔之流銃』!」
蒼色の銃がフローリアの手元に具現化される。
「『発射』ッ!」
「『刻め!』」
世界が白に染まり、光が晴れる。
お互いの最強の一撃がぶつかり合い最後に立っていたのは、ミストだ。
「やったっす!危なかったっす。」
「ーーお二人とも、準備運動の範疇を超えてます。というか模擬戦じゃなくてもう決闘の域ですよ?」
「あはは、すみません。つい盛り上がっちゃって。」
身体中に裂傷が刻まれたフローリアが頭を掻く。
「それでは治しますね。ーー『回帰』。はい、これで治りましたね。」
リヴィウスが傷に手を当て、詠唱した瞬間、みるみる傷が治っていく。いや、なくなっていくという表現が正しいのだろうか。
「フローリアさんも、治しますね。」
「ありがとう。」
手当てをされながら、フローリアが言う。
「さすがは『時の聖女』リヴィウスだね。回復力が桁違いだよ。」
「あら、フローリアさん、国家機密ですよ?」
さも当然に談笑をするリヴィウス。ラティエルは、過集中していた。
「ーー風の斬撃…。」
「ーー?ラティエルさん、どうかしたんす…ッ…。」
魔力が、空がミストを見つめているような気がした。
「ーーこうだ。」
ギルドの壁が、横にずれ、そこには空気の軌跡が残っていた。
「ーー何が…。」
「ーーミスト、今のであってるか?」
「はい?」
「さっきミストがやってた風の斬撃だ!ちょっとは再現できたんじゃないのか?」
「ーー規模が違うっすよ…。」
ミストはそう呟き、頬を叩いた。
「追い抜かれないように頑張らなくちゃっす!」
「?」
ラティエルは怪訝そうな表情をする。
「ーーそれでは改めまして、このギルドの受付嬢兼、サブギルドマスターのリヴィウスです。」
「ーーラティエルさん、今日からあなたは当ギルドのメンバーです。」
「ーーよろしくお願いしますね!」
「ああ、よろしく!」
こうして、ラティエルは王都ギルドに加入したのであった。




