第十八話 見えた光と見えなくなった光
俺は再び古代神殿へ戻ってきていた。
あの悲劇がなぜ、繰り返さなくてはいけなかったのか。
それを確かめたかったからだ。
迷うことなく祭壇へ向かう。
あの日と変わらない静けさが、神殿の中を満たしていた。
石壁に刻まれた文字へ目を向ける。
最初の人が伝えたかったことはなんだ。
王女がいれば何か分かったのだろうか……。
首を振り、視線を隣へ移す。
削り取られた壁画。
以前訪れた時は、途中で考えるのを王女が止めてくれた。
けれど。
今は止める者はいない。
神聖文字は読めないが、壁画なら俺でも何か分かるかもしれない。
俺は目を閉じ、魔王城で見た光景を思い返した。
神々しく描かれた女性。
その前に立つ、剣を携えた人。
二人は淡い光に包まれていた。
女神と勇者、なのだろうか。
女性はその人の頭に手をかざしている。
何かを与えるように。
これは……。
加護を与えているのだろうか。
俺にはそう思えた。
次の光景を思い出す。
剣を構えた人と、黒い鎧を纏った者。
二人は向かい合っている。
先程の絵と違い、剣を構えた人を包む光は、大きくなっているように思う。
おそらくこれは、勇者と魔王なのだろう。
いや……勇者と、元勇者か。
魔王もかつては勇者だった。
あの時、俺はそれを知ったんだ。
ならば、この壁画は繰り返される歴史を表しているのだろうか。
確信はない。
ただ、そんな気がした。
そして。
最後の絵。
神々しい女性が、剣を携えた人を抱きしめているようだった。
加護の返上だろうか。
そう思った瞬間、胸の奥がざわついた。
加護を返した時。
何かに抱きしめられたような感覚があった。
そして。
自分の中から、何かが抜けていくような脱力感。
あの時の光景に似ている。
俺は目を開いた。
目の前にある削り取られた壁画。
しばらくその壁画を見つめた。
最初に見た絵では、二人は淡い光に包まれていた。
次の絵では、剣を構えた人の光が強くなっている。
それなのに。
最後の絵では、その光がなくなっている。
その代わりに。
神々しい女性の光が、最初に見た時よりも強くなっていた。
俺は壁画から目を離せなかった。
あの時。
俺から抜けていったものは、何だったんだ。
女神の加護……。
俺はそう思っていた。
それ以外のことなんて、考えたこともなかった。
壁画が意味していること。
あの時、俺に起きていたこと。
何か繋がりがあるように思えてしまう。
心の底から信じていた。
疑う理由なんて、ひとつもなかった。
それなのに。
今は、ほんの少しだけ違って見えた。




