第十三話 また笑ってほしいから
「なんでなんだよ……。」
掠れた声が、静かな部屋へ溶けていく。
毒か。
違う。
魔物か。
違う。
……俺。
違う。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何もまとまらない。
いや、違う。
終わりじゃない。
まだ助けられる。
何か、方法があるはずだ。
その時だった。
廊下の向こうから足音が聞こえた。
静かに。
ゆっくりと。
こちらへ近付いてくる。
もう朝だ。
誰かが来てもおかしくはない。
まずい。
今見つかったら。
俺は真っ先に疑われる。
捕まる。
そうなったら――
助けられない。
歯を食いしばる。
震える手で服を掴む。
焦るほど、指が言うことを聞かない。
何度も袖を外し、ようやく腕を通す。
早く。
早く。
振り返る。
王女は静かに眠っていた。
そうだ。
眠っているだけ。
眠っているだけなんだ。
「……待っててくれ。」
必ず。
必ず助ける。
窓へ駆け寄る。
躊躇はなかった。
窓枠に手を掛け、そのまま身を投げ出す。
芝生へ転がると同時に受け身を取り、そのまま立ち上がる。
痛みを気にしている暇なんかない。
走る。
ただ、ひたすら走る。
どこへ向かっているのかも分からない。
それでも足だけは止まらなかった。
どれほど走ったのかも分からない。
振り返ると、城壁は遥か遠くにあった。
肩で息をする。
そこで初めて、自分が街の外まで来ていたことに気が付いた。
どうすればいいんだ。
何をすればあいつを助けられる。
分からない。
何も分からない。
俺ひとりじゃ何も出来ない……
拳を強く握り締める。
その時だった。
胸の奥が、不意にざわついた。
懐かしい感覚。
旅立ちの日から、何度も感じてきた。
女神の神託。
「……女神様。」
そうだ。
女神様なら。
きっと何か知っている。
何か教えてくれるはずだ。
俺は一縷の望みにかけて、古代神殿へ向かって走り出した。




