幕間 あの日の記憶
また抜け出してきちゃった。
本当はだめなんだけど。
見つかったらすぐにお城へ連れ戻されちゃうから。
そして、そのたびに侍女さんや護衛の人たちに、たくさん怒られるんだ。
それでも、この木には来たくなってしまう。
だって、お城の中は少し息苦しい。
立ち居振る舞い。
言葉遣い。
王女としての振る舞い。
毎日たくさんのことを教えられる。
だから時々、こうして城下町へ来る。
お気に入りの大きな木。
この木の一番上まで登ると、城下町がよく見える。
お店の呼び込み。
焼きたてのパンを抱えて歩く人。
友達と笑いながら走り回る子どもたち。
みんな、生き生きしている。
そんな何気ない毎日が、少しだけ羨ましかった。
だから、この景色を見るのが好きだった。
風が頬を撫でる。
空が近い。
ここにいる時だけは、私も自由になれた気がした。
その時だった。
「あっ。」
少し離れた場所で、一人の男の子が大きな男の子たちに囲まれている。
あの子、困ってる。
そう思った瞬間には、もう体が動いていた。
「やめなさい!」
枝を蹴って飛び降りる。
風が気持ちいい。
地面へ軽やかに着地すると、そのまま男の子の前へ立った。
「みんなでよってたかって一人をいじめるなんて、ぜったいにだめ!」
大きな男の子たちは驚いた顔をして、お互いを見合わせる。
そして舌打ちをすると、そのまま逃げていった。
「……ふぅ。」
なにも言わずに行っちゃった。
本当は少し怖かった。
でも、それよりも。
この子が、このままずっと悲しい顔をしている方が嫌だった。
だから、勇気を出した。
よかった。
男の子の前でしゃがみ込む。
「大丈夫?」
男の子は少し驚いたような顔で私を見ていた。
「……なんで助けてくれたの?」
おかしなことを聞く子だなぁ。
「だって、困っている人は放っておけないもん!」
そう言うと、男の子は少しだけ笑った。
よかった。
笑ってくれた。
それだけで、私まで嬉しくなった。
「ほら。」
手を差し伸べると、その男の子は私の手を取った。
私の手より少し大きな手だった。
「……ありがとう。」
男の子は少し照れくさそうに笑った。
「うん!」
えへへ。
今日は、いい日だ。
私は軽い足取りで、お城への帰り道を走り出した。
きっと今日も、あとで怒られちゃう。
でも。
明日も、また木に登ろう。
そんなことを思いながら。




