森宮創 ①
禁 複製転載・AI学習
「優樹さーん」
「はいはい」
あの話以来、花火に対する優樹の当たりも柔らかくなって、花火は満足そうだ。優樹自身、色々考えたり、両親に相談したりしながら過ごしている。えにしさまへのお参りもしているようだ。
ただ、唯一納得がいっていなさそうなのが、長男の創だ。元々頭の固いほうではあるが、既に彼女持ちというのもある。そのガールフレンドに、どのように説明したらいいか迷っているようだった。
「……結は、どう思う」
「どうって……」
創のぽつりぽつりと喋る癖は、昔から変わらない。神社にいるとき以外でも和装を好み、ゆったりとした振る舞いをする。
「私も、色々考えてはいるけど、まだ『正しい』とか『正しくない』とかまでは分からないかな……」
「……そう」
小さくため息をつく創。両親はあの様子なので、優樹の件についてとやかく言うつもりはなさそうだ。
結を含めた下の3人も、まだ実感として分からないようだ、と創は感じているらしい。
そんな創を、結自身も心配している。あっという間に環境が変わったのだ。少なからず戸惑いもあるだろう、と。
創は常識を重んじる人だ。それでいて、少し融通が利かない、短気なところもある。その常識が覆されたことが、少なからず戸惑いといらだちになっているようだ。
創が、早朝に本殿を見据えて、じっと動かないことも増えた。その横を、同性カップルが通り過ぎることも。
跡継ぎとして、色々なことを考える。
だから、社務所での真との話し合いに参加することも多い。その中で、父と少し言い合いになることも増えた。百合は『派閥が出来そうで心配だわ』とこぼしていた。
『今までのカップル達が居なくなってしまうかもしれない』と、創は言っていた。創の言い分も正しいのだ。
それに対して、真は少し楽観的な見方をしている。『どちらも大切にします、という姿勢を見せれば良いんじゃないかな』と、真は返していた。
創の考えとは裏腹に、社会は少しずつではあるものの、同性愛、同性婚というものを認知しつつあるのだ。もちろん、創のように否定的な見方をする人々の方が多い。しかし、真は『それを受け入れた方が、時代に取り残されない』と主張しているのだ。
「……いまいち、納得がいかない」
まんじゅうを飲み込んだ後、創が結に愚痴をこぼした。彼女がいて、他の家族と同じように暮らしていたつもりだったのに、いきなりそれが変わってしまったのだ。例えば、琥珀と蓮のこと。そして、優樹と花火のこと。
「男と女が恋をして、やがて結婚する」というのが、創の中での常識だったのが、一気に崩れ去ってしまい、戸惑いを隠せない。
結なら同じ事を考えるだろう、と思って結に話しかけているのだが、結自身の考え方も、実のところまとまっていないのだ。
「うーん、お兄ちゃんはそのままで良いと思うけど」
「そう、じゃなくて……なんというか、家庭が、普通じゃ、なくなって」
「あー……」
創の考えも、納得できるものだった。同性婚は、世間一般には「普通」ではないのだ。そして、何より創は異性が好きなのだ。
『普通』でありたいのに、『普通』でなくなってしまった。
「流海も、心配、してたし」
そうしてため息をつく創であった。流海は大人しくも美人だ。和のものを好む創に、わざわざ着物を買ってまで着て遊びに来る感性もある。そして、創が神社の後継ぎであることも、ちゃんと分かった上で付き合っている。
しかし、家族に同性愛者がいるとなると、今のご時世では不安になるのも仕方ない。
「創、あなたは大丈夫、よね?」
この不安そうな表情が、今、創の悩みの種になっている。
「僕は、変わらないよ。流海が、好きだ」
「……うん」
いつもであれば嬉しそうに応えてくれるのが、今では、その不安そうな表情が残ったままなのである。すれ違いが、少しずつ広がっている。まだ、創自身も答えが出せていないからだ。
創は流海のことが好きで、『同性に恋することはまずないだろう』と確信している。しかし、双子の姉の、同じく頑固者の優樹は、同性を選んだ。
自分は変わらないこと、一方で、きっと同性愛者の家族が居ることを認めた上で、周囲に納得させなければならない。既に優樹と何度かケンカをしている。ケンカをすればするほど認められなくなり、流海とのすれ違いも広がってしまう。
「……」
「……」
結が優樹と境内の掃除をしていたら、遊びに来た流海とばったり会ってしまい、気まずい空気になってしまった。
「あ、あの」
そして切り出した声も重なり、会話が続かない。
「……流海ちゃん、創を呼んでくるわね」
そして、優樹は逃げるようにそう言ってその場を去ってしまった。
「あ、……結ちゃん、ごめんなさいね」
「う、ううん……」
自分の妹のように可愛がってくれる流海に、結もなついているのだが、この空気ばかりはお互いにどうしようもないと感じていた。
「……優樹さんも何も悪くはないって、分かってるけど、つい不安になっちゃうの」
流海はやはり不安そうに、しかし、自分の気持ちを確かめるように言った。結は意を決して口を開いた。
「創お兄ちゃんは、たぶん迷ってるだけ、だと思う」
「うん……分かってるの」
「それに、流海さんと居るときの創お兄ちゃん、すごく嬉しそうにしてるから」
少しだけ、こわばった流海の表情が緩んだ気がした。
「……流海」
「創……」
しばらくして、創がやってきた。
そっぽを向いた優樹を連れて。
「父さんにも、言われたけど……少しずつ話し合う、ことにした」
「…………うん」
「優樹の話も、聞いて貰いたい」
「……うん」
「好きだから、一緒に居たいし」
「……もう、大丈夫だと思う」
「……?」
小さくやり取りした後、流海が顔を上げて言った。
「花火ちゃん、だっけ。あの子とも話すし、優樹さんもいい人だって、分かってるから」
「周りには、少しずつ、話そう」
「そうね。一緒に、考えたい」
「うん」
そっぽを向いていた優樹が、二人を見る。
「その……創も、ごめんね。流海ちゃんも」
「いや、いいよ」
「平気です」
「創も思ってるだろうけど、考え方は一緒なの。『一緒にいないと落ち着かない』って」
「……ええ」
「だから、ちゃんと相手をしてみることにしたの。ただそれだけだし、進み方はきっと一緒だから」
そう優樹が笑うと、ふわりと、流海も、創も笑った。




