森宮優樹 ①
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「忙しいです」
「一気に人が来ましたものね」
と、結とえにしさまとの交換日記。
琥珀と蓮のニュース以降、噂を聞きつけたカップル達――当然異性同士に限らず――が森宮神社を訪れるようになり、毎日のように、特に休日は賑わうようになってきた。
父親の真は「嬉しい悲鳴」だと言っていたが、同時に「異性カップルが来づらくなってないかな」と心配していた。
「……あ、琥珀さん達からだ」
メッセージアプリで琥珀達ともやりとりするようになり、感謝とともに、周囲の変化を教えてくれる。
家族こそ認めてくれたものの、親戚や友人からは距離を置かれるようになったこと。大学でいじられるようになったこと。
そして、既に同棲を始めていること。
「私はどうなんだろう……」
同性カップルから、様々な話を聞くようにもなった。琥珀達と同様に、周囲の変化に苦しんでいる人達も多くいた。
それに比べて自分はどうだろうか、と結は考えを巡らせる。女の人を好きになるのだろうか、と。
境内の掃除をしていると、姉の優樹がやってきた。
「結、ゴミ袋、持ってきたわよ」
「ありがとー」
サバサバしていて、大分ガサツな性格。物言いははっきりしているのが、森宮優樹という女性だ。
そして、結が気になること。
「(……胸、あんなに大きくなれるかな)」
結はまだ13歳とはいえ、ほぼ一回り年上の優樹の、巫女服の上からでも分かる胸の大きさは男性の目を自然と引いてしまう。
「片付け、手伝うわよ」
「うん」
結も手伝いを始めたとき、明るい声が聞こえてきた。
「優樹さーん」
げ、と優樹が言う。
高校の制服を腰に巻いた、シャツ姿の女の子が、染谷花火だ。
「優樹さーん、今度一緒に遊びましょうよー」
「遊ぶのはいいけど、む、胸を触らない!」
スキンシップと称して、花火が胸を揉もうとするのをなんとか制止する優樹。結も、思わず苦笑いしながらそれを眺める。
「結も止めてー!」
花火は、数年前からここに遊びに来ては、そこで一目惚れしたらしい優樹にこうして話しかけてくるのだ。
「だーっ、もう、離れなさい!」
「やーだー」
花火がしつこく離れず数分間の格闘。
さすがに見ていられなくなってきた結が引き離して。
「ちぇー、優樹さんのいじわるー。じゃあ結ちゃんを誘っちゃおうかなー」
言うなり、ひょい、と花火が結をお姫様抱っこ。
「ひゃああっ!?」
「あーんーたーねー!!」
優樹がずかずかと近づいて、さっと奪い返して結を立たせてから。
「あいだだだだだ!」
優樹が花火の耳をこれでもかと引っ張り、花火が思わず叫ぶ。
「いい加減にしなさい」
「は、はーい……」
優樹は少し乱暴なところもあるが、家族思いでもある。そんな優樹を、結も慕っている。
「じゃあ、代わりに!」
そう言って結の手を握る花火。
「そんなことしても何にも出ないわよ」
「願掛けだもーん」
結は『確かに少し噂になってたけど』と学校でも握手をせがまれたのを思い出す。
しばらくして、花火は満足そうに手を離して。
「じゃあおじゃま虫は退散しまーす」
「さっさと帰った帰った」
ったくもう、とため息をつく優樹だった。
あの日以来、優樹の様子がおかしい。
「……ご飯いいや」
毎日食欲がなさそうで、家族みんなが心配そうにしている。特別元気がないというよりは、どこかぼーっとしている感じだ。
ふと、琥珀達のことを思い出す。結と握手した人達が、何かしらの形で結ばれているような気がする。
一方で、学校など外では特に何か起こった様子がない。
「……?」
結は首をかしげた。何か理由があるのだろうか、と。
優樹は『女の子には特別興味はないかな』とか、『イケメンと結婚したい』とか呟いているくらいなので、きっと男の人で気になる人がいるのかな、と考えた。
その食事の後、優樹の部屋を訪れた。
「なあに?」
「なんか、悩み事ある?」
「……何でも無い」
優樹はそれっきり『そっとして』と聞いてくれなかった。ますます分からない。
「どうしてですか?」
結は、優樹のことをえにしさまに交換日記で問いかける。
「花火さん、優樹さんにドキドキしているのが伝わってきていました」
確かに、目をキラキラさせて優樹に近づいてきたというのは覚えている。それが、まさか、女の子同士だなんて。
「それは、琥珀さんたちみたいに?」
結の問いかけに。
「そうですし、そのドキドキする気持ちを支えてあげたい、というのが、私の願いです」
えにしさまはそう答えた。
「でも、優樹お姉ちゃんは」
「今は、すごく悩んでいますね。自分ではそう思ってなかったことが起きると、そういうものです」
えにしさまが、結に優しく答える
「少し、心配です」
「大丈夫です。優樹さんの性格なら、ちゃんと答えを出せます」
それは、いつも見守っているえにしさまだからこその言葉だった。
翌朝の朝食で。
「あ、あのね」
食卓で優樹がぽつりと切り出し、家族の注目が集まる。
「どうしたの、優樹」
父の真が聞き出し、結は『まさか』と箸を止める。優樹らしくない、少しもじもじとした間の後。
「女の子、好きになっちゃったかも……」
「!」
長男の創が味噌汁を吹き出した以外、他の家族も箸を止めた。
結を含めた下の3人は事の成り行きを見守る。
「優樹も、か」
真は特に驚いた様子も無く、静かにうなずきながら言う。
母の百合は少し目を見開いていた。
「お父さんとしては、別に咎めやしないよ」
「えっ、なんか『本気か?』とか、ないの?」
「お母さんも、優樹がそう思ったなら、応援するわ」
「で、でも」
「最近、同性のカップルも縁結びのお願いに来るくらいだからね。さらに、この間ニュースになったくらいだ。社務所の人達とも話し合いを進めているしね」
両親はにこにこと答える。
そんな両親と優樹とを、下の3人が交互に見る。
「……じゃあ、良いのかな」
優樹が、またぽつりと言った。




