琥珀と蓮 ④
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「確かに迷いはあったけど――」
ファミレスで、琥珀と蓮と話す結。と、連れてこられた創を交えての会話。
「……何で、僕まで」
「『ちゃんと知っておきなさい』って、お父さんが言ってたでしょ」
創が一緒に来ることになったのは、父親の真のアドバイスからだった。
琥珀が話を続ける。
「でも、中学校で同じクラスになってから、兄弟みたいにやってきたのもあるから、それでも良いのかなって思って」
「僕は、それでも一向に構わなかったけどね」
メロンソーダとウーロン茶、こちらはオレンジジュースとブラックコーヒー。
ドリンクバーで選ぶ飲み物も、性格が出る。
「でも、パートナーシップ登録にはちょっと戸惑ったよー」
「ああ、あれはつい勢いで……」
いざという時に迷ってしまう蓮が、その時は勢いで進めた、という話に創と結が驚いた表情を見せる。
「でも、生活が少し楽になったよね」
「変な目で見られることも、多くなったけど。まあいいよ」
琥珀達は、自分たちなりに向き合い始めているのだ。
「ああ、でも琥珀の家が一番大変だったっけ」
「そうだね……」
琥珀はもともと異性愛者だった、というより自覚はなかったが、蓮との関係が深まっていく事に、大して違和感を覚えなかった。
しかし、家族はそう簡単にはそれを赦さない。以前ふたりのライブに行った時には気付かなかったが、両親からかなりの大反対に遭い、家を飛び出して蓮の家に駆け込み、蓮の家族もそう簡単には首を縦に振らずそこからも追い出されて。
結局は急ぎで大学近くのアパートを借りてふたりで暮らすようになったのだ。人目を避けるように、とは言っても何か『関係』に及ぶわけでもない。
現実から逃げ出したかったのだ。誰も自分たちを理解してくれない苦しみから。メロンソーダの、これを話している最中の甘みがすっかり逃げてしまった。
「……一緒に居たいだけなのに」
しばらくの間の後、ようやく絞り出せた言葉がそれだ。アパートに住み始めた初日に買った、とびきり甘いメロンソーダでさえも、嫌に苦かった。
覚えている味が、嫌な言葉を思い出させて、目尻に涙が浮かんだ。
「幸せになろうとしちゃいけないのかな」
切実な願いだった。
「それって、男女じゃなきゃダメなのかな」
「……琥珀」
咎めるというより、ただ泣き出しそうな琥珀を止めようとする蓮。
『別に泣かすつもりはなかったのに』と、結や蓮は思いながらなだめる。
そこに、創が口を開く。
「……男女である前に、『人間』だから、ね」
優樹のことを思い浮かべながらだろうか、創は目を閉じて、それを確かめるように言った。
「……僕も、正直迷って、いるんだ。恋の在り方とは、何か、と」
その言葉に、全員が聞き入る。
「『大好き』という気持ちが、そこにある。ひとまず、それだけは、確かだ」
「……男女で無くても、ですよね」
「うん。……広い目で見れば、『家族愛』としても、見られるし、『親愛』の延長線上、でもある。多くの人は、それを、意識していない」
穏やかな表情で、創が続ける。
「よくよく考えれば、ふたりのそれは、『家族愛』の延長線上だ。それも、血の繋がっていない、『夫婦』……というと、語弊はあるかも、だけど、それに相当する」
その言葉に、琥珀が応えた。
琥珀は堰を切ったように話し始めた。
「みんな、みんな言うんです。『男同士だなんて』って。単に好きなだけで、からかわれて、笑われて、詰られて。男同士だからって、みんな人間でないかのように扱うんです。一番言われてるのは蓮なんです。『蓮がたぶらかせなければ』って。蓮は、蓮は何も悪くない!!」
ファミレスの空気が凍りつく。『同性愛者がいる』という空気と、まるで今まさに自らが彼らに言ってしまったかのような、『差別をしてしまった』かのような気まずい空気。
それでも、やがて店員たちも客たちも、続きへと戻っていく。
「……『フォレスタ』の方が良かったかな」
「いや、あれはあれで、すごい人たちが、いるから」
「すみません、大声出して」
ようやく落ち着きを取り戻した琥珀が謝る。
もう家族なのだ、という事は結はもちろん、聡明な兄もこれで痛感した。
もちろん創も、優樹や花火に対して気を遣っているつもりでいたが、『もしかしたら、まだまずいこと言ってるかもしれない』と思った。
蓮は複雑そうな表情を浮かべる。
元はといえば僕が、と言いたそうな表情だった。
ファミレスの気まずい空気が、まだ残っているような感覚。
「認めてもらえないことが、こんなに苦しいなんて」
『でも初めからわかっていたことなのに』と琥珀は言う。
肯定されないことが、と続けようとして詰まる琥珀。
蓮が言い出せずに戸惑っているのは、琥珀でも分かる。
「蓮は、僕が蓮を助けたって言うけど、……だったら、お返しはしたくて」
今まで何度も言ったらしいことを、創や結に向かって言う。
きっと、蓮になあなあにされてきたのかもしれない。
しかし、すっきりさせないと気が済まなそうなのが、琥珀の性格だ。
小さくうなりながら、琥珀はなんとか言葉を紡ぎ出そうとする。
何が正解かはわからないけれども、この2人になら、と。
創も、結も、それを分かった上で、琥珀の言葉を待つ。
「……ただただ、蓮が好きだから」
ようやく、納得のいく言葉が出せたらしい。
少しほっとしたような笑顔が、琥珀の表情に表れた。
蓮はなおも、複雑そうな表情を浮かべていた。
「キスするには、まだ不安になっちゃうけど」
いすに座り、蓮に寄りかかる琥珀。
もたれかかられている蓮は、まんざらでもないようだ。
「蓮だって、僕を頼ったっていいのに」
「……琥珀は、危なっかしいもん」
苦笑いする蓮と、不服そうな琥珀。
『大切にしたい』という気持ちが、ふたりから伝わってくる。
何となく、創もそれは悪い気はしないらしい。
「……フォレスタで、やっても、よかったね」
「うん」
このふたりを、あの個性的な喫茶店に連れて行ったら、楠家の子供たちも喜ぶだろう。
何となく、そういう気がした。
真っ先に琥珀がいじられるのが簡単に想像できてしまったが。
蓮を見ると、まだ何かを言いたそうで、上手く固まっていない様子だ。
「蓮?」
「うん……ごめん、もうちょっと」
琥珀が促すように顔を上げるが、難しい顔をしたままだ。
創がコーヒーを入れに席を立つ。
「……蓮さん、琥珀さんのこと気にしてるの?」
結が沈黙を破ると、蓮の表情がこわばった。
「僕は……その」
ようやく口を開いた蓮が、話し始めた。




