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第二十話 出会い【前編】

「……では、始まりからお話ししましょうか。」


 そういって女神は、静かに語り始めた。


「この世界が、まだ世界として形を成していなかった頃の話です。」


「そこには私だけが存在していました。」


「私は、私の半身を使って土を作りました。」


「それが大地になり、やがて空が生まれ、空が雨を呼び、雨が海になりました。」


「それらは草木を育み、いつしか命が生まれたのです。」


「私はずっとそれを見守っていました。」


「命は進化を繰り返し、いつしか私と同じような形をした人間が生まれました。」


「その中から。」


 女神は僅かに言葉を止めた。


「私を知覚できる人間が現れました。」


「私の存在を感じることができる者。」


「私の声を聞くことができる者。」


「ごく僅かな人間だけが、私の存在を認識することができたのです。」


「私は、それがとても嬉しかった。」


 女神は目を瞑り、その時のことを思い出しているようだった。


「その者たちは、私の声を多くの人々に伝えてくれました。」


「そして人々は、見えない私を神として崇めるようになりました。」


 女神の声が静かに響く。


「人々は私に祈りました。」


「豊かな実りを。」


「家族の無事を。」


「大切な人の幸せを。」


「そうした祈りが。」


「私の力となるものを生み出すことを知りました。」


「それを魂の輝きと呼んでいます。」


「……魂の輝き。」


「はい。」


「人が生き。」


「誰かを思い。」


「誰かを助け。」


「自ら何かを選ぶ。」


「そうしたものが積み重なることで、魂は輝きを増していきます。」


「私は、受け取った魂の輝きで世界を維持しています。」


「……。」


「ですが、世界はただ存在しているだけではありません。」


「そこに生きる命によって、世界は循環しているのです。」


「そして、その循環を維持するためには、力が必要でした。」


「私は、人々の魂の輝きを受け取り、それを世界へ循環させていたのです。」


 俺は黙って女神を見つめていた。


「ですが。」


 女神の声質が、僅かに変わる。


「命は増え続けました。」


「人が増え。」


「国が増え。」


「世界に生きる命が増えるほど。」


「世界を維持するために必要な力も、増えていきました。」


「それでも、私は世界を守らなければならない。」


「そこで私はまず、世界の循環を一つの単位として捉えることにしました。」


「十二です。」


「この世界では、十二という数字が一つの基準になっています。」


「完成。」


「循環。」


「そして、秩序。」


「それを一つの単位として、世界は巡っていきます。」


「十二の巡りが一つに重なる時。」


「世界は、大巡を迎えます。」


「……大巡?」


「ええ。」


「その時、私は長い年月をかけて集めた魂の輝きを、世界へ循環させます。」


「世界そのものを維持するために必要な、大切な営みです。」


「ですが。」


 女神は、静かに目を伏せた。


「大巡の間、私は世界そのものに力を注がなければなりません。」


「そのため、私自身の力が弱くなります。」


「魂の輝きを受け取る力も、普段より弱くなるのです。」


「……。」


「そして。」


「私の力が弱まることで、世界の循環にも僅かな綻びが生まれます。」


「大地の恵みが失われることもあれば、自然が猛威を振るうこともあります。」


「人々にとっては、それがただの異常気象や地殻変動として現れます。」


「彼らは、なぜそのようなことが起こるのか知りません。」


「ただ、その年だけは何かがおかしい。」


「そう感じるのです。」


 女神は静かに俺を見つめた。


「だから私は、その年を……忌み年と呼ぶことにしました。」


「……。」


「そして、その年を人と共に乗り越えるために。」


「私は人々へ神託を与えました。」


「より強い祈りを捧げるように。」


「祭りを行うように。」


「少しでも多くの魂の輝きを、私へ届けてもらうために。」


「それが、豊穣祭の始まりです。」


「……豊穣祭。」


「はい。」


「人々が集まり。」


「同じ願いを抱き。」


「同じ祈りを捧げる。」


「そうすることで、少しでも多くの魂の輝きを集めることができました。」


 俺は、これまで当たり前だと思っていた祭りを思い浮かべた。


 人々の笑顔。


 祈り。


 歌声。


 そのすべてが、世界を守るためのものだった。


「ですが。」


 女神は、静かに言葉を続ける。


「それでも、足りなくなっていきました。」


「けれど、命はそんなことを知ることもなく、更に増え続けました。」


「今も増え続けています。」


「それに応じて、世界を維持するための力も、増えていきました。」


「私は、考えました。」


「どうすれば、もっと効率よく魂の輝きを集めることができるのか。」


 女神は、少しだけ遠くを見るような目をした。


「その時でした。」


「私は、人間の中にある違いに気づいたのです。」


「同じように生きていても。」


「同じように善い行いをしていても。」


「魂の輝きには、大きな違いがある。」


「中には。」


「他の者よりも、強く魂を輝かせる人間がいました。」


 俺は女神を見つめた。


「……それは、どんな人間なんだ。」


「その時の私は分かりませんでした。だから、私は知りたかったのです。」


 女神の声が静かに響く。


「なぜ、その人間の魂は。」


「他の者よりも強く輝くのか。」


「そして。」


「どうすれば、より多くの人間の魂を、同じように輝かせることができるのか。」


 女神は、そこで一度言葉を止めた。


「私は、その答えを探し始めました。」

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