琥珀と蓮 ⑤
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「琥珀を否定するつもりなんて無いんですけど」
言葉を選びながら、蓮が話し始める。
「周りから、『こうあって欲しい』って言われることって、あるじゃないですか」
その言葉に、結と創が頷く。
「多分、それに縛られすぎているんでしょうね。未だに『男と結婚するなんて』って言葉を気にするんですから」
創から見ると、誠実であり、空気の読める青年でもあり、さらに良い子であろうとする。
結から受けた冗談めいた言葉も、ついそのまま受け取ってしまいそうになっていたことを思い出す。
「蓮」
「っ……はい」
蓮は創の問いかけに驚いて、グラスを持つ手が滑りそうになった。
「蓮は、琥珀への気持ちは、変わらない?」
すぐに何かを言いかけて、一旦飲み込む。
また言葉を選んだ後、口に出す。
「……その、はずです」
言葉からも、声色からも、まだ迷いが捨てきれないのが分かる。自分に、その根拠を求めることが、出来ずにいる。
「これは、君を理解するための、質問なんだけど」
創が蓮に語りかける。
「理想を求めるなら、蓮はどう受け止めて欲しい?」
「それは……」
「もし、相手が素直に理解してくれるなら」
何度か、言いかけるのを繰り返す蓮。
結も、創も、静かに答えを待つ。隣で琥珀が心配そうに見つめる中で。
「……上手く答えられないです」
「ん。選択肢を用意するのは、本当はあまり、すべきではないけど」
ぴっ、と創の人差し指が琥珀に向けられる。
「えっ」
「……良い感じの、選択肢を」
「あ、は、はいっ」
琥珀が少し考えた後。
「『当たり前として受け入れられる』と、『変わってるくらいで気に掛けられる』、とか」
「……」
むず、と蓮の心が騒ぐ。
「……『変わってるくらいで』――ううん。だったら、『当たり前として受け入れられる』方が良いです」
ふと見ると、蓮が琥珀の手を握りしめているらしく、琥珀が頷く。『大丈夫そう』だと。
「あ、でも。『気をつけるところがある』くらいで」
慌てて付け加える蓮に、くすくすと3人が笑った。蓮も少し気分が落ち着いたようで、幾分か表情が柔らかくなった。
「僕も、最初こそ、理解できなかったけど、向き合わなければ、後継ぎとして、失格だからね」
「……はい。こうやって聞いて頂けてるのは、心強いです」
大人しい性分ゆえに、蓮と創は気が合うため、ゆったりと話が進む。
「家族のことも心配ですけど、いま顔向けできる訳じゃないので」
喜びを前面にだすタイプではない蓮の表情が、また少し曇る。
「……まあ、それは後から考えよう」
「んーと……はい、そうですね」
「何だかんだ、蓮が色々、進められそうだから」
創がコーヒーを口に含む。仕切り直そうと、結達も飲み物に口を付ける。
一息ついて、創が天井を仰ぎながら呟く。
「知らないことを自覚するのは、大変だからね」
「はい……。きっと、僕も『あり得ない』って目をつむること、あるはずですし」
「でも、答えは、身近な人が、持ってるから」
チラリと、創が琥珀に目をやる。
小動物のように固まった後、ポンポンと蓮の手の甲を叩く。
むず痒いけれども、蓮にとっての答えは、隣にある。
「……そうですよね、琥珀のおかげで、一緒にいられるんですもんね」
少し、蓮の表情に笑顔が戻ってきた。
創自身も、この頃ようやく分かってきたことだ。答えは、身近なところにあると。
それは、彼らもそうだし、優樹のことがある以上、他人事ではないからだ。
理解できなくとも、知っておかなければいけないことがある。
そう考えて、優樹に色々聞いてみた。もちろん、花火にも。
そうすると、揃って「その人が好きになったから、しょうがないでしょ」と言っていた。
そこに、同性だからという考え方はない。家族として一緒になりたいからこそ、選んだのだ、と。
特に優樹は、それまで気にしていたかった花火が魅力的に見えてきたことを、戸惑っていた。すぐに慣れることはもちろんなかったものの、今までの延長線上として理解しているらしい。
新しいことを理解するのは難しいけれど、向き合うことで変わることもある。
「何だか、ずっと言えなかったことが言えて良かったです」
「それは、何より。僕も、勉強に、なった」
琥珀のはにかみ顔が、皆にはとても眩しかった。
少し西日が差すファミレスの窓際で、遅いデザートを頼む。
「ねえ」
結が問う。
琥珀と蓮がこちらを向く。
「やっぱり、ふたりだから幸せそう」
ああ、羨ましいな。
結が言外にそう微笑むと、琥珀はまたはにかんで、蓮は照れくさそうに笑った。
創も、手を止めてそれを見つめる。
優樹は、花火にショッピングへ連れて行かれたそうだ。
私服に無頓着な優樹を、どんな風に変えてくれるかというのは、質素な装いを好む創も気になるところだ。
花火は、「ボーイッシュも捨てがたいけど、ガーリーもいいよね」と言っていた。
喫茶店の方で、色々聞き込みもした上で臨んでいるとのことで、どうなるかが楽しみだ。
「……琥珀、ありがとう」
「うん」
会計を済ませ、2人とは別方向へと帰ることになった。控えめに手を振る蓮と、元気いっぱいに振る琥珀。
帰り道を、夕日が黄金色に染めていた。
神社へ戻ると、創は手短に挨拶を済ませて社務所へ向かった。結は、今回感じた気持ちをもう少し報告して、それから自室で「交換日記」をするつもりだった。
「……あれ?」
誰かの声が聞こえた気がした。優しい声が、本殿の方から。
いや、目の前にいる。なのに見えない。
『結ちゃん。……聞こえてたら良いけど』
「あ……」
居る。そして、きっとこれは私だけだ、と結は理解した。
『……えにしさま?』
「あっ……! 良かった、聞こえてた!」
声色からも、きっと嬉しそうな顔をしているようだ。
「あ、あの」
『ごめんなさい、驚かせて。でも、どうしてもお話がしたくて』
「その……お話って」
『ああ、その、実はほんの他愛も無い話のつもりだったのですけど……』
尻すぼみになるえにしさまの言葉に、結も次を待つ。
『琥珀さんと蓮さんの周囲、思ったより深刻そうなんです』




