↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/37

第八話 返上

 誰かが隠したかった真実。


 その言葉が頭から離れなかった。


 意図的に削り取られた碑文と壁画。


 この神殿には、誰も知らない何かが眠っている。


 そう思わずにはいられなかった。


「勇者様。」


 王女が静かに俺を呼ぶ。


「神託を。」


 その一言で、俺は我に返った。


 そうだ。


 俺たちは真実を探しに来たわけじゃない。


 女神の神託を果たすために、この神殿へ来たんだ。


 気を取り直し、祭壇の前へ立つ。


 これでこの旅も終わるんだな。


 そう思っていた。


 俺はゆっくりと祭壇へ手を伸ばす。


 不思議と、そうすればいいことが分かっていた。


 その瞬間だった。


 柔らかな温もりが、全身を包み込む。


 まるで誰かに優しく抱き締められているような、不思議な感覚。


 そして、耳元で穏やかな声が響く。


『あぁ……。』


 その声とともに、穏やかな気配がほんの一瞬だけ揺らいだ。


 今までの神託では感じたことのない、不思議な揺らぎ。


 だが、それは一瞬で静まり、


『よく役目を果たしてくれましたね。』


 慈しむような声が、静かに響く。


 身体の力がゆっくりと抜けていく。


 温かい。


 心地いい。


 だけど――


 何か大切なものが、自分の中から離れていくような気がした。


 その違和感を確かめるより先に、意識は静かに闇へ沈んでいった。


   ◇


「……様。」


 遠くで、誰かが俺を呼んでいる。


「……勇者様。」


 ぼんやりとした意識の中、その声だけが何度も響く。


「……勇者様っ!」


 焦った声。


 肩を揺さぶられる感覚。


「勇者様っ!!」


 その声に引き上げられるように、ゆっくりと瞼を開いた。


「……王女。」


「勇者様……!」


 王女は安堵したように息をつき、胸に手を当てた。


「よかった……。」


 その表情を見て、どれほど心配をかけたのかが伝わってきた。


「お気付きになりましたか。」


「あ、ああ……。」


 身体を起こす。


 頭が少しぼんやりしている。


 だが、不思議と身体は軽かった。


 長い旅を終えた安堵からなのか。


 それとも神託を終えたからなのか。


 自分でも分からない。


「本当によかった……急に意識を失われたので、とても心配しました。」


「そうか……悪かった。」


 王女は小さく首を横に振る。


「ご気分はいかがですか?」


「大丈夫だ。」


 王女は祭壇へ視線を向けた。


「……神託は、済んだのですか。」


 俺も祭壇を見つめる。


 静まり返った祭壇。


 胸の奥には、不思議なほど穏やかな感覚だけが残っていた。


「……多分。」


 王女は静かに頷いた。


 もう一度だけ祭壇を見つめる。


 そこには何の変化もない。


 静寂だけが、神殿を包んでいる。


 神託は終わった。


 そう思った。


 王女が差し伸べる手を取り、俺は立ち上がる。


「……帰ろう。」


「はい。」


 俺たちは祭壇に一礼し、古代神殿を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。