第38話「空の向こうに」
播磨の港町を離れる朝、空は淡い青で、風は少し冷たかった。
ノアはスーツケースを手に、港沿いの道をゆっくりと歩いた。潮の匂いが鼻をくすぐるたび、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
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見送りの声
駅までの道沿い、町の人たちが集まっていた。魚屋のおじさんが大きく手を振り、子どもたちが「ノア! バイバーイ!」と声をそろえる。
「サンキュー!」と笑顔で返すが、声が少し震えていた。
ユウタが隣で短く言った。
「You come again. Promise.」
ノアは深く頷いた。
「I promise.」
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関西空港へ
電車の窓から見える田園風景と、遠くの海。そのどれもが、もう“見知らぬ風景”ではなかった。
スマホを握りしめ、港町で撮った写真をスライドさせる。
――笑顔の子どもたち、神社の鳥居、縁側から見た夜の海。
その一枚一枚が、胸の奥で確かに息づいていた。
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帰路のフライト
機内で窓の外を見ると、日本の夜景が小さな光の粒となって遠ざかっていく。
ノアはそっと桔梗模様の風呂敷を握りしめた。
「ありがとう、イサム。僕をここまで導いてくれて。」
エンジン音に包まれながら、瞼を閉じた瞬間、波の音と町のざわめきが耳の奥で静かに響いた。
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シアトルの空
飛行機が着陸したとき、窓の外には見慣れた街の景色が広がっていた。
――でも、もうあの日と同じ自分ではない。
胸の奥には、播磨の港町と、そこにいる大切な人たちの温度が確かに残っている。
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ノートのページ
自分の部屋に戻り、ノートを開いた。
新しいページの一番上に書き込む。
•Step Thirty-Four: Returned home.
そしてページの隅に、小さな文字で添えた。
「旅は終わった。でも、ここからが始まりだ」




