森宮継 ①
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継は良い意味で八方美人だ。気遣いも出来るし、何より屈託の無い笑顔で分け隔てなく接するその姿には、好印象を受ける。
一方で、それゆえに、女子を中心に勘違いさせてしまう人を続出させてしまうことも事実。父に似てまだ子供っぽいところがあり、それもまた人気の一つだと言われているとか。
18歳にもなるが、家に呼ぶ「友達」は男女を問わない。
彼にとって、どこまでが友達で、どこからが恋人なのかも分からない。それを彼にそれとなく問うてみると。
「え? みんな好きだよ?」
という答えが返ってくる。もちろんそれだけなら普通の回答なのだが。
「なんかこう、男の子でも女の子でも、ドキドキしちゃうことあるよね」
そう、彼は簡単に相手と手を繋ぐし、ハグもする。
端から見れば「うずうずして抱きつく」みたいな風にも取れるが、この言動からすると、「誰でも好きになってしまう」ようにも見える。
これもまた、父は社務所での話し合いのネタにしているし、創の悩みのタネにもなっているのだ。
よく言えば『親愛』だろうか。それにしてはスキンシップが多いと周囲に言われる。妹である結でさえも。
「……」
「結~」
楽しそうに後ろから抱きついてなかなか離れてくれないのだ。家族であっても接し方は変わらないのだ。
あまり広く知られた用語ではないが、継のような『愛』の持ち方を『全性愛』と言うそうだ。『両性愛』、バイセクシュアルと言った方がより通じやすいかも知れない。
しかし、継はあの花火でさえも「ドキドキしたことがある」と言っているのだ。
そんな継なりの悩みというと、「誰でもドキドキしちゃうから、誰を選ぶべきか迷ってしまう」ということらしい。
「ううむ、お父さんに言われてもなあ。こればかりは、継が決めることだよ」
「そっか……」
継と真の相談の場も持たれたが、さほど良い結論も出ずお開き。悩みながら、継も毎日を過ごしているのだ。
「確かに難しいですね。色々な縁がありますし」
「そうですよね……」
交換日記でもその悩みを相談した。
しかし、いくら縁結びの神様でも、それを簡単には絞れないようだった。 『でも』とふと思い出す。
「桃子さんなら」
「確かに、小さい頃から一緒ですね」
池上桃子。小学校の頃から継にアタックし続けている、継の「友達」だ。
当の継は、別に袖にしている訳ではないが、他と変わらず友達感覚で「好きだよー」と言っているだけである。そして、彼女はそれにやきもきしている1人でもある。
「どうしましょう」
「そうですねえ」
名案というものはそう簡単には浮かばない。誰でも好きになってしまう人だからこその悩みだ。しかし、継は桃子の良いところをたくさん言える、とも言っていた。そこを足がかりに出来ないか、とえにしさまと交わして布団に入ることにした。
翌日。
「結ちゃん! 結ちゃんに相談が!」
境内で出会って一言目がこれだった。もちろん、結もちょうど良いと思ったところだ。
桃子はこう言った。
「結ちゃんなら、神様にお願い事を伝えてくれるって聞いて!」
『そこまで話が広がっていたの』と、結は目を丸くした。
これまでの人々と同様に、結の手を握りながら。しかし、あながち否定は出来なかった。琥珀と蓮のときも、花火のときも、結と握手した相手が結ばれる結果となったからだ。
それに、実際「交換日記」という形でえにしさまと交流しているし、相談もしている。きっとえにしさまも分かっていて、桃子を引き寄せたのだろう。しかし、『分かっていない振りをしないと、また後が大変そうだ』と結は思うことにした。
「あ、あはは……偶然じゃないですか、ね……」
「だって噂になってるんだもん」
こう迫られては、結も困り顔だ。
実際、継とくっついて欲しいのは確かだ。とはいえ、誰とくっつくかを保証も出来ない。
『どうしよう』と思った矢先。
「あ、桃子だー」
継が現れ、ぱっと桃子が手を離す。
いつものように継がぎゅーっとハグをした。『あのね、あのね』と小さな子のように継がはしゃぐ。複雑な気持ちの桃子は、少し苦笑いをして受け止める。
「昨日の夜ね、桃子が夢に出てきたんだ!」
びっくりした顔をする桃子。嬉しそうに続ける継。
「いっぱい話して、色んなところで遊んでて、見たことないようなところも!」
それでね、と継が言う。
「これって、予知夢なのかなって」
桃子の表情が、思わず緩む。
もしもね、と継が繋ぐ。
「未来もずっと一緒にいられるなら、とても嬉しいなって気分で起きられたんだ」
じわりと、桃子の目尻に涙が浮かぶ。
「だから、一緒にいたいなって、桃子に伝えたくて」
「うん……」
ぎゅっ、と桃子の手を取る継。それに応え、喜びをかみしめながら声を絞り出す桃子。
「どうかな?」
「……うん!」
ばっと桃子が継に抱きつく。継も、桃子に抱きつき返す。
これが、継の答えだ。
後日、幸せそうに遊びに出かける二人を見送って、結は境内で掃除をしながらふと考えた。
「この家、変わった家だなあ」
父親の話を聞いていると、様々な愛の形があることを知る。そして、結自身もそれを受け入れ、実際、家族の中に「当事者」が生まれるようにもなった。たぶん、世間から少しはずれた感覚の家庭にいるのだろう、と考える。
「あ、結ちゃん」
「おはよう」
「おはようございます」
琥珀と蓮が遊びに来た。聞けば、音大に通って管楽器の演奏を勉強し、プロを目指しているのだそうだ。
「それでねー」
この二人には、一緒に居ることが既に当たり前なのだ、と結は感じた。その気持ちは、きっとそれまでの関係の延長線上なのだと。優樹や花火も、そして継と桃子も。
「私は、どんな恋をするのかな……」
『兄で次男の和樹はどうなんだろう』と結は思った。結の中でまだ実感として湧いていない恋というものを年の近い和樹なら、何か持っているのではないか、と。
自分の部屋に戻った後、和樹の部屋のドアをノックした。




