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私がしてもいいですか?  作者: かちこ


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6.もっと働きたい

 攫われて1週間が経った。赤の森の隠れ家ではアイリスは攫われたとは思えない充実した日々を送っていた。


日々目の前で繰り広げらるアイリスと動物達のおとぎ話のような光景にインサとジェントはできるだけ離れた所から傍観する側に徹した。あの光景から少しでも離れることで自分を保ちたかった。


だって、クマが箒持っていたり、ネズミが床掃除していたりウサギがイチゴを籠に集めていたりするんだぜ?


自分達もあの輪に加わったが最期、あの動物のようにニコニコ笑いながら箒を持ちだしたらと考えゾッとした。



動物達はすでにアイリスにゾッコンだった。アイリスの気のすむようにさせないと、付き従うトラやクマがグルルルと牙を見せてくるため、インサもジェントも駄目だと言えなかった。自分達が攫ってきたのに今やアイリスが隠れ家の主人であり、自分達の方が所在なく落ち着かない居候のようになっていることには目を逸らしていた。


蝶よ花よと可愛がられ、育てられてきたお嬢様は意外にもタフですぐに新たな環境に慣れた。


カップよりも重い物を持ったことなどなかったのに今では水桶を抱え運んでいる。

かなりプルプルとし、水は半分以上こぼれてしまうがそんなの気にしない。濡れようが汚れようが爪が欠けようがそれ以上に楽しかった。

体験すること全てが新鮮で労働がこんなにも充実したものだとは思わなかった。自分で行うことでアイリスは生きているのだと感じた。


今までは何もかもを周囲の人間がやってくれたが、その生活はつまらないものだった。アイリスは人生に飽きていたが今は違う。楽しい。嬉しい。自分が確かに生きているともっと感じている。


そこには辛いも苦しいもない。重い水も欠けた爪も肌や服に着いた汚れもただのご褒美だった。


自分を攫った男2人は何もしてこないし、言ってこない。いつも少し離れた所で傍観しているため見られることに慣れているアイリスは特に気にもならない。


「今日もとても素敵な1日だったわ。明日は何をしようかしら。」


食事に関しては火や包丁がまだ怖くて皿洗い程度しか行っていない。いつもインサとジェントが何とか食べられる状態の物を作成したり、動物達の差し入れを食べていたがそろそろ自分も挑戦してみたい。


「明日は何か作ってみたいわ。」


ふふふと笑ってアイリスはペラペラの布団にくるまり心地良い疲労感に包まれて眠りについた。




夜間、灯りの消えた赤の森の隠れ家に馬に乗った男がひっそりと辿り着いた。

黒いマントに身を包み顔を隠した男は隠れ家のドアの前に立つ。

馬での移動に疲れたのか深いため息をついてからドアをガチャリと開けた。



「ボスー!やっと帰ってきてくれた!」


物音に気付いたインサとジェントが情けない声を出して迎え出た。


「なんだお前ら、情ねぇ声だしやがって。ウィステリア国一と言われているデジール公爵家の娘と楽しく過ごしてんだろ?あ。手を出してねぇだろうな?」


ボスと呼ばれた男はマントをバサリと脱ぐ。


燃えるような派手な赤髪とは対照的な冷たさを感じる深い菫色の瞳。2m近い大柄な体格に筋肉もしっかりとついており背中には大剣を背負っている。男はインサとジェントをギロリと睨んだ。2人はフルフルと首を振る。


「デジール公爵家と王家が相手だ。さすがになかなか動けなくてな。やっと帰ってこれた。」


男がドカリと大剣を床に下ろす。刃先に触れた床板がミシリと鈍い音を立てた。ジェントが慌てて大剣を受け取る。男は大剣の取り扱いが雑でよく床や壁に穴を開けてしまっていた。


「・・・で?お嬢ちゃんは寝てんのか?」

「はい、働き疲れてぐっすりです。」


インサがため息をこぼす。


「はぁ!?働くってなんだ?お前ら、お嬢様働かせてんのか?おいおい、閉じ込めておけって言っただろうが。」


男が呆れ顔で言うと2人は慌てて否定した。断じて働かせてなどいない。情けない顔をして競うように攫ってからの経緯を話し始めた。



「ボス、あいつ人間じゃねぇよ。俺、怖い。」


説明を終え、ジェントが情けない声をだす。


「・・・・ふぅん、動物をねぇ・・・。動物従えたくらいで怖気づくんじゃねぇよ、情ねぇなぁ。」


「だって、あいつ猛獣すら従えちまうんだぜ。今の俺らじゃ食われちまう。」


男はふむと黙り込む。


アイリスを攫うために下調べをしたが動物を操るなどそんな事実、聞いたことがない。余程周到に隠されてきたのか。


デジール公爵家の三女はあまり茶会にも参加せず、まだデビュタント前なのもあり情報が少ない。ただ、とても美しい容姿で父親が溺愛しているのは有名な話だ。


「デジール公爵は一体何を隠したかったのかねぇ。」


それは溺愛する娘か、娘の秘密か。男がニヤリと笑う。大切に守られていた娘は今は男の手中だ。赤の森は惑いの森、そう安々とは見つからない。


攫ってからしばらく、王家とデジール公爵家を探っていたがこちら側のことは何の情報も掴んでなさそうだった。


「まぁいい。そのうちわかるだろうさ。」


今日はもう疲れた。

ゆっくり寝て、考えるのは明日にしよう。


男はインサとジェントに寝床を整えるように命じ、隠しておいた酒を飲もうと貯蔵庫へと入って行った。






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