エピローグ2 彼とそれが夢見る未来
トールは、その日、ドイツ西北部の野戦陣地にいた。
顔見知りの兵達が忙しなく陣中を掛けて行くのを尻目に、トールは陣を奥の方へと進んでいく。
盗賊団との戦闘が終わった後、トール達傭兵団の面々は、ドラコ達と山分けした盗賊の財産を近くの街で金や証文に変え、スイス・フランス・ネーデルランドを経由してドイツ西北部へと入った。期間にしておよそ一週間ほどの出来事だ。
そして、ついさきほど、この野戦陣地へと無事合流したこととなる。
部下たちに物資の処理をまかせて入口で別れ、トールは陣の最奥にある天幕へとやってきた。大きいが飾り気のない質素な幕舎だ。
トールはその天幕の正面から中に入る。
「第一衛士隊、隊長トール=ディ=パルクリオン、ただいま戻りました」
冷静な声でそう告げつつ、トールは幕舎の中の人物へと挨拶した。
幕舎内にいたのは、男と女が一人ずつ。男の方はやや筋肉質な出で立ちで、革の軽装のままデスクに座っている。女は、線が細く、やや男性的なイメージを抱かせる痩せた体だが、髪は少し長め、男の横で胸に何枚かの書類を抱いて立っている。
二人はつい先ほどまで何かを打ち合わせていたようだが、入室にしたトールに気づき、顔を幕舎の入口へと向けた。
幕舎の中は、男の座ったデスクが入口正面にあり、左右には各地の情報をまとめた文献が入った本棚と武具類が幾つか並んでいる。
「おかえり、トール。毎度のことながら、挨拶が固いね」
男の方がトールへとにこやかな顔を見せる。若い顔だが、少し苦労人のような印象を受ける。
「半年近い遠征、ご苦労様です」
女は、デスクの上に置いてあった眼鏡を掛け直し、至極事務的な目でトールを見つめる。
男の名は、アルブレヒト=ヴァレンシュタイン。この陣を成す傭兵団の団長であり、この神聖ローマの内乱における勢力の主である。
女は、その副官。名前はエリザベート=ハラハ。貴族の出だが、内戦における混乱で家が没落し、その遺産を持って傭兵団の設立資金とした。
この幕舎内の三人に、副団長や各部隊長を加えた者が傭兵団の設立メンバーとなる。
「報告は、書類にまとめておきました。あとで目を通しておいてください」
そう言いながら、トールは懐から取り出した幾つかの紙をエリザベートに渡す。
「…私が言うのもなんですが、こうも長く付き合いがあって、よくそうも固い口調ができますね」
「最初のメンバーで一番の年下は自分でありますから」
エリザベートは呆れたように一度ため息をした後、書類を受け取った。
「ちょうど、ウィルやロスカ達も戻ってきてて、久しぶりに皆が揃ってるんだよね。夜はみんなで宴会でもしたいな」
「では、手配しておきます」
ヴァレンシュタインの提案に、エリザベートは事務的に、しかしやや笑みを浮かべて返事をする。
「団長、お願いを一つしてもよろしいでありますか」
「何?」
「次に機会があれば、是非自分に国外の仕事を受けさせて欲しいであります。出来れば、アフリカやスペイン」
ヴァレンシュタインはその言葉を聞き、やや怪訝な顔をする。
「珍しいね。トールが自分からそういうこと言うなんて」
わかった、とヴァレンシュタインは頷く。
「理由は聞かないでおくけど、多分あと半年は国内の案件だけしか扱わないと思う。旧派の旗色は悪いし、その立て直しや根回しに、なるべくトールの力を使いたい。最悪、国外脱出の準備を任せることになる」
それでいいか、と聞かれ、トールは頷く。急ぐものでもない。
――…強く、なりたい。
人外たちの戦いを見て、自分とは遥かに違うステージの戦いを見て、いつか自分もあの場所にいったみたいと思った。簡単ではない、恐らく辿り着けない場所でも、強くなるという小さな目標を、掲げてみたいと思った。
なにより、
『私を殺してみるか?』
――『今』じゃないときにでも、あの人を殺せるようになりたい。
あの時、彼女から放たれた一つの譲歩は、ある意味で自分を完全に格下とした発言だった。事実そうだし、真実だ。
だが、それでも、少し、ほんの少し、思った――悔しい、と。
この傭兵団は、統率された組織だ。定石を重ねた陣形戦術を駆使して戦うものであり、そこでは個人の能力はあまり意味をなさない。
だから、その下を離れ、己のみで戦い、技を磨きたい。
――強くなりたい。
次の物語の主役は、彼なのかもしれない。
エロパートどうしよ
主人×奴隷のシーン案はあるけど、どこにアップすればいいのか微妙にわかってない
そもそも需要はあるのか




