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第十九話 待ち望んだ答え【後編】

 まともな会話にならないもどかしさに、俺は苛立ちを隠せなかった。


「そんなことより……!」


「王女を助ける方法を教えてくれ!」


「頼れるのは女神様しかいないんだ!」


 声を荒らげて尋ねても、女神は未だに何も答えてくれない。


「俺に何が起きているのかなんて、どうでもいい!」


「あいつを助ける方法を……!」


 女神は静かに俺を見つめながら口を開く。


「……私は、あなたの身に何が起きているのかを知らなければなりません。」


「……。」


「私自身、何も分かっていないからです。」


 淡々と返すその言葉に、俺は何も言えなくなっていた。


 女神の視線は俺の胸あたりにあるように思う。


「ただ一つ、気になることがあります。」


「……なんだ。」


「その力は、あなたの感情に反応しているのではないでしょうか。」


「……感情?」


「ええ。」


「何かを理由に高まった、特別な感情です。」


 その言葉を聞いて、記憶を手繰り寄せる。


 頭の中にはあの夜の光景。


 あいつの屈託のない笑顔。


 失いたくなかった。


 これからずっと、何も変わらずに過ごしていけると思っていた。


「……あの夜。」


 胸の内を言葉にする。


「何か、思い当たることがあるのですか?」


「俺は……あいつをずっと守ると決めたんだ。」


 思い出すたびに心が少しずつ締め付けられる。


「あいつの笑顔を失いたくなかった。そう思った時、自分の中で何かが大きく膨れ上がった気がした。」


「それに伴って、力が溢れ出すような感覚と……その力を解放したいっていう欲望のような。」


「具体的にはどのような感覚ですか?」


「言葉に表すとしたらあれは……。」


 俺は自分の手のひらを見つめる。


「破壊衝動のようなものだった。」


 女神は黙って聞いていた。


「……そうでしたか。」


「もし、それが事実なのだとしたら。」


「あなたが彼女に抱いていた深い愛情がきっかけで、勇者の力が暴走したのかもしれませんね。」


「……。」


 深い愛情という言葉が胸に突き刺さる。


「あの日の朝……。」


 俺は顔を上げる。


「王女は冷たくなっていた。氷みたいだった。」


「……。」


「女神様が言うように、俺の感情が勇者の力を引き出した。そして、その力が暴走したのなら……。」


 声が震える。


「……俺が、あいつを殺したってことなのか。」


「それは分かりません。ですが、その可能性は否定できません。」


 その答えに俺は何も言えなかった。


 一方女神は、俺のことを値踏みするように見ていた。


「あなたは私の加護を失ってるにも関わらず、勇者の力を残したままの状態です。勇者の力が消えていない理由は、魔王の加護によって繋ぎ止められているからでしょう。」


「そして……その力は、あなたの感情によって暴走した可能性がある。」


「勇者の力が私の加護から離れた場合、どんな弊害が起こるのか……私にも分からないのです。」


「……。」


「これまで、そのような例はありませんでしたから。」


 女神は一つずつ言葉を重ねていく。


「あなたは私の知る勇者とは、あまりにも違う。」


 少しの沈黙。


「言うなれば、そう……。」


 女神の声が、静かな神殿に響く。


「壊れた勇者。」


「……壊れた勇者。」


「ですが。これはあくまで私の推測です。本当のことは私にも分かりません。」


「……。」


 俺は何も言えず、しばらく俯いていた。


「……じゃあ。」


 顔を上げる。


「あいつを助ける方法は?」


 その質問にも女神は答えず、静かに俺を見つめているだけだった。


「……女神様。」


 もう一度、問いかける。


「方法は……ないんですか?教えてください……。」


 女神は静かに目を伏せた。


 そして。


 小さく首を振った。


「私の力では、その命を救うことはできません。」


 その仕草と言葉は、俺にとっての絶望でしかなかった。


「……なんで。」


 込み上げる涙を必死に堪えて言葉を紡ぐ。


「なんで、こんなことになったんだ。」


 行き場のない怒りを拳に込める。


「……どうしてだ。どうして俺を、勇者になんか選んだんだ。どうして……魔王を倒さなきゃいけなかったんだ。俺が勇者になんかならなければ。魔王を倒したりなんかしなければ……。」


 震える声で訴える。


「……あいつは死ななかったんじゃないのか。」


 女神は沈黙を貫いている。


「魔王ってなんなんだ。どうして勇者と魔王は戦う。どうして、同じことが繰り返されてきたんだ。」


 どんどん声が大きくなる。


「魔王も……かつては勇者だったんだろ?」


「だったら。どうしてだ。」


 神殿に俺の声だけが響く。


「どうして勇者を魔王にする。」


 女神の表情からは何も読み取れなかった。


 しばらく静寂が続いたあと、崩れた壁の隙間から風が吹いた。


 それをきっかけに女神は、ゆっくりと口を開いた。 


「あなたが知りたいのは……。この世界で、なぜ勇者と魔王が生まれるのか。」


「……ああ。」


「そして。」


 女神の声質が少しだけ低くなる。


「なぜ、その戦いが繰り返されてきたのか。ということですね。」


 俺は黙って頷いた。


「……それを知ったあなたが何を思い、何を選ぶのか、私はとても興味があります。」


 あくまでお前は研究対象だ、と言わんばかりの女神を俺はにらみつける。


「教えてくれ。俺は全部知りたい。」


「……分かりました。」


 静かな声が、神殿に響いた。

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