9.フロアボス討伐
スタンピードに挑むギルドメンバー。その中でも、特に活躍しているのは、我らが主人公ラティエルだ。
空気を操り、相手を圧死させる。それがラティエルが編み出した、対スタンピードの立ち回り。話は一週間前に遡る。
「ーーなあ、ミスト。」
「ん?なんすか?」
「俺の魔法、スタンピードに向いてると思うか?」
「まあ正直に言うと向いてないっすね。」
「だよな。殲滅ができないんだよな、この魔法。」
「そうっすね、殲滅向きではないっす。けど、それは武器を使った時の話っす。」
「なるほど?」
「武器を使わずに、壁で圧死させるみたいな魔法が、東の方にはあるらしいっす。」
「ーーそういうことか!」
「ま、なんか掴めたんなら良かったっす。」
「おう、ミスト、ありがとな!」
「はいはーいっす。」
そして現在。ラティエルの眼前には魔物たちが静止し、どんどん小さくなっていく。
「ーーおい、ラティエル。お前これすげえな!どうやってやってんだ?」
ぜノムが不思議そうな表情でそう言う。
「これは空気を固めて圧死させてるんだ。」
「へえ!お前の魔法は強えな。よし、そんじゃこのまま続けるぞ。」
「そういえばゼノムは何が得意なんだ?」
「ん?俺か?これさ。『永遠よ。』」
ーー詠唱が、響く。
周りを囲んでいたモンスターたちが一斉に止まる。否、停まる。
「俺の魔法は停滞を与える。相手に永遠を彷徨わせる対人戦特化の魔法さ。」
「便利だな。でもそんな乱用しても魔力は欠乏しないのか?」
「そこら辺は調節してんだよ。停滞を与えるのを、軽度な停滞にして…とかな。」
「?」
「ま、簡単にいうと、燃費を良くすることもできるってこった。」
「なるほどな。じゃあ、この間に数を減らすか。」
「おう。」
そう言って、またラティエルが圧死させる作業に回る。
「それじゃあ、俺はあっちに行くよ。」
「わかった。頼んだぜ!」
そういいラティエルとゼノムは、各々の責務を全うするために、反対方向に走っていった。
ブチャァッ!
血が飛び散る音。さっきまで拘束していた魔物が、潰された音だ。
木々が倒れ、地面には割れ目が入っている。
「ーー牛…なのか?」
その先にいたのは、二足歩行の牛、ミノタウロス。と思いきや肌と眼の色が赤黒い。
これらを、この世界では変異種といい、それらは通常の種よりも、強靭で凶悪性を持ち、人間を襲いやすい。
ラティエルは無論、それに気付かず、
「誰かの家畜かもしれないが…、斧持ってるし流石に。」
ブモォ?
ミノタウロスが、一切覇気を感じないことに、首を傾げる。
「ーー狩らせてもらうぞ。」
ゾクッ。
ーーミノタウロスは、生まれて初めて味わう冷たい殺気に怯えた。
自身の目の前に立っているのは、矮小な人間だというのに。
ーーなんなんだ、この生き物は。まるで、この小さな身の中に、世界の意思があり、それに見られているような…。
変異種の討伐レートは特Aランク↑。
つまり、この魔物を倒すには、ゼノム以上の強さが必要となる。
「ーーさあ、行くぞ。『空気』。」
そう言い作り出したのは、一振りの青い剣。
遥か昔、数多の龍を滅した英雄が所有した一振り。
「ーー『龍滅剣ドラグレイヴ』。」
ブモオオオオオ!
その武器の危険性を感じ取ったのか、ミノタウロスの変異種が雄叫びを上げる。
「荒ぶれ、ドラグレイヴッ!」
ラティエルがそう言葉を放った瞬間、ドラグレイヴが、分裂しミノタウロスへと矛先を向ける。
龍滅剣ドラグレイヴが持つ権能は、『形状変化』。巨大化、分裂などお手のもの。
30本以上に分裂した、短剣となったドラグレイヴが、ミノタウロスの体を捉える。
「ーーまだまだだな。」
「ーー『殖えろ。』」
ラティエルがそう詠唱した瞬間、龍滅剣ドラグレイヴが、さらに増殖する。そして、上位ミノタウロスに突撃する。
「『貫け』。」
ミノタウロスの分厚い体を、ドラグレイヴが貫いていく。
ブモオオオ!
