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森羅家の生活魔法は伊達じゃない! 〜カフェの雑用と蔑まれた三姉弟、不遇魔法で世界最強へ〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第82話:霊峰アルタの影と、帝国の密兵

冒険者ギルドからの極秘調査依頼を受理した三姉弟は、街から数里離れた場所に聳え立つ急峻な山脈『霊峰アルタ』の麓へと向かっていた。


標高が高くなるにつれて肌を刺す風は急速に冷たさを増していき、足元には湿った鋭い岩場と、うっすらと降り積もった白雪がどこまでも広がっている。


木々の間を吹き抜けるヒュウヒュウという不気味な風の音が、これから立ち向かう事態の重大さを物語っているようだった。


「うぅ……やっぱり山の上のほうに来るとすっごく寒いね。うちのカフェの温かいスープやハーブティーが恋しくなっちゃうよ」


二葉が両肩をすくめて息を吐き出しながら、腰に下げた愛用の木剣の位置を確かめるようにそっと触れた。


「二葉、寒がっている暇はないわ。油断しないで。すでに周囲の空気と魔力の揺らぎが、明らかに不自然な状態になっているわ」


一葉が素手のまま静かに先頭を歩み、山肌を不自然に削り取って作られた暗い洞窟の入口を指し示した。


「この床に残された複数の足跡と魔力の残滓……普通の冒険者や登山者のものじゃないね。軍隊特有の規則正しく整列した歩幅と、高度な隠蔽魔法を無理やり展開した歪な痕跡がはっきりと残っているよ」


三葉が素手を軽くかざし、地面に残された微細な魔力の波長を冷静に分析する。


「やっぱり、帝国の精鋭部隊がすでにこの洞窟の中に潜み、工作を進めているんだね。気をつけて進もう!」


不気味にぽっかりと開いた洞窟『霊峰の古代迷宮』へと三人が一歩足を踏み入れると、外で荒れ狂っていた吹雪の音が嘘のように完璧に遮断され、耳が痛くなるような重苦しい静寂が空間全体を支配した。


薄暗く冷え切った地下回廊を深く進むにつれて、石造りの壁面には人工的に施された禍々しい赤黒い魔法陣の輝きが浮かび上がり始める。


それはダンジョン内部に生息する魔物たちの本能を刺激して狂乱させ、地上へ向かって一斉に溢れ出させるための『暴走の魔法術式』だった。


「こんなに禍々しい術式を山全体に張り巡らせて、麓の街道や街を滅ぼそうとしていただなんて……絶対に許せないよ!」


二葉が怒りで眉を固くひそめた、まさにその時だった。回廊の深掘りされた影の中から、カチリと金属と金属が擦れ合う冷たい駆動音が響いた。


「そこまでだ、小汚いネズミども」


暗がりの中からヌッと姿を現したのは、全身を漆黒の軍用魔導鎧で固めた五人の男たち、ヴェルザ帝国軍が誇る最精鋭の工作部隊『黒の猟犬』だった。


隊長らしき大柄の男が、歪んだ笑みを浮かべながら三姉弟を蔑むような凶暴な視線で見下ろしてくる。


「ふん、ギルドの腕利き密偵かと思えば、重装備すら身につけていないガキと女だけか。我がヴェルザ帝国も、随分となめられたものだな。だが運が悪かったな。国家の重大な密命を阻もうとする者は、ここで誰一人として生きて帰さん!」


隊長の威圧的な合図とともに、工作員たちが一斉に洗練された動作で抜刀し、大型の魔導砲と巨大な大剣を構えて襲いかかってきた。


「二葉、三葉、警戒を緩めないで! 迎撃するわよ!」


「了解! 二生の根張!」


二葉が速攻で最前線へと力強く跳びだし、洞窟の岩肌の床へ強固に両足を力強く踏み込んだ。


ガガガガガァァンッ!


工作員たちが一斉に放った強烈な魔導砲の連続着弾と、大剣による凄まじい突進攻撃が二葉の身体を直撃する。


だが、二葉の身体は一ミリたりとも後退しない。


大地の奥深く、幾重にも張り巡らされた目に見えない無数の根が、受けた猛烈な衝撃のすべてを地面へと綺麗に逃がし、二葉は一本の木剣だけで激しい集中砲火を完璧に受け止めてみせたのだった。


「な……!? なんだあの女の異常すぎる頑丈さは!? 最新型の魔導砲の直撃を受けてノックバックすらしないだと!?」


予想外の光景に顔をひきつらせ、驚愕する工作員たちの大きな隙を見逃さず、長女の一葉が静かに前へと歩み出た。


「我が国の平穏を乱す方々には、静かに退場していただきますわ」


一葉が空中で指先を優雅に舞わせる。


まるで美しく蔓を巻くように指先を空中へ這わせる滑らかな軌跡。


その幻想的な動作に応じるように、工作員たちの足元と身体を包み込んでいた空間そのものの事象がぐにゃりと歪められた。


歪みによって突撃の軌道や攻撃の狙いが完全に狂わされ、工作員たちは互いに激しく激突し合って大体勢を崩した。


「そして……仕上げは僕がやるよ」


三葉が滑らかな足取りで影のように肉薄し、体勢を崩して身動きが取れなくなった工作員たちの無機質な魔導鎧と武器へと、自らの素手をそっと触れさせた。


「三途の葉落」


触れた瞬間、帝国が誇る最高級の魔導鎧と凶悪な武器が一瞬にして恐ろしいサビと風化の現象に侵されていく。


バリバリバリッという乾いた音とともに、強固だったはずの金属が一瞬でただのボロボロの鉄くずと乾いた砂へと変わり、床へ虚しく崩れ落ちていった。


「な、なんだこれは……!? 自慢の最新鋭の魔導鎧が……一瞬で砂になっちまった……!?」


一瞬にして完全に丸腰となった精鋭工作員たちは、あまりの圧倒的な実力差と不気味な現象に顔を蒼白にし、その場に崩れ落ちてガタガタと震えるしかなかった。


「あなたたちの企みは、ここで私たちが完全に阻止いたします」


三姉弟の凛とした佇まいに、帝国軍の工作員たちはもはや反論の言葉すら失い、その場に服伏するのだった。

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