1.森にて
これで、希望が見えてきた。
『空気』が有用性の高い魔法ということはもうわかった。あとは、実戦で使えるようにする…か。
言うまでもなく、俺は物心ついた頃から、孤児院にいたので、魔物にあったこともない。
『空気』を実践で使えるようにするには…。
俺は周囲を見渡す。すると、緑色の肌の、頭にツノが生えた生き物がいた。
そいつは、人間かもしれない。だが、俺に向かって、手にしていた棍棒を向けてきた。
俺がお世話になった孤児院の院長先生はこう言っていた。
「敵意を向けてくる生き物は、敵だと思いなさい。でも、やむを得ない者もいる。そんな時は、相手の態度を計りなさい。」
ーー対話をする…という姿勢は感じられない。
行くぞ。
「ーー『空気』」
その瞬間、俺の周りが綺麗な色になった。なんというか、透明な、綺麗な色だ。透明でいてはっきりと見える。
「すごい…、これは…。」
小鬼のようなものが、棍棒を振り上げ、こちらに走ってきた。俺は身がすくんでしまった。
手は動かない。足も動かない。
ーーでも。
「ーー死にたくないッ!『壁』!」
目を開けると、棍棒はラティエルの眼前で止まっていた。
『?』
小鬼はもう一度振り下ろすが、びくともしない。
(なんとか…なった?)
(けれど、守っているだけじゃ…。)
(頼むから、俺に力を貸してくれッ!)
「ーー『剣よ』!」
ラティエルは、本物の剣を見たことがなかった。
ーーラティエルは、物語で読むような剣しか知らないのだ。
例えば、魔を滅するような剣、呪われた剣、ーーそして、神に使わされた剣。
ーー目を開けると、そこにあった剣は、神々しくて、いかにも強そうな剣だった。
いかにも重そうな見た目なのに、重くない。
でも、魔力がごっそり持って行かれて、少し怠い。
小鬼のような生き物も狼狽えているようだ。
悪いが、俺も死にたくないんだ。
「ごめん。ッ!」
ザンッ!
俺は、小鬼のような生き物に向かって、その剣を振り下ろした。
「凄い斬れ味…。」
小鬼のような生き物がバターを切るぐらい簡単に切れた…。
魔力がごっそりと持ってかれた。俺のイメージ通りに空気を動かす…か。
本当に説明通りだな。
「ーーな、な、な、そこのアンタ、何を持ってるんすかーーー⁉︎」
高い声が俺の耳に響いた。
そちらの方を見ると、金髪の女性。とても綺麗な髪に、碧の眼。
「え、人間…?」
「はい…っす。」
「ーー良かった。」
無意識に人肌を求めていたのかもしれない。
俺は、地べたに座り込んでしまった。
「ちょちょ、どうしちゃったんすか?何かあったんすか?」
「ーー悪い、気にしないでくれ。」
俺は、立ち、名を名乗る。
「俺はラティエル。君は?」
「うちはミスト。ラティエルさん…っすね?よろしくっす。」
「ああ、よろしく。それで、ミストはなぜこんな所に?」
「うちは依頼っす。ていうか、ラティエルさんこそ、なんでこんな所に?」
「ーー俺は…。」
俺は事情と経緯を説明した。すると。
「大変だったっすね。今すぐ、うちが来たところに戻るっす!」
「ーーありがとう。」
「それも冒険者の仕事っすよ!」
温かった。俺は泣きそうになった。
「あ、その前にうちの依頼を終わらせてもいいっすか?」
「あ、もちろんだ。ミストは何の依頼でここに?」
「うちはハイゴブリンの討伐っす!」
「ハイゴブリン…、魔物って奴か!」
「はいっす!緑色の肌に、ツノが生えてる見た目っす!ラティエルさんは見てないっすか?」
……。緑色の肌に、ツノ…?
「ハイゴブリンは、Bランクの魔物っすけど、凶悪な魔物なんで、気をつけてくださいっす!」
「……そいつなら、さっき見たぞ…。」
「おぉ!大丈夫だったっすか?それでどっちに?」
「ーーここに…。」
「へ?」
ミストが、呆けた表情をする。
「ここに…だ。」
「ーーまま、まさか…、その剣で…?」
「ああ。」
「えぇーーー!?」
森に、ミストの声が響き渡った。




