森宮 結 ①
禁 複製転載・AI学習
あれ以降、琥珀と蓮はというと。
「わぁ……!」
2人に招待された、新人発表会で披露されたソロ。息の合った2人の演奏に結も思わず拍手した。演奏後、ステージ脇へはけた二人に結が駆け寄る。
「すごかった!」
「ふふっ、ありがとう」
「結ちゃんが居てくれて、心強かったよ」
自然と微笑みあう3人。一方で、気になるのはひそひそ話。
「男同士でしょ?」
「やだ、気持ち悪い」
その声に、結も思わず黙ってしまう。
「……えっと」
「気にしなくて良いよ」
「自分たちで決めたことだから」
そう2人は言ってくれた。それゆえ、余計に申し訳なくなる。
しかし、そこでふと気づいた。
『2人が言ってるから、それで良いんじゃないの?』
「幸せ」とは、誰かが決めるものではなく、その人が決めるものなのだと。きょうだいに出来た恋人達だってそうなのだ、と。その人達が幸せなのだから、巫女として役に立てたのだ、と。
「……もっともっと、頑張ってね!」
別れ際には、そう言うことが出来た。
2人も、こちらに笑顔で手を振ってくれた。
「良いって返事したけど、いっつもひっつくのやめなさい!」
「いだだだだ優樹さーん」
変わって、境内の掃除中もお構いなしな花火と、引きはがそうとする優樹。これには結も苦笑い。
「結ちゃん、写真撮って!」
投げ渡されたスマホを慌ててキャッチして、諦めた優樹がしぶしぶ、楽しそうに花火がピースサインを出す。
――カシャ。
本殿も入るように撮ってみたが、ごく普通に画像が保存された。『えにしさまも写るかな』とわずかに結は期待したが、特に何ともなかったようだ。
「ありがとー」
にかーっと人懐っこく笑う花火の笑顔は、こちらも思わず笑顔にする。
「優樹さんとのしゃしーん、おっと」
「ったくもう、気をつけなさい」
くるくる回って転びそうだった花火を、優樹が受け止める。にひひ、と笑う花火。仕方なさそうに撫でる優樹。
何だかんだで、優樹の気分も悪くなさそうだ。
「花火、何か食べてく? たぶんカステラがあったはず」
「食べるー!」
優樹が思い出したように言うと、花火と共に自宅へと消えていった。掃除していたゴミは、後から出てきた創と共に片した。
創と自宅に戻ると、流海と優樹と花火で話に花を咲かせていた。
あの一件以降、お互い色々と吹っ切れたようで、優樹も率直な感覚を流海に伝え、流海もちゃんとそれを受け止めているようだ。
創と結もその席に座ると。
「花火って、危なっかしいと思わない?」
突然、優樹が創に話題を振った。
その創も、一呼吸置いた後、うなずく。
「えー? 花火ちゃんは健全ですー」
ぶすっと膨れる花火の頬をつついて潰す優樹。これを見ていると『妹(姉)が1人増えた』という感覚が近い。
もっとも、いちゃいちゃしているのは、互いに恋心があるわけではない継だったりする。
「……落ち着き、ないのは、直そう」
「えー?」
一言だけ呟いた創に、花火がわざとらしく不平を言う。それに『そりゃそうよ』と突き放す優樹、苦笑いする流海。
創はその中で、流海を見て微笑んで。
「……良かった」
また、創がぽつりと呟く。安堵の一言として。
優樹とケンカが続くことも良くはないと思っていたし、流海の不安も解消されたからだ。
それで改めて、幸せをかみしめた。
一方、継はというと。
「桃子~」
「あはは……」
いつものハグの相手が桃子に集中するようになったというのが変わったところだろうか。これには桃子も『嬉しいような恥ずかしいような』と言っていた。
ただ、継が見た夢の通り、旅行に少しずつ出かけ始めているらしい。桃子も喜んで一緒について行っているようだった。周囲も、徐々に普段通りに戻りつつあるという。
「結ちゃんのおかげかな」
桃子がそう言ってくれた。
「結ちゃんのおかげで、結ばれ始めたって人、多いらしいし」
「そ、そうですかね」
しかし、確かに思い当たる節が増えたかもしれない。現に、周囲にそういう人が増えたのだから。
和樹のことも気になるが、少しずつ進展していくだろうと思いながら。
もちろん、幸せそうな人を見るのは嬉しい。縁結びの神様の巫女として、当然嬉しい。それでも、『神様じゃなくて巫女がそういう力があって良いのか』とも思い始めている。少し引っかかりを残しながら、結は日々を過ごしている。
和樹と真里の関係は変わらず。幼なじみ同士の押し問答に、結も苦笑いするしかない。
「良いから使いなさい」
「まだ大丈夫だっての」
ちなみに、これはスマホゲームでの会話。
アイテムひとつ使うのにも小競り合いになったりする。ただ、どちらも怒っているわけではなく、ただ遠慮が無いだけだ。そのほかの面々と同じく、真里も森宮家の自宅に上がることも多い。当然家族とも顔なじみで、その関係にとやかく言われることも少ない。
そして、2人の関係を改めて書くなら、距離感がとても近いということだろうか。遠慮がない分、お互いの性別を気にせずあれこれ話すのだ。
それゆえ、両親もあまり心配はしていない。
「んー、じゃあ、ここで使うか」
「で、特技がたまったからそこで使えば楽じゃない?」
「だな」
恋人と言うほどでも無く、これがふたりにとっての『当たり前』なのだ。きっとこれからもそれはあまり変わらないだろう。それでも、周りがそれをよしとして、本人達も気にしていない。
そんな風に、2人の関係は続いていく。
改めて、自分はどうだろうか、と結は考える。まだちゃんとした自覚はない。しかし、ぼんやりと『女の子の方が好き』という気持ちがある。
「花火さん」
「んー?」
そのため、優樹や花火に話を聞こうとすることが多い。
既にその関係を当たり前としているふたりに聞いても、実のところ、まだ自覚の芽生えていない結にはあまりピンとくる話ではない。
それでも。
「私は、『なんか女の子を好きになっちゃったけど、まあいいか』って感じで過ごしてるからね。『自分のなかで当たり前だ』って思うのが大切じゃないかな」
普段は緩い雰囲気の花火から、そんな真面目な話も聞けた。一方で、『じゃあ、私は誰が好きなんだろう』と、結は思い悩む。同性に恋するかも知れないことは分かった。しかし、その相手が分からない。
『そもそも恋とは何だろう』という疑問がついて回る。
ぐるぐるとめぐって、何も分からない。だからこそ、『もっと周りの人達に目を向けてみよう』と思うことにした。性別は関係無く、そもそも『恋』とは、と。
結の変わった『恋』が芽生えるのは、まだ少し先の話。
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幕間
『素直なあなたを好きになることがあって良いのかしら。私はあなたに触れることも出来ないのに』
『でも、そばに居てあげたいのは事実』
『あなたが望むなら、この声を届けたい。それはいけないことかしら。誰かが同性や変わった人との恋を望むように』
『家族を愛おしそうに見守るあなたが愛おしいの。それじゃだめかしら』
『ひとりで考えても仕方ないのに』
『まるで、あなたに恋しているよう』
『触れることも出来ないのに?』
『声を届けることは出来るのかしら』
『ううん、届けたい』
『あなたの力になりたい。あなたの信じる人達の力になれるのなら』




