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第四話 小さな村

 翌朝。


 草原には朝露が降り、昨夜の焚き火からは細い白煙が立ち上っていた。


 俺は火が完全に消えていることを確認すると、土をかけて立ち上がった。


 その様子を見ていた王女も、毛布を丁寧に畳み終える。


「おはようございます、勇者様。」


「ああ、おはよう。」


 王女は少し照れくさそうに笑った。


「昨日より、少しだけ準備が早くできました。」


「慣れてきてるってことだな。」


 その言葉が嬉しかったのだろうか、王女は小さく頷いた。


 俺たちは荷物を背負い、再び街道を歩き始めた。


 朝の風は涼しく、草花が揺れるたびに優しい香りが漂ってくる。


 魔王に脅かされることがなくなったからだろうか。


 街道を行き交う旅人たちの表情には、不安よりも穏やかな笑顔が増えているように見える。


 畑を耕す人。


 荷車を引く商人。


 元気よく走り回る子どもたち。


 その穏やかな光景を眺めながら、俺は小さく息をついた。


「平和になったな。」


 王女も足を止め、遠くの村を見つめる。


「はい。」


 その一言には、心からの安堵が込められているように感じた。


 昼前。


 俺たちは、街道沿いにある小さな村へ辿り着いた。


 畑仕事をしていた村人が俺の姿に気付き、目を見開く。


「あっ、勇者様だ!」


 その声をきっかけに、人々が次々と集まってきた。


「本当にありがとうございました。」


「これで、子どもたちも安心して外で遊べます。」


 俺は少し困ったように笑った。


「礼を言われるようなことじゃないよ。」


 王女は隣で穏やかに頭を下げる。


「皆様が無事で、本当に良かったです。」


 その笑顔につられるように、村人たちにも自然と笑みが広がった。


 やがて、数人の子どもたちが俺の周りへ集まってきた。


「勇者さま!」


「剣って重いの?」


「魔王って怖かった?」


 俺は苦笑しながら答えた。


「重いぞ。」


「怖くなかったって言ったら嘘になるな。」


 子どもたちは目を輝かせながら話を聞いていた。


 その時だった。


「あっ!」


 一人の女の子が木を見上げる。


「木の実だ!」


 枝の先には、赤く色付いた木の実がいくつも実っていた。


「でも届かないや……。」


 俺は木を見上げ、小さく笑う。


「ちょっと待ってろ。」


 すっと荷物を降ろし、幹へ手を掛けた。


 ひょい、と木に登る。


「すごーい!」


 子どもたちから歓声が上がった。


 俺は枝を渡り、木の実に手を伸ばす。


「ほら。」


 ぽとり。


 ぽとり。


 摘み取った木の実を次々と落とす。


 それを、子どもたちは嬉しそうに拾い集めた。


「勇者様は、木登りがお上手なんですね。」


 俺は枝の上から笑って答えた。


「ああ、子どもの頃は毎日のように登ってたからな。」


「私は、木に登った記憶は……ありません。」


「そうか?」


 俺は何気なく答えた。


「……え?」


「どうした?」


「い、いえ……。」


 王女の様子に首をかしげたものの、それ以上は気にせず木から飛び降りた。


「仲良く食べろよ。」


「ありがとう!」


 子どもたちの元気な声が村へ響く。


 その笑顔を見ていると、自然と俺も笑みがこぼれた。


 俺たちは再び街道を歩き始めた。


 夕日が草原を黄金色に染めていく。


 隣を歩く王女は、小さく微笑んでいた。


 その横顔を見つめながら、ふと胸の奥に懐かしい記憶がよみがえった。


 泣いていた幼い頃の俺。


 その前へ、木の上から飛び降りてきた一人の少女。


 そして、何の迷いもなく笑いかけてくれた、あの屈託のない笑顔。


 ……また、あの笑顔が見られたら。


 その願いを胸に、俺は再び歩き出した。


 王女はその想いを知るわけもなく、静かに隣を歩き続けていた。

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