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幕間 花の香り
城内は騒然としていた。
慌ただしく駆ける兵士。
廊下に響く侍女の悲鳴。
窓が開いた王女の部屋。
「王女様が、王女様が……!」
部屋へ駆けつけた治癒師は、泣き叫ぶ侍女をよそにすぐさま王女の首筋に手を添える。
直後、静かに首を横へ振った。
それを見て膝から崩れ落ちる侍女。
朝の冷えた空気で満たされた部屋に、重苦しい沈黙が流れる。
王は娘の傍らへ歩み寄り、頬に手を伸ばす。
ただ眠っているかのような、穏やかな寝顔。
体温以外、いつもと何一つ変わらない。
だからこそ、その静けさが痛かった。
「魔物が侵入した形跡は?」
「……ありません。」
「毒の症状は出ていないのか?」
「……出ていません。」
否定をするために探していた答えが、逆に疑念を確信へと変えていく。
「……勇者は。」
低い声が部屋へ落ちる。
王の瞳の奥には、静かな怒りが灯っている。
「お姿は見当たりません。」
誰も顔を上げられない。
昨夜、最後まで王女と共にいたのは勇者だった。
その勇者が姿を消した。
沈黙が続く。
やがて王は静かに目を閉じた。
「……探せ。」
王が発したのはその言葉ひとつだけだった。
部屋には、優しい花の香りだけが漂っていた。




