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巫女さんえにしさま  作者: うらひと
第2章

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7/12

琥珀と蓮 ②

禁 複製転載・AI学習

 (れん)()(はく)にとって、(あこが)れの存在である。

3rd(サード)アルト、()ねるところで音がこもりがち。もっと()()んで良いと思う。2nd(セカンド)テナーは特にソロ入りの音程気をつけて。前の(ばん)(そう)を良く聞いて、落ち着いて」

 蓮は、音大ビッグバンドジャズ(せん)(こう)、1年生バンドのサックスパート、パートリーダーである。

 一方で、琥珀はパートの1st(ファースト)アルト(Lead(リード)アルトとも)、役割としてはメロディーラインだ。その琥珀にも、蓮は(よう)(しや)ない。

1st(ファースト)アルト、サックスソリの時、自分が引っ張ろうとしてリズムが(くず)れて周りを引きずってる。もっと視野を広くね」

 最高のライブのための、綿密な練習。蓮はそれを先導しつつ、またバンド内で一歩引いた視点で調整役を買って出ている。その姿が、琥珀にとってはとてつもなく(かがや)かしく見える。

 昔から、()(はく)(れん)に何かと(たよ)ることが多かった。プロを目指そうと思ったのも、蓮について行きたいがためだった。それが、他人からは『(あま)えている』ように見えることもあったようだ。

 そんな琥珀を、見捨てずにいてくれる存在が、蓮なのだ。

 琥珀は蓮のようにしっかり出来ないのだ。

 バンドリーダーとの打ち合わせ、パート内での指示。もちろんすべてが(かん)(ぺき)というわけではないが、冷静な指示には(しん)(らい)が集まる。

 蓮自身の個人練習での際も。

「……ここ、出しゃばりすぎるかな。もっとコンパクトに」

 (げん)(ばん)の音源を聞きながら練習して、いかにも重そうなバリトンサックスを()く。決して目立ちたがり屋ではなく、()(がた)いアプローチを好む。アドリブは得意ではなく、いつもソロを()(めん)に書き起こして演奏している。

「あ、琥珀。今晩はグラタンね」

 アパートでの(すい)()(がかり)も基本的には蓮の役目だ。レシピ本に頼るものの、分量もきっちり取るのが(かれ)らしい。バイトもしながらなので、夕食は(おそ)くになってしまうが、琥珀はいつも満足そうに食べる。

 料理を琥珀がやろうとすると、油に火が付いたりと危なっかしくて、蓮は落ち着いてみていられないらしい。琥珀自身、それは分かっているし、自分自身の練習も蓮ほど効率よく出来ない。だから、量をこなしてようやく追いつこうとする。

 蓮において行かれないように。

 琥珀自身、無い物ねだりだということは分かっているのだ。それでも、蓮のようになりたいとあれこれ(ため)すが、蓮のようにはなれないのだ。

 蓮は、それを許してくれた。その(かん)(よう)ささえ、うらやましいのだ。(あこが)れというものは、そういうものだとも思い知らされた。それが、(れつ)(とう)(かん)でもあるということも、(うす)(うす)分かってはいる。(いつ)(しよ)に居られるだけで(ぜい)(たく)だと言うことも。親友から『共に居る仲』になった今では、なおさら。

「琥珀が居てくれるだけで良いのに」

 そう蓮は言ってくれる。もちろん、それは(うれ)しい。それでも、蓮に追いつきたくて仕方が無いのだ。

「そんなわがままを言えるのも、琥珀だからこそなんだから」

 (どん)(よく)なのが()(はく)の良いところだ、とも言ってくれる。たとえそれが(れん)へのただの(れん)()という感情だとしても。自分が満足したいだけで、蓮の気持ちは置き去りにしていることも分かってはいる。

(あわ)てなくても、(ぼく)は琥珀のこと、待ってるから」

 蓮のその言葉さえも(まぶ)しくて、ただ琥珀は(だま)ってしまうのだ。

 無い物ねだりなところがあるから、琥珀は蓮に(あま)える。蓮がそれを(いや)がることは特にないが、それでいいのかと不安になることがある。もちろん、人前では節度を守る。

 特に目立つのが、アパートに帰ってきた時だ。

「琥珀、ひっついたってご飯はすぐには出ないよ」

 家族ゆえの甘えだろうか。感覚としてはそれが近いだろう。何となく、蓮には母性のようなものを感じるのだ。蓮が世話焼きな性格なのも相まって。

「下ごしらえ、手伝ってくれる?」

 蓮がエプロンをしながら言うと、琥珀は大人しくそれに従う。琥珀も、包丁の(あつか)いにはさすがに慣れてきた。

 とんとんとん、とみじん切りの音。

 じゅうううう、と(いた)(もの)の音。

 その間にも、()(あい)のない話が()わされる。時々練習の話になり、琥珀が苦い顔をする。そんな時も、蓮に悪気はないのだが。

 こんなささやかな時間が、琥珀にとって甘えられる時間だ。もうすぐ成人するので、(ひか)えようとは思っているのだが、読書中の蓮に寄りかかるなんてこともある。蓮は少し(ほほ)()むと、それを受け入れる。

 一方で、蓮も全てが(かん)(ぺき)な訳ではない。

 蓮は()(がた)いアプローチを好むが、その分、(とつ)(ぜん)行動を求められると、すぐに行動できないことがある。琥珀は、それを分かっているから、その時は助言や代わりに行動するなりしてサポートする。

「ああ、琥珀、わざわざごめんね」

 そう蓮が(あやま)るが、『(だい)(じよう)()だよ』と琥珀も返す。()(だん)甘えっぱなしの、恩返しのようなものだから、と。

 だからこそ、引け目をそこまで深刻に感じたことはない。これでようやく、自分自身が(れん)(となり)に立てているような気がするからだ。

 蓮が(やさ)しいからこそ、()(はく)は恩返ししなければならないと思っている。蓮はそんなことはない、と言うが、そうでないと()()わないと思うくらい、琥珀にとって蓮は(まぶ)しく見える存在なのだ。そんな蓮と並んで見えるように、必死になる。

 それは、()(そん)のようなものだと、自覚はしている。それでも、それだけ、琥珀にとって蓮は大切な存在なのだ。

 本人は無自覚だが、琥珀もただ蓮に引っ張られ続けている訳ではない。むしろ、蓮を引っ張ることさえあるのだ。

 例えば、夕方の(こん)(だて)を決めるとき。

「んー……」

 蓮が、スーパーの安売りのチラシと(こう)()に見ながら、売り場の前で(なや)むこと数分。許可を(もら)って店内をふらふらしていた琥珀が(もど)ってくると、手にレトルトの箱を持っていた。

「マーボー(どう)()! これならどう?」

「あっ、いいね。ちょうど一丁100円切ってるし、それにしよう」

 例えば、大学の学年バンドでの練習中。

「今日のパート練習メニューは……」

 これもまた、サックスパートのパートリーダーとして、練習メニューを立てるのが日課なのだが、この日は難航していた。

 そこに、自主練をしていた琥珀がやってきた。

「蓮、昨日ダメ出しされたソリの集中トレーニングしたいんだけど、手始めに音階練習したい」

「あ、そうだね。じゃあ、そこを(じく)にして……」

 そんな風に、琥珀の()(さい)な一言で、何かが決まることがある。

 琥珀は気づいていないが、蓮はそんな琥珀を(しん)(らい)しているのだ。

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