第一話 凱旋
王都では、英雄として迎えられた。
色とりどりの花びらが風に舞う。
子どもたちは俺たちの後ろを走り回り、仲間たちは照れくさそうに笑っていた。
街中に響く歓声が、戦いの終わりを教えてくれる。
王女も、その輪の中にいた。
王族としての正装に身を包み、長い髪を整えている。
いつものように、隙のない姿だった。
「おかえりなさい。」
その笑顔を見た瞬間、ようやく帰ってきたことを実感した。
でも。
その笑顔が、本当の笑顔ではないことも知っていた。
誰もが安心する、柔らかな笑み。
けれど、その笑顔はあまりにも綺麗すぎた。
王女として、人々を安心させるために身につけた笑顔。
俺だけは、それを知っている。
いつか。
いつかこの人が、心から笑える日が来ればいい。
そんなことを思った。
もう誰も傷つかなくていい。
そう思えた。
その夜だった。
『勇者よ。』
頭の奥で、澄み切った声が響く。
鈴の音のように静かなその声は、不思議と耳ではなく心へ届いていた。
反射的に立ち上がる。
『古代神殿へ赴き、我が加護を返上しなさい。』
女神様……?
辺りを見回す。
誰も反応していない。
宴は続き、笑い声が響いている。
王女が心配そうにこちらを見る。
「どうかしましたか?」
「……いや。」
聞こえたのは、俺だけなんだ。
胸の奥がざわつく。
あの魔王の最後の言葉。
そして、女神様からの神託。
どちらも、何かを知っているような気がした。
翌朝、俺は古代神殿へ向かう決意をした。
旅支度を終えると、王女が当然のように立っていた。
昨日までの正装ではない。
動きやすい服の上に、旅用の外套を羽織っている。
王女としての品を残しながらも、長旅をするための格好に整えられていた。
その姿を見ていると、少しだけ不思議な気持ちになる。
王城の中で見る王女とは、少し違って見えたからだ。
「私もご一緒します。」
一瞬だけ言葉を失う。
王女自ら城を離れることは珍しい。
それでも、その瞳には迷いがなかった。
理由は聞かなかった。
王女には王女なりの考えがあるのだろう。
そう思ったからだ。
これが。
平和になった世界での、最初で最後の旅になるなんて。
その時の俺は、まだ知らなかった。




