8.皆と一緒
ピチチチチ チチチチ
夜明けとともに小鳥が窓辺で囀り、朝がきたことを知らせてくれる。
「ふぁぁぁ。おはようございます。小鳥さん、起こしてくれてありがとうございます。」
今日もいつもと同じように目覚めたアイリスが小鳥に挨拶をして朝の支度をする。
1人で着替えを済ませ、顔を洗い、外に出て動物達と一緒に庭を掃き、水を撒き、食べられそうな物を収穫して家の中に戻る。
インサとジェントのおかげで簡単なスープなら作れるようになった。
洗濯や皿洗いはアライグマが先生となり教えてくれた。
箒の扱い方はふさふさ尻尾のキツネが教えてくれた。
水のありかや食べられる物の見分け方は動物の皆が教えてくれた。
ネズミとの床拭き競争、小鳥達との木の実探し。誰も自分のことを止めなかった。させてくれた。
洗いたての食器のキュッキュとした手触り、干した布団のお日様の匂い、穫れたての野菜の土臭さや瑞々しさ、手ですくって飲む湧き水の冷たさ、明日も楽しみだと思ってくるまる布団の心地良さ。
当たり前のことを知らなかった。でも、知ることができた。来たばかりの頃のハイテンションはやや落ち着いたし、喋る言葉もくだけてきたように思う。
自分が変わっていくのが楽しい。
今日は何をしようかと考え思い付いた。
「私、ひとつやってみたいことがあったわ。」
思いついたら行動あるのみ。アイリスはとりあえずインサとジェントを巻き込もうと2人の部屋のドアをノックした。
「なんだよ嬢ちゃん、こんな朝早くに。」
「俺らの扱い、雑じゃね?」
2人はまだ寝ていたようで目を擦りながら起きてきた。
「申し訳ありません。私、やってみたいことがありまして。」
「それ絶対やるやつじゃん。」
「そうだよ。拒否したら嬢ちゃん越しにクマが牙向くやつじゃん。」
「え?クマ?」
「いや、もういいよ。で、やりたいことってなんだよ。」
アイリスはぐっと胸の前で手を握り締め、2人に上目遣いでお願いポーズをする。ちなみにこれはリスに教えてもらった。木の実が欲しい時のおねだりポーズだ。
「私、ピクニックをしてみたかったのです!」
敷物を広げ、サンドイッチや果物をみんなで食べるあれ。
「あぁ、何て素敵なのでしょう。憧れます!」
「いや、全く憧れねぇ。」
「この陰気な森にまた虹かけるつもりか?」
「どっからかシャボン玉が飛んでくるやつだろ。」
「サンドイッチ誰が作るんだよ。」
「そうだよ。そもそも何でピクニックなんかに俺らが「ひぃ!!」」
インサとジェンドの言葉にみるみる落ち込むアイリスの後ろの窓の外でクマとトラと狼が仲良く縦に並んで牙を剝いていた。え、背中に乗ってる?
グルルルルル ウヴゥゥゥ ガルルルルル
唸りの三重奏に2人は縮みあがった。
「「やります!」」
「・・・でも嫌そうでした。」
「いや、やってみたいと丁度思ってたんだよなぁ。」
「そうそう。考えてみりゃ、そんなオシャレなこと俺らやったことないしぃ。」
「「なぁ~!!」」
「・・・そうですか?一緒にピクニックしていただけますか?」
「早くやろう!今すぐやろう!俺らの命が消える前に!」
「え?」
「いや、嬢ちゃんは気にしなくていいんだよ!ほら、早く準備しようぜ。」
「はっはい!」
鼻歌を歌いながらアイリスが背を向け準備にとりかかりに行った。
それと同時に窓の外の三重奏と三重の塔の気配が消えた。
「ふぇぇぇぇぇ。」
腰が抜けた二人がその場に座り込む。
「死ぬかと思った。」
「俺も。あの守護獣みたいな猛獣、どうにかならないのかよ。一日中、隠れ家の周りをうろついてやがる。」
「俺なんか、夜中に目を覚ました時に窓越しに目が合ったことあるぜ。こう、目がギラギラみたいな。ちびるかと思った。」
「・・・公爵家のお嬢様の望みがピクニックか。」
「なんでも持ってそうで意外と縛られてんのかな。」
「そうかもな。まぁ、金持ちの事情は俺らなんかにはわかんねぇよ。」
台所の方からアイリスの鼻歌に合わせて鳥が囀っている声が聞こえる。
2人はよいしょと腰を上げた。
「俺らの命のためにも お嬢様の望みを叶えますか~。」
「サンドイッチなんてどうすんだよ。黒パンしかねぇぞ。」
「まぁ、とりあえず何か挟んどきゃサンドイッチだろ。」
「ははは、違ぇねぇ。」
「猛獣も怖いけど、ボスにバレたらもっと怖くねぇか。」
「まぁ、庭でするくらいならいんじゃね?」
「見つかったら嬢ちゃんに先頭に立ってもらおうか。」
「そりゃいい。そうしよう。」
そうして隠れ家の庭で麻の布を広げ、見てくれの悪いサンドイッチと動物達が採ってきてくれたフルーツを並べ、アイリス、インサ、ジェントと動物達で賑やかなピクニックを開始した。
ベルフェも誘ってみたが「勝手にやってろ。」と起きる気配がなかった。
「インサさん、早く食べないとサンドイッチの具が落ちます!」
「だって、黒パンだから噛みきれねぇよ!」
「ジェントさん、小鳥さんが木苺を欲しがっています!」
「え。お前、これ小鳥だと思ってんの!?こいつ鷲だぞ!狙ってんのは木苺じゃなくてそこのソーセージだよ!」
マナーもめちゃくちゃだけど、どんなお茶会よりもパーティよりも楽しかった。
「んふふふ。楽しいです。」
笑い過ぎて涙が零れた。
きっとずっと忘れられない楽しい時間となった。