だが、それでもミノタウロスの勢いは止まらず、ミノタウロスは自身の斧で攻撃を繰り出した。
ーー否、繰り出そうとした。
「『形状変化』『龍滅盾』」
ラティエルがドラグレイヴを形状変化させ盾の形にし、ミノタウロスの攻撃を弾き、カウンターを与える。
「重い…なッ!」
「ーーハァッ!」
縦でミノタウロスを殴り、後退させる。
「決めるッ!」
「ーー『集え。』」
ドラグレイヴが集合し、大剣が作られていく。
「じゃあな。」
残酷な断罪の一撃。その為、ドラグレイヴの大剣形態はこう名付けられた。
「ーー『断罪ノ剣』。」
ブモオオオ!
無慈悲な一撃。その恐ろしさを感じたのか、ミノタウロスが逃げようとする。だが、それを許さないのが、断罪だ。
「『断罪』。
ラティエルが詠唱し、指をミノタウロスに振る。
ーー不可視の斬撃が、ミノタウロスを捉えた。
ミノタウロスが真っ二つになり、事切れる。
真の強者の前で背中を見せるということは、『死』と同義である。この場における真の強者。それが誰だったかは、言わずともわかるであろう。
その場を支配した、空気の王はつぶやいた。
「凶暴な牛だったなぁ…。」
同刻。ライムは戦場を駆け抜けていた。
「さて、さっさとスタンピードを片付けて、あの大臣に文句を言いにいかないとね。」
そうライムは言い、紫電を体に纏わせ、走り出す。
『金帝剣ヤマブキ』。雷を操る剣で、『虹帝剣シグルド』の黄色に当たる。雷を体に纏わせることによって、実質的な光速での移動をも可能とする。今、ライムは光の速度で走っている。
ーー向かう先は、ダンジョン。
「さあ、切り抜けるよ。」
「『金帝剣技。雷斬』」
そう言い、剣を振ったその瞬間、ライムは、はるか先で剣を振り下ろしていた。
その道にいた、推定30匹の一般人死亡危険度《Bランク》モンスターを薙ぎ払いながら。
「まあ、ちょっとは勘が戻ってきたかな。」
かつて戦場を駆け回った『神剣』は健在のようだ。
「ッ!」
剣を振り、魔物を殺し、ダンジョンへ走る。
ーーそうして、ライムがダンジョンに向かった時には、ダンジョンのボスモンスターである、黒龍が変死していた。
身体中を灼かれ、斬られていた。
「ーーどういうことだ?」
「ーーこのレベルの魔物を今の時間の間で倒したのか?」
スタンピードが始まってから20分。黒龍。それは、国家滅亡級と呼ばれる準最強級のモンスター。
名前持ち《ネームド》の龍には勝てなくとも、その攻撃は国に破壊をもたらし、滅亡の危機に至らす。
その魔物は20分で倒したのである。
単独では不可能。もし、ライムが二人いるなら不可能ではないのかもしれない。
「二人…?」
そして、ライムはその可能性に至った。二人組で、片や炎属性を操り、片や剣を使う。
かつてのライムの戦友であり、戦場を駆け回った最強のコンビ。『陽双』。
「いや、でもあいつらは行方不明なはず。それに…。」
「ーーあれ、ライム!久しぶりだね!」
そう、太陽をイメージさせるような元気な声が響く。ライムは後ろを振り向く。
そこにいたのは、赤髪の女性と、黒髪の男性。片方は大きな太陽を彷彿させるような杖を持ち、もう片方は、何か、力の鼓動を感じる剣を持つ。
「アスタルテッ、エルレインッ…。」
「ーーライム。やっぱりエルフは長寿だな、変わりなさそうだ。」
「ーー久しぶりだな。戦友。」
「これをやったのは、君たちかい?」
剣を抜く。
「ん?あぁ、この龍か。そうだ。」
「そうだ、久しぶりに話でもしようよ!」
ライムは、口に出す。
「ーー君たちは変わらないね。」
「でも、10年間もどこに行っていた?それも君たちの息子を放り出して。」
「……見つけたのか?」
「僕のギルドのメンバーが森で保護したらしいね。一目見た瞬間分かったさ。エルレイン、君にとても似ている。」
「そう…か。ラティエルも大きくなったんだな…。」
「私たちにも、やむを得ない事情があった。」
「それが理由だよ。」
「その理由は話せないのかい?」
「ーー残念ながら話せない。依頼人から俺たちには、守秘義務が課されているからな。」
「ーーなら、力尽くで、教えてもらうことにするさッ!」
「ーーお前にしては交戦的だな。」
「10年間も音沙汰なしで、久々に会った親友たちに、何の言葉もかけられなかったからね。」
「ーー最高に不機嫌だよ。」
「お前らしいな…。」
「ーーやるぞ、アスタルテ。」
剣を構える。
「……うん。」
魔力を纏う。
こうして、大戦の英雄同士の戦いが、人知れず始まるのであった。




