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第十九話 待ち望んだ答え【前編】

「……おかしい。」


 突然どこからか声が聞こえる。


 誰もいないはずの神殿に、女の声が響く。


「確かに、受け取ったはずなのに……。」


 その鈴の音のように静かな声を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。


 聞き覚えがある。


 ずっと昔から知っている。


 そんな気がする。


「……誰だ。」


 辺りを見回す。


 姿は一切見えない。


 それでも、何かが近づいてくるような気配を感じる。


 その気配が近づくにつれて、神殿の空気が変わっていく。


 静かなはずなのに、何か大きなものがこの場所に降りてきたような圧迫感。


「どうして……まだ感じるのでしょう。」


 女の声が続く。


「消えたはずの、あなたの魂の輝きが……。」


 魂の輝き。


 聞いたことのない言葉だった。


 俺は眉を寄せる。


「……女神様、なのか。」


 しばらくして。


「あら……あなた、私の声が届いていますね。」


 その声には、困惑が滲んでいた。


「はい。届いています。……やっと、会えた。」


 俺は感情が抑えきれなかった。


「……女神様!教えてくれ。あいつを助ける方法を!頼れるのはもう女神様しかいないんだ!」


 返事はない。


 しばらく沈黙が続き、再び女神の声が響く。


「……おかしいですね。」


「あなたには、もう私の声が届くはずではないのです。」


「……どういうことでしょう。」


「あなたは、私に加護を返しましたよね。」


「……はい。」


 返事が何もないことに憤りを感じたが、俺はそう答えた。


「ならば、本来は……。」


 そこで言葉が途切れた。


「……なぜ。」


 その声はずっと独り言のようだった。


「なぜ、まだ繋がっているのでしょう。」


 俺は息を呑む。


 繋がっている。


 その言葉が、胸に引っかかった。


「あいつは……。いや、俺に、何が起きているんですか。」


 しばらく沈黙が続いた。


 やがて。


「……私にも、分かりません。」


 困惑しているような、そんな声だった。


「ですが……確かめなければなりません。」


 その瞬間。


 神殿の空気がさらに変わった。


 目の前に淡い光が生まれる。


 光は少しずつ形を変え、人の姿を作っていく。


 あまりの眩しさに一瞬目を瞑る。


 光に目が慣れ、視界が徐々に回復していく。


 気づいた時にはそこに、一人の女性が立っていた。


 神々しい光に包まれた女性。


 その姿は初めて見るものだったが、確信があった。


「……女神様。」


 女神は、静かに俺を見つめていた。


 その瞳はどこか困惑しているように見えた。


「……もう一度、確認させてくださいね。」


 そう言うと、女神は俺を抱きしめた。


「……やはり。あなたの中には、私の加護は残っていませんね。」


 女神は、俺から離れた。


「……。」


「それなのに、あなたには私の声が届いている。」


「……。」


「そして。」


 女神の視線が、俺の身体へ向けられる。


「あなたには、なぜか勇者の力が残っています。」


「……勇者の力?」


 言葉を絞り出す。


「本来ならば、加護と同時に消失するはずなのですが……。」


 続けて女神の声が静かに響く。


「なぜか消えていない。」


 胸の奥がざわついた。


「なぜですか。」


「それは、私にも分かりません。」


 女神はそう答えた。


 けれど。


 その直後。


「……いえ。」


 女神の声が、僅かに硬くなった。


「何かが、その力を繋ぎ止めていますね。」


「……。」


「あなたの中に、私のものではない何かが存在している。」


 思わず息を呑む。


 女神は、俺をじっと見つめる。


「この力は……。」


 しばらく沈黙する。


「……これは、呪い?」


 その言葉が、静かな神殿に落ちた。


「魔王の呪い……。」


 女神は、何かを確かめるように呟いた。


「……いや。」


 少しの沈黙。


「もし呪いならば、加護が弾いたはず。」


「……。」


「一体、いつから……。」


 女神の声に、困惑が滲んでいた。


 やがて。


「……呪いではない。」


 そして。


「ああ、これは……加護なのですね。」


「……加護?」


 俺は思わず聞き返した。


 女神は一切答えない。


 ただ、俺の中にある何かを見つめているようだった。


「魔王の……加護、ということ?」


 そう呟き女神は初めて顔を上げた。


「……。」


 長い沈黙。


「そんなものが……。」


 女神の声が、僅かに震えた。


「存在するはずが……。」


 そこで言葉が途切れる。


 俺は、ただ女神を見つめていた。


 何が起きているのか。


 俺自身にもまだ分からない。


 と同時に。


 全知全能なはずの女神にも、何か分かっていないようだった。


 その事実だけが、妙に胸に残った。

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